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家元JK 神無月京子(1)

凛とした佇まいの、少女だった。
白魚のような指が、流れるような所作で花を生けてゆく。
あまりにも完成された美しさに、生け花だけでなく、それを作り出す姿そのものが、絵画のように映える。

「へえ……これはこれは」

撮影風景を見ながら、黒宮は少女の醸し出す麗しさ、伝統を受け継ぐ美というものに、素直に感心していた。

その時は、まだ。

家元女子高生、というキャッチーなフレーズで、神無月京子はテレビデビューを果たした。
両親が不慮の事故で亡くなっての、混乱の中での襲名ではあったが、早熟な彼女は技量も確か。
その上、まだ高校2年生の美少女で、受け答えもしっかりしているのだから、すぐに注目の的となる。
さらさらと流れ落ちるように伸びた、みどりの黒髪。
ぱっつんと揃えられた前髪も相俟って、まるで日本人形のような整った顔立ち。
背は高い方ではなく、思春期相応の体つきだが、艶やかな振袖を着て歩くだけで、場を支配する品格がある。

そんな彼女が、何故か、叔父を連れて特別アドバイザーの部屋を訪ねてきていた。

(俺にどうしろって言うんだ……)

流石の黒宮も頭を抱えてしまう。
黒宮は無教養ではないが、華道のことなどさっぱり分からない。
それはテレビ局の連中も同じだろう。
なぜ自分のところに相談に来るのか、他に適任が(どっかに)いるだろ、と叫びたくなる。

「さて……神無月さんと、失礼ですが、そちらの方は?」
「ああ、私は叔父の神無月新造といいます。どうぞよろしく、黒宮特別アドバイザーさん」

何となく嫌な感じのする男だ。
爬虫類のような目で水樹を見るので、適当な用事を言いつけて下がらせる。

「実は、京子のテレビ露出をもっと増やして、話題作りをしたいんですよ。
聞いた話では、黒宮さんが顧問をしているリポーターの水科さん、グラビアアイドルの夏木さんなんか、どんどん人気が出てるらしいじゃないですか」

(そりゃ、あいつらの才能に決まってるだろっ!)

黒宮はいよいよ机に突っ伏したくなる。
それは確かに、いい仕事が回るように指示もした。だが、そこから人気が出るかどうかなぞ、分かりっこないのだ。
「たまたま」が2回連続で続いたところに、変な期待を持たれても困る。

「買いかぶりですよ。ええと、同じ神無月さんですから、下のお名前で失礼しますが。
京子さんのご意見は?」
「わ、私は……」
「京子の後見人は私ですからね。私に話を通して下さい」

嫌な奴だ。
話し始めて5分も経っていないが、早くもこの男が「敵」だと認識する。
同時に、おずおずと言葉を切り出そうとして、しゅんと頷く少女の姿に、少し驚いた。
収録のときと同じ、艶やかな振袖姿。
なのに、あの魔法のような格式の力、場を満たすオーラが消え失せて、ただの16歳の少女がそこにいた。
これはこれで魅力的である。

「では、新造さんだけ残ってもらえますか?」

そう言って黒宮は、ひとまず「敵」の排除から始めることにした。

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「改めて初めまして、神無月京子さん。今度こそ、ご意見を伺っても?」

さっさと新造を洗脳してしまい、部屋の外に追い出すと、逆転して京子と二人きりになる。
あからさまにホッとした顔の京子が、ポツポツと話し始めたところによれば、事はこうだ。

・京子はテレビの露出は抑えて、華道の修行をもっとしたい。

・とはいえ、最近はそちらもスランプ気味で困っている。

・本当は、流されて家元になってしまった。これで人生を決めていいのか、分からない。

あの人形のような家元が抱えていた、思春期の少女の姿に、黒々とした思いが湧き上がってくる。
ここで、この少女に、たっぷりと邪なことを仕込むのはどうだろう。
一瞬で、布団の上、あんあんと喘ぐ少女の姿が想像されて、思わず勃起しそうになる。

「そういうことだと思いましたよ。失礼ですが、これから突っ込んだ話をしますので、口調を砕けさせてもいいですか?」
「はい、黒宮さまの方がお年上ですから」
「それはどうも。じゃあ京子ちゃん、これを見てくれるかな」

そして、青い光が少女の前で輝いた。

あっけないほど簡単に、京子をマンションへと迎え入れる。
少女は振袖姿には似合わない、キャリングケースを転がしていた。
収録でホテルに泊まるときには、着物だけだと大変なので、着替えを持ち運んでいるそうだ。
どんな服が入っているのか気になるが、黒宮は先にやることがあった。

和室の準備である。

肉体関係のある女たちと、浴衣で睦み合うことも考えて、布団は揃えてあったのだ。
京子をリビングに置いたまま、いそいそと布団を敷き、にんまりと笑う。
蝶は蜘蛛の巣にかかったのだから、後はゆっくり頂けばいい。

「とても綺麗なお部屋ですね」
「それはどうも。さて、それじゃあお話しようか。まず京子ちゃんは、最近スランプなんだね?」
「はい……恥ずかしながら、自分の生ける花には、何か型に嵌り過ぎた、定石に従いすぎたところがあるのです。
わたくしの今までは、物心ついた頃から、お花のことばかりでした。
自分では、それがむしろ悪かったのではないか、と考え始めてしまって…
そう思い始めたら、だんだん、このままお花だけを生けているばかりで、いいのかな、って…」

青い光の効果があるとはいえ、仮にも男の部屋に二人きりである。
なのに警戒もなく、変わらない様子で内心を吐露する彼女に、黒宮は確信する。

処女だ。
それも、相当な箱入り娘の。

自分のように容貌の整った娘が、男の部屋に上がったら何をされるかなど。
考えたこともないのだろう。

「うーん。京子ちゃんは、高校ではどうしてるの? 彼氏とかいる?」
「っ! か、彼氏、だなんて…! わたくしは、学校では、お勉強をするだけで……」

面白いように顔を真赤にして否定するので、本当に初心なんだな、と思う。

「じゃあ友達は?」
「両親が存命の頃は、ずっと修行がありましたし、あまり外で遊ぶことも……」

そうやって話を聞いているうちに、黒宮は京子が華道以外何も経験のない歪な少女だと理解した。
16歳の、花盛りの女の子が、こうして若さを浪費するとは。
これはたっぷりと、華道以外のことも教えてあげないと。
そう自分を正当化して、にやりと笑う。

「京子ちゃんに必要なのは、冒険だね。ここまで極端だと、脇道にそれる、寄り道をする、くらいじゃあ駄目だよ。
冒険して、ひと夏の経験をしなくっちゃ」
「ひと夏の、経験、ですか?」
「そうそう。学校で聞かなかった? 女の子はね、夏休みに初めての体験をして、ぱぁっと綺麗になったり、見違えたりすることがあるって。ちょうど、花が開くようにね」

(ま、別の花は散らせてるんだけどな)

「そうなんですね……その、初めての体験、というのは、一体何をするんでしょうか?」
「うん、それをこれから経験しよう。こっちに来て」

免疫のない、無警戒な少女を連れて、和室へと連れてゆく。

「えっと……和室、ですか……? それに、これは…お布団……?」

すっと戸を閉めると、京子のすぐ後ろに立つ。
和室には、桃色をした大きな布団が敷かれていた。枕はふたつ。
ゆっくりと、何をする場所か呑み込み始めた京子を、後ろから抱きしめる。

「これからたっぷり、男女の交わりを教えてあげるよ」

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