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神へと捧げる茶番劇(3)

悪夢を見ている。
関谷花子は、そう思いたかった。信じたかった。
テレビの生放送。収録の待っ只中だというのに、背筋が、いや、全身が震えて止まらない。
今度は、そう、今度は。
本気で、苛立たしい女の弱点を見通してやろうと思ったのに。

どうして。
どうして、巨大な蛇が、目の前にとぐろを巻いているのか。

どうして。
どうして、誰もそれに気付かないのか。

どうしてどうしてどうして。
ーーああ、これが悪い夢だったら、いいのに……!

彼女には、他人の「弱み」を見通す力があった。

占い師を名乗っているが、それは天職だと言えるだろう。この「力」があれば、適切なアドバイスをすることも、逆に破滅させることも容易いのだから。
師匠から受け継いだその力は、ひどく古くから伝えられてきたものだという。
それは彼女の誇りでもあり、伝統的な力を受け継いできたという自負もあった。

だから。
その力があっさりと弾かれた時、彼女は半ばパニックになり、相手を逆恨みするようになったのだ。

水科香織。

突然人気が出始めた、美貌のキャスターへの、ちょっとした悪戯。軽く「力」で弱みを見てやろうと思った時。
何か得体の知れない力が作用して、彼女には何も見えなかった。

屈辱だ。
それ以来、ずっと彼女を毛嫌いしてきた。
それはひょっとすると、無意識で彼女を恐れる、裏返しだったのかもしれない。
そして今、恐怖は目の前にやって来ていた。

「……ひっ!」

自分の口から、ひどく情けない声が迸る。

蛇はチロチロと舌を出し、探るようにこちらへ眼を向けたのだ。
顎門が開き、恐ろしい一噛みが、がちゃりと、彼女の目の前で。
瞬き一つ先にある、蛇の顔。底知れない悪意が見え隠れする、蛇の顔。

「ぎゃあっ!」

彼女は椅子から転げ落ち、ひいひいと喘ぎながら後ろへ這いずり逃げる。
蛇は獲物で遊ぶように、悠々と這い寄って、鎌首をもたげると、今度は外さないと。
見せつけるように大口を開いて、そのまま、がぶりと齧り付き。
彼女の意識はぷつりと途絶えた。
何かが、何かが決定的に失われたという、冷たい感覚とともに。

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「哀しきことよな」

何処とも知れない廃園。
廃墟と化した神殿と、咲き誇る花畑の中に、「それ」は腰掛けていた。
傍らには巨大な蛇が、満腹して横たわっている。

一体何を喰らったのか。
それを知った彼女は、寂しげに遠くを見ていた。

「古き神か。否、古き神であったモノ、であろうの。神と呼ぶには弱まり過ぎ、その力だけが残ったか。
もはや悪しき霊と変わりなく、ただ人の子に取り憑いて、願いに反応するだけのモノと化して、永らえておったのであろうよ。
妾とて、つい先頃までは、似たようなものであったからな。そなたのあり方には、思うところがある」

最早そこにいない「何か」へ向けて、彼女は語りかける。
黒く艶やかな髪が、風に吹かれてなびき、ざあと花びらが踊り、舞い上がった。

「ーー今世には、もはや、我らが踊る舞台も、相応しき演題も無いがのう。
それでも、茶番とは言え、劇はあり、愛し子らがおる。
妾は運が良く、そなたは不運であった。それだけの、ことなのであろうな」

そうして瞳を閉じ、彼女は暫しの間、失われた「何か」を悼んでいた。

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