巨乳キャラあつめました

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82話 帰りたい

相変わらず鎖で繋がれている俺の前に、シズカと名乗る女性がいた。
まさかと思い聞いてみたところ、どうやら彼女も日本人で間違いないそうだ。

「じゃあシズカも都市伝説を試しちゃったってこと? なに馬鹿なことしてんの?」

「いや涼井さんに言われたくないんですけど。あと慣れ慣れしいので下の名前で呼ばないでもらえます?」

「んじゃなんて呼べばいいんだよ」

「柳下です。柳下静香。本当なら今頃大学一年生だったんですけどね……」

詳しく聞いてみると彼女がこちらに来たのは一年前。模試の結果が芳しくなく、現実逃避気味に都市伝説を試したところでこっちの世界に来てしまったとのことだった。

「よく無事だったな……って女だからか」

「それを言うなら男の涼井さんこそよく生きてますね。もしかしてBLな感じですか?」

「なんでだよっ!」

「あ、そういえばさっきも後ろを掘られて……ま、まぁいいんじゃないですか? 多様性の時代ですし」

静香……柳下さんとは当然初対面だが、なんとなく話が弾んだ。
まぁサキュバスしかいない異世界で得た同郷だもの。言葉の端々から現代日本を感じ取れることに、お互い郷愁を感じているのかもしれない。

その後も取り留めない話を続け、一段落したところで、ようやく俺は切り出した。

「なぁ。これ、解いてくれよ」

「……駄目です」

「なんでだよ。あいつ等に協力してんのか? 柳下さん、あいつ等が何をやってるか分かってる?」

「えぇ知ってますよ。ホロウ化……でしたっけ?」

そういえばさっきのメイドがホロウ化したのは、柳下さんが持っていた何かをネイアローゼがメイドに呑み込ませた直後だったことを思い出す。

「アレ、なんなんだ? さっき飲ませてたやつ」

「あぁ、コレですか? 別に大したものじゃないですよ」

そう言いながら柳下さんが取り出したのは、小さな白黒模様。どこかで見覚えのあるそれを、驚くべきことに彼女はパクッと口に入れてしまった。

「お、おいっ!?」

慌てる俺をよそに、柳下さんはカリッカリッと嚙み砕き、そしてゴクンと呑み込んでみせたのだ。

「だから大したものじゃないんですって。これ近所のホンキ・ドーテーで買ったひまわりの種ですもん」

「ひまわりの種……?」

「はい。あたし、昔からこれ大好きなんですよね。ちょうど家にストックしてた分がなくなっちゃって、都市伝説を試したのはコレを大量に買い込んだ帰りだったんです」

道理でお城の人たちがどれだけ調べても分からないわけだ。
そりゃ太陽のない世界にあるわけないもんな。ひまわりの種なんて。

けど、なんでひまわりの種なんかでホロウ化するんだろう?
疑問に思った俺は柳下さんに聞いてみたが、その理由は彼女も分からないらしい。

ただ

「仮説っぽいのはあります。涼井さんは、サキュバスが愛のない生物だって知ってましたか?」

「いやそれは間違いだ。知らないだけで、彼女たちはちゃんと愛する心を持ってるぞ」

「え、なにそれ。なんかマジっぽいトーンで愛とか言われるとちょっとキモいんですけど」

えぇ……。
いや大学生くらいの女の子から見れば俺はオッサンにカテゴライズされちゃうわけで、これが普通の反応なのか。
くそぅ……。こっちの世界でちやほやされてたから忘れてたが、若い子とオッサンの間にはマリアナ海溝より深い隔たりがあるんだった……。

「あ、いいですか? 続けますね」

「どうぞ……」

「ひまわりの伝承って知ってます?」

「いや聞いたこともないな。なんか曰くつきの花だっけ?」

「ギリシャ神話なんですけど、水の精霊クリュティエが太陽神アポロンに恋をしちゃうんです。けれどその恋が実ることはなく、失恋したクリュティエは飲まず食わずで空を駆けるアポロンのことを地上からずっと見つめ続けました。そんなことをすればもちろん瘦せ細って死んじゃうんですけど、クリュティエが死んだあとに一輪の花が咲き、それがひまわりだったんです」

「あぁなるほど。ずっと太陽の方を向いて咲くからそういう話が出来たのか」

「あの……そういう逆算的発想はロマンに欠けません?」

ジトッと見られると何も言い返せないオッサンだった。

「あー、すまん。それで?」

「分かりませんか? つまりひまわりっていうのは深い愛情の結晶なんです。自分が死ぬことすら厭わないほど愛して愛して止まない真実の愛なんです!」

それヤンデレとかメンヘラとかそっち系じゃん。「素敵ですよね」なんてうっとりしちゃってるJD(仮)には悪いがドン引き案件である。
だが彼女が言わんとしていることはなんとなく分かった。
愛を知らない、愛に気づくことが出来ないサキュバス。彼女たちにとって、深愛の塊であるひまわりの種は劇物だったってことだろう。一度も辛い物を食べたことがない人の口に無理やりジョロキアをぶち込むようなものかもしれない。そりゃ頭もちんぽっぽになるってもんだ。

「んで、そうとは知らず柳下さんはサキュバスにそれを食わせてしまったってことか……」

「まぁ、はい。そうなりますね」

「でも、今はそれがサキュバスにとってどんだけ有害なものか分かってるんだろ? もうアイツ等に協力するのは止めろ。俺と一緒にお城で保護してもらうんだ」

「え? なんでです?」

「は……? いやだからさ、アイツ等がやってんのは酷いことなんだって。さっきのメイドを見てただろ? みんなあんな風になっちまうんだぞ?」

「知ってますよ。でも、それが何か? 涼井さんこそ分かってます? 人間そっくりですけどあの人たち人間じゃないんですよ? 化け物です。それが苦しもうが死のうがどうでも良くないですか?」

「ざけんなっ!!」

思わず掴みかかろうとしたが、それはガシャリと鎖を鳴らしただけだった。
でも、俺の怒りは収まらない。

化け物?
死んでも構わない?
そんなことあるわけねぇだろっ!!

しかし怒りを露わに睨みつける俺に対し、柳下静香は「はぁー」とこれ見よがしに溜息を吐いていた。

「化け物相手にエッチなことされて情でも移ったんですか? ホント男の人って単純で羨ましいです」

「そういう問題じゃねぇだろっ! ホロウ化しちまったら月に帰すしかなくなるんだぞっ!」

「だから関係ないですって。元の世界に帰るためならあたしは何だってやりますから」

突然飛び出した彼女の言葉に、俺の怒りは一瞬で霧散してしまった。
今、なんて言った?
元の世界に帰る?

「帰れる……のか……?」

「知らなかったんですか?」

そして彼女は、自分がどうしてコルネリアーナたちに協力しているのかを話し始めた。

それによると帰る方法は簡単で、お城の中のどこかがあちらの世界と繋がっているらしい。ただし先々代の女王がその通路を封印してしまったため、現在行方が分からないそうだ。コルネリアーナたちは現女王であるローレンシア様を失脚させて権力を握り、通路の封印を解くつもりなのだという。

「嘘臭くね? だってサキュバスにとってあっちは餌場だぞ? なんで女王様がわざわざ封印するんだよ」

「それは知りませんけど、真実である可能性は高いと思いますよ。例えばドラキュラ。あれって実はサキュバスのことなんじゃないですか?」

「はぁ? ドラキュラは男だろ? 吸精じゃなくて吸血だし」

「伝承なんてあやふやなものなんですよ。例えばですけど、ある日ふらふらになった男の人が居たとします。その人はサキュバスと色々あってふらふらなんですけど、奥さんに「何があったの!?」って聞かれて正直に答えますか?」

「そりゃ答えないけどさ……。なんか適当に言い訳するんじゃないか?」

「じゃあ首元にキスマークも付いていたら?」

「全力土下座」

当然である。

「涼井さんは単純だからそうかもしれませんけど、その男の人は必死に言い訳を考えました。その結果『キスマークは牙の跡。ふらふらなのは血を吸われたから』というドラキュラ伝承の誕生です。性別が男に変わったのは、その方が自然だからでしょうね」

全部ただの憶測ですけど。柳下さんはそう締め括ったが、言われてみれば吸血系の魔物や伝承ってのは意外に多い。それらの全てとは言わなくても、サキュバスが絡んでいた可能性はありそうだ。

でもお城の中にそんな場所あったかな? 思い出してみるが、そもそも俺が立ち入れた場所なんてほんの僅かだ。あるならばきっと王族しか入れないようなお城の奥深くだろう。

まぁとにかく話を戻すと、女王の失脚を画策したコルネリアーナたちは、その方法としてホロウ化という手段を選んだのである。もともと夢渡りが上手く出来ないサキュバスが増えて来ていたという事情もあり、それを利用した形だろうか。

夢渡りが出来なくて精液が枯渇するとホロウ化するぞ。
ホロウ化したら二度と元に戻れないぞ。
ここまで酷いことになったのは無能な女王が何の対策も講じられないからだぞ。
お城には人間界に行く方法もあるのに、それを解放しないのは、民を見殺しにしてるのと変わらないんだぞ。

このように世論を誘導し、女王を追い落とすつもりなのだろう。
ついでにコルネリアーナがホロウ化予防の薬をばら撒いて、それ以後ホロウが発生しなくなれば、彼女たちの支持率はうなぎ上りというわけだ。完全なマッチポンプである。

「これで分かりました? あたしは帰りたいんです。元の世界に……お家に帰りたいのっ」

真剣な彼女の瞳に、俺は言い返す言葉が浮かばなかった。
彼女には、会いたい家族がいる。友達がいる。ひょっとしたら恋人もいたかもしれない。
大学に進学して、就職して、仕事なり結婚なり、将来に対する希望が溢れていたのだ。

それにサキュバスしかいない世界なんて、女性である柳下さんにとっては地獄でしかないだろう。もし逆に、ここがガチムチしかいない世界だったらと思うと…………あ、ちょー無理。そりゃ何を犠牲にしてでも帰りたいと思うわ。

「だから涼井さん。貴方もこっち側で協力してくれませんか? 一緒に帰りましょう? ね?」

帰れるかもしれない……。

一度捨て去った希望が、郷愁と共に胸を満たしていく。
帰ったところで、俺にはまともな仕事も恋人もない。

でも……。

父さん。
母さん。
元気にしてるかな……?

ふと、そんなことを思ったのだった。

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