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神へと捧げる茶番劇(1)

黒宮恭一は、自分で思っている以上に義理堅い性分である。
香織と少子化対策に励んだ夜、「苦手な占い師さんが、番組に来るのが心配で」と相談されたことを、よく覚えていたし、無策でもいなかった。

「ということで。今日は真面目に仕事をするか」
「……香織さんなら、如才なく対応出来そうですが。まず、こちらがその方のプロフィールです」

珍しくマトモな「仕事」を振られて、水樹も少し困惑している。
なにせ秘書といいつつ、部屋でセックスするか、女性タレントの物色を助けるしか、仕事をしていなかったのだ。
とはいえ、そこは出来る女。
まとめられたプロフィールは過不足がなく、読みやすいものだった。

「……気に入らないな」
「黒宮様と意気投合するタイプでは、ありませんね」

占い師は関谷花子という名前で、小太りの中年女性。
見るからに山師っぽいのだが、本も何冊か出しているし、レギュラー番組も複数持っている。
普段のやり取りは、よくある「うるさ型」のオバサンなのだが、異様に勘が鋭く、タレントの不品行を嗅ぎつけるのが上手い。
特に、何度か不倫を暴いていて、そのときの資料を読む限り、確かに「神がかり」と言えた。
色恋沙汰を暴き立てて、その場で責め立てるのが好きなようだ。
黒宮からすれば、まさに天敵と言える。

(はてさて。よっぽど腕利きの探偵を雇ってるか、それともご同輩か……)

力を手にする前、黒宮は懐疑主義者で、この手のオカルトおばさんは一笑に付していた。
今は詐欺師か同類か、という目で見てしまう。

(占い師のう。もはや神官すら見かけぬ世であるぞ。
古き世の、神殿の者共が脈々と受け継いできた占星術も、果たして残っておるかどうか。
……魔女の末裔がおるのだから、まあ、残っていても不思議はないがの)
(おい。魔女なんかいるのかよ)
(ほほ、存外、既に会っておるやも知れぬぞ?)

「それ」はころころと、子供をからかうように笑った。
黒宮は気に入らないが、こう言う時、古き神の力を当てにできるのは安心する。
恐らくは、この国が生まれるより、遥かに以前から存在したであろう神だ。
そこらの占い師が勝る道理がなかった。

「どうせだしな、万全は期しておきたい。収録には俺も出るし、そうだな、プレッシャーをかけられそうな連中には、一通り声をかけてみよう。
京子だろ、恋に、イリスも呼んで……」
「……番組から、ゲストに出て欲しいと言われてしまいそうですけれど」
「ギャラリーにするには、ちょっと豪華かもな。まあいいさ。
正直、ちょっと嫌な予感もする。どうも、こいつは、気に食わない」

そう。
何となくだが、黒宮は直感していた。
こいつは、自分と同じで、本物なのではないか、と。

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「く、黒宮さん……応援して頂けるのは有り難いんですけど、その、あまり大事になりそうなことは……」
「……俺だって、その、なんだ。ちょっと調子に乗ったかな、くらいには思ってるよ」
「止めなかったわたしにも、少し責任があるかも知れません……」

収録当日。
香織の楽屋には、黒宮が呼んだ面子が勢揃いしていた。
本日の主役である香織は、困ったように苦笑しているし、フォーマルな秘書姿で決めている水樹も、どこか疲れたような表情だ。

「んー、あの占い師さん、ちょっと嫌な感じがするしね。
大丈夫、あたしこう見えても女子大生だから! 香織さんが何か言われても、すぐ言い返せるように、本を沢山持ってきたよ!」

そう言って、台車に本を山積みにしているのが、恋。
ちなみに本は黒宮が買い漁ったものを、彼女なりの基準でチョイスしていた。
どれもハードカバーの分厚い学術書ばかりで、マンションからこれを運び出す時、黒宮は本気で人選を誤ったと思ったものだ。

「……そりゃそうだ。エリアーデにフレイザーに、マックス・ウェーバーに……
こんだけあれば、どんな言い分でも反論くらいは出来るだろうな。その場で、お目当ての一節を見つけ出すことが出来れば、の話だが」
「んー、そこは大丈夫かな。諳んじろ、って言われたら、諳んじることだって出来なくはないし」

黒宮は思わずぎょっとして、恋の顔を見つめてしまった。
普段お気楽で、ハチャメチャで、何を考えているか分からない女の子だが。
時々、驚くような知性の片鱗を見せるのだ。

「香織さんには、仲良くして頂いていますから。
相手の方が、どんな方はよく存じ上げませんし、立派な方かも知れませんが……それでも、もし不埒なことを仰るようなら、わたくし、ぴしゃりと申し上げます。
……その、黒宮さまにも、頼まれてしまいましたし」

そう言って、妙に気合が入っているのは京子である。
収録でも何でもないのに、格式張った振袖姿で、家元の格式を全身に滲ませていた。
時々チラチラと、黒宮のほうに視線を向けるのは、いいところを見せたい、という気持ちの現われだろうか。

「……はぁ。貴方、何で私を呼んだの? 貴方の周囲に、綺麗な女性ばかり集まっているのは知っているけれど。それを改めて見せつけて、自慢でもしたいのかしら?」

憎まれ口を叩くのはイリスで、それはいつものことだった。

「ははっ、まあな、少しそういう気持ちもある。
だが、ちゃんとした理由もあるぞ。俺の見立てじゃ、この中でおまえが一番、モノを言いやすいだろうからな」
「あら、素直にこう言えばいいじゃない? この集まった中で、一番口が悪くて喧嘩腰なのがおまえなんだ、って」
「近いと言えば近いぞ。なあ恋、占い師って職業について、おまえはどう思う?」
「え? うーん、特になんとも思わないけど」
「京子ちゃんは?」
「わたくしも、何か思うところがあるか、と訊かれれば、ありませんね」
「よし。イリス、おまえは?」

修道服姿のイリスは、数瞬と考えずに即答した。

「哀れな迷妄に囚われた連中ね。
あれは真っ赤な詐欺師どもだと、聖アウグスティヌスだって書いているわ。
彼にならって、あの連中を言い負かして、物笑いにしてやれば、さぞかし愉快でしょう……あら?」

その場の全員が、目を丸くして彼女を見ていた。

銀髪の妖精のような少女が口にするには、あまりにも不釣り合いな苛烈な言葉。
香織と彼女は「面識がある」という程度で、今回の件には無縁に近い。
なのに、もっとも敵意を剥き出しにして、サディスティックな感情を燃やしているのだ。

ひとり、黒宮だけは、期待通りとにやにや笑っている。

「くくっ、だろうと思ったよ。知り合いに、そんな信念を持ってそうなのは、おまえくらいだったんでね」
「え、えっと……イリスさん、とお呼びしていいでしょうか? その、どうして、そんなに占い師さんを嫌っておいでなんですか? その、何か嫌なことでもあったのでしょうか……」

育ちのいい京子には、会ったこともない相手にここまでの敵意を見せるのが、本当に不思議らしい。
自分が意気込んでいたのも忘れ、普通の少女の顔に戻って、おずおずと訊いている。
それは他の面子も、多かれ少なかれ思うところだった。

「あら、簡単なことよ。
そも、占星術師どもが、仮に人の運命を知ることが出来るなら。
神ならぬ身で、それを軽々しく語るとは、不敬で厚かましい連中よ。
そして、運命など知ることが出来ないのなら。虚偽を口にして金を儲けているのだから、それは詐欺師と呼ぶべきでしょう。
つまり、不遜によって金を得るのか、虚偽によって金を得るのか、ふたつにひとつ。
何れにせよ、浅ましい連中に違いはないわ」

鏑木イリス。
堕落したとは言え、元は熱狂的なキリスト教徒だった少女だ。
信仰は揺れても、信念というのはそう簡単に消えるわけではない。

(……これまた、難儀な娘よの)

どこかで、女神すら苦笑いを零していた。

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