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60話 愛のかたち

「さて、寝ましょうか」

夜である。
王城で過ごす初めての夜。先にベッドへ潜り込んでいたルクレイアは、掛け布団をふわりと持ち上げ俺を誘ってきていた。

一見すると、凄まじく魅力的なご提案だ。美しいメイドと同じ布団で共にする夜は、様々な幸せが待っているのだから。
例えば触れ合う柔肌の感触。混じり合う互いの温もり。心安らぐ彼女の爽やかな匂い。
どれもが俺を昂らせ、とてつもない幸福感に包まれること請け合いである。

けれどな?
持ち上がった掛け布団から覗き見えるルクレイア、下着姿なんだよ。つまりはスタンバ済み。準備万端の態勢は、獲物にぐるりと体を巻き付ける蛇を連想だろうか。
誘われるがままベッドインした途端彼女に体を絡められ、出涸らしになるまで精液を搾り取られる未来しか見えなかった。

男としては望むところだし、それを想像しただけで股間が固くなるほどだが、明日からのことを考えるとそうも言っていられないのが辛いところである。欲望のまま出しまくっていたら、体力が保たないのは明白だもの。

「えっとだな……。ベッド、もう一つあるんだけど?」

「そのようですね。インテリアでしょうか?」

お前の感性どうなってんの?
飾り物のベッドを見て「素敵なベッドね~。玄関に飾ろうかしら」なんて会話聞いたことあるのか? 膝を突き合わせ、小一時間は問い詰めたい所存である。

まぁしかし、ルクレイアの白々しさと面の皮の厚さは今に始まったことじゃないからな。とりあえずベッドに腰掛けた俺は、彼女に背中を向けたまま一応の確認を取ることにした。

「何もしない?」

生娘かと。
初めて男の部屋に招かれた純朴な少女かと。

「し、しませんよ? 当たり前じゃないですか。わたしが何かするように見えますか? まったくもって心外ですね」

そしてお前は童貞かと。
どんだけ視線を泳がせてんだと。完全に溺れちゃってんじゃねぇか。

「あのなルクレイア」

「はい」

「俺はさ、弱い人間なんだよ。好きな方に、考えなくて良い方に、簡単な方に……。とにかく、より楽な方にすぐ流されちまう」

「……」

「だからルクレイアと一緒の布団に入ってちょっとでもそういう雰囲気になったら、我慢出来なくなっちゃうと思うんだ」

「我慢しなくても良いのでは?」

「そういうわけにはいかないさ。聞いただろ? 俺がこの城で果たす役割」

「毎日二回の搾精」

「そう。けど欲望のままルクレイアと致しちゃってたら、その義務が果たせなくなる。水みたいに薄いの出しても役に立たないだろうしな」

そう言うと、背後でルクレイアが起き上がる気配がした。
チラッと横目で見た彼女は布団を身体に巻き付けているため肩くらいしか晒していないが、逆にそれが妖艶な雰囲気を醸し出し、俺は慌てて目を逸らさざるを得ない。

「誠がそこまで気負う必要があるのですか? こう言ってはなんですが、誠は弱い立場を利用されているだけなのでは?」

「ん~……。まぁ俺が弱い立場ってのは本当だな。なんせ力じゃ叶わないし、一人で生きていく術もないんだから」

「おちんぽ握られたら逆らえなくなりますしね」

言うなよ……。
事実だけどさ……。

「けど、これは俺がやろうと思ったことなんだ」

「何故?」

「少しでもこの世界の人の役に立ちたかった……から?」

「もともとこの世界は誠の世界ではないでしょう。例えこのまま滅んでしまったとしても誠が気にすることではないと思うのですが」

「あ~、世界って言うとちょっとアレだったな。ようするにさ、身近な人たちには不幸になって欲しくないんだよ。リュドミナさん、アルムブルムさん、エルルシー、屋敷のみんな。……もちろん、ルクレイアのことも」

真剣な声音で伝えると、背後でルクレイアは息を呑んでいた。

「それは…………愛、という感情なのでしょうか?」

「どちらかと言えば友愛とか家族愛に近いのか? 言葉にすると恥ずかしいからあまり言わせないで欲しいんだけど」

するとルクレイアはベッドの上で三角座りになり、抱えた掛け布団に顔を埋めていた。そしてしばらく黙考した後、心情を吐露するように言葉を紡ぎ始める。

「アルムブルムが言う「愛」とは違うのですね。では、彼女の言う「愛」とはなんなのでしょうか。わたしにはそれが分かりません。分からないのに、分からないことが辛いのです。わけもなく胸の奥がチクチクと痛み、呼吸が苦しくなるのです。わたしはどうしたら良いのですか?」

俺の肩に、ルクレイアがそっと手を置いてきた。まるで助けを求めているかのように、儚く震える手を。

だから俺は、そこに自分の手を重ねる。

けれど……。
けれど言葉は出てこなかった。
なんと言えば良いのか分からないのだ。

たぶんだけど、アルムブルムさんは「愛」がどんなものなのか、最初からなんとなく輪郭を掴んでいたんだと思う。だから恋人ごっこなんてことを提案してきたのだろうし。

でもルクレイアの場合は違う。
彼女にとって、それはまったくの未知。そして知らないものというのは、恐怖を伴うものなのだ。
だからこそ、俺の肩に置かれた彼女の手は不安そうに震えているのだろうから。

「……言葉で教えてあげるのは難しいかな」

「誠でも、ですか?」

「俺だって、ちゃんと分かってるわけじゃないからさ。っていうか、きっと人それぞれ違った形のものなんだよ」

それが全能であるかのように語る人もいるだろう。
それがなければ幸せになれないという人もいるだろう。
一方で、それは種が繁栄するために組み込まれたシステムに過ぎないと言う人もいるかもしれない。

「だから人間は愛を語り、愛を歌い、愛を求めるんだと思う。そこに答えなんてないから」

「ではどうすれば?」

「ルクレイアはルクレイアの答えを探せばいいんじゃないかな。そうしたら、ある日突然「あ、これか」って分かる時が来る……と思う」

すると唐突に、俺の体が後ろに引き倒されてしまった。
ドサッとベッドの上。絡まりあうように倒れこむと、悪戯な彼女の瞳と目が合う。

「さっぱり分かりません」

「だろうな」

「ですが……今のこの気持ちは、まだソレではない気がします」

「……ちなみに、それはどんな気持ちなのか教えてもらっていい?」

「誠のザーメンを一滴残らず搾り尽くしたいという欲求ですね」

それ愛っていうより殺意では?
なんだかヤンデレ資質を持ってそうなルクレイアだった。

「……なので、しばらくは様子を見てみることにします。ザーメン以外にわたしが何を求めているのか、少し考えてみたくなりましたから」

「そっか」

結局俺たちは、そのまま一緒の布団に潜り込んでいた。
けれどもう、そこに誘うような空気はない。宣言通り、ルクレイアは自分の気持ちと向き合うことにしたのだろう。

そんな彼女を横目に見ながら、俺も考えてみる。
リュドミナさんが、何故ルクレイアを俺の側付きにしたのかを。
だって同じ部屋で過ごすことになれば、遅かれ早かれこうなることは予想出来たはずなのだ。メイドたちに「愛」を知られたくない女主としては好ましくない展開だろうに。

……まぁいいか。

リュドミナさんが何を考えているのかなんて、俺に分かるはずないもんな。
それに、悪いことを企んでるってわけじゃないはずだ。少なくともアルムブルムさんがホロウ化した時に見せた彼女の悲しみは、嘘や演技なんかじゃなかったから。だからあの一件を通して、俺はリュドミナさんのことを以前よりずっと信じられるようになっているのだ。

とりあえず寝るか。

ルクレイアがどんな答えを見つけるのか。
それは分からないけど、布団の中で握り合う彼女の手は、もう震えてはいなかったのだった。

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