EX4-1 二人は発情中
俺は今、リュドミナさんのお屋敷。本邸に来ていた。
お城に行くことになって以来の訪問だから半年ぶりくらいか? 懐かしさを感じるとともに、屋敷の主人がもういないのだと思うと胸が痛んでしまう。
だがメイドたち総出で出迎えられれば、暗い顔などしているわけにいかない。
変わらず元気な顔ぶれに笑みで応え、そのまま夕食を囲んだ俺は、今夜ここに泊まることになっているのだ。
なんせ、ようやく取れた休暇だからな。
サキュバスタウンの運営が軌道に乗り始め、入口側での接客も他の子に任せられるようになってきたため、やっと身体が空いたのである。
それにヘリセウス領も、かなり安定してきたとのことだ。
当主は不在のままで、メイドさんたちによる合議制を採用したらしいと聞いている。
四大淫魔貴族という肩書きは外れたが、他の四大淫魔貴族の様子からも、これは形骸化していくのだろう。人間の文化を取り込み始めたこの世界は、ひょっとしたらこのまま民主化するのかもしれない。
まぁ、サキュバスたちの世界がどうなっていくのかは置いておこう。
そんなことより、久しぶりに二人と過ごせる夜の方がずっと大事なのだから。
と思っていたのだけど……。
「なんで地下なんですかね……」
どういうわけか、俺は地下室に来ていた。
もちろん、俺を遊戯室に招待したのはルクレイアとアルムブルムさんだ。
二人はお揃いの黒下着姿で横向きにベッドで横たわり、肘を付いて半身の姿勢。舐めるようにこちらを見ながら、しなやかな手で俺を招き寄せていた。
久しぶりに見る二人の裸身は、とてつもなく美しい。
艶やかな藍色髪のルクレイアはすらりと長い四肢を惜しげもなく晒していて、網目の荒いガーターストッキングが良く似合っていた。半裸の彼女は見ているだけで射精してしまいそうなほど色っぽく、冷ややかにも見えるクールな眼差しに被虐心が刺激されて実に魅力的である。
一方、くしゅっと柔らかそうな桃色の髪はアルムブルムさんだ。
普段はオレンジやピンクなど温かみのある下着を好む彼女だが、黒い下着は身体の凹凸をくっきり浮かび上がらせ、今まで知らなかった魅力を引き出しているようですらある。
もちろんアルムブルムさんの一番の魅力は大きなおっぱいで、横向きの姿勢で寝転がっていると大きな乳房が柔らかさのままに形を変え、今すぐ揉みしだきたいくらいだ。
大人の雰囲気を漂わせる黒いブラジャーは母性溢れる彼女の乳房をエロティックに書き換え、甘い香りと合わさって濃厚な色気が立ち込めているようだった。
そんな二人にベッドへと誘われている。
これで死んでも構わないと思えるほど興奮する提案だが、しかしどうにも俺はゾワゾワと危険を感じてしまっていた。
だって地下室なんだもの。
なんでここ? って疑問が尽きない。
それに二人から感じる気配が、なんだか普段よりずっと淫靡だ。
まるで獲物を見るような二人の視線に、久々にサキュバスというものを意識する俺である。
「どうしました?」
「来てくれないの?」
俺の戸惑いを見透かしたように、二人が声を掛けて来た。
蝋燭に揺らめく瞳を妖しく濡らす二人が、ぽんぽんとベッドを叩く。
二人の間に挟まれる場所だ。ここに来いということなのだろうが二人の距離が近いため、非常に狭い空間である。そこに寝そべってしまえばすぐさま彼女たちの柔肌に埋もれ、捕食されそうな気がした。
けどそれ以上に、この誘いを跳ねのけられるわけがない。
ふらりふらりと。俺はベッドへ上るため、無意識のうちに足を進め始めていた。
だが……。
「その前に一つ」
ルクレイアの言葉で、俺は動きを止められてしまった。
ここまできて一体何を?
小首を傾げる俺に対し、彼女はペロリと舌舐めずりをしてみせる。
「誠に伝えておかなければなりません」
「なにを……?」
「ルクレイアさんとわたしね、今日は徹底的に誠くんを責めようと思ってるの」
え……?
な、なんで……?
ずっと寂しい想いをさせていたから?
でもそれは仕事っていうか何ていうか、とにかく忙しかったわけで、俺も寂しかったわけで……。
「うん、そうだね。誠くんが頑張ってたのは知ってるよ」
「ならなんで……?」
「おチンポ様も随分忙しかったご様子ですね?」
あ……。
「ローレンシア女王、ラナナ、ニーア、その他大勢。気づかれないと思いましたか?」
「い、いや、それは……っ」
「忙しいなら仕方ないなって我慢してたんだけどね……どういうことか教えてもらえるかな、誠くん」
これはヤバい……。
彼女たち本気だ。本気で怒っていらっしゃる。
「他のサキュバスたちは、サキュバスタウンに行けばもう精液に困ることはないんだよ? でも、わたしたちは違う」
「わたしとアルムブルムは、誠以外から精を得られません。まぁ他の男からなど得たいとも思いませんが……」
ちょっと目を泳がせたルクレイアが可愛らしい。
けど彼女は、すぐにキッと視線を強めていた。
「だから決めました」
「な、なにを……ですかね?」
「誠くんも、わたしたち以外じゃイけないようにしてあげようって」
えぇ……。
「わたしとルクレイアさんで、誠くんがドロドロになるくらい責めてあげる。もう他の子じゃ満足出来なくなるように徹底的にね」
「誠もその方が嬉しいのでは? ノルンに聞きました。わたしに壊して欲しいのでしょう?」
確かに言った気がするけど、あの時はつい自然に言ってしまったわけで……。
てか何余計なことチクってんだよあのドSメイドめ……っ。
い、いや、それはいい。
今はこの場をなんとかしないと……。
けれど俺は、言い訳することも動くことも出来なくなっていた。
喉はカラカラに乾いてしまっているし、足はガクガク震えてしまっているし。
それほどに、二人から本気の気配を感じているのだ。
するとアルムブルムさんが、フッと表情を和らげた。
「ホントは我が侭だって分かってる。誠くんを独占したい。わたしたちだけを見てて欲しい。他の子なんかと仲良くして欲しくないっていう我が侭……」
ルクレイアは何も言わないが、同じ気持ちなのかもしれない。
藍色の髪をかきあげ、彼女は息を吐き出していた。
「ですので、今夜は無理強い致しません。実のところサキュバスの本能が疼き、自分を抑えきれていないだけですから」
「そうなのか?」
「久しぶりに誠くんと愛し合えるっていう嬉しさと、あとはほら……この前紅夜だったでしょ? だから、ね?」
確かに前回の紅夜は三日前だ。
その日は当然サキュバスタウンも休みにして、俺はあちらの世界で一夜を明かした。
「アルムブルムと慰め合ってみたのですが、思いのほか激しくなってしまいまして――」
「ル、ルクレイアさんっ! それは言わなくていいからっ!」
うおぉ……っ。
なんだその天国みたいな光景。すげぇ見たいんですけど。次回の紅夜は二人の部屋に隠しカメラをセットしておこう。
まぁとにかく、二人が異常な発情状態になっていて、精神的にもちょっとヤバくなってるってのは分かった。
紅夜の日に頑張りすぎたため、精液枯渇症に近い状態なのだろう。
「明日になればたぶん落ち着くから。そうしたら今まで通り、普通に愛し合えると思うの」
「ですがもし、壊れるほど愛されたいと言うのでしたらそれでも構いません。自分で全裸になり、自分の脚でベッドに上り、自ら壊されにやって来てください」
「そこまでの覚悟で愛してくれるなら、わたしたちも愛し尽くしてアゲルから」
正直迷った。
迷って迷って迷い抜いた。
今まで通りでいいじゃないか。
ここで逃げても二人は変わらず愛してくれるし、俺も二人を愛していることに変わりはないのだから、と。
でも……
「……」
服を脱ぎ始めた俺を、二人はジッと見つめてきていた。
何も言わずに見つめられると、羞恥でどうにかなってしまいそうだ。
だがそれでも全てを脱ぎ捨て、俺はベッドに足を掛ける。
これからも、同じようなことが起こるかもしれない。
そんな時、二人に我慢を強いたくないのだ。
だから全て受け止める。二人に愛し尽くされる。
そう決めたのだ。
俺の動きを追う二人の視線を感じながらベッドに上がり、俺は彼女たちの間にゆっくり寝転がった。
仰向けになると、すぐに二人が密着してくる。そして彼女たちは俺を見下ろしながら、恍惚と瞳を濡らしているのだ。
「いいんだね?」
「誠は今、進んで猛獣の口の中に入ったのです。後悔はありませんか?」
二人も不安なのかもしれない。自分を押さえられず、本当に俺を壊してしまうかもしれないと。やり過ぎて俺に愛想を尽かされるかもしれないと。
馬鹿だなぁ。
そんなことあるわけないのに。
「ドンと来い!」
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