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69話 間話:リュドミナの忠義

―― 間話 ――

蝋燭の灯りにキラキラ輝くブロンドをかき上げ、机の上の資料に目を通し終えたローレンシアは客人に視線を戻した。
ここはローレンシア女王の私室である。
世界の最高権力者たる彼女のプライベート空間で二人きりになることを許されるほど信頼の厚い客人は、ムーンシャインの果実を口に運びながら、険しい視線をローレンシアに向けた。

「グラーリス家の当主が自害したというのは本当かしら?」

客人とは、もちろんリュドミナ・ヘリセウスである。
四大淫魔貴族の一角をなす以上に、ローレンシア女王と旧知の仲である彼女は、人目がなければ砕けた口調すら許されていた。

机の上の資料一式を抱え持ったローレンシアは、それを持ってリュドミナが座るソファの対面に腰を落ち着け、長い溜息と共に彼女の問いを肯定する。

「えぇ。遺体はもうありませんでしたが、グラーリス家に残された大量の血痕とグラーリス家の者たちの証言からまず間違いありません。シャーレィ・グラーリスは月に帰りました」

ローレンシアの言葉を受け、普段は優しい曲線を描いているリュドミナの眉が皺を作った。

「お姉さまがお気になさることではありませんよ。確かに『本当はホロウ化があったのに、なかったことにした』ため、偽情報に踊らされてとんでもないことをしてしまったと考えたグラーリスが、このような決断をした可能性はあります。ですが、そもそも四大淫魔貴族であるお姉さまの屋敷に無断で侵入するなどあってはならないことですから。例え緊急事態法に則った行動だったのだとしても、最低限お姉さまの許可を取るべきでしょう」

シャーレィ・グラーリスの自害を自分のせいだと考えリュドミナが消沈している。そう考えてローレンシアは言葉を尽くしたのだが、しかし再び顔をあげたリュドミナの瞳を見て考え違いをしていたことに気づいた。

「お姉さま……?」

「もう一度聞くわねローレンシア。グラーリス家の当主は、本当に自殺だったのかしら?」

ローレンシアは、無意識にヒュッと息を呑みこんだ。
リュドミナが、シャーレィ・グラーリスの死を他殺だと考えていると分かってしまったからだ。

「し、しかしさすがにそれは……。グラーリスには自害するだけの理由がありますし、殺害されるほどの理由などそうそうないと思うのですが?」

「……そうね。わたくしの考えすぎならそれに越したことはないわ」

リュドミナはそう言って紅茶に手を伸ばしたが、ローレンシアにはどうにも彼女が確信を持っているように見えた。
だがそれを問い質すには、今少しばかり勇気が足りない。リュドミナから話さないのであれば、まだそれは自分に伝える必要がないからだろうと無理やり納得し、話題を変えるため資料の束に視線を落とした。

「アルムブルムさんのことですが、これといった問題はなさそうです。もう普段の生活に戻って頂いても良いと思うので、お姉さまのお屋敷に戻そうかと考えているのですがいかがでしょう?」

「ん~。出来ればこのままお城で面倒を見てもらえないかしらあ~」

リュドミナの話し方は、いつも通りの緩慢なものに戻っていた。
そのことに人知れず胸を撫でおろし、ローレンシアは話を続ける。

「それは構いませんが理由をお伺いしても?」

「アルムちゃんにとって、その方が幸せだからよお~」

「はぁ……。ま、まぁ、お姉さまがそう仰るのであれば……」

「ところで、ホロウ化してしまった原因については何か分かったのお~?」

ローレンシアは「えぇと……」と言いながら、ぺらりぺらりと資料を捲り、該当箇所に目を走らせる。
そこには、アルムブルムから詳細に聞き出したホロウ化当日の行動が書き込まれていた。

それによるといつも通りの時間に目覚めたアルムブルムは、朝食後に普段と変わらないメイド業務を行っていたとある。そして昼食を挟んで夜後の仕事に精を出し、一段落したところで自室に戻りティータイムを取ったのだが……。

「紅茶を飲んだ後の記憶がないそうです。ホロウ化した原因がその茶葉にあった可能性もあるので念のため詳しく調べてはみましたが……」

「茶葉からは何も検出されなかったのねえ~?」

「はい。やはりホロウ化は自然現象なのでしょう」

実はアルムブルムを王城へ連れて来る際、リュドミナは彼女の部屋にあった物も一つ残らず王城へ持ち込ませていた。もちろん検査のためである。
しかし茶葉どころか何一つおかしなものは見つからず、結局ホロウ化は偶々起きてしまった不幸だったというのが、王城にあるホロウ対策室の出した答えだった。

だがローレンシアから資料の束を受け取ったリュドミナは、そこに不審な点を見つける。

「……ティーポッドは調べていないのかしらあ~?」

「ティーポッド、ですか……?」

指摘され、ローレンシアも慌てて資料に目を走らせた。
すると確かに、そこにティーポッドの文字が見当たらない。
いやそもそも、王城へ持ち込んだアルムブルムの私物の中に、ティーポッド自体なかったのである。

「……どういうことでしょうか」

ティーポッドがなければ紅茶を沸かすことが出来ない。
もちろん、リュドミナの命に従いアルムブルムの私物を運んだメイドたちに不手際があったとも考えられない。

では、ティーポッドはどこに消えたのか。
否。
いつ消えたのか。

――考えられることは一つだった。

「お姉さま……。まさかお姉さまは、シャーレィ・グラーリスが故意にアルムブルムさんをホロウ化させたとお考えなのですか!?」

誰かがティーポッドを持ち去ったのだとすれば、タイミング的にグラーリス家の兵士たち以外あり得ないのである。
となればグラーリス家の兵士には、ティーポッドを持ち去るだけの理由があったはずだということになる。

では、それはどんな理由か?
考えるまでもない。
そこに証拠があったからだ。
人為的に、アルムブルムをホロウ化させた証拠が。

「実はね、これは報告していなかったのだけれど、誠さんとエルルシーが見ているのよお~」

「な、なにをですかっ!?」

「アルムちゃんがホロウ化する前日。つまり紅夜に、屋敷内をうろついていた不審なメイドの姿を」

「ま、ま、待ってっ! 待ってくださいっ! お姉さまが仰っていることはあり得ないことばかりですっ!」

何かを混入させた紅茶を飲むだけで、ホロウ化してしまうような物質の存在。
紅夜に正気を保ったまま、目的を持って動くことが出来る存在。

どちらもローレンシアには……いや、サキュバスの世界では聞いたこともない存在だ。

前者はまだ分からなくもない。
そのような物質があるという話は見たことも聞いたこともないが、何かを調合して作り出すことは、ひょっとしたら可能かもしれないから。

だが後者はあり得ない。
まれに精液枯渇症自体に耐性を持つ者はいるが、それでも内から込み上げる欲求を退けることは絶対に出来ないのだ。それは四大淫魔貴族であろうと女王であろうと変わらない。分け隔てなく性を渇望させるのが紅い月なのだから。そんな夜に正気を保ったまま動ける大人などいるはずがないのである。

絶対にあり得ないと頭から否定するローレンシアに、しかしリュドミナは優しく微笑み掛けた。

「まぁ、全ては憶測に過ぎないけれどねえ~」

信じられないと瞠目しているローレンシア。だがリュドミナは確信しているのだ。

あの日屋敷にやって来た兵士は『姫様っ!? 何故っ!?』と言っていたが、その後に続いたであろう言葉をリュドミナはこう推測しているから。

『姫様っ!? 何故ホロウ化していないのですかっ!?』

と。

しかし、全ては状況証拠だ。
消えたティーポッドの行方も、兵士が漏らした言葉の意味も、そもそもホロウ化の原因が茶葉に混入された何かであることも。

ゆえにリュドミナは、まだローレンシアに全てを明かすつもりはなかった。
不確かなことで女王の差配に影響を及ぼさせては、それこそ巷で言われるように「ヘリセウスが王家を裏で操っている」なんてことになりかねないから。

だから、今回のは忠告である。
敵がいるかもしれない、と。サキュバスを容易にホロウ化出来る術を持った恐ろしい敵が。

そうして女王には周囲を警戒させておき、その間に自分が敵の首根っこを捕まえる。
それがリュドミナ・ヘリセウスの忠義の通し方なのだ。

十分に目的が達せられたとほくそ笑み、リュドミナはわざと明るく振る舞ってみせた。

「ところでえ~、わたくしの大事な誠さんは元気でやっているのかしらあ~?」

突然の猫撫で声に重苦しかった空気が霧散し、ローレンシアは我に返ったように慌てて答える。

「え、あ、はい。しっかり務めを果たしていただいておりますよ。おかげで精液も順調に溜まっており、サプリメント計画も順調に進んでいます」

サプリメント計画とは誠から採取した精液を元に錠剤を作り、夢渡りが上手く出来ず精液枯渇症に陥りそうな者に配るという国を挙げての計画のことだ。
これにより、夢渡りが出来ず苦しんでいる民をどれだけ救えるか。ホロウ化という謎の病が確認されて以降暗い話題ばかりだった国に訪れた、久しぶりの良い報せ。ローレンシアが心を燃え滾らせるのも無理からぬことである。

「ただ、王城内の者たちに搾精させる意味はあるのでしょうか? 側付きの者でも良いのではないかと思うのですが」

誠には「女王からの命令」ということになっていたが、実はリュドミナの発案だった。しかしその真意をローレンシアは聞いていない。
もちろん「生の男から搾精すれば夢渡りが上手く出来るようになるかも」という説明は受けているが、どうにもそれが方便のように思えてならないのだ。

――お姉さまには、他に目的があるのでは?

そんな思いから出た些細な疑問だったのだが、リュドミナはコテッと首を傾げてしまった。

「あらあ~? お城の方たちは喜んで下さらなかったのかしらあ~」

「いえ、それはもう皆大喜びでおります。まぁ中には、彼を独り占めしたいと考えてしまう者もいるようですが……」

「ふふ。大人気なのねえ~、誠さん。わたくし、過去の女になってしまわないか心配だわあ~」

「えっ!? やはりお姉さまも彼を抱いたのですかっ!?」

「あらあらあ~。お姉さま『も』ですってえ~」

「あ、いや、ちがっ! い、いえ、違わない、の、ですけど……っ」

「どうだったかしらあ~? 生の男性は」

慌てふためき、赤面し、ついには俯いてしまったローレンシアを、リュドミナはくすくすとからかい続ける。

「良かったみたいねえ~。それどころか、またセックスしたいと思ってるみたい」

「そ、そんなことっ! 仮にも女王がそん――」

「誠さんのことを思い出しただけで濡れてるわよ? 下着」

「ぬ、濡れてませんっ!」

そっぽを向いて反論しながらも、チラッと自ら確認するローレンシアである。
そんな彼女を優しく見つめ「守ってあげなければ」と思うリュドミナなのであった。

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