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47話 絶望へのご招待

色々あって疲れていたのだろう。
紅夜が明けて自室に戻った俺は、泥のように眠ってしまっていたらしい。
そして目覚めたのはついさっき。夜後三時を少し回った頃である。よほどぐっすり寝ていたのか、起きると体がちょっと気怠いほどだ。

けど、今夜はルクレイアと約束しているからな。
しゃっきりしておかなければ。

そう考え軽くシャワーで頭をスッキリさせた俺は、腹に何か詰め込むため食堂に向かおうとしていたのだが、ちょうどその時である。扉が控え目にノックされたのは。

――コンコンコン。

開けてみると、そこにいたのは夜空を思わせる藍色の髪のメイドだった。
まさか待ちきれずに向こうから来たのだろうか?
それは嬉しいけど、出来ればご飯を食べた後にして欲しかったなと苦笑が零れる。

「早いねルクレイア。おはよう」

「早くはないでしょう。もう夕方ですよ? まったく。いつまで寝ているのですか」

「いやまぁそうなんだけどさ」

普通に寝坊を怒られてしまった。
でも仕方ないじゃないか。昨夜は本当に大変だったんだから。今こうして生きているのが不思議なくらいに。

っと。
昨夜のことと言えば、我が愛しの生徒さんは無事だろうか?
怪我をさせてしまったこともあるし、何より突然の淫乱化だったので体調を崩したりしていないか心配である。

「エルルシーの様子は?」

なので訊ねてみると、ルクレイアは綺麗な柳眉を顰めてしまった。
その反応に、不安が鎌首をもたげる。

「え? なに? なんかあったのか?」

「何かあったというか、何かあってる真っ最中というか」

彼女にしては歯切れの悪い返答だ。いったい何だというのか。今度は俺が眉を顰める番だった。

「どういうことだよ。ちゃんと教えてくれ」

「それは誠もすぐに分かるかと……。いいですか。気をしっかり持って聞いてください」

「お、おう?」

「地下室で、主様がお呼びです」

……。

ルクレイアの案内で地下室へ向かう道すがら、震える声で俺は事情を聞いていた。
するとどうやら、昨夜屋敷を抜け出したことがバレてしまったとのことである。

これはマズい。
非常にマズい。
端的に言うと危険が危ない。

だってルクレイア曰く「拷問の類」と評判の「遊戯」が俺を待っているのだから。思わず膝が笑ってしまう。

け、けど、まだだ。
まだ慌てるような時間じゃない。
ひょっとしたら、リュドミナさんがからかってるだけかもしれないからな。あえて俺を地下室に呼び出して驚かせるくらい、あの女主人ならやりかねないもの。

うん。きっとそうだ。そうに違いな――

「ん゛ん゛あ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッ!! もう゛イ゛ヤ゛だあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッ!!」

……えぇ!?
なんっすか今の絶叫……。
まだ三枚も扉を隔てているというのに、地下室から絶叫が聞こえてきてしまい、俺の足がピタッと止まってしまった。声の主が誰かは考えるまでもない。屋敷を抜け出したことが罪であるなら、主犯が捕まるのは当然なのだから。

「さ。行きましょうか」

「うっそだろお前……。この声を聞かされて平然とそれ言っちゃう?」

「いつぞやわたしも見捨てられましたから」

ルクレイアは意外と根に持つタイプだった。
ともあれ、逃げ出せる状況ではないらしい。
エルルシーのことも心配だし、俺は恐る恐ると地下室へ降りていくことにする。

そして地下室に入ると、そこには案の定と言うかなんと言うか、楽しそうなリュドミナさんと、全裸で縛られた金髪少女の姿があったのだった。

「あらあ~。おはよう誠さん。よく眠れたかしらあ~?」

「まだ夢を見てるんじゃないかと思う程度には」

もちろん悪夢だけど。
早く醒めて頂きたい。

「ふふ。少し待っていてくださるかしらあ~? もう少しでエルルシーへのお仕置きを終りにしますからあ~」

ニコニコと妖艶に微笑むリュドミナさんは、地下室に似つかわしくない紫色のドレスを纏っていた。まるでダンスホールにいるかのような雰囲気でヒラヒラした裾を引き摺りながら、女主人がゆっくりエルルシーに近付いていく。

「ヤぁ……っ! はんせいしたっ! 反省したのぉっ! もう悪いことしないがらあ゛ぁ゛ぁ゛ッッ」

全裸でベッドに括りつけられている金髪少女は人目も憚らず絶叫し、幼い身体をこれでもかと捩って、リュドミナさんから逃げようとしているようだった。

だが逃げられない。

顔は涙と涎でぐちゃぐちゃだし、股の辺りは大量の液体でびっちゃびちゃになっていて、酷い惨状である。ひょっとしたら愛液だけじゃなく失禁してるのかもしれないと思い当たり、背骨がブルッと凍えそうだ。

「あらあらあ~。やっぱり悪いことだと分かっていたのねえ~。じゃあ、次は三十秒」

「あ……あ……ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいごめんなさいごめ――ひぎい゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッッ!!!」

こちらからではリュドミナさんが何をしているのか見えないけど、エルルシーの体がエビのようにビクンビクン大きく跳ねているところを見ればその壮絶さが嫌でも伝わってくる。

「イ゛がぜでえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッッ!! も゛う゛イ゛がぜでよ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッッ!! ごんなの゛ッ、お゛ほ゛ぉ゛ぉ゛ッッ、ごわれぢゃう゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ッッ!!!」

エルルシーは、もう泣いているのか喘いでいるのか分からない状態だ。イヤイヤと頭を振り、完全に心が折れてしまっているのだ。

そんな少女をたっぷり三十秒ほど啼かせたリュドミナさんは、口元を拭いながら俺のところへ戻って来ると「ふふ」と目元を緩めていた。

「絶頂するギリギリまで追い込んで、少し休ませて、また追い込んで。これを繰り返すとどうなるか分かるかしらあ~?」

「い、いや分かりません……」

分かりたくありません。

「正解は、絶頂までの許容快感が増えるのよお~。つまり普段なら絶頂に達するはずの快感を受けても、絶頂できないってことねえ~」

ニコニコしながらサラッと恐ろしいことを言うリュドミナさんが怖い。ってか、なんでそんなこと俺に教えるの? 知りたくないんですけど? 助けて?

「それを更に繰り返してあげると、絶頂と同じ……いえ、それ以上に気持ち良くなっちゃっても絶頂は出来ないから、いつまでも終わりがこないのよねえ~。今エルルシーが感じている快感で、普段の絶頂の五倍くらいの気持ち良さってところかしらあ~」

チラッと金髪少女に目を向けると、おまんこからプシュッと飛沫が飛ぶのが見えた。あれが潮なのかおしっこなのか分からないけど、相当な快感の中を漂わせられているのは間違いなさそうである。助けて。

「そこまで昇っちゃうと降りてくるのも大変で、ちょっとした刺激で達しちゃう状態が三十分くらい続いちゃうのよねえ~。だからそれまで、わたくしとお話でもしてましょうかあ~」

いや~マジっすか……。
ベッドの上で「イキたいイキたい」と叫ぶ少女の声をBGMにお話とか、ちょっとどうかと思うのですが……。

しかし断る術もなく、結局ソファでリュドミナさんと向かい合う俺である。

ちなみに今この部屋には、俺とリュドミナさん以外にメイドさんが三人待機していた。
彼女たちは掃除係らしく、後始末や雑事のために控えているのだそうだ。ルクレイアの姿がないのは、一足先にこの地獄から生還を果たしたからだろう。裏切り者め……。

「えっと……エルルシーへの罰って、やっぱり地下室から抜け出したことに対する?」

すぐ近くでビクンビクン痙攣している少女から目を反らし、俺はリュドミナさんに聞いてみることにした。話でもしていなければ、恐怖でどうにかなってしまいそうなのだ。

「限られた者しか知らない秘密の通路だったのだけれど、きっと母親に聞いていたのでしょうねえ~。彼女も昔ここに来たことがあるからあ~」

やはりあの檻の中にはそういう仕掛けがあったらしい。
まぁ普通は気付けないし、気付けたとしても正しい仕掛けの動かし方を知らなければ絶対開かないそうだが。

「そういやエルルシーのやつ、紅夜の影響を受けるようになっちゃってたんですけど、事前の話ではまだ先って話じゃなかったでしたっけ?」

「そのハズだったのだけれど、強い刺激を受けたせいで急激に早まってしまったみたいねえ~。まぁ不完全な形での目覚めだったから、正気を取り戻すことが出来たのでしょうけれどお~」

なるほど。言ってみれば、冬眠中の熊を無理やり叩き起こしたようなものか。一時的に大暴れするが、またすぐ眠りに就いちゃうみたいな。
もちろんそれは、自分を痛めつけてでも俺を助けようというエルルシーの優しさがあってこそなのだが。

「でも、紅月の影響を受けるハズじゃなかったエルルシーが突然影響を受けるようになるほど強い刺激ってなんだったんですかね?」

「それは簡単よお~。目の前で犯される誠さんの姿を見て興奮してしまったんじゃないかしらあ~。犯されたのでしょお~? 町娘さんに」

ゾクっとする視線を受け、脳内に緊急警報が響き渡った。

いかんっ!
リュドミナさん、凄く良い笑顔をこちらに向けらっしゃってしまったっ!

「ち、違うんですっ! エルルシーがメイドを追いかけてて、そしたらいつの間にか森の近くまで来ちゃってて、気付いたら襲われてたというかなんというか……っ」

「その気になれば、エルルシーを引き摺ってでも地下に戻ることは出来たわよねえ~?」

「あ……えっと……それは……」

「サキュバスに慣れることは良いことだけれど、サキュバスの怖さを忘れちゃうのはいただけないと、わたくしは思うのよねえ~」

忘れてないぞっ!?
ってか、絶賛怖いぞっ!? 助けて!

「ふふ。ですからあ~、誠さんにはお仕置きというより、思い出させてあげようと思ってるのよお~。サキュバスが、こわ~い魔物なんだってこと」

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