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ゴドーを待ちぼうけて(1)

「聞いたわよ、この背信者。甘城さんに手を出したそうね」

黒宮と恋は、イリスに呼ばれて、夜の喫茶店にやって来ていた。
前置きを長々と述べるような少女ではない。
珈琲を片手に、鏑木イリスは眼光も鋭く、短剣のような鋭さで本題へ切り込んできた。

「ぶっ……おいおい、どこで知ったんだ、それ」
「ふん、本人を少し突いたら、面白いくらい簡単に話してくれたわ。
私が実家に帰っている間に、女子寮の娘たちと、それはそれは仲良くなったそうね?
全く大したカサノヴァだこと。私達の学園は、さながら『デカメロン』を地で行く有様だわ」
「ボッカッチョだっけか。俺はあまり、あの時代の文学は読まないんだが……どんな話だっけ?」
「修道士が、若い女を誑かしてお楽しみになる、高尚な物語がいっぱいよ。まるで貴方のことじゃない、黒宮先生?」

先生、と口にする時に浮かべるのは、三日月のようにねじ曲がった、皮肉な笑み。
黒宮はガリガリと頭を掻き、横に座る恋は「わー修羅場だぁ」と他人事だ。

「まあ、それは話の枕みたいなものだけれど」
「なに?」
「今更、貴方が生徒の10人や20人、毒牙にかけても驚かないわ。
我ながら、ひどく堕落したものだと思うけれど。
あの子達は、自分の意志で貴方とお付き合いしているみたいだし、結局のところ、キリスト教徒でもないのよ。
私が、私の信仰をあの子達に押し付けるのは、筋違いというものでしょう」
「えらく心臓に悪い枕もあったもんだな……」
「貴方のような人は、一度グサリとやられた方がいいのよ。言葉で済ませただけ、有難く思いなさい。
……それで。二人には、学園のことで確認したいことがあるの」

そしてイリスが語り出した学園の「異変」は、黒宮にとって、心当たりがあり過ぎた。

生徒の成績が、明らかに上がったこと。特に女子寮に住む生徒に顕著なこと。
学園の風紀が緩み始め、教師も目溢しをすることが増えたこと。
女子寮裏にある礼拝堂──黒宮が少女たちと儀式めいた乱交をした場所──は、まるで古代の遺跡のように、静謐で神秘的な空気を深めていること。
様子を見に来た教師が、思わず立ち止まって、「何か」に祈ってしまうほどだそうだ。

「うーん、あの女神様らしいねえ。礼拝堂は、すっかり神殿になってるんだ」
「……つまり何か。学園はすっかり、あれの住処になったってことか」
「貴方達が、異教の神を連れてきたことは知っているわ。それが悪霊退治には必要だったということも。
ただ、学園をバビロンの園にするなら、少し配慮して、と言いたいだけ。
噂が流れて、口さがない連中がやって来てからでは、遅いのよ。
貴方自身は、身から出た錆でしょうけれど。あの子達が悲しむのを見るのは、厭だわ」

あの苛烈な修道女が、憂うような顔でカップに口をつけるのを、黒宮は驚きとともに見つめていた。
恋は腕組みをして、何やら考えている。

「せいぜいバレないように気をつけるか」
「杞憂だと思うけどなぁ。たぶん、何とかなると思うよ」

そして、ふたりが出した結論は、バラバラのもの。
黒宮が浅ましく適当な回答をすることは、イリスにも予想がついていたが。
恋の、あまりにもあんまりな、鷹揚過ぎる回答には、流石に目を見張る。

「たぶんって、恋さん、貴方……」
「変わり始めてるんだ、もう。思ったよりずっと早いね。
なら、たぶん、大丈夫。学園には、悪いことは起きないよ」

まるで神託を告げる、デルフォイの巫女だ。
未来のように彼女は語る。

「色んなことが変わってく。これから、もっと面白くなるよ。ほら」

そう、恋が窓の外を見つめた時。
黒宮は我が目を疑った。

「おい、マジかよ」

呆然と呟く。
イリスも目を丸くして、硬直していた。
まるで凍りついたような時の中で、ただ、恋だけが、からからと笑う。

窓の外。
そこには、あの夜闇色の髪をした、古い女神が。
蛇やら、狼の影やら、首なしの戦士やら、妖かしとしか呼べぬ行列を引き連れて、歩いていた。

「え、あれ、ハロウィンか何か?」
「仮装行列だー。何かの撮影かな? すごいすごい」

喫茶店の人々が、ガヤガヤとざわめいて。
黒宮は嫌でも気付いてしまう。これは、夢ではなく、現実の出来事で。
自分たち以外にも、「見えて」いるのだと。

「こんばんはー」

ひどく脳天気な声で、恋が手を振り挨拶をすれば。
窓の外の、あの女神は。少し、ほんの少しだけ、足を止めると。

『ほほ、今宵はちと騒がしくなろう。よき夜をな、我が子らよ』

窓の外から、機嫌よく手を振り返して。
そのまま夜の中に消えてしまう。

「何かのイベントかな? ゲームとか?」
「実は、動画サイトに投稿してるんじゃない? 生配信とかさ」

ひどく今どきの会話が飛び交う喧騒の、只中で。
黒宮たち3人だけが、今の出来事の意味に気付いていた。

はかり難いほど古い異教の神が、この現代に姿を現したのだ。

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