肉を知った女教師、水谷志乃(2)
「黒宮先生は……酷い人、ですっ……!」
「そりゃそうだろうな」
性行為を済ませ、慌ただしく衣服を整えると、志乃は顔を真っ赤にして非難してきた。
さきほどまでペニスを挿入され、息も絶え絶えにアンアン言っていたのに、元気なことだ。
しかしそんな彼女を見て、黒宮が考えることは。
「志乃先生は、いつ見ても美人だぞ」
「なっ……!」
喉元までぴっちりボタンを留め、アスコットタイを締める志乃。
その綺麗な立ち姿を見て、思わずそんな感想が漏れてしまう。
乱れた髪を慌てて整え、行為の痕跡を感じさせまいと、必死に取り繕っているところが、余計に興奮する。
この澄ませた美人の柔穴には、自分の吐き出したザーメンがまだ残っているのだ。
そう思えば、いや増す興奮。
「じゃあ、行こうか」
「ちょっと、触らないでくださいっ……! ご、誤解されますっ」
「誤解って、俺とセフレなんじゃないかって誤解か?」
「せ、セフレって……!」
肉体だけの関係を持つ男女。
そんなもの、想像するのも難しい。
潔癖な環境に生きてきた志乃にとって、黒宮の存在は、異文化そのもの。
「なに、まだ元気が残ってるみたいだしな。このまま、俺の家まで来てもらおうと思ってね、志乃先生」
「そ、そんな……さっき、あんなに、出したのに……」
「ははっ、とうとう志乃先生も、ザーメンのことを口にするようになったな!
残念だけどな、先生みたいな美人相手に、一発で済ます男はいないんだよ」
そう言って腰に手を回し、志乃のからだを抱き寄せる。
それだけでない。さわさわと、いやらしく手を動かして、ヒップを撫で回した。
「きゃっ」
「さっきは、嬉しい告白も聞けたしな。俺をオナニーのネタにしてくれたとは、光栄だよ。
お返しに、腰が立たなくなるまで可愛がってやる。
これから、土日に入るしな」
土日に入る。つまり、週末ずっと相手をさせられる。
そう思い至って、ゾクゾクしたものが、志乃の背筋を伝って来た。それが恐怖によるモノだと信じたい。けれども、下腹部はいやに熱くて、心臓は早鐘を打ち始める。
こうして志乃は、黒宮のマンションヘと連れ込まれた。
「……黒宮先生、一体何の仕事をされてるんですか?」
「本業はテレビ局の、特別アドバイザーだぞ」
「とても、それで賄えるお家には見えません……まさか……」
「おいおい、変な勘違いするなよ。金があるってだけだ。ヤクザじゃない」
両手を挙げて「お手上げ」のポーズを取る黒宮。しかし志乃の勘違いも、もっともである。
マンションの最上階を、丸ごと住居にしている、素行の悪い男。
恋からも、「スーツを着てると、カタギじゃないみたい」とありがたい感想を頂いていた。
「それだけは誓って約束するさ。俺は、そういうのじゃない。
興味があるのは、こういうことだけだ」
「あっ……」
黒宮は志乃を抱き寄せ、強引に唇を奪った。舌を割り入れ、いきなりディープキスをする。
ちゅぱちゅぱ音を立てての、いやらしいキスだ。
澄ましていた女教師の綺麗なお顔が、発情に赤く染まる。
「じゃあ、お姫様をひとり、ご案内だな」
「ひゃんっ」
強引に腕を引き、連れ込むのは薄暗い部屋。
ハート型の巨大なベッドが鎮座する、淫靡な部屋だ。
悪趣味なピンクの布団にシーツ。売春窟のようなムードを作る間接照明。
ああ、ここで犯されるんだ。
そう思うと、志乃の股は熱く、切なく濡れてきて……
「〜〜っ! こ、こんなの、いけないのにっ」
「あれ? 期待しちゃってる?」
黒宮はにんまり笑うと、ブラウスに手をかけて、むしるように脱がし始めた。
自分自身の感情が処理出来ず、志乃はされるがままになっている。
そして黒宮の瞳には、彼女に纏わり付く青い光が、更に強まったように感じられた。
二人揃って、産まれたままの姿に戻ると、そのまま男が女に覆い被さり、自然のままに繋がり合う。
閉ざされた部屋。誰も見ていない、セックスするだけの場所。
そこで男に貫かれ、あられもない声が迸り出る。
「ああ、ふぁ、ああんっ! お、大きいですっ! もっと、もっと優しく……!」
「そんなこと言ってもな、志乃先生のおまんこ、俺のチンポをぬぷぬぷ呑み込んじゃったぞ。随分溜まってたんだな」
太くて逞しい黒宮のペニスが、ぐっぽぐっぽと、露骨な音を響かせて、貞淑な女教師の女性器を往復する。
雁首が膣壁を引っ掻くたびに、彼女の心から理性が削れて、淑女の仮面が剥がれ落ちていった。
心の深いところから、何か、得体の知れないものが語りかける。
その感覚に身を任せろと。祭司の前にからだを開き、恩寵を受け入れろと囁きかける。
「あん、んんんっ! そんな、風に、言わないで下さいっ……きゃっ!」
「くう、具合のいい名器だっ、このまま足腰立たなくしてやるからなっ」
杭打ちでもするような激しいピストンが始まった。
パンパンと下腹部をぶつけ、愛液をかき出すように、男性器が行き来する。
まるで暴風雨のようなセックスだ。
黒宮は乱暴に乳房を掴み、力任せに揉みにじった。成熟した女肉は、それすら快楽に感じてしまう。
白く艶めかしい裸体が、悩ましげに身もだえして、ベッドの上で淫らに踊る。
「ダメ、ダメですっ、おかしくなっちゃうっ!」
閉ざされた部屋。男が女に、一方的に貪られるだけの営み。
だが志乃の、女としての部分は、確実に花咲きつつあった。
肉根で膣内を掻き分けられるたび、甘い痺れが全身に伝い、知らず男の肩を抱きしめてしまう。
もっと欲しい。
メチャクチャにして欲しい。
そんな気持ちが、心を裏切って、甘い吐息と共に溢れ出る。
「いい締め付けだな、志乃先生っ。ご褒美に、アツアツの精液を追加してやるよっ」
「あ、ふぁ、ああんっ! 出てる、私の中、男の人の精液が溢れてますっ……!」
どくどくと精液が注がれるたび、下腹部から危険なくらいの快楽が広がって、全身を満たしていく。まるで夜の海を漂うような、底の知れない官能だ。
そうしてゆっくり、陽が傾いて、本物の夜がやって来る。
「んっ、そこ……いいの、気持ちいい、ですっ……黒宮、先生……ああんっ」
「ははっ、大分正直になってきたじゃ無いか」
夜は更けたが、ふたりはぴったりと繋がったまま。
まるで肉の軛に嵌められたように、黒宮のペニスを深々と埋め込まれ、志乃は切なく喘ぎ続けていた。
時間感覚は、とうにない。
何度出されたのかも、覚えていない。
最初こそ、心だけは屈さないと抵抗していたが、それも何度目かのセックスで、どこかに流れていってしまった。
そこからはもう、童心に返ったように、素直に快楽を受け入れ、あられもない嬌声を上げている。
ただただ、繋がっていることが、気持ちいいことだと。
今感じているのは、それだけだ。
「んっ、むちゅ、はむっ……」
男と対面座位の体勢でくっつきながら、甘えるようにキスをねだる。
汗みずくの肌を重ね合わせ、互いの体液でシーツを汚して、それでもなお飽き足らない。
純粋培養のお嬢様は、まるで真水に絵の具を垂らしたように。
肉の悦びに心を満たされ、もう戻れないところにやって来ていた。