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59話 お城でのルール

ルクレイアの待つ応接室へ戻ってくると、藍色髪のメイドは暢気にムーンシャインの果実を口に頬張っていた。

「お帰りなさいませ誠。女王様に粗相などしませんでしたか?」

粗相はしてないはずだ。中出しはしたけれど。

もちろんそんなことを報告したらいらぬ波風が立ちかねないので、そこはボカしつつ話の内容をルクレイアと共有することにする。
つまり今後、俺がこのお城でどんな待遇になるのかってことについてだ。

ただし、話ながらも俺は若干の緊張を強いられていた。
というのも、最近ルクレイアは独占欲的な感情を強く示してくるようになっているのだ。アルムブルムさんと仲が良いのも、どちらかというとライバル的な感じなのかもしれない。強敵と書いてトモと呼ぶ的な。

だから「お城のメイドさんたちに毎日搾精されることになりました」なんて言えば、どんな反応を示すか分からないのである。

だが俺の予想に反し、話の内容に耳を傾けるルクレイアが静かな表情を崩すことはなかった。

「なるほど。確かに誠のザーメンは貴重ですからね。世界の為に役立てるというのは当然のことだと思います」

「……怒らないのか?」

「何故です?」

「だってほら……毎日色んなメイドさんに搾精されちゃうわけだからさ……」

するとルクレイアは紅茶を淹れながら、平然と言ってのけた。

「別に、その役目を他の者がする理由はないでしょう?」

「……ん?」

「わたしが毎日そのおちんぽ様の面倒を診て差し上げると言っているのです」

あ、あぁ……なるほど。
ルクレイアが俺を射精させ、出した精液を持っていけばいいだけってことか。
それなら俺が他のメイドさんに目移りする心配はないし、なんだかんだ言い訳を作りながら精液を盗み食い出来るからルクレイアも満足って寸法なのだろう。

この提案、意外とありかもしれない。
だって性的なことがオープンな世界ではあるけど、俺に恥ずかしさがないわけじゃないのだ。初対面のメイドさんたちから搾られるより、気心の知れたルクレイアの方がずっと気楽である。

うん。
そうしてもらおう。

そんな感じで珍しく意見が一致した俺とルクレイアは、のんびりお茶を飲んでいたのだが……。

「あらあ~。それはダメみたいよお~?」

屋敷に帰る前に会いに来てくれたリュドミナさんにより、その案は見事にぶち壊されてしまったのである。

「何故ですか主様。まさか一流メイドのわたしが摘まみ食いするとでも?」

普段の行いをまるで鑑みないルクレイアだった。
前科を揉み消すことに定評のある藍色髪のメイドは、俺が思うよりずっと大物なのかもしれない。
もう笑うしかねぇや。

「まぁそれもあるのだけれどお~」

「あるのですか!?」

そりゃあるだろう。
お前は今まで盗み食いしたムーンシャインの数を覚えてないのか?

「それを差し置いても、誠さんの搾精係をルクレイア一人に任せることは出来ないのよねえ~」

「どうしてなんですか? 俺も理由が知りたいです」

「女王様がそれをお望みだからよお~。貴重な生の男で搾精を経験すれば、夢渡りが上手く出来ない者たちも出来るようになるかもしれないってお考えみたいねえ~」

それを言われてしまったら、俺も強く反論することは出来なかった。
確かにローレンシア様の意見には一理あるのだ。
なんせ夢渡りが出来なくなっている原因が分からないのだから、何でも試してみるに越したことはない。どんなことでも協力すると言った手前、反対する理由がないのである。

もっとも隣に、反対強硬派のメイドが控えているわけだが。

「なるほど。理解しました。この城は敵地ということですね」

強硬派ではなく過激派らしい。
瞳からハイライトを消失させたルクレイアは、今にも鉈を振り回しそうな気配を滲み出させていた。

「帰りましょう誠。こんなところにいられません」

「まぁ待ちなさいな。ここにいればムーンシャイン食べ放題よお~?」

「そのようなもので一流メイドは買収されないのです。ちなみに本日分はきっちり頂いて帰りますので、あとで袋詰めしておいて下さい」

相変わらず面の皮が厚いルクレイアだった。
面の皮が厚すぎるから表情に変化が乏しいのではないだろうかと邪推せずにはいられない。

「なんですか誠。何か言いたいことでも?」

「い、いや、何でもないっす」

しかも鋭いのである。
下手なことを言うと射精&潮噴きの刑に処せられかねないので、俺は静かに事の成り行きを見守ることにした。

するとリュドミナさんが、まずは聞いて欲しいと話を始める。

「とりあえず、誠さんには一日二回の精液提供が義務付けられるわあ~」

俺は黙って頷いた。ここまではさっき聞いた通りだからだ。
問題はこの後。その提供方法に付いてである。

「搾精はお城にいる人なら誰に頼んでも構わないし、いつ頼んでも構わない。つまり誠さんがムラっとしたら、その場で犯してしまっても良いってことねえ~。あ、でも行為に及ぶ時はコンドームを着けること。そうしないと精液を採取出来ないからあ~」

「コンドームなんてあるんですか?」

だってこの世界には女性しかいないもの。避妊する必要がないし、性病に関しても挿入がないのだからコンドームの出番はないはずだけれど。

「これがあるのよねえ~。あまり一般には出回ってないけれど、性に関する道具は使い慣れておくに越したことはないし、その気になれば使うことも可能よお~?」

どうやって?
疑問に思わざるを得ない俺である。
可能性があるとしたら、バイブを使いまわす場合とかか?

気にはなるが疑問を一度脇へ追いやり、俺はリュドミナさんに先を促すことにした。

「毎朝新しいスタンプカードを準備するから搾精されたらスタンプを押してもらって、夜にカードを回収しに来た時にスタンプが二つ押されているか確認することになってるわあ~。ちなみに、週に一度休日もあるそうよお~」

なるほど。
それならちゃんと一日二回搾精されたかどうか分かるし、逆にそれ以上の搾精も行われずに済むわけだから、俺の身を守ることにもなるのか。

しっかり俺の体調も考えてくれてるんだなと感心する俺だが、しかしルクレイアは冷めた顔で立ち上がっていた。

「これ以上聞く必要はありません誠。わたしたちはこれからお屋敷に帰るのですから」

藍色髪のメイドは話を聞きながらも、帰り支度を始めていたらしい。皿の上に残っていたムーンシャインを一粒残らず収納し終えたルクレイアは、やるべきことはやったという満足感を漂わせていた。お前のやるべきことはそれで良いのかと問い質したい。

そんなルクレイアの様子に肩を竦め、リュドミナさんが問いかける。

「帰ってしまって良いのかしらあ~?」

「どういう意味でしょうか」

「誠さんと、もっと一緒に居たいとは思わない~?」

「それはお屋敷に居ても叶います」

「ふふ。残念ねえ~。ここにいる間は誠さんの側付きなのだから、当然一緒の部屋で暮らせるのだけれどお~」

ふぁっ!?
ルクレイアと同棲なんて聞いてないぞっ!?
そんなことになったら一日二回どころか初日で干乾びるんですけどっ!?

「大丈夫よねえ~? 今はそれほど精液が枯渇してるわけじゃないし、もう分別も付くでしょお~?」

「…………………………………………………………………………当然です」

間ァっ!!!
どんだけ悩んだんだよっ!!
頼むから即答して下さいお願いしますぅっ!!!

「あとは貴女次第。言ってる意味、分かるわよねえ~?」

「つまりお城に残れば…………搾り放題?」

なんでやねんっ!
お前さっき分別付くって言っただろぉっ!?

――ともあれ、結局ルクレイアはお城に残るという選択をしたらしい。
藍色髪のメイドはどこかウキウキした表情で、片づけていた荷物を再び解き始めていた。

「大丈夫なんっすか……俺」

「信じてあげなさいな。ルクレイアだって、精液が欲しくて言ってるわけじゃないことくらい誠さんにも分かっているでしょお~?」

「……はい」

「ふふ。おりこうさんねえ~。ちゅ~してあげ――」

「そのくだりはもう本当に結構なので」

「つれないわねえ~。じゃあ、わたくしはそろそろお屋敷に戻るわあ~。アルムちゃんのこともお願いねえ~? しばらく検査で忙しいだろうけれどお~」

「はい」

アルムブルムさんもお城に残る組だが、先に各種の検査があるため、しばらくは会えないらしい。
まぁ数日もすればある程度自由を得られるようになるので、心配はいらないとのことだった。

こうして俺の……いや、俺たちの、か。
お城での新たな生活が始まったのであった。

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