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87話 涼井ヘリセウス誠(仮)

リュドミナさんが、月に帰った。
突然の別れは心にぽっかりと大きな穴を開け、誰も口を開くことが出来ないまま呆然と立ち尽くしていた。

けれど俺の手には、リュドミナさんから託された物がある。
四大淫魔貴族の証。
そして、残される者たちへのリュドミナさんの想い。
託された俺には、それを受け継ぐ責任がある。

でも、どうすればいいのか。
俺なんかに何が出来るのか。

託された物の大きさと彼女が背負っていた物の重さに、俺の心は押し潰されてしまいそうだった。

だが……

「大丈夫です。出来ますよ、誠なら」

ルクレイアが、そっと手を握ってくれたのだ。

単純なものである。
彼女の温もりを感じただけで……たったそれだけで、俺は「やってやる」って気になれるのだから。

だから俺は大きく頷いて見せるのだ。こんな時こそ恰好付けるのが男ってもんだろっ!

「屋敷のメイドたちを全員集めるにはどうしたらいい?」

俺が振り返ると、答えたのはノルンだった。
アンバランスでサディスティックな少女はサっと床に片膝を着き、不敵な笑みで見上げてくる。

「近くにヘリセウス家の別邸がありますので、そちらに集めるのが良ろしいかと。至急お屋敷にも使いの者を出そうと思いますが、それでよろしいですか主様」

「あ、主様……?」

普段のノルンからは想像できないほど恭しい態度に加え、主様呼ばわりされてしまっては困惑もひとしおだ。

「リュドミナ様がお兄さんに託したのですから、これからはお兄さんがノルンの主様です」

「え、えっと……それはまぁそうかもしれないけど、まだ慣れてないし……」

「ではマゾ豚と呼んだ方がよろしいでしょうか?」

「雑ぅっ! 中間は!? もっとソフトな感じの呼び方ないのっ!?」

「あはっ♪ 面倒だね、主のお兄さんは」

フッと肩を竦めて見せたノルンは、悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。けど目元には、まだ薄っすら涙の跡が残っている。ひょっとしたらこの少女は、俺の緊張を解こうとしてくれたのかもしれない。
その心遣いに感謝しつつ、俺は少しだけ冷静さを取り戻した頭で、これからどうしたら良いかを考える。

コルネリアーナは……敵は、リュドミナさんを殺したことでもう引き返すことが出来ないハズだ。俺の身柄を奪還されてしまい、ネイアローゼたちも捕えられた今、彼女の計画は破綻したと言えるだろう。
次に彼女はどうするのか?
遺体が残らぬサキュバスとはいえ、コルネリアーナが月に帰ったという可能性はゼロだ。周囲に誰の姿もないところを見ると、別邸を放棄して自領に戻ったと考えるのが自然である。それもリュドミナさんが月に帰るのを見届ける余裕もなく、大急ぎでだ。

となると……。

「ノルン。俺はローレンシア様へ報告しなければいけないから、別邸にメイドたちを集めて待機していてくれ」

「かしこまりました!」

「それからニーア」

「は、はいぃっ!」

「俺が監禁されていた場所で捕えた者たちはどうなっている?」

「あの人たちは別邸に連行しました! 今は別邸地下の牢にぶち込んであります!」

「ならすぐに尋問を始めてくれ。コルネリアーナたちの計画の全容と目的を聞き出すんだ」

「はいっ!」

ノルン、ニーアはメイドを引き連れ、足早に部屋を飛び出していった。
残されたのは俺とルクレイア、そしてアルムブルムさんの三人だ。

気心が知れた者だけになると、膝からへなっと力が抜け落ちてしまう。
もともと監禁され体力が消耗していたし、それに加えてリュドミナさんとの別れ。さらには、突然託されてしまった重責である。精神的にも体力的にも限界だったのだ。

するとすぐさま俺に寄り添い、二人が身体を支えてくれた。

「誠くん大丈夫っ!? ……あ、違うか。もう主様って呼ばなきゃダメだね」

「やめて下さい……。アルムブルムさんにそんな呼び方されたら泣きますよ?」

「なるほど。主様主様主様」

「いや露骨に泣かそうとしてくんな。小学生かお前は」

でも、少しだけ心が軽くなった。
思えば俺は、いつもアルムブルムさんの優しさとルクレイアのアホっぽさに救われているのだ。
感謝を込めて二人同時に抱き寄せると、彼女たちもギュっと優しく抱き返して来てくれた。

「ごめん。少しだけこのままで……」

束の間。
もう一度立ち上がるため、彼女たちの温かさに甘える俺なのだった。

……。

先触れを出しておいたおかげで、お城に戻った俺たちはすんなり女王様の待つ部屋まで通してもらうことが出来た。
ちなみにこういった所作や儀礼なんかは、横からアルムブルムさんがアドバイスしてくれている。なんせ今の俺は、リュドミナさんの名代なのだ。リュドミナさんの顔に泥を塗るわけにはいかない。

ということで普段よりずっと形式ばった手順を踏んで女王様の下へ参じたわけだが、そんな俺の目に飛び込んできたのは

「うわああぁぁぁぁぁん……っ! おば、おばさまぁあああぁぁぁ……っ!! どうして……っ!! どうして逝ってしまわれたのですかああぁぁぁぁぁ……っ!!!」

ソファで泣き崩れるローレンシア様のお姿だった。
人目も憚らず、女王様が幼子のように泣きじゃくっていたのだ。

正式な手順で面会を求めたのにどうして玉座の間ではなく私室に招かれたのかと思えば、こういう理由だったのか。
そりゃ女王様のこんな姿を人目に晒すわけにはいかないもんな。彼女の横で「ママ……」と慰めているエルルシーの姿が、痛々しさに拍車をかけていた。

とはいえ、俺の考えが正しければ事は急を要する。
リュドミナさんを母のように慕い、師のように敬っていた女王には酷かもしれないが、悲しみに暮れている場合ではないのだ。

「ローレンシア様」

十分彼女の気持ちに配慮しつつ、しかししっかりと俺は声を掛けた。
だから声は届いているハズだ。なのにローレンシア様はこちらを一瞥することすらなく「いやああぁぁぁ」とか「何故ですかぁっ」とか、慟哭の声を響かせるばかりである。

あまりにも悲痛な泣き声に女王様がどれだけリュドミナさんを慕い、頼りにしていたかが分かり、こちらまで胸が締め付けられてしまいそうだ。
寄り添っているエルルシーは「なぁママ……。辛いのは分かるけどセンセーが来てくれてるんだぜ……」と援護してくれているが、望みは薄いだろう。

――しばらく無理かもしれないな……。

その「しばらく」が致命的な対応の遅れを招く可能性にギリッと歯噛みし、けれど俺にはこれ以上どうすることも出来そうにない。
出会ってから三か月程度の俺だって、リュドミナさんとの死別で胸が張り裂けそうになっているのだ。ローレンシア様の想いは察するに余りある。
かといってリュドミナさんに託された以上、ここで失策を打つこともできない。

ある種の板挟みに陥り、如何ともしがたいもどかしさに拳を握り締める俺。
そんな俺を救ってくれたのは

――パンッ!

「ママっ! ママは女王だろっ! しっかりするんだぜっ!!」

エルルシーだった。
女王様の頬を張った金髪の少女が、涙を浮かべながら母を叱責していたのだ。

「で、でも……だって……だっておばさまが……っ」

「だからこそだぜっ! こんな時だからこそ、ママがしっかりしないとっ!」

「ムリよ……。だっておばさまがいなくなったのに……」

――パンッ! パパンッ!

「ママはアタシにとって自慢のママで、自慢の女王なんだぜっ!」

「け、けれどわたしなんかじゃ……」

――パパンッ! パンッ! パパパパンッ!!

「恰好良いとこ見せてくれよっ! ママは最高のママなんだってとこっ!」

「あ、あのねエルルシー。ちょっと叩きすぎなの……」

真っ赤になってしまったローレンシア様の頬にドン引きする俺である。さすが脳筋家庭だと感心せずにはいられない。

だがおかげで、女王様は少し落ち着きを取り戻したようだ。
俺は精一杯の言葉と暴力を尽くした金髪少女を撫でながら、改めてローレンシア様に向き合い、そして手の平を差し出した。

「これ……は……」

そこに乗っているのは、四本の槍と戦乙女が描かれた小さなメダルだ。
小さいけれど、俺に託されたリュドミナさんの意志そのものだ。

「俺では頼りないかもしれません。ローレンシア様の心痛を和らげて差し上げることも出来ません。ですが俺は、リュドミナさんに託されました。だから命を賭けてでも、俺はリュドミナさんの想いを継ぎますっ」

俺の覚悟が伝わったのだろう。静かに息を吸い込んだローレンシア様は、ようやく真っ直ぐ俺を見る。

「……わたしはどうしたら良いですか?」

だから俺も真っ直ぐ見つめ返し、そして伝えるのだ。

「戦の準備を。コルネリアーナが攻めてきます」

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