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53話 机の下の天国 #

ガチャガチャと、金属を擦り合わせるような重い音が近付いて来ていた。
場所はリュドミナさんの部屋である。
外から聞こえるメイドさんの声に緊迫したものを感じ、ただ事じゃない雰囲気に息を飲んでいると、不意に立ち上がったリュドミナさんが俺の腕を強引に引っ張った。

「リュドミナさん?」

「ん~。すこ~し面倒ごとみたいだからあ~、悪いんだけれど隠れていてもらえるかしらあ~」

ニコッと笑顔を深めた彼女はそのまま俺を執務机の下に押し込み、自分は椅子に座ってしまったのだ。
何が何やら分からないが直後に扉の開く音が聞こえ、ガチャガチャ重い足音が室内に入って来てしまったので、今更出て行くわけにも行かない。仕方なく俺は息を潜め、事の成り行きを見守ることにした。

「あらあらあ~。その鎧の紋章はグラーリス家の紋よねえ~?」

ガシャガシャ聞こえていた重い音は鎧を纏った者たちの足音だったらしい。
リュドミナさんが尋ねると音はぴたりと止み、代わりに溌剌とした女性の声が室内に響いた。

「お初にお目に掛かりますヘリセウス様。お察しの通り、我らはグラーリス家の馬廻り衆でございます。突然の訪問ご無礼とは存じましたが、火急の用件につき平にご容赦を」

「ふ~ん? それでぇ? 用件ってなんなのお~?」

「はっ! ヘリセウス様の邸内にてホロウ化した者がいると通報があり参じた次第であります!」

ホロウ化という言葉に俺がギョッとしていると、目の前でリュドミナさんが脚を組み変えていた。当然だけど、執務机の下に隠れている俺の前には艶かしいリュドミナさんの脚があるのだ。さすがに下着が見えるなどということはないが、目の前で脚を組み替えられるとあまりの色っぽさにくらくらしてしまう。裾から覗く黒いストッキングがエロすぎて堪らない。

もっとも彼女は少しイラついているのか、足首をぷらぷら動かし苛立ちを露にしているようだった。

「なるほどねえ~。ホロウ化した者がいる場所にはホロウ化の原因があるかもしれないから、軍が封鎖して調査するというのは当然のことよねえ~」

「はっ! その通りでございます! ご理解、感謝致します!」

「理解はしたけれど納得はしてないのよお~?」

「は? どういうことでありますか? これは女王陛下がお決めになった緊急事態法の定めるところでありますれば、いかに四大淫魔貴族のヘリセウス様であっても背くことは許されないはずですが」

「だってえ~、ホロウ化した者なんていないものお~」

「……は?」

机の下で聞いていた俺も、思わず「は?」と声が出そうになってしまった。
だって元に戻すことが出来たとはいえ、アルムブルムさんがホロウ化したのは間違いないもの。その事実は報告したほうが良いんじゃないのか?

「い、いや、そんな筈ありません! ホロウ化した者がいるという確かな情報を受けて来たのですから! 隠し立てすると為になりませんよ!?」

息巻く兵士の言葉に、リュドミナさんの脚がさらにぷらぷらと動きを激しくしていた。察するに、かなりイライラが募っているご様子である。兵士さんも職務なのだろうけど「おい馬鹿止めろ! 死にたいのかっ!?」と忠告して差し上げたいくらいだ。

それにこうも目の前で艶かしく脚を動かされると、俺の方まで危険が危ない。
ドレスの裾から覗くリュドミナさんのおみ足は黒いストッキングにキュッと引き締められていて、とてつもなく扇情的なのだ。しかも彼女の高貴な香りが濃厚に漂い、あの口付けを思い出してしまうのである。

これはいけない。
無意識に手が伸びてしまいそう。
むしろ頬擦りしたくなってきている。

「ふ~ん? それでぇ、情報の出所というのはどなたなのお~? わたくしの言葉より信憑性が高いのでしょお~?」

「そ、それは……守秘義務がありますからお答え出来かねます。とにかく! 早くホロウ化した者を引き渡して頂きたい!」

「いない者は渡せないわねえ~」

「後悔なさいますよ……っ! 者共っ! わたしが許可する! 邸内を捜索せよっ!」

その怒号に「はっ!」と呼応し、いくつかの足音が慌しく部屋から出て行く音が聞こえた。リュドミナさんの脚の動きは、もはや不機嫌を超えてお怒りモードだ。血が……いや、愛液が流れること必至の展開である。

しかし何を思ったのか。リュドミナさんは履いていたハイヒールを器用に脱ぎ捨てると、ピンと伸ばした爪先をこちらに近づけて来た。もちろん逃げ場などない机の下である。強烈な色気を放つストッキングに包まれた爪先に、俺の胸板がツンと突かれてしまった。

「――ッ!?」

ゾワッと駆け巡る被虐心。
異常な状況も相まって、瞬く間に俺は欲情させられてしまったのだ。

「今……何か音がしませんでしたか?」

「何かしらねえ~。貴女の部下が騒々しいだけじゃないのお~?」

「……分かっておいでとは思いますが、ホロウ化した者を匿っていた場合処罰は免れませんよ?」

リュドミナさんの物言いを皮肉と受け取ったのか、兵士然とした女性はキツイ口調で言い返すと、それっきり黙ってしまったようだ。
つまり、ますますもって俺は声も出せないし物音も立てられない状態なのだけど……。

――ツツー……

「――ッッ!?」

女主人が俺の身体に爪先を這わせ、思わず声が出そうになってしまうのだ。
というかリュドミナさんは、俺が声を出さないように耐える様を楽しんでいるらしい。チラッと机の下を覗きこんで来た彼女の瞳には、僅かに嗜虐の炎が灯っていた。

声を出さないよう、俺は必死に口を押さえる。
それをいいことに、リュドミナさんの爪先は我が物顔で身体の上を這い回り始めていた。

肩、鎖骨、胸板。
滑らかな爪先がだんだん性感帯に近付いてきて、我慢が辛くなってくる。

それに、俺の身体をなぞる爪先の艶かしいこと……。
見ているだけで興奮を掻き立てられ、思わずむしゃぶりつきたくなるほどだ。

するとそんな気持ちを察したのか、リュドミナさんが爪先で俺の顎を持ち上げてきた。
クイッと上を向かせられると、肌蹴たスカートの裾からストッキングに引き締められた脹脛
ふくらはぎ
が覗き見える。少し首を伸ばせば唇が触れる位置だ。

――こんなの我慢出来ないだろ……っ。

ふわりと漂う高貴な香り。
艶かしいおみ足。
顎先をくすぐる意地悪な爪先。

全てが男の情欲をこれでもかとそそり、気付けば俺は彼女の足を手で支え持っていた。
そして……ちゅっ。
忠誠を誓う騎士のように、その爪先に口付けしたのである。

「ふふ……」

遥か頭上で、女主人が艶かしく嗤った。
机の下からでは、顔を見ることも叶わない彼女。けれどそれが逆に俺の妄想を掻きたて、心を昂ぶらせてしまうのだ。

俺は爪先から少しずつ位置をずらし、足の甲、足首へと口付けの雨を降らせる。
このままスカートの中に顔を突っ込み、脹脛、太もも、そしてリュドミナさんの女陰まで……。全てを味わい尽くしたい……っ。

そんな衝動に駆られたが、スカートの中に顔を入れようとしたところで脚を引かれてしまい、それは叶わなかった。前のめりになっていた俺の身体が、あえなく爪先に押し返されてしまう。

ここまできてオアズケなのか……。

いや状況を考えれば当たり前かもしれないが、でもこれだけ欲情を煽っておいてそれはないだろう?
リュドミナさんはイライラを解消するために遊んでいただけなのかもしれないけど、おかげでこちらの息子さんがイライラしてしまっているもの。

するとそんな不満を抱いていたのがバレたのか、リュドミナさんは長い脚を伸ばすと足の甲を俺の頬に当て、すりすりと撫で擦ってきてくれた。まるで慰めているかのようである。

思わずこちらからも頬擦りしたくなる心地良さに、抱いていた不満が霧散していく気がした。

「貴女の部下たち遅いわねえ~」

「屋敷内をくまなく捜索させておりますから。隠し通せるなどとは思われませぬよう」

「隠しごとなどないのだけれどお~? まぁいいわあ~。まだ時間が掛かるようだし、子犬にエサでもあげようかしらねえ~」

「は? 子犬? 何を言ってるのか分かりませんが、捜索が終るまでこちらの部屋で大人しくしていてもらいますよ?」

俄かに殺気立つ女性を前に「くすくす」と含み笑いをしたリュドミナさんは、その爪先で再び俺の身体を弄び始めていた。
女性兵士には分からないだろうけど、子犬ってのはたぶん俺のことなのだ。となると、エサっていうのは……。

期待感に股間を硬くしてしまった俺は、荒くなってきた呼吸を抑えるのに精一杯だ。
そんな俺を焦らすように、リュドミナさんの爪先がゆっくり下半身に近付いて来る。

最初は太もも。
僅かに脚を開いた状態で正座している俺の太ももを、彼女の爪先がツツーッと撫でてきたのだ。
驚くほど鋭い直接的な性感に、身体がブルッと震え上がった。

さらに彼女の足先は、そのまま太ももの内側に滑り込んでくる。
内ももを何度も擦られると、それだけで声が出そうになるほどだ。

そうしてじっくり性感を高めてから――つんつん。
ついに彼女の爪先が、俺の股間を突いた。
けれど突くだけである。ちょんちょんと、リュドミナさんは執拗に爪先で股間を突いてきていた。まるでノックのように……。

あ、そうか。
ノックなのか!

ようやく彼女の意図を悟った俺は急いで……しかし物音を立てないよう慎重にファスナーを下し、中から硬くなった肉棒を取り出す。
リュドミナさんの爪先が「それで正解よお~」と言うように、そそり立った竿の根元から先端までを、ツーッとなぞり上げてきた。

「ぅ――ッ」

待ち焦がれた感触に声が出てしまったが、どうやら気付かれずに済んだらしい。
けれど様子をみるため動きを止めていた爪先に、ピンッと肉棒が弾かれてしまう。咎められてしまったのだ。

でも……

「ん――ッ!!」

そんな刺激ですら、俺の喉を震わせるには十分だった。
リュドミナさんの色香にあてられ敏感になった身体は、僅かな刺激にすら大げさな反応を示してしまうのだ。

「……今、何か聞こえませんでしたか?」

さすがに今のは女性の耳に届いてしまったらしい。
詰問するような口調に、冷たい汗が背中を流れる。

「だぁってえ~。貴女と二人では息が詰まりそうなのだものお~。自分を慰めるくらい構わないでしょお~?」

「は……? 慰め…………あ、あぁ……そういう……。さすがは四大淫魔貴族といったところですか。この状況で暢気に自慰などと」

「褒め言葉として受け取っておくわねえ~」

どうやらリュドミナさんは、俺の喉から零れた声を自分の嬌声だと偽ることに成功したらしい。

けれど彼女の狙いは、それだけじゃなかった。

自慰をしていると思わせることに成功したリュドミナさんは、可愛らしく「ぅんしょっ」と腰を持ち上げると、そのままショーツを脱ぎ始めてしまったのだ。
スルスルと、彼女の足を伝って降りてくる紫色のショーツ。リュドミナさんはそれを足首に引っ掛けたまま、俺の目の前でクルクルと振って見せた。

あぁ……っ。
そういうことか……っ。

酷く屈辱的で、とてつもなく羞恥を煽られ、けれどどうしようもなく魅力的な提案。
これで口を塞げと、魅惑の女主人はそう言っているのである。

躊躇いは、一秒にも満たなかった。
俺は彼女の足から恭しくそのショーツを抜き取ると、迷わずそれで口を覆ったのだ。

――す~……っ。

つい今しがたまでリュドミナさんが履いていた脱ぎたてショーツは、彼女の温もりが残っていてほかほかと温かい。鼻を埋めて息を吸い込めば、濃縮された高貴な香りと欲情した雌の匂いが混じり合って脳を直撃した。一瞬で脳内がピンク色に染まってしまうほど蠱惑的な匂いなのだ。
全身が脱力し、その代わりにグンッと硬さを増した肉棒。リュドミナさんが、再びそれを爪先でなぞり始める。

「――ッッ!!」

気持ち良いっ!
考えられないほど気持ち良いっ!!

彼女の香りを吸い込めば吸い込むほど、全身の感度が何倍にも膨れ上がっていくようである。
しかもリュドミナさんは足の親指を鈴口に押し当て、捲り上げるようにズリズリ擦ってきていた。

溢れ出る先走り汁を吸い込んだ彼女のストッキングが、一擦りごとに快感を増幅させる。
きめ細かいストッキングは凄まじい刺激で、思わず絶叫を上げそうになるほどだ。

「――ッッ!! ――ッッ!!」

必死に押し殺した悦楽の声が、リュドミナさんがついさっきまで履いていた妖艶なショーツに吸い込まれていく。俺は少しでも声が漏れないようにと、より強くショーツで口を塞いだ。

すると気付く。
ショーツの一部分が、ぬるっと濡れていることに。

これ、リュドミナさんの愛液……っ!?
俺を甚振りながら、彼女も発情していたのか……っ!

その事実に、どうしようもなく心が浮き立ってしまった。
だっていつも超然としているリュドミナさんだもの。からかい半分で俺を弄ぶことはあっても、俺に欲情することはないと思っていたのだ。

なのに濡れている。
俺を相手に、リュドミナさんがおまんこを濡らしている。

そう考えてしまったら、もう自分の欲求を止められなくなってしまった。
口に当てがっている大人の色気がむんむんの紫色のショーツ。匂いを嗅ぐだけでは満足出来なくなり、俺はそれを口の中に詰め込んだのだ。

――ふああぁぁぁぁ……っ!!

かなり変態的な行為だという自覚はあるが、それでも止めることが出来ない。
濃縮され、口内を満たすリュドミナさんの高貴な香り。舌の上でぬるっと滑ったクロッチ部分の感触。頭のネジが一瞬で全開放してしまったのだ。
ついでに身体の力まで抜けてしまい、リュドミナさんの脚にだらしなくもたれ掛ると「仕方ない子ねえ~」と言わんばかりにリュドミナさんが優しく頭を撫でてくれた。

夢見心地だ。
女性の脚にしがみ付くのがこれほど幸せなことだったなんて……。

リュドミナさんの脚に頬を擦りつけ恍惚としていると、彼女の爪先は再び俺の肉棒を撫で始めていた。
器用に足の指を開き、親指と人差し指の間で肉棒をシゴいてくるリュドミナさん。先走りを吸い含んだストッキングにしゅりしゅり裏筋を擦りあげられ、堪らなく気持ち良い。声を出せない背徳感すら、今は興奮材料となっていた。

「――ッッ!!」

彼女のショーツを口に含み、彼女の脚にしがみ付き、胸いっぱいに彼女の匂いを吸い込みながら頭を撫でられ、そして爪先で肉棒をシゴかれる。
まるで俺の存在そのものがリュドミナさんに甘やかされ、愛撫されているような気分だ。

気持ち良い……っ!
気持ち良すぎる……っ!

腰が震えた俺は、一層強く彼女の脚にしがみ付いた。
それで限界を察したのか、リュドミナさんの爪先が動きを早める。

――しゅりしゅりしゅりしゅり……っ

ストッキング越しの足コキは、とてつもなく刺激が強いのにどこか優しい快感。
否応なく高めさせられた俺の睾丸が、射精の予感にキュッと持ち上がった。

――イく……ッ!!

そう思った瞬間、彼女の爪先を押し返すようにビクッビクッと肉棒が大きく跳ね、そして先端からは絶頂の証がびゅるぅっ、びゅくぅっと解き放たれていた。
頭をリュドミナさん色に染めあげながら、俺の身体が悦楽に震える。声出さなかったことを褒めて欲しいくらいだ。

なおもびゅるびゅると飛び散る精液はリュドミナさんの黒いストッキングに白い染みを作り、とてつもなく卑猥である。
最後の一滴を出し切るまで足コキを続けてくれた女主人は俺が出し切ったことを確認すると、ぽんぽんと頭を労ってから、その染みをタオルで拭き取っていた。

「どうかされたのですか?」

と、その動きが不審に映ったのか、女性兵士から冷たい声が投げ掛けられた。

「可愛すぎる子犬も考え物よねえ~。自分のモノにしたくなっちゃうものお~」

「はぁ……?」

「ふふ。こちらのことよお~。それより~、部下が戻って来たのではなくてえ~?」

ガシャガシャと近付いて来る鎧の足音。
そこに混じって「いったい何事なんだぜ!?」と溌剌な声が聞こえたのは、それからすぐのことだった。

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