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楽園の蛇(1)

「ん……なんだ、こんな時間に……」

深く静かな夜に、ぶー、ぶーっと携帯が無粋に鳴る。
腕を伸ばすと、「んー……」と女の声。黒宮に抱き着いていた恋が、眠りを妨げられて出した声だ。
久し振りに恋と会った黒宮は、それはもう、情熱的な一夜を過ごし。
半ば力尽きたように、眠りに落ちたのだ。
それだけに、この時間に鳴らされる携帯が恨めしい。

「悪いな、少し外すぞ」

起こさないように、ベッドから這い出ると、携帯を取って別の部屋に移る。

「もしもし、黒宮だ」
『……こんな時間にごめんなさい。鏑木よ』
「イリスか? 何があった?』

電話の相手は、鏑木イリス。
悪霊払いをして、流れで処女を奪った少女だ。
アフターケアのつもりで連絡先を渡したが、こんなに早く連絡が来るとは思っていなかった。

『こんなこと、言える立場じゃないって、分かってるわ。でも、お願い……貴方の他に、頼れる人もいないの』
「別に、おまえの立場なんかどうでもいい。要件を言え。声でわかる、相当不味いことになってるんだな」
『ええ、そうよ……私の通ってる学園で、悪霊が溢れてるの。
もう何人も倒れてるわ。さっき、お見舞いに行った帰りに、見たのよ。あの時見たような、黒い靄を』
「それで動転して、かけてきたってことか……おいイリス、おまえは大丈夫なんだよな?」

電話の向こうで、一瞬、少女が息を止めたのが分かる。
ゆっくりと呼吸する音がして、

『貴方のそういうところ、本当に調子が狂うわ……ええ、私は無事よ。
誰かさんのしてくれた、悪霊払いのお陰かしら。それとも、乙女でなくなった小娘には、悪霊も興味をなくすのかしら?』
「どうやら元気みたいだな。安心したよ。
しかし、おまえが無事なのは、本当にその通りかも知れないが……」
『あら、本当に悪霊が処女にしか興味が無いって言うつもり?』
「いや、悪霊払いの方だ。ちっとばかり、強すぎる払い方をしたもんでな」

ふう、と黒宮は息を吐く。
全く、いつから日本には悪霊が溢れ出したのだ。

「もう夜も遅い。死にそうな奴はいるか?」
『ううん、皆まだ、大丈夫だと思うわ……私の経験からの判断だけど』
「よし。明日になったら、もう一度連絡する。真夜中に男が訪ねていったら、どう見ても不審だからな」
『そのことなんだけど……』

イリスから詳しい事情を聞いた黒宮は、頭を抱えて天を仰いでいた。
もう電話は切ったので、どんな弱音も言い放題だ。

「どうしろっていうんだ、全く……」

一人きりになって吐いた弱音に、しかし、魂の奥から応える声がする。

(穢れた霊なぞは、何時の時代にもおろうよ。
ほ、しかしあの娘、随分と古い霊に憑かれておった。どこで拾ったのかと思うておったが、その「じょしりょう」とやらは、神殿か何かなのかえ?)
(いいや。神殿より、ずっとタチの悪いところだよ……女子学園の女子寮だぞ。
オカルト的にはともかく、社会的には凄い難所だ……)
(ほほ、そなたがそこまで弱るとはのう。
とはいえ、あの娘は妾が手ずから救ったもの。言わば、妾の加護を授かったに等しきぞ。
求められては、救わねばならぬ)

言われなくても、黒宮はイリスを助ける気でいる。
しかし、イリスの通う学園は、女子校で、しかも事件は寮で起きているのだった。
完全無欠の女子寮である。男子禁制なのは、言うまでもない。

「参ったな……」

ひとまず寝直すか、とベッドへ戻ると。
上体をシーツに隠した恋が、サイドランプを点けて待っていた。

「やっほー、黒宮さん、それに……始めまして、かな?
なんて呼んだらいいか分からないけど……その、女神様?」

いつもの調子で軽く手を上げ、気の抜けた感じでかけられる言葉に、黒宮は絶句する。

(ほほ。そなた、聞こえておるのか?)

「うん、波長が合うのかな? 頭のなかに響いてくるんだよね。
黒宮さんも、もちろん聞こえてるんでしょ?」
「あ、ああ……おまえ、なんつーか、滅茶苦茶だな……」
「褒め言葉だって受け取っておくよ。で、勝手に話を推測するけど……
どこかの女子寮で、古い霊さんが悪さをしてる。女神様と黒宮さんが行けば、何とか出来るけど、そもそも女子寮に入る方法がない……ってことでOK?」

頭の回転が速い子だ。
しかも、殆ど神がかりじみた察しの良さがある。或いは、天性の勘なのだろうか。

(話が早いのう。その通りよ、可愛い妾が巫女。この祭司は世俗のことで煩っておるが、何も難しいことなどありはせぬ。
どれほど古き霊であろうが、滅するは容易いわ)

「すっごーい。流石、神様! 黒宮さんは、うーん……さっきの電話、その女子寮の関係者だよね。で、黒宮さんが何も考えずに、協力すると決めてると。
そうすると、女教師か、女学生か。えっちしたの、どっち?」
「……おまえの信頼が胸にしみるよ。
女学生の方だ。修道女見習いって話でな、たまたま悪霊払いをしたんだが」
「ベッドの上で悪霊をやっつけたと。いやー、流石だねえ……」

にやにや笑う恋は、本当にいい性格をしている。
修道女見習いの、女学生を抱いた話をしても、こうして冗談にしてしまえるのだ。
善悪の観念が薄いわけではない。ただ、世間のそれとズレている。

変に浮世離れした、突拍子もない女。
それは確かに、現世とは隔絶した、神との接点を持ちやすいのかも知れなかった。

「ま、あたしも野次馬根性で聞いたわけじゃなくてさ。
女子寮のこと、ひょっとすると何とか出来るかも知れないんだよね」

そう言って、悪戯っぽく笑う恋は。
相変わらず、予測不可能な女の子なのだった。

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