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エピローグ『ママもいっしょ』

優喜とラブホテルで一晩を過ごし、アパートに一度帰って仮眠をとり、だらだらしているうちにあっという間に日は傾き――
夕方。
新太は、約束の時間に、來嶋家を訪れていた。

「お邪魔します」

「い……いらっしゃい、新太くん」

玄関をくぐった新太を迎えたのは、どこか怯えた様子を見せる優兎だった。
優兎はちらりと家の奥、居間とキッチンのある方向を見てから、靴を脱ぐ新太の耳元に口を寄せる。

「あの……新太くん? 優喜が今朝帰ってきてからずっと機嫌がいいのだけど……私との関係、バレているのよね……?」

「はい、いろいろ全部話しました」

「そんなあっけらかんと……怒られなかった?」

「少し怒られましたけど、大丈夫です。今日はそういう話じゃないですから、安心してください」

そうは言われても、優兎としては気が気でないのだろう。
これからなんの話をするのか、その詳細を聞きたそうに口をもごもごとさせていたが、新太は聞かれる前にそそくさと居間に移動した。その後ろを、優兎も迷いのある足取りで追いかけてくる。
今に入ると、カレーのにおいが出迎えた。しかも妙にスパイシーだ。
キッチンを見れば、優喜が振り返り、楽しそうに笑みを浮かべた。

「新太くん! ナイスタイミング~。今さっきご飯も炊きあがったから、盛っちゃうね」

「すごくいいにおいするけど……これ、市販のルー? じゃ、ないよね?」

「言ったじゃん、カレー得意だって。
市販のカレー粉にあたしがすりおろしたスパイスちょっと混ぜてあるんだよ」

「マジか。得意料理って本当に……」

やっぱり疑ってたな、と苦笑する優喜だったが、手早くカレーをさらに盛りつけていく。
皿が並べられていく卓に新太が座ると、優兎もおずおずと座った。
カレーとサラダが並べられ、最後に優喜が新たの隣に座る。
笑顔の優喜、緊張気味の優兎。
対照的な二人の様子に新太は苦笑しながら、食事の前にすべき話をするために、口を開いた。

「優兎さん、今日は急に夕食を一緒に食べたいなんて言って、すいません」

「え? い、いえ、いいのよ……気にしないで」

「今日、どうしても話したいことがあって」

ん、と、優兎は不安げに小さく頷いた。
それに、新太は変に衝撃を与え過ぎないようにと言葉を選ぼうとしたが、そんな新太に先んじて優喜が言う。

「ママ、あたしと新太くん、結婚することにしたから」

優兎が目を見開く。
それから、ああ、とか、うん、とか、なんどか言葉にならない言葉をこぼして。

「おめでとう、優喜」

そう、悲しそうに微笑んで言った。
それから、あふれる悲しみを隠すように、矢継ぎ早に言葉を続ける。

「それじゃあ、新太くんのご実家に連絡もしないといけないわね。顔合わせ……は、相手方と話してからだけど。それに、結婚するならやっぱり、二人で暮らしたいわよね? 流石に新太くんの今の部屋じゃ手狭でしょうし、今度二人で内見にでも――」

「あの、優兎さん、ストップストップ! まだ続きが――」

「……続きは……続きなんて……今度じゃ、ダメ……? 今は、わたし、少し……もう……」

俯いた優兎の表情は見えない。けれど、その声の震えは、よくわかった。
きっと、終わりを想っている。
でも、そんなの間違いだから。
新太は立ち上がると、優兎の隣に歩いて行って、その肩にそっと手を添えた。

「ダメです。続き、聞いてくれないと」

「そんなの……意地悪だわ……新太くん。今は聞けないの、お願い」

「ダメです。だって……俺、この家で、優兎さんとも一緒に暮らしたいから。その許可、優兎さんにもらわないといけないんです」

その言葉に。
ゆっくりと、優兎は頭を上げた。
驚きの表情で。少しだけ、歳をとったような表情で。だけど、幼い子供のような表情で。

「……ほんとう……?」

「はい。ね、優喜さん」

「うん。あ、でも、エッチはあたし優先だからね? ママもしていいけど、新太くんが余裕あるときにって感じで」

「お、怒って、ないの? 優喜……わたしのこと……」

さっぱりとした口調で言う優喜に、優兎は驚きの目を向ける。
その視線を正面から受けながら、優喜は優しく微笑むと、新太と同じように席を立って優兎の隣にやってきた。

「怒ってる。ママが、あたしが出ていくー、ってなったら、泣いちゃうくらい、寂しい気持ち抱えてたってこと。
……まぁ、こっそりエッチしてたのも怒ってたわけじゃないけど。
あたしもエッチ我慢するの大変なのはよーくわかったし? 新太くんがエッチできる回数の内、三分の一くらいは譲ってもいいかなって」

だからさ、と。
優喜もまた、優兎の肩に手を添える。
ついに目元に溜めきれなくなった涙を、ぼろぼろとカレーにこぼす優兎に。

「一緒に住んでもいい? みんなで。……ママもいっしょに」

「そんなの……もちろん……!」

優兎は両肩に置かれた新太と優喜の手を、とって、胸元に引き寄せる。
大事なものを胸に抱いて泣きながら笑う優兎を、新太と優喜は両側から、一緒になって抱きしめた。

「愛してるわ……優喜。そして、ありがとう……新太くん」

順に新太と優喜を見て、優兎は笑みを浮かべる。
心の底からの喜びに、彼女は満たされて。

「わたし、今、幸せよ」

グラドル彼女のママは、女としてだけではけして満たされることのなかった幸せを、噛みしめるのだった――

『憧れのグラドルのママ』END

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