夜の街とギャルビッチ(1)
それは週末の夜深く、深夜の街でのことだった。
たまには一人で飲もうと、バーで酒を片手に、黒宮は物思いに耽る。
(……リズと加奈は、どっちも最高だったな。次は七海ちゃんとも、生でやりたい)
ぼんやりアルコールを摂取していると、そんなことばかり考えてしまう。
夏桜シスターズは、これで全員美味しく頂いたわけだが、七海とはゴムつきでのセーフセックスしかしていない。
いずれは彼女とも、生で繋がり合いたいものだ。
仲のいいグループだし、4Pというのも魅力的で……
「っと」
黒宮はぶんぶんと頭を振り、度数の強い酒を流し込んだ。
こんな、いつもの考えを巡らすために、わざわざバーを選んだわけではない。
この力。
降って湧いた力で、テレビ局を支配し、女学園にはカルト染みたグループを作った。
「あれ」が何を求めているのか、分からない。
だが、今目立って問題なのは、「あれ」のことではなく。
その力によって得た、女たちとの関係だ。
(子供かあ)
静香は子供を欲しがっている。
ゴムもピルもなしに、中出しセックスを繰り返しているのだ。
当たりどころによるが、そのうち、出来るものが出来るだろう。
そうしたらどうする?
黒宮には、まるで現実感がなかった。
例えば、郊外に大きな屋敷でも買って、孕み腹になった女たちを集めて暮らすとか。
そんなファンタジーみたいなことを考えて、それで何とかなるかな、と思ってしまう。
何者にも邪魔されない、大きな屋敷。
静香だけではない。香織も水樹も、恋や京子、イリスだって腹を大きくして。
うっとりした顔で、子供を宿した腹を撫でるのだ。
そう、それはさぞや素晴らしい光景で……
「ちっ」
再び、黒宮は頭を振って想像を打ち消した。
真剣に考えようとしていたのに、すぐ、ピンク色の想像が始まって邪魔をする。
ただでさえ酔った頭に、性欲まで混ざって、ロクにものが考えられなくなった。
(……出るか)
いい大人にもなって、真剣なこと一つ考えられないとは。
ひとまず外の空気を吸って、落ち着くために、バーの外へと出ていった。
深夜の街は、不思議な場所だ。
時間は2時。飲食店は次々と閉まってゆき、街を歩く酔っ払いも姿を消して、コンビニの明かりだけが目に痛いほど輝いている。
静まり返った通りを歩く中、黒宮は向かいから歩いてくる女性に気が付いた。
身体の線にピッタリとフィットした、光沢のあるミニワンピ。
上から羽織った豹柄の派手な上着。
むちむちの白い太ももが、夜闇に眩しかった。
髪は染めておらず、むしろ鴉の濡れ羽のように黒いが、全体的なファッションはどう見ても派手好きなギャル。
年は20代前半というところか。
それが、綺麗な顔を赤く染めて、ひどく危うげな足取りで歩いてくる。
(おいおい、こんな時間に一人で泥酔したのか)
不用心な女だと思いながら、すれ違おうとすると。
どすん、とふらついた身体がぶつかって来た。
柔らかな肉体、熱い体温。ふわりと、果物のような甘い匂いがする。
不思議と酒臭くはなかった。カクテルか何かの、残り香だろうか。
「おいおい、おまえ、大丈夫か?」
「ん~……らいじょぶ、らいじょぶぅ……」
絶対大丈夫じゃないだろ。
黒宮は頭を抱えながら、女の肩を掴んで、引き剥がす。
丸みのある、きれいな形の肩だった。
「……へえ」
向かい合ったその時。
女の瞳に、一瞬だけ、驚いたような光が宿る。
だがそれも一瞬のこと。
すぐにだらしなく、くたり、と力を抜いて、黒宮に寄りかかってきた。
「はぁ……頼むぜ、まったく。酒を飲むにもほどほどに……」
ありきたりな注意をしようとした黒宮の、耳元に。
ふぅ、と熱い吐息が吹きかけられて、だらしなくも甘ったるい声がする。
「お兄さん、ちょっとイイかもぉ……ね、アタシと、イイコトしよ?」
まるで恋人がするように、腕を首に巻き付けて。
娼婦のように、豊満な身体をすり寄せてくる。
「ちっ、仕方ないやつだな」
面倒な酔っ払いと思ったが、中々どうして。
黒宮は女の腰を抱き、いやらしく尻を撫でて、お誘いに応える。
耳にはピアスが幾つもついていて、暗がりの中、キラキラと煌めいていた。
いかにもふしだらで、遊んでそうな女。
もしかしたら立ちんぼで、後から金を取られるのかも知れないが、構いはしなかった。