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25話 俺の性癖を勝手に決めないでくれません?

今日からいよいよ家庭教師としての仕事が始まる。
朝食を摂り終えた俺はその足でエルルシーの部屋を訪れ、教えるべき生徒と向き合っていた。

出迎えてくれた少女は白のタンクトップにデニムのショートパンツ姿。
ブロンドの毛先を跳ねさせているエルルシーは、キャップを被せればニューヨークのスラム街に居そうなストリートファッションだ。

「おはようエルルシー」

「おう! おはようだぜ! じゃあさっそくチンポ出してくれ!」

うん。実に生徒らしく元気いっぱいのエルルシーだ。退学処分を言い渡したい。

「いやな? 日も沈まんうちから何言っちゃってんの?」

「太陽のことか? そんなものないぜ?」

「そうだった……」

サキュバスの世界が常に暗いのは、いつでも性行為が出来るようにという太陽の気遣いかもしれない。
余計な気を回しやがって。

「ま、まぁほら。こっちも朝っぱらから元気な状態をお見せ出来るわけじゃないから、まずは座学からやろうと思ってるんだ」

「そうなのか? 人間の男には朝勃

ちって儀式があるって聞いたんだぜ?」

「儀式じゃねぇよ! 何を信仰したらそんな儀式をするはめになるんだよ! ただの生理現象だから」

「へー。じゃあ朝になると勝手に勃つのか。面白いな!」

きゃっきゃと無邪気にはしゃぐエルルシーは、好奇心旺盛な小学生といった感じだ。性知識もさることながら、人間という生物そのものに興味があるのかもしれない。
そういえば、俺も中学校くらいの頃は友人と女体について馬鹿話してたなぁと思い出す。そう考えれば、オープン過ぎるだけで、考えてることはあまり変わらないんじゃないだろうか。なんか少しだけ気が楽になった。

うん。
硬っ苦しい勉強は止めにしよう。
つい形から入ろうと固くなってたけど、俺は人に物を教えたことのない素人だし、楽しく覚えるほうがいいだろうしな!

そう決めた俺は用意しておいた資料を脇に追いやり、椅子に座ってニヤりと笑う。

「よっしゃ。じゃあエルルシー。ゲームでもしようか」

「お? なんだ? 急にやる気だぜ?」

「こっちの方が俺らしいってだけさ」

「なんか分かんねーけど楽しいことなら大歓迎だぜ! で、どんなゲームをするんだ?」

「そうだなぁ。じゃあ、相手がどんな時に『エロ』を感じるか言い当てるってのはどうだ?」

まさに中学生男子がしてそうな会話である。
ってか、実際した覚えがあるわ。

「いいぜ! センセーが何を見て勃起するのか考えろってことだろ?」

「そういうこった。んじゃ始めるぞ!」

初めての家庭教師は、そんな感じで始まったのだった。

……。

それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
紅茶と焼き菓子を持って現れたルクレイアは、室内に漂う険悪な雰囲気に首を傾げていた。

「誠。いくら相手がサキュバスの子供だからといって、鼻の穴からザーメンを注ぎ込むようなプレイを強要するのはいかがかと思いますよ?」

「してねぇよっ! なんだよそのマニアックなプレイっ! てかこの状況のどこにもそんな要素ねぇだろ!」

俺は椅子の背もたれに身体を預けてるだけだし、エルルシーはベッドでうつ伏せになりバタ足の練習中だ。まぁイジけてるだけなんだが。もちろん二人とも服を着てるしな。

「ではどうしてエルルシー様はお怒りなのでしょう? あ、エルルシー様。美味しいクッキーをお持ちしたので召し上がりませんか?」

テーブルに紅茶セットを置いたルクレイアはテキパキとティータイムの準備を整えながらエルルシーに呼びかけていた。
彼女がメイドのようなことをしていると違和感を覚えてしまう俺である。一応ちゃんとメイドしてんだなコイツ。

「なにか?」

「まだ何も言ってねぇよ。あと指で輪っか作りながら宙でシコシコして脅すのおかしくね? お前の脅し方欲望九割じゃねぇか」

「実益重視型と言っていただきましょう」

いつも通りのルクレイアに苦笑を返し、俺はカップに手を伸ばす。
それを見届けてから、藍色の髪のメイドはエルルシーを宥め始めていた。

「それでエルルシー様。いったい何があったのですか? もし宜しければこのメイドにお話を聞かせてくださいませ。きっとお力になれるでしょうし、何でしたら代わりに仇をとって参ります」

いきなり物騒だった。

「アイツ……ズルした……」

「ズル、ですか?」

チラッとルクレイアがこちらに視線を流したので、俺は肩を竦める。

「エルルシーとゲームをしててな。俺が勝ったんだけど、エルルシーが「インチキだっ!」って言い出してさ」

「まず子供相手に全力で勝ちに行く姿勢はどうなのかとメイドは思いますが?」

ごもっとも。
けれど勝負は勝負だ。
ゲームはお互いが真剣だからこそ楽しい。子供だからと手を抜けば、それはエルルシーを侮っていることになるからな。

「しかもズルをしたと?」

「それはしてないぞっ!」

「したもんっ……ぜっ!」

ベッドからガバッと起き上がったエルルシーがこちらを睨みつけていた。
どうあっても少女は負けを認めたくないらしい。やれやれ。これだからお子様は……。

「エルルシー様。メイドにも分かるよう教えて頂けますか? 誠はどのようなズルを?」

「相手がどんなことに『エロ』を感じるか言い当てるゲームをしてたんだけどな、アタシが言った答えに、センセーは「そんなんじゃ興奮しないぞ?」って嘘付いたんだ!」

「なるほどなるほど。それでエルルシー様はなんと言ったのですか?」

「脇でちんぽを挟まれることって言ったぜ!」

「大変正しい意見かと」

「いや待て! なんで俺が脇コキで興奮すんのが当たり前みたいな顔してんの!?」

「興奮しますよね?」

「しないからっ!」

しない!
しない……ハズだっ!
しない……といいなぁ……。
……まぁ、ちょっとくらい覚悟しとくか……。

正直に言えばそんな感じだ。
けど、今はそれを認めたくなかった。なんせこの前ノルンにマゾ疑惑を掛けられた俺なのだ。ほいほい認めてしまったら、新たな性癖が花を咲かせかねない。俺が認めないのは一種の自衛手段なのである。

だがルクレイアは、名案を思いついたかのようにパンッと手を叩いていた。
無表情のはずなのに、何かよからぬことを考えてるのが分かってしまうのは何故だろう? 有り体に言うと、藍色の髪のメイドは悪寒が全力疾走しそうな顔をしているのだ。

「では実際に試してみましょう」

ほらな!
コイツろくな提案しねぇ!

「いやいや! そんな必要ないだろ? 俺が興奮しないって言ってんだから」

「ですから答え合わせですよ。誠は興奮しないのですから別に脇で挟まれても構わないのでは?」

「興奮しなけりゃ脇に挟んでも構わないって理論に疑問を持てよっ! 俺はお前の常識が疑問だよ!」

「サキュバスの常識ですから当然です」

ぐぬっ……。
それを言われると反論しきれないのが辛いところだ……。
くそっ!
なんでもかんでもサキュバスだからって言えば許されると思いやがって……っ!
じゃあお前リュドミナさんの顔を脇で挟さめるのかよと言って差し上げたい。

だが俺がその反論をする前に、エルルシーが参戦してきてしまっていた。

「その通りだぜ。納得できないことなら行動で示させる。ママもそう言ってたっ!」

えぇ……。
うちの生徒のご家庭が脳筋主義のご様子だった。
家庭訪問はご遠慮したいと心に決めた俺である。

ともあれ、生徒とメイドはいつの間にかタッグを組んでいた。
どうにもこのメイド、俺の敵に回る傾向が強くて困る。たまには味方をしてくれないだろうか……。

「ではさっそく実践といきましょうか。そうですね、誠はお早いタイプの方ですから、三十分ほど射精を我慢できればそちらの言い分を認めてあげるとしましょう」

「拒否権は?」

「あるわけねーぜ?」

初めての授業が何故か脇コキというマニアックな実践になってしまい、やっぱ家庭教師向いてないなぁと顔を青褪める俺なのだった。

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