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17話 サキュバスと交わるということ #

タガが外れる、とはこういうことを言うのだろう。
理性のどこかで「それはマズい!」と分かっているのに、気付けば俺はルクレイアを押し倒していた。

「ほ、本気で言っているのですか……?」

ルクレイアは、未だ信じられないといった顔で俺を見詰めてきている。
けどもう後には引けない。引きたくない。男が口に出したのだ。なかったことになんて出来るわけがない。

そもそも、俺の下になった美しいルクレイアの身体を見て、我慢出来る男がいるのだろうか?
無理だ。俺の理性はそこまで強くないもの。

「当たり前だろ。俺はルクレイアを抱く」

「け、けれど……本当にどうなってしまうか――」

もう黙れ。そう言わんばかりに、俺は彼女の唇を塞いでやった。
唇を重ね、肌を重ね、彼女の背中に腕を回してブラジャーのホックを外す。
パチッと外した瞬間ルクレイアのブラジャーは浮き上がるように跳ね、本来の柔らかさを取り戻した双乳がたぷんと揺れた。

くらくらするほど蠱惑的な姿に目を奪われつつ、俺は彼女の唇を貪り続ける。

「あ……ん……んちゅぅ……」

口付けを受け入れながら、けれどルクレイアは戸惑いを隠せないようだった。
だが気にせず俺は、露になった彼女の胸にそっと手を滑らせるのだ。

驚くほどなめらかなルクレイアの素肌。毛穴がないんじゃないかと思うほどきめ細かい肌は、まるで陶器に触れているかのようだ。
けれど手の平で包み込んだ乳房は――ふにょん。欲情を刺激する柔らかさである。
仰向けで少し潰れてしまっているが、それでもギリギリで手の平に収まる質量は、ツンと上向きな形の良さを誇っていた。

遠慮なく、これを手の平で蹂躙する。揉み込むように捏ねると、手の中でむにゅむにゅ形を変える柔肉が愛おしい。
淫紋の影響か、薄っすら汗ばんだ彼女の素肌は俺の手に吸い付き、とてつもなく触り心地が良いのだ。

「んんっ、ちゅっ、んぅぅ……っ、だ、ダメ……っ、本当に、止まらなく……っ、んはぁっ、なります、よ……?」

淫乱化してるためか、ルクレイアの感度は上がっているのかもしれない。
舌を絡め合いながら胸を愛撫しただけで、彼女は身体を捩るほど感じ始めていた。

なら弱点を責めたらどうなるんだろう?
悪戯心が芽生えた俺は、むにゅんむにゅん弄ばれているおっぱいの先端で痛そうなほど自己主張している可愛い突起を指先でピンッと弾いてやる。

「んあぁああぁぁっ」

反応は劇的だった。
圧し掛かる俺を跳ね飛ばす勢いで、ルクレイアの身体がビクンと跳ねたのだ。
ひょっとしたら、今ので軽くイッたのかもしれない。

「えっと……大丈夫か?」

予想以上の反応に心配になり、汗で張り付いた彼女の前髪をかきあげてやると、ちょっと涙目になった藍色の瞳が恨めしそうにこちらを睨みつけていた。

「うぅ……っ。言いましたからね……っ! わたし、止まらなくなるとちゃんと忠告しましたからっ! 全部お客様が悪いんですっ!」

俺の後頭部に腕を回したルクレイアが、凄い力で引き寄せてきた。
溶け合うほど唇が深く重なり、肌も完全に密着してしまう。

身体の下で形の良いおっぱいがむにゅりと潰れる感触や、硬くなった先端と俺の乳首が擦れ合う感触が凄く気持ち良い。

「はむぅっ、んっ、ちゅるぅぅっ、ちゅっ、れろぉ……っ」

そのまま彼女は俺の口内を激しく舐めしゃぶってきた。もはや貪るといった方が正しいくらいだ。
息苦しくて逃げようとしても、頭をがっちり抱かれてしまっては逃げることも出来ない。
彼女はそうして俺を恍惚とさせながら自らのショーツを脱ぎ捨て、細長い脚を俺の腰に絡めてきていた。カニ挟みのような感じか。

「もう逃がしません。んちゅっ、んんぅっ、んぁむぅ……っ。逃がしませんから」

深い口付けを繰り返しながらうわ言のように呟き、ルクレイアの脚が俺の腰をグイグイ引き寄せてくる。硬く反り返っていた肉棒が彼女の割れ目に押し付けられ、ぬちゅぬちゅと卑猥な水音が鳴った。
ルクレイアは、シーツに水溜りを作るほど発情しているらしい。

もちろん俺も、こんなことをされて興奮しないわけがない。

「こんな良い女から逃げるわけないだろ?」

早く早くと急かすルクレイアの脚を押し退け、一度距離を離した俺は、改めて位置を調整し直した。
大股を開いた彼女の秘裂が溢れるほどの蜜に濡れながら、誘うようにヒクついているのが見える。

ここに挿入

れたらどれだけ気持ち良いのか、俺は知っている。
脳を焼き、全身を快感で痺れさせ、魂ごと吸い取るような激しい射精を経験済みなのだ。

それを思い出すと少しだけ怖くなる。
けど、興奮しきった身体と心はどうしようもなくルクレイアを求めてしまっているし、なにより

「……」

情欲に濡れながらも、ルクレイアはどこか不安そうな瞳でジッとこちらを見詰めてきているのだ。
逃げるわけにはいかなかった。

――くちゅり……

肉棒の先端をゆっくり割れ目に押し込むと、それだけでゾワゾワした快感が背筋を駆け抜けた。

気持ち良い……っ!

とろとろに蕩け切った彼女の媚肉は、柔らかいを通り越えてどろどろになっている。
触れただけで亀頭に絡みつき、ぬちゅぬちゅ咀嚼するように蠢いているのだ。

さらに腰を押し進めると亀頭が媚肉の中に埋没し、淫乱な唾液で先端からどろどろにコーティングされていくようだった。
唾液で溶かし、媚肉で咀嚼し、膣内に吸収しようとする様はまさに捕食。俺は今ルクレイアを犯そうとしているようで、実は食べられようとしているのだと本能が理解する。

いいさ。
食べてくれ。
食あたりを起こすほどたっぷり食わせてやるから。

覚悟を決めた俺はルクレイアの細い腰をしっかり掴み直し、抱き寄せるように腰を押し込んだ。
狭い膣壁を亀頭で掻き分けながら、ずにゅにゅぅっと肉棒を彼女の中に埋没させていく感触は、想像を絶するほど気持ち良い。ぐずぐずに蕩けた膣壁がぐっちゅり肉棒に絡みつき、亀頭の表面を舐め回し、エラを擦り上げてくるのだ。

「か……はぁ……っ」

息が出来なかった。
思わず身体が動きを止めそうになってしまう。
けれど再び腰に絡みついたルクレイアの細い脚が、強制的に最奥へと引き込んでくる。

――ずにゅぅぅ……っ

凄まじい挿入感は、一ミリ進むごとに快楽神経が焼き切られるかのようだった。
深く、深く、どこまでも呑み込まれるルクレイアの膣内
なか
。永遠に続くとも感じられた強烈な快感は、俺の腰が彼女のお尻にぴたっと張り付いたところでようやく終ってくれた。

いや……終わりじゃない。
ここが始まりなのだ。

「ああぁ……っ。お客様のがわたしの中に……っ」

「あぁ、全部入ったぞ」

「今回は、我慢出来たの、ですね?」

かなりギリギリだったけどな。
だって、二回連続で挿入即射を決めるわけにはいかないだろ?
絶対に負けられない戦いだったのだ。

もっとも、ここが俺の限界らしい。
全部入ったはいいけれど、少しでも動いたら射精

てしまいそうだもの。
というかこうしてる間も、ルクレイアの膣内
なか
は精液を搾り取るためにぐにゅぐにゅ蠢いているのだ。
たぶん動かなくても、あと数分もすればイッてしまうんじゃないだろうか。

「数分? 数秒の間違いでは?」

ルクレイアはそう言うと、俺の頭を抱き寄せて濃厚な口付けをしてきた。
と同時、彼女の膣内がきゅぅぅっと収縮する。媚肉がみっちりと肉棒を締め付け、しかも蠕動してきたのだ。

「んんんんんんっっ!!」

予想だにしなかった動きに、しかし絶叫すら彼女の唇に塞がれてしまう。

イくっ!
イッてしまうっ!

唇を貪られ、脚で腰をホールドされた俺は、もはや彼女にしがみつくしかなかった。
ルクレイアの細い身体に腕を回して強引に抱き寄せれば、すべすべの素肌がぴたっと吸い付くように密着してきて、本当に彼女と一つに溶け合っていくようだ。

「どうぞ。出して下さい。わたしの中、お客様で満たしてくれるのでしょう?」

耳元で囁かれた甘い言葉が決壊の合図になる。
絶頂感が戻れないところまで昇らされ、身体の芯にカッと熱が灯った。

「あぁっ! イくっ! 受け取れっ!」

すでに一番深くまで繋がっているのに、もっと深く繋がりたい。放つ精液を、彼女の一番奥に届かせたい。
そんな欲求に抗うことなく、俺はルクレイアのお尻が形を変えるほど強く腰を押し込んだ。
瞬間、全身がとてつもない快楽の大波にブルブルと震え出す。

「あ゛あ゛あぁぁ゛ぁ゛ッッ!!」

――びゅくぅっ、びゅるぅっ、びゅるるぅ……っ

射精が始まったのだ。
あまりの気持ち良さに、ワケが分からなくなるほどの大絶頂だ。
焼けるほど熱い精液が、凄まじい勢いでルクレイアの中に吐き出されていくのが分かる。

「あぁっ! 来てますっ! お客様のザーメンがわたしの中にっ! もっとっ! もっと下さいっ!」

たった一度の射精で何もかも吸い尽くすようなサキュバスとのセックスに、ようやく吐精を終えた俺は、このままベッドに沈み込みたいほどの疲労感を覚えていた。

だが、今のルクレイアがそれを許すわけがない。

――ぎゅっちゅ、ぐっちゅっ、ずっちゅ……っ

彼女は細長い脚を器用に動かし、無理やり俺に腰を振らせ始めたのだ。

「ぐあぁっ! やめっ! ルクレイアっ! ちょっと休ませてっ!」

「ダメですっ! ダメですダメですダメですっ! 言ったじゃないですか! もう止められないとっ! さぁ、出して下さいっ! わたしの中を満たすまで、何度も何度でも搾り取って差し上げますからっ!」

射精直後の敏感なペニスをぐじゅぐじゅの媚肉で無理やりシゴかれ、肉棒を萎えさせてもらえない。
全身が強烈過ぎる快感で動けなくなっているのに、腰振りを強要されてしまうのだ。

「あんっ! 良いですっ! 良い感じですよお客様っ! わたしもっ、だんだんっ、良くなってまいりました♪」

一度精液を注がれたルクレイアは、いよいよスイッチが入ったらしい。ただ精液を搾取するためではなく、彼女は快楽を求め始めているのだ。
その証拠にルクレイアは媚びるような声で甘え始め、ねだるように腰をくねらせていた。

「あっ、んあぁっ、もっとぉっ♡ わたしの奥っ、もっと強く、んはぁっ、突いて下さい♡」

普段は絶対聞けないルクレイアの可愛らしい声に、俺の身体が勝手に動き始めてしまう。
命を守る防衛本能が彼女の声に溶け流され、獣のような雄性が身体をセックスに駆り立ててくるのだ。

「あはぁっ、きたぁっ♡ んやぁっ、わたしっ、犯されてますっ♡ んっ、んあぁあっ♡ メイドを犯すなんてっ、酷いお客様ですっ♡」

どっちがどっちを犯しているのか。
そんなことはもうどうでも良かった。
ただただルクレイアを強く抱き締め、無我夢中で腰を振ることしか頭にないから。

俺の腰とルクレイアのお尻が勢い良くぶつかり、ぱんぱんと肉を弾けさせる。そのたびに、彼女の白い喉は歓喜に震えていた。
あまりに気持ち良すぎるルクレイアの膣内
なか
。肉棒はずっと射精しているかのような快感に、ビクビク痙攣しっぱなしだ。

本来なら、逃げ出したいほどの気持ち良さである。
脳が許容出来る快感をとっくに超えてしまっているのだ。

「んあぁっ! そこっ! 奥にっ、ちんぽがっ、擦れてっ♡ ああぁぁっ、良いですっ! メイドおまんこっ! 気持ち良くなっちゃいますっ♡」

なのに淫らに乱れるルクレイアをずっと見ていたくて、俺は腰を止めることが出来なかった。
まるで獣になったかのように、ひたすら彼女に肉棒を突き立て続ける。

「あはぁっ! お客様のっ、おちんぽっ、びくびくぅって♡ んんっ、んあっ、わたしの中でっ、震えてますっ♡ イきますかっ? またイくのですかっ? メイドおまんこにっ、またザーメン搾り取られるのですねっ!?」

「んぐぁっ! イぐっ! またルクレイアの中でっ! イッぢまうぅ゛ぅ゛ッ!」

「いいですっ! 出してっ! 金玉の中が空っぽになるまでっ、んあぁぁっ、一滴残らずっ、あぁあっ、んんっ、出し尽くしてぇっ!」

イくっ!
またイくっ!
脳が焼き切れるっ!

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッ!!」

ドクンッ、と。心臓が痛むほどの射精が、びゅくぅっ、びゅるぅっと彼女の中を白濁で満たしていった。
けれど止まらない。射精中も、俺の腰はもう止めることが出来なくなっているのだ。

「あがあ゛あ゛ぁぁぁっ! イッでるぅっ! イッでるのにぃぃ゛ぃ゛ッッ!!」

「あっ、キてるぅっ! お客様のあっついザーメンっ♡ んんんっ、わたしもっ、イっ、きそうっ! お客様にっ、中出しされてっ、んはあぁぁっ、イッてっ、しまいますぅっ♡」

腕の中で、ルクレイアの細い身体も盛大に跳ね上がっていた。彼女も絶頂に達したのだろう。いつの間にか汗塗れになっていたルクレイアは、額に髪を張り付かせ、頬を上気させ、熱い吐息を漏らしていた。
大きな胸の谷間に汗の雫が流れ落ちる様がとてつもなく扇状的で、それだけで俺の肉棒はグンッとまた硬度を増してしまうのだ。

「ああぁぁっ! ルクレイアっ! ルクレイアぁっ!」

「んんぅっ! あふぅっ! まだ、ですぅっ! まだまだ出せますよね、お客様っ! わたしの中っ、お客様で満たしてくれるのでしょうっ?」

応える代わりに彼女の唇を塞いだ。
唇を塞ぎ、恋人繋ぎで指を絡ませ合い、そうしながら腰を強く打ちつけ続けるのだ。

「んっ、ちゅっ、んちゅぅぅっ、んはぁっ、んっ、はむぅぅっ、んんあぁっ♡」

溶け合っていた。
汗が、唾液が、淫液が……。
肌が、身体が、心が――。
全てが溶け合い、一つになり、やがて俺の命も彼女の中に溶けて消えていくのだ。
凄まじい快感で真っ白になりながら、俺はどこか冷静にそんなことを考えていた。

後悔はある。
やり残したこともある。
けど仕方ないじゃないか。

「んっ、んちゅっ、あはぁっ、もっとぉっ♡ んんあぁっ、もっとわたしを満たしてっ、んあぁぁっ、お客様ぁっ♡」

ルクレイアにこれだけ求められてしまったらさ。
だってあの月の草原で彼女を見た時から、俺はずっとルクレイアに魅了され続けているんだから。

「イくぞっ! ルクレイアっ!」

「あぁっ! またクるのですねっ! キてっ! お客様のザーメンっ! わたしの中にぃっ!」

抜かずの三発目。
なのに今までで一番大きな絶頂が、どぴゅぅっ、びゅくぅっと大量の精液で彼女の中を満たしていく。

命を。
自分の命を吐き出しているのだと、はっきりそういう感覚があった。

あと何回?
あとどれだけ射精したら、俺は死ぬのだろうか?
おそらくそう遠くない未来なのだろう。
けれどもう、恐怖は感じなかった。

だが……。

「あらあ~、お盛んねえ~。でもお、そのへんにしておいた方が良いわよお~?」

もう自分では止められないと思っていた動きを止めてくれたのは、いつの間にか地下室に現れていたリュドミナさんだった。

呆気に取られた俺は半ば強引にルクレイアから引き剥がされ、彼女の中からごぽっと肉棒が抜け落ちてしまう。

と、その瞬間、凍てつくような寒さに全身が襲われた。

「ほらぁ、言わんこっちゃない」

ガタガタと震え出す身体は、まるで氷点下の海に投げ捨てられたかのようである。
歯の根が噛み合わず、自分の意思で動かせなくなった身体がそのままバタッと倒れてしまう。

「お……お客様……っ」

だが倒れそうだった俺の身体は、柔らかさに包まれていた。
ルクレイアだ。彼女が俺を支えてくれたのだ。

「大丈夫ですかっ!?」

「あ、あぁ……。凄く眠いけど……。それよりルクレイアは? もう大丈夫なのか?」

彼女の胸に抱かれながらチラッと視線を下げると、ほっそりしたお腹から淫紋が消えていることを確認出来た。

そうか。
終ったんだな、紅夜。

「まったく無茶するわねえ~」

「本当です……っ。逃げるどころか逆に抱き付いてくるなど……っ! どうしてそんなことを……」

「決まってんだろ。ルクレイアを抱きたかったからだよ」

「け、けど……っ」

「それにさ、助けたかったんだ」

「助けたかった……? な、何故……ですか……?」

「この世界で初めて出来た……なんだろ? 友達、だからかな」

今はそれが精一杯だった。
俺の気持ちが確実に惹かれているのだとしても、サキュバスとの恋愛って分からないしな。
ご飯を食べるような感覚で肌を重ねる彼女たちなのだから、ここで「好きだ」とか口走ってしまい、「セックスしたくらいで彼氏面ですか?」とか言われたら耐えられそうにないもの。
今は友達くらいが妥当なところだろう。

しかしその言葉は、どうやらルクレイアの琴線に触れたらしい。

「友達…………ともだち…………セックスフレンド?」

「違うわっ!」

台無しだった。

「ほぉらあ~。いつまでもイチャついてないで上に戻るわよお~。誠さんをゆっくり休ませないと」

「あ、はい、そうでした」

いつの間にか普段の調子を取り戻していたルクレイアは、俺に肩を貸すと、二人の身体をシーツで包みながら立ち上がっていた。
お互い裸のままなので、隣で密着する彼女の身体に興奮を覚えてしまう。あれだけ出した後なのに、うちの息子は意外と頑張りやさんだ。

そんな俺たちを見て、リュドミナさんは目元を緩めていた。

「ふふ。なんだか邪魔してしまったみたいねえ~」

「い、いや、そんなことありませんって。結構危なかったと思います」

「まったくですね。誠は早いタイプの方なので、主様が止めて下さらなければ、もう数分で干乾びていたことでしょう」

…………ん?

あれ?
今ルクレイア、俺のことなんて呼んだ?

「ルクレイア」

「はい」

「もう一回言って」

「早いタイプの方」

「そこじゃねぇよっ」

そんな感じで、俺は初めての紅夜を乗り越えることが出来た。
確かにヤバい夜だったし、実際死にかけたのだろうけれど――

「ふふ」

肩を担がれながら意識を失う寸前、夜空を思わせる深い藍色の髪を揺らす彼女が、柔らかく微笑んだような気がしたのだった。

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