巨乳キャラあつめました

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88話 託された意味

コルネリアーナが攻めてくる。
俺の言葉に、ローレンシア女王は半信半疑といったところだった。
かく言う俺も、実は半信半疑である。本当なら「攻めてくるかもしれない」程度に言葉を濁したいところなのだ。

だが、ここでの対応の遅れは致命的になりかねない。リュドミナさんを殺したコルネリアーナが何の準備もしていないとは考えられないのだから、少なくともこちらが迎え撃つ準備を整えていると見せることは必要だろう。上手くいけば相手の動きを封じられるかもしれないし、投降を促すことが出来るかもしれないし。
そう考え、俺は敢えて最悪の予想を口にしたのである。

――しかし最悪の予想は、そのまま現実のものとなってしまった。

あの夜から四日後。
コルネリアーナを登城させるために出した使者が、コルネリアーナが兵を挙げたという情報と、彼女からの宣戦布告状を持ち帰ったのだ。

予期していたとはいえ、これにはローレンシア様もショックを隠し切れないようだった。頼りにしていたリュドミナさんが月に帰り、女王を支えるはずの四大淫魔貴族であるコルネリアーナが反旗を翻したのだから当然だ。支えを半分失った形である。

けれどこちらも指をこまねいていたわけではない。予め対応を決めておいたので、それに沿ってローレンシア様が行動を開始する。
しかしこれが、さらなる事態の悪化を招いてしまった。

「どういうことなのっ!? どうして二人とも動いてくれないのですかっ!?」

女王の執務室に響いたのは、ローレンシア様の悲痛な声だ。
それもそのはずである。報告を聞いた俺も、思わず天を仰いだほどなのだから。

動いてくれないという二人。
それは、残りの四大淫魔貴族のことなのだ。

反旗を翻したコルネリアーナ軍に対し、ローレンシア様は四大淫魔貴族の二人と代理四大淫魔貴族である俺を参戦させる予定だった。圧倒的な軍勢を率いることで、戦いが起きる前に降伏させたかったのだ。
そうすれば余計な血が流れなくて済むはずだったのに、二人が動いてくれなければコルネリアーナも諦めてはくれないだろう。

戦争は、もはや避けられないところまで来てしまっていた。

ちなみに二人が動かない理由は、このようなものである。

『昨今の夢渡り不能者の多発、ホロウ化現象への対応の甘さから女王陛下の求心力の衰え著しく、軍を動かすことままなりません。この上は女王陛下御自ら乱を治め、その御威光を今一度お示しになって頂きたく――』

まぁようするに「ちょっと情けなさすぎるけど女王大丈夫? 国を治める器じゃないんじゃね?」みたいなことを言われてしまったわけだ。後ろ盾であったリュドミナさんを失ったことも影響しているだろうし、恐らくコルネリアーナも何らかの手を回しているだろうことは確実である。二人は静観を決め、事の成り行きを見守るつもりらしい。

敵に回らなかったことを喜ぶべきかどうか……。
とにかくこれで、平和的に解決する道が閉ざされたことになる。

かくして戦争の準備が慌しく始まったわけだが、現代の地球と違い、中世ヨーロッパ並みの文明しか築いていない彼女たちだ。大きな戦ともなれば準備に相応の時間が掛かる。

兵を集め、武器防具を集め、食糧を集め……。
進軍するにも、大軍では一日十五キロ程度進むのがやっとなのだとか。

試算だと、本格的に両軍がぶつかるのは二週間後とのことだった。

……。

「戦争を回避、ですか?」

ヘリセウス別邸に集めたメイドたちの前で俺が方針を伝えると、疑問を呈してきたのはルクレイアだ。
そんなことが可能なのか? という疑問以前に、実はうちのメイドさんたち、ヤる気を漲らせてしまっているのだ。

夜な夜な包丁を研ぎ始めたマリーエルさんとかちょー怖い。寂しさを紛らわせるため不倫した未亡人が、不倫相手の男に捨てられそうな雰囲気に似ているもの。しばらくは、あのお尻に触れないようにしようと心に決めた俺である。

とまぁ冗談はさておき、メイドたちの気持ちも分からなくない。
――リュドミナさんの仇討ち。
そういう気風が屋敷内に蔓延しているのである。

正直、俺だってリュドミナさんを殺したコルネリアーナは許せない。それに捕えたネイアローゼたちから聞き出した情報を纏めると、説得が不可能な状況であることも分かっている。

『コルネリアーナ様のご息女も夢渡りが出来なくて……月に帰ってしまったのよ……』

コルネリアーナが決意したのはその時だそうだ。
目的は『異世界へ渡る通路を解放し、夢渡りが出来ない者を救う』ことらしい。
娘を助けられなかった無念と後悔。今後も増えるだろう夢渡り不能者の救済。これが彼女の最終目的だ。

とはいえ、まともに反乱したところで他の四大淫魔貴族たちに妨げられるのは目に見えていた。そこで王家の威信を失墜させる方法を模索していたのだが、ちょうどそこに現れたのが、ひまわりの種を持った柳下静香だったというわけである。

その特性を利用することを思いついたコルネリアーナはサキュバスたちをホロウ化させ、ホロウ化と夢渡り不能者を結びつけることで「この世界は今危機に瀕している」と民に知らしめたのだ。
これに対して、ローレンシア様たちは有効な打開策を見いだせなかった。まぁ異世界の植物の種が原因だなんて分かるはずもないので無理はないのだが、世論はそう思ってくれない。無能な女王というレッテルを貼られるまで、そう時間は掛からなかったというわけである。

本来ならこのまま時間が推移し、やがて女王に対する不信任案でも出すつもりだったのだろう。しかし俺と言う不確定要素が現れ、ホロウ化したサキュバスを元に戻し、精液を提供して夢渡り不能者に配り始めてしまった。

だからコルネリアーナは俺を拉致るという強硬策に打って出ることになり、まんまとリュドミナさんに尻尾を掴まれたというのが事の顛末である。

「戦争は回避する」

もう一度。メイドたち全員を見回した俺は、力強く宣言した。

「ですが主様がっ! ……リュドミナ様が殺されたのですよっ!?」

それはメイドたち全員の想いなのだろう。「そうだそうだ」と騒ぎ出すようなことはないが、無言の圧が凄まじい。下手をすれば俺を犯し尽して傀儡に仕立て上げ、無理やり戦争をしかねない勢いだ。
ルクレイアとアルムブルムさんもそんな気配を感じたのかもしれない。二人は俺を守るように、スッと俺の前に出ていた。

だがその二人を押し退け、俺はメイドたちの心に訴え続ける。

「だからだ」

「どういうことですか!?」

「考えてみて欲しい。どうしてリュドミナさんは一人でコルネリアーナに遭いに行った?」

リュドミナさんがコルネリアーナを止めようとしていたことは間違いない。
でもその手段として、彼女は対話を選択したのだ。
それは何故か?
認めていたからだ。サキュバスたちを想うコルネリアーナの想いも本物なのだと。だからこれ以上余計な血を流させないため、リュドミナさんはたった一人で説得に向かったのだ。

だが結局、リュドミナさんの言葉は届かなかった。
けどそれでも、リュドミナさんは俺に託してくれた。
サキュバスたちを、より良い未来に導いて欲しいという願いと共に。

「リュドミナさんは争いなんか求めていない。きっと仇討ちなんてしたら地下室行きだぞ?」

「でも……ですが、どうやって止めるのですか?」

当然の疑問だ。
俺にも止められるなんて確証はない。

けれど可能性はある。
いや、やらなければならない。
リュドミナさんが俺に託した意味。
そしてネイアローゼたちから聞き出した情報。
そこから導き出されたのは、俺にしか出来ない……俺になら出来る方法なのだから。
それに俺の考えが正しければ、彼女たちは擦れ違い、そして勘違いしている。
このまま戦うなんて、絶対間違っているのだ。

だから俺は居並ぶメイドたちに向かい、深々と頭を下げる。

「みんなの力を貸してくれ! リュドミナさんの仇を討つためじゃない。戦争に勝つ準備でもない。この世界を救うため、みんながより良い未来を築けるためにっ! どうか俺に力をっ!!」

シンと静まってしまった大広間。メイドたちは、何を言うべきか分からず息を飲んでいた。
そんな中で一番最初に口を開いたのは、やはり夜空を思わせる藍色の髪のメイドだ。

彼女は僅かに口角を上げ、悪戯心たっぷりにこう言った。

「仕方ありませんね。では、ザーメン一搾りで」

と。

……。

それからの日々は、まさに激動の毎日だった。
なにせ時間がないのだ。やることが多すぎる。

着々と軍備を整えるローレンシア様たちを横目に城内を駆けずり回り、王宮図書室でこの世界の歴史を学び、時には捕虜となったネイアローゼたちからも話を聞き……。

そうしてついに……俺は目的のモノを見つけていた。

「んじゃ行ってくる」

開戦まであと三日。
ローレンシア様率いるハートランド軍は、すでに王都を出立している。街や城に被害を出さないため、彼女は野戦を選択したらしい。
地の利を自ら失う形だが、自分の進退をかけた決戦に際しても、民に犠牲を出すまいとする彼女の気持ちを俺は立派だと思う。
もちろん、それを批判する者も多い。勝つ気があるのか? 何を利用してでも勝たなければ意味がないのではなのか、と。

ローレンシア様は、王として優し過ぎるのだ。けど俺はそんな彼女だからこそ守りたいと思う。きっとリュドミナさんもそうだったのだろう。

だから時間的にはギリギリだ。
なのに出発する俺の袖を、ルクレイアが不安そうに掴んできていた。

「分かってるだろ? ルクレイアを連れて行くわけにはいかないんだよ」

「……帰ってきますよね? この前は裏切られましたが」

「うぐぅ……。それを言うの卑怯じゃね?」

あれは不可抗力だろ。
言い返せなくなってしまった俺を、しかしルクレイアがひしっと抱き締めてきた。

「帰ってきてくれないと許しません」

俺も彼女を抱き締め返す。

「あぁもちろんだ。だいたい、帰って来なかったら毎晩夢に見そうだしな」

「当然です」

そうして口づけを交わし、ルクレイアとアルムブルムさんに向き直った。

「行ってきます」

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