渦潮を間近にして(2)
「駄目よ、やめて……今日は、本当に駄目なのよ……んっ」
「何だ、今さらだろ? 俺のほうはもう火が点いてるんだ、諦めろよ」
連れ込んだ部屋で、イリスのからだを抱きしめると、弱点の首筋を舐めてやる。
そうやって抵抗を封じながら、黒宮は手慣れた手つきで、女子制服を脱がしてゆく。
清楚な白のブレザーに青いスカートという組み合わせは、いかにも女学園らしいチョイス。
この制服を数え切れないくらい脱がして、数多の乙女の初めてを奪ってきた。
イリスはあっという間に、裸に剥かれてしまった。
「抱くぞ」
「ああ……」
寝室に設えられたベッドは、ワインレッドの艶めかしいシーツが敷かれている。
赤は命の色だ。娘が女になる破瓜の色、生殖能力を示す月経の色、そして子を産む誕生の色。
そんなシーツの海に投げ出されたイリスは、透き通るような白い肌。
赤と白のコントラストは、ゾクリとするほど蠱惑的で、男の情欲を煽り立てる。
「どうせ止まる気は無いでしょうし、言っておくけれど。私、今、ピルを飲んでいないの」
「おや? なんだ、そういうつもりだったのか?」
「違うわよ! せ、生理不順が治ったから、薬を飲まなくても良くなったの。変な風に取らないで、この背教者」
「ああ、分かった分かった。別におまえに他意は無いだろうさ。だが……」
——それで、男が止まると思ったか?
そう、耳元で囁いてやると、イリスの全身がゾクゾク震える。
黒宮は生意気な唇を自分のそれで塞いでやり、ベッドに少女を組み伏せた
手をわきわき動かすと、絹のようにきめ細やかな肌を撫で回し、貪欲な指を思うがままに滑らせる。
悩ましい腰の曲線を滑り、柔らかで暖かな尻の間を通って、彼女の急所、女の中心部にやって来た。
硬い指が割れ目をなぞると、イリスの心から、最後の抵抗心が溶けていく。
彼女のからだは、心より先に開かれていた。
「こっちはもう、トロトロじゃないか。我慢するなよ、俺のが欲しいんだろ? 最近ご無沙汰だったからな、奥までしっかり埋め込んでやる」
「やぁ、んんっ! 駄目、入って、来ないで……ああんっ!」
口では拒否しても、股は開いて、腕は縋り付いてくる。
ずぷずぷ、ぬちゅぬちゅと、卑猥な音を響かせて、正常位で繋がり合えば、その口からも甘ったるい嬌声が迸った。
「んんーーーーっ!」
「ほら、奥までしっかり入ったぞ。赤ちゃんの部屋、ノックしてるのが分かるか?」
「あっ、いやっ、駄目! コツコツ、しないで……!」
「ははっ、イリスはここが弱いんだよな。安心しろ、今日は失神するまで愛してやるよ」
正常位には、「宣教師の体位」という渾名がある。カトリックお墨付きの性交体位だったからだ。
かつては修道女を目指し、生涯の純潔を誓っていた娘を、こうして組み伏せ、教え通りの体位で種付けをする。
悪辣な喜びに、唇が思わず釣り上がってしまう。
以前は、学生を孕ませるとマズいと、アフターピルやら何やら用意していた黒宮だが。
ここ最近は、もうどうでも良くなっていた。むしろ、もっと女を孕ませたい。自分の子どもを産ませたいという欲望が、日増しに強まっている。
「イリス、おまえは本当に綺麗だな」
「……どうせ、抱いた女全員に、同じ事を言っているんでしょう?」
「おっと図星か。だが、俺は毎回本気で言ってるんだ。それに……おまえは本当、妖精みたいに綺麗だ」
地上に落ちた星のような、輝く銀髪。雪のように白く、きめ細やかな肌。華奢だが、女性的な曲線を持つ肉体。
鏑木イリスは、世にも稀な美少女だ。
存在そのものが幻想的で、血と肉で出来ているのが不思議なほど。
そんな少女と、全裸で繋がり合っているのだ。黒宮の口も、軽くなると言うもの。
「妖精、だなんて……歯が浮くような台詞を言うのね、誘惑者……あんっ!」
「そう聞こえたんなら、万々歳だな。ああ、くそっ、本当に堪らないぞ……!」
じゅぷじゅぷ湿った音を立て、乙女のヴァギナが汚らわしい男根にかき回される。
ねっとりした先走りが膣になすり付けられ、亀頭が柔肉を抉り込み、神聖な秘所を汚し尽くし、我が物とする。
幾度となく繰り返されてきた、異性による征服劇。男の手が乳房を掴み、力強く握りしめて、荒々しく腰を使う。
肉と肉がぶつかり合う音。
ふたつの性が、肉の軛に嵌められて、絡み合い、繋がり合って、一つの肉へと変化する儀式。
「ああっ、んん……駄目よ、こんなの……ふぅ、ふぁ、あああっ!」
いつしか、白い指が真紅のシーツを握りしめていた。
男の腰が容赦なく振り下ろされて、杭を打つように胎内へ打ち込まれるたび、けだものに帰ったような嬌声が迸る。
白く幻想的な裸体には、生々しい汗が浮かび、全身が弓なりにしなるたび、きらきらと宙に舞った。
まるで、空に浮かぶ月が、地上に引きずり下ろされたような光景だ。
「ふぁ、ああんっ、駄目、駄目ぇっ! やんっ、んんーーっ!」
「イリス、イリス! 俺のモノになれ、イリス!」
犯す男も、野獣へと帰っていた。
もはや食欲か性欲かも分からず、唾液でいっぱいの口を開いて、白いうなじを舐め回す。
百合のような首筋にきつく吸い付き、地に堕ちた月に、地を這うモノの痕を残していく。
それだけではない。
この夢のような娘の胎に、自分の種を残せたら、それはもう——
「ほらっ、妖精さんのお腹に、冴えない男の精液を、たっぷり注ぎ込んでやるっ! 孕め、孕めよ、イリス!」
「ああーー!」
乳房を握りしめたまま、ドクドクと熱い精を注ぎ込む。
どぴゅ、どぴゅっと汚らしい排泄音が鳴るのを、黒宮もイリスも、はっきりと感じ取った。
生殖、この悪魔の発明。楽園で蛇に与えられた、卑しい施しものである果実。
その終着点にあって、ふたりは腰の溶け合うような快楽を分かち合っていた。
「貴方、変わったわ……」
「そうか?」
行為を終えて、それでも互いの性器は繋がったままで、息を整えながら話し出す。
しっとり濡れた銀髪を撫でながら、黒宮は甘い余韻を味わっていた。
「ええ……元から貴方は、女を抱くとき、ひどく強引になるでしょう。けれど、終わったら、すぐに理性を戻していたわ。アフターピルだの何だの用意してね。
でも今は——積極的に、子どもを作ろうとしてる」
「……まあ、確かに、そうだ」
「私は今でも、たとえ堕落しても、カトリックの教えが染み付いているわ。出来てしまったら、産むしかないのよ。分かってる?」
「分かってるさ。どうせこっちの神様だって、そこは同意見だろうとも——堕ろすだの、流すだの、そういうのはナシだ」
「あっ……」
ハッキリ言い切ってやった瞬間、イリスの膣がキュンとうねった。
下の口は上の口より素直なようで、嬉しそうに男根をくわえ込み、締め付けて、お情けをねだってくる。
一度出して半勃ちになっていたペニスには、ちょうどいい刺激だった。
「今のが返事か、ん? もっと元気になって、いっぱい子種を出して下さいって事だろ?」
「勝手なこと、言わないで……あ、んんっ! 嘘、こんなにすぐ大きくなるなんて……!」
自分の内部で大きく膨れあがる力に、イリスは思わず身震いした。
まるで炎が形を持ち、固さを持って、体内で暴れているよう。
体内で力を増す異物を、悍ましく思う自分が、かつてはいたはずなのに。
今の彼女は、その熱を欲している。
膨れあがっていく性器が、どうしてか、愛らしいものに感じられてしまう。
そして灼かれた下腹部は、熱に溶けて、甘く疼くのだ。
「んっ……!」
「ふぅ。こりゃ今夜は、際限が無くなりそうだな」
「この……莫迦……」
男の首に縋り付き、おねだりをするようにキスをする。
彼が目を白黒させるのが楽しくて、何度も啄むように口付けを繰り返す。
倒れ込んできた男に抱き付き、しがみついて、イリスは思う。
これは、渦潮だ。
全てを巻き込み、流して飲み込んで、どこか知らない場所へ連れて行く。
イリスは全てを、なすがままに任せることにした。
そして渦潮が、彼女をどこかへと連れて行く。知らない場所へ。