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その肩に重い荷物はかかっていない

ちゃぷーん。と、浴室に水音が響く。

俺とおねーさんは、お風呂に入っていた。
本来は一人しか入れないような浴槽だから狭くはあったけど、おねーさんの要望もあり、おねーさんに後ろから抱えられるようなバックハグの態勢で、一緒にお湯に浸かっていた。
こういう態勢も、男女逆転しているからこうなっているのか。それとも元の世界でもおねーさんはこういう態勢を選んだのか、よく分からない。まあ、そもそも元の世界だったらおねーさんとエッチなんてできないんだろうけど。
当然互いに裸で密着していて、おねーさんの二つの膨らみが背中に当たっているから、俺としては結構楽しめてる。しかしお願いしてきたはずの当のおねーさんは、恥ずかしそうにしていて何も言わない。

「気持ち良かった、おねーさん?」
「…………うん」

何か会話しようかなと、すぐ背後のおねーさんに話しかける。か細い返事も、浴室では反響してよく聞こえる。手持無沙汰で、ちゃぷちゃぷと手を水面に出して沈めてを繰り返した。人のお風呂って、なんか新鮮だ。ママ味ある俺は、ボディソープも使わせてもらって、おねーさんの体を洗ってあげたりもした。柔らかくってすごいよかった(小並感)
お腹の方に回されているおねーさんの手を、軽く触ってみたりしてもおねーさんの反応は薄い。
心ここにあらず、っていうか。にしてはしっかり俺を抱きしめてで、よく分からない。

「あの……ありがとう」

お礼を言われるとは思っていなかった。面食らい、ちょっと返事を考える。
そもそも一万五千円貰って、女性の体も良いように触れて、楽しい思いをしたのは俺だから、お礼を言うのは俺の方なんだけどなあ。

「ううん。俺もおねーさんが気持ち良くなってくれてすごい嬉しかったよ。お風呂から出た後はどうする? 続き、する? あんまり部屋にいて欲しくなったら出て行くけど……」
「で、出て行かなくていい。泊っていって。続きは、今日は、いいや。もうすごい満足したから……。ただ、一緒に添い寝して欲しい……」

ダメ? と不安げに後ろから囁くおねーさん。耳がくすぐったい。
それにしても、満足なのか。まあ俺も、肉体的にはともかく精神的には満足しているところはあるんだよな。射精してなくても、相手が自分の手でイく姿を見たら、結構な満足感があった。こういう心の充足の形での性欲が満足することもあるんだなあ。
元々今日は、友達とお泊り会するという嘘で親に話は進めていたので、俺も泊まらせてくれるのは助かる。ネカフェとかでも別にいいっちゃいいんだけどね。あーでも、高校生って泊まれるのかな?

「ダメじゃないよ。ただ、あんまり信用されすぎると逆におねーさんが心配だよ。言っておくけど、今日会ったばかりなんだからね?」

そうわざわざ注意する俺には、まだママ堕ちした心が残っているのかもしれない。もちろん、おねーさんの部屋から何かを盗み出す気もそんな勇気もないのだが。

「うん……でも、一緒に添い寝、して欲しいから……」

かわいい(かわいい)。
なんだか嬉しくって、おねーさんにもっと寄りかかるようにして体重を預けた。女性の柔らかな体の感触が俺を包んでくれるから、こっちの態勢の方が本来は正しいのかもしれない。

「おねーさん、俺のこと好きすぎー」
「ご、ごめん……」

謝るおねーさんに思わず笑ってしまった。

「謝らないでよ。嬉しいよー、すっごく」

♀♂

初めての援助交際――初めてのエッチだからまあ当然なんだけれども。私――栗原玲奈の率直な感想を出すと。
すごいよかった。
まさか、まさか自分が実際に挿入とかそういうのをしないまま、満足してしまうとは思わなかった。
勿体無いと思ったんだ。男のおちんちんを膣内に入れる経験より、この記憶を薄れさせてしまうのが。
男に手でされて、それが思いの外よくって、よすぎて、その感動を更に別の感動で上書きしてしまうのが惜しくなってしまった。オナニーの後の賢者タイムとは違くって、心の底から感動する映画を見た後に、もう一つの名作だと評されている映画を連続で見る気をしない、そんな感じ。
いや、映画とはやはり違うか。
これは、映画では味わえない感動だ。
どっちが良い悪いではなく、比べるものではない。
終わった後は夢うつつで、お風呂で男に体を洗われるという感動も、だからあんまり味わないようにした。
浴槽に先に入って、男を抱きしめて、ひたすらさっきまでの感動の余韻に浸る。この肉体で、この男が、私を気持ち良くしてくれたんだって思うと、途端に愛おしく感じる。興奮じゃなくて、愛しさが先に来ることに私はなんの違和感も感じなかった。

ありがとうと、心の底からそう言いたい。
ありがとうと、実際に口から出して言った。

「おねーさん、俺のこと好きすぎー」

そう言ってもたれかかる男が私は好きだった。

「ごめん」

思わず謝った。好きなのは――否定できないから。
男はむず痒そうに笑う。

「謝らないでよ。嬉しいよー、すっごく」

それで。
それから。
お布団で一緒に添い寝した。安全がどうとかなんて考えない。私はその日、学校の行事で10キロ走った日のように、すごくぐっすり眠ることができた。
男を抱き――お風呂に入って――夜はぐっすり眠る。
幸せだ。
幸せで、久しぶりに幸せのまま眠れたと思う。学校に通っていたころはそういえば、なんとなく気分の良い日はあって、そんな日は眠りにつく前に友達と話した馬鹿話を思い出して笑いながら寝ていたっけと――そんなことを思い出した。ああ、あの時の私は上手いことを言えて、友達も笑ってたな、なんて。だからきっと、あの時の私は社会人になった私と違って、幸せと呼べたのだろうと今更ながらに気が付いた。

「ん……」

朝、驚くくらいにスッキリと覚醒する脳と共に目覚める。何時もの休日の朝だったら、これから何もできずに3時間くらいは布団の中でスマホを弄るだけなんだけど。こうもスッキリしていると簡単に起き上がれてしまう。
男の姿を探そうとする前に、良い匂いが鼻孔をくすぐった。目を擦りながら、冷凍食品を解凍するだけになっているキッチンの方を見ると、男が立って鼻歌を歌っている。

「あ、起きた。おねーさん。おねーさんが無防備だから、冷蔵庫の食材を盗んじゃったよー」

なんて言って。
出てきたのは、ただのオムライスだった。

……朝ご飯、作ってくれたんだ。
朝ご飯を作ってもらうというのも、そういえば、久しぶりか。実家にも、もう一年以上は帰っていない。
カップ麺に入れるためだけに買っていた、賞味期限切れの近い卵を見て作ってくれたのだろうか。そういう気遣いくらいはしそうな男だった。
「ほらほら、顔洗って手洗って、どうぞどうぞ」と誘導されるがままに部屋に備え付けられていた小さな一人用テーブルに着いた。
オムライスと微笑む男の顔を交互に見ながら、私は躊躇いがちにスプーンで中に入っている赤色のご飯ごと掬い取って、「いただきます」と言ってから口に入れた。

美味しいなって、思った。
きっとそれは、別に探せばこれより美味しいオムライスを出す店なんていくらでもあるんだろうけど、それでもきっと、これ以上のオムライスに出会うことは生涯ないんだろうなって、そう思う。
一口食べて、一口食べて、私は食べ続ける。インスタントのコーンスープも作っていてくれたから、湯気の立っているそれも飲む。

「本当に勝手に作っちゃったんだけど、どう?」
「美味しいよ」

自然に、その言葉が出た。
照れも躊躇いもなく、そう言えた。

作ってくれたオムライスをご飯の一粒も残さず食べて、お皿洗いまで全部してもらった。それである程度話していたら、「そういえば時間無制限って言ったけどさ、今日の昼までには帰らないと駄目なんだ……」と男が気まずそうに言うので、私は了承する。元々、二日間もこの男を家に置けるなんて考えていなかった。
何をするでもなく、何もしないことをした。雑談をして、一緒にテレビを見て、それで笑ったりして。朝ご飯を作ってくれたお礼に昼ご飯を奢ろうかと提案したが(そう言えば朝ご飯も食べさせていない、私の一生の後悔)、それは丁重に断られた。
ただ、せめて途中までで良いから、あの出会ったコンビニまで一緒に歩きたいと言うと男は笑顔で「いいよ」と了承してくれた。
夜とは違う、太陽の光が照らす道を歩く。あの夜に抱えていたはずの重い荷物も、今は持っていない。私が話して、男が笑い、男が話して、私が笑う。太陽の光が眩しくて、男の笑顔も眩しくて、私はその眩しさを暖かく感じながら歩き続ける。
そして、コンビニに着いた。一生着かなくてもいいのになと、そう思ったけれど、私の思いなんて関係ないだろう。

「じゃあ、お別れだね」
「……うん。あの、」
「ん?」

不思議そうに首を傾げる男。
男の名前を聞きたかった。
これでお別れなんてしたくなかった。
もう一度会えるかを聞いておきたかった。
言いたいことが沢山あって、聞きたいことが沢山あって、それを全部ひっくるめて、私は一言だけ言う。

「……ありがとう」
「んー?」

ふっふっと、口を閉じながら照れるように笑う男。それを見た後、男の離れる姿を見て悲しくなるのが嫌になって、私はいつの間にか俯いていた。

「おねーさん」

俯いていると、声をかけられたので顔を上げる。

ちゅっ。

頬に、柔らかい感触が当たる。
いたずらっ子のような笑顔を男は浮かべた。

「またねっ!」

そう言って手を上げながらたったっと走り去る男の姿を、頬を押さえながら私は見届ける。その背中が小さくなって、消えるまで見届けた。

とりあえず。

頑張って生きていこうかなって、そう思った。

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