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最後の日~それから

──はぁっ♡♡♡はぁっ♡♡♡はっ……♡♡♡

「ん、射精る……?♡♡♡じゃあ、ほら、ぎゅー……♡♡♡」

──う゛う゛っ……♡♡♡

みっちりと詰まって、一ミリの隙間も無い乳の谷間に、薄くなった精液が流れ込む。
腰振りとも言えないような、ほとんど止まっている動きで乳肉に甘え、吐精。
日が高く昇り、夕焼けに空が赤く染まり、夜のとばりが下りて、また朝日が昇るまで。
そして、最後の夜が訪れるまで、何度繰り返したかも分からない射精の繰り返しに、またも屈服する。
彼女の持つ、人間を狂わせる淫蕩の極みな柔肉は、何度味わっても、貪っても、ほんの少しだって慣れる事はできず、むしろより深みへと引きずり込む、魔の蠱惑。
早瀬渚という、女の魅力をひたすら煮詰めて作られた、脱出不可能の檻からは、何人たりとも逃れられないのだ。
それを──深く、深く痛感しながら、屈従の証を、ひり出した。

彼女に触れれば、その分だけ肉体が彼女に依存して、それに追従して精神まで堕ちる。
彼女に触れようとすれば、彼女の持つ魅惑のカリスマに精神がやられ、それに追従して肉体まで隷属させられる。
渚さんに惹かれた時点で、その人間にはもう抗う術も無く、どうしようもなく堕落することしかできないのだろう。
今日もあれほど向けられてた、悪意にも似た好意の数々が、彼女の持つその魔性をこれ以上ないほど証明している。

──ならば、その両方を既に向けていて。
尚且つ、彼女からもその感情を返されたら、人間はどうなってしまうのか。

「……クスッ♡♡♡だらけきった顔だね♡♡♡顔中とろっとろで、苦しいくらい幸せそう……♡♡♡このまま死んじゃっても文句ないって感じ♡♡♡ああ、可愛いなぁ、本当……♡♡♡」

──きもちい。なにもわからない。すき。
頭の中にピンク色のもやがかかったような、艶夢の中をひたすら彷徨うかのような、そんな心地。
脳内麻薬が氾濫して、頭はすっかり快楽漬けになり、ただ快感を身体中に流す以外何の役にも立たない。
ただただ、多幸感に支配されて、全身に流れる甘イキの感覚に、涎をぽたりと溢すだけ。

そして、数十秒に一度くらい、思い出したようにペニスをゆっくり引き抜き、そしてまた突き入れる。
ぽよん……♡と、弱弱しくプリンが震えるくらいの揺れしか与えられない、ひたすら甘えた腰遣い。
もちろん、僕が味わう刺激も相応に弱弱しく、平時なら一日かかっても射精できないくらい、もどかしい快感しか感じられない。

けれど──それが、渚さんの常軌を逸した感触の極乳なら、話は別だ。
乳内に挿れて、ゆるゆると抱かれているだけで、その蕩けるようなクリーム触感に、ペニスが尿道を緩ませてしまう。
それが、すっかりおっぱいマゾを拗らせた、虫けらほどに弱い僕のペニスなら、尚更だ。
むしろ、今ならパイ揉みさせて貰うだけで、早漏のオナニーよりも早く、暴発してしまうだろう。

同様に──フェラでも、キスでも、耳舐めでも。
調教されきった体は、渚さんからの愛撫の快感を100%以上に感じて、極上の恍惚を伴う吐精を行うだろう。

それほどに、躾をされた僕は、これ以上ない極楽を見て──ベッドの上に、どさりと倒れた。
もう、何もされていないのに、精液がとろとろと漏れている。
はぁぁ……♡♡♡と、悶えたため息を吐くような歓喜の法悦が、体から引いていかない。
甘ったるい脱力感と共に、本物の天国に居るような、呆然自失とするほどの陶酔に浸る。

──もう、幸せ過ぎて、何が何だか分からない。
少なくとも、もう僕は思考と共に動いていない。
ただ、体が渚さんを求めて、それに本能が従って、動いて。
その結果として──絶頂。
気が狂うほどのエクスタシーに呑まれて、酔いしれる。
その繰り返しだけが、ただあった。

「フフ、もう、疲れてしまったかな……?♡♡♡まあ、これだけ射精すれば、それも当然だとは思うが……♡♡♡」

──ぬぽん、と抜かれたペニスから、精液が詰まって卵型になったコンドームを外される。
慣れた手つきで、渚さんはそれの口を結ぶと──ぷち、と歯を立てて、口の中でゴム膜を破った。

──くち、ぷち、ぷちゅ。
うっとりと、精子の一匹一匹を味わうように噛み潰しながら、渚さんは僕の汚液を飲み下す。
僕の最も汚らしい欲望そのものを、それはそれは嬉しそうに、受け入れてくれる。
そのまま捨てられて然るべきものを、勿体ないと言わんばかりに、迷いなく。
そのサキュバスじみた姿に、僕は──喜びを、ペニスの勃起という形で、これ以上なく表明した。

「ん、こくっ……♡♡♡おや……?♡♡♡動けないほど疲れているくせに、おちんぽだけは元気いっぱいじゃないか……♡♡♡全く、本当に可愛がり甲斐のある仔猫だな、キミは……♡♡♡」

ぐったりと、ペニスだけは天井に向けながら、すっかりくしゃくしゃによれたシーツに横たわる。
そんな僕に対して、渚さんは雌豹のポーズを取り──そんな大変な体勢を保つ体力が、一体どこに残されているのだろうか。やはり彼女は、本当は僕から体力を吸い取るサキュバスなのかも知れない──余裕綽々と、愛液にぬらつくヒップを振った。

「さぁて……♡♡♡その、ご主人を倒れるほどくたびれさせても遊びたがる聞かん棒を、もっと躾けてやらなくちゃね……♡♡♡」

まだ、まだ止まらない。
僕にほんのちょっとでも欲望が残る限り、そして彼女の底なしの愛欲が尽きるまで──つまりは、放っておけば永遠にでも──この行為は続くのだろう。
何せ、彼女は性欲によってセックスをすることはない。
ただ、渚さんは、性的快感を得ることよりもずっと、僕をいじめて、可愛がり、射精させて、性的快楽に溺れさせることが大好きで──こうして彼女の倒錯した性嗜好を羅列すると、ますます淫魔そのものだ──その為だけに、僕をこうして弄んでいるのだから。

「ほら、キミはそこで寝転んでいればいい……♡♡♡あとは、私がしておくよ……♡♡♡と、おや?」

だから、渚さんは止まらない。止まる理由がない。
──そのはずなのだが、彼女はぴたりと動きを止めて、少し困ったような様子で、こちらをちらりと見た。

「……ゴム、無くなってしまったみたいだ」

コンドームの箱を片手に、小首を傾げる渚さん。
からからと、逆さまにした箱を振り、こちらを見て眉を困らせた。

「……ふむ、まさか、ね。万が一にも切らさないように、過剰なくらい用意させておいたのだけれど……。いや、使い果たしてしまうとは、素直に驚いたよ。本当に、我ながら信じられないほど、夢中になっていたんだね……」

彼女も、僕のすぐ隣に、身を投げ出して寝転ぶ。
もう十分だと判断したのだろうか、僕の肌に触れたり、何か興奮を誘うような事はしてこない。
ただ、じっと僕の目を眺めて、それだけ。
そうして、しばらくこちらを見ながら、空き箱を手慰みに潰した後、それをゴミ箱に投げ捨てて、言う。

「……ねぇ。もし、キミさえ良ければなんだけれど……♡
折角だし、ナマで、しないかい……?♡♡♡」

──……!!

言葉を失うとは、こういう事を言うのだろう。
その問いかけに、僕は何も返せなかった。

渚さんの方へと振り向き、目をまん丸くして刮目する。
彼女は、相変わらず頬を染めながら、にやりと不敵に笑っていたが──その表情は、淫欲に支配されたものでは、決してなかった。
理性も含めて、心の底から、望んでいる。
身重になれば、きっとモデルの仕事を休止することになるだろうし、それなり以上の批判も出るだろう。
大学だって、休学もしくは自主退学せざるを得ない。

でも──彼女は、それでも、全く構わないと、そう考えている。
渚さんは、僕なんかとは比べ物にならないほど聡明で、判断力もずば抜けて高い。
直感的に物事を決めるきらいがあるが、その実、脳内ではしっかりと熟慮しており、故に瞬時に閃いた計画でも完璧に遂行してみせる。
この数日、渚さんを誰よりも近い位置で見てきた僕は、彼女に対してそういった印象を抱いていた。

──そして、渚さんに対する僕の仮説が、間違っていなかったとすれば。

「まあ、これは、私だけが決められる事ではない……♡♡♡キミとの合意があって初めて、成立する……♡♡♡ゆっくり、私の話でも聞いて……♡♡♡その上で、決断してほしいな……♡♡♡」

──僕は、渚さんの誘惑から、逃げられない。
ゴム無し生えっちという、そもそも何かをそそのかされなくても、ただ目の前にちらつかされただけで、理性が崩壊してしまう、その禁断の果実を。
僕は、きっと、思考を乗っ取られたように、手に取らされるのだろう。

仰向けに寝転んだまま、受け止めるように両手を大きく開く渚さん。
陶器のような生肌を、守るものもなく無防備に晒し、作りものじみて美しく、不自然なほど淫蕩な何もかもを、さらけ出している。
渚さんは、僕に向かって、全てを差し出してくれている。

「もしも、私の願いを受け入れてくれるなら……♡♡♡このまま、覆いかぶさって、パパらしい甲斐性を見せつけて…♡♡♡キミが元来持っていた性癖は知らないが、男性的に女を手籠めにしたい欲望くらいはあるだろう……?♡♡♡キミも立派な男の子だ、やられっぱなしでは嫌だものね……?♡♡♡」

寝転んだまま、眠ってしまいそうなほどリラックスした表情で、目を閉じて。
両手を頭上に投げ出し、無抵抗を示して、誘う。
食虫植物が、甘い匂いや魅力的な姿形で、獲物を呼び込むように。
あそこに飛び込めば、取り返しがつかないと知っていても、何もかもを忘れ、どうでもよくなりながら、ただ気持ちよく孕ませるためだけの杭打ちを始めたくなってしまう。

一昨日、昨日、そして今日と、赤玉が出そうなくらいに、しこたま射精した後ですら、こうなのだ。
もしも、最初に挿入した時にゴムを取り上げられていたら、一発で崩壊していただろう。
渚さんに、何度目か分からない畏怖の魔性を感じて──そして、つまりこれは、渚さんなりにちゃんと対話をしようとしてくれていると、そう僕は受け取った。

「フフ……♡♡♡そう、落ち着いて……♡♡♡ゆっくりと考えて、決めればいい……♡♡♡ちゃんと話して、その上で、選べばいいんだから……♡♡♡」

──ごくりと、生唾を飲み下した。
たぷりと、おっぱいは重力に従い、胸板から左右に分かれて零れてゆく。
悩ましいお腹の括れが、僕の視線を惹きつけてやまない。
何度も何度も、犯し犯されて、すっかりその具合の虜にされた尻肉が、ベッドに潰れてマシュマロ溜まりを作っている。

蠱惑的なペリドットの瞳が、僕を透かすように見ている。
すっかり理性を破壊され、渚さんのカラダに迫られれば、どんな時でも従順にペニスから精液を吐き出す奴隷となった、僕を。

──でも、それは、その……。

まごついた言葉が、口をつく。
何の意味も無い接続詞だけの言葉だったが、そこに否定のニュアンスがあることだけは伝わっただろう。

そう、否定。
時期尚早だとか、渚さんの仕事にも関わるとか、様々な理由はあるが、少なくとも今それを了承する気はなかった。
何故ならば──何よりも、僕自身の覚悟が、足りない。
とにかく、理由と言えば、それに尽きた。

「ふむ……♡まあ、当然と言えば当然だね……♡これは、本来は即座に決めるような話ではない……♡それは、私だって理解しているさ……♡」

そんな僕の表情を見て、渚さんは深く頷く。
あくまでも、無理強いする事はない。
そんな彼女の態度は、僕をひとまず安心させるが──それと同等に、僕に興奮を植え付ける。
だって、あの表情は──ちっとも、諦める気が無い。
不敵なまでの微笑みと、深く芯の通った意志。
必ず、子宮がみっちり満たされるまで、膣内射精させる。
性的なニュアンスの全くない、穏やかさすら感じる笑みは、妙な事にそう如実に語っていた。

「だが、少し考えて欲しいのだけれど……♡キミがそれを否定する理由というのは……♡
もしかすると、一つとして存在しないのかも知れないよ……?♡♡♡」

──瞳の輝きに、より深さが増す。
逃がさない。
やはり、彼女の鋭利で透き通った瞳は、その奥の感情をはっきりと出すようだ。
言葉になって聞こえるほど、渚さんの瞳はそう言っていた。

「例えば、そうだね……♡♡♡養育の話をしようか……♡♡♡
ご存じの通り、私はちょっとした資産家でね……♡♡♡結婚資金、マイホーム資金、それから子育ての資金と、全て揃っているのさ……♡♡♡当面の生活費もあるから、子供ができたらその子を育てる事に注力できるよ……♡♡♡私なら、一般的な家庭よりも手厚く、教育も育成もできると思うがね……♡♡♡」

──ぞく、と、背筋に冷たいものが走る。
少なくとも、今語った渚さんの理屈には、破綻は無い。
とすれば──渚さんは、一個一個、反対する理由を潰す気ではないだろうか。

渚さんの頭の回転に、僕などが追いつけるとは思えない。
もしも、渚さんに理攻めで詰められれば、僕に勝ち目はないだろう。
でも、それって──ただ、方法が誘惑から対話にすり替わっただけで、僕に抗える術なんて、一つも残されていないという事にはならないだろうか。

「それから、私の仕事……つまり、モデル業の話だが、これも問題は無い……♡♡♡そもそも私は、事務所と恋愛禁止の契約をしている訳でもないから、違約金を取られる訳でもないし……♡♡♡モデル業を辞める事に関しても、私はそこまで危惧してはいないよ……♡♡♡みすみす私を手放せば、他のプロダクションに即スカウトされるという事は、私の処遇を知っている彼らもよく分かっているだろう……♡♡♡」

涼しげな顔で、渚さんはつらつらと語る。
裸のまま、股座を濡らして、しかし態度だけは威厳に満ちた状態で、僕にゴム無しセックスをしてもいい理由を、滾々と。
全ては──僕に、孕ませるために。
本来なら、僕が土下座して求めるべきそれを、渚さんは交渉してまでも、欲している。
そんな、どこかちぐはぐな──僕と渚さんの立場が逆転しているかのような状況。

それから、婚前交渉についてや、病気によるリスクの有無について。
それらを雄弁に語り、反論が無いとみると、軽く得意げな顔──つまり、有り体に言えば、ドヤ顔──を見せる。
その様子に、やっぱり可愛いなと思いつつ、黙って次の言葉を促すと。

「……まあ、そんな事は、はっきり言ってどうでもいいのさ……♡♡♡それよりも、いの一番に優先すべき、確固たる理由がある……♡♡♡」

笑みをすっと深くして、勝利を確信したかのように、舌なめずりを一つ。
渚さんは寝転んだまま、僕を下から見上げているのに、玉座のように高い場所から見下ろされているような、そんな気分。

「それは、キミの気持ちだ……♡♡♡キミが私を愛してくれているという点について、私は疑っていない……♡♡♡キミが、私と永遠に幸福な家庭を築きたいと思っている事もね……♡♡♡
キミも、欲しいだろう……?♡♡♡私との、可愛い愛の結晶……♡♡♡キミと私の遺伝子の果てを……♡♡♡」

──何も言葉を返さずに、頷きもしない。
何故なら、そんな事をしなくても、僕の心は確実に決まっているから。
渚さんはただ、当然の事を確認しているだけだから。

「リスクさえ無ければ、いいのだろう……?♡♡♡なら、キミのすべきことは一つだ……♡♡♡違うかい……?♡♡♡」

軽く手首を曲げて、手招き。
仔猫を膝元に誘うように、渚さんは優しく、指をこまねく。

「覚悟を決めて、早く、おいで……♡♡♡遅かれ早かれするのなら、早いうちが吉さ……♡♡♡母親になれる期間というのは、長いようで短いよ……?♡♡♡」

早く、早くしろ。
私を娶れ、モノにしろ。
言葉の裏に隠れ切れていない、そんな言葉を耳にして、僕は。

──改めて、座り直して、渚さんに向き合う。

「ん……?♡なぁに、急に正座なんかして……?♡」

──子供を作るなら、その……やっぱり、そういう関係になってからの方が、いいと思うんです。

どくどくと、心臓が鳴る。

だって、それは、正面から。
面と向かって、はっきりと、言わなければならない。
渚さんが、渚さんなりに言ってくれたのなら、僕もしっかりと言葉にして、伝えなければ。

「………………」

渚さんは、むくりと起き上がり、見透かすような眼差しで僕を見る。
──時期を誤ったか、もしくはやり方をどこかでしくじったか、なんて彼女が思っているかは定かではない。
でも、それでも、これを今言わない訳にはいかない。
後々、彼女に恥をかかせない為にも、今、言わなければ。

大きく息を吸い込み、吐く。
それを三度ほど繰り返してから。

──あの、結婚、して下さい……!

「…………!」

ぴくんと、体を跳ねさせて、目を見開く。

──その、頼りないかもしれませんが、ちゃんと頑張って、幸せにするので……!

真っ裸のくせに、こんな改まった姿勢で言って、間抜けに映ってはいないだろうか。
こんな馬鹿みたいな恰好で、急に告白したりして、幻滅されやしないだろうか。

──あの、それで……子供も、欲しいです!渚さんが、欲しい分だけ、頑張ります……!

ぎゅっと、血が出そうなほど拳を握りしめ、一息に言い切る。
心臓がばくばくと鳴り響き、裸だというのに暑くて汗が噴き出す。
恥ずかしいやら、緊張するやらで、渚さんの顔をまともに見られない。

「………………」

暫し、しんとした静寂が続く。
渚さんは、驚いた猫のように、目を見開いたまま、その場からぴくりとも動かない。

時計の針の音すらしない、うるさいくらいの静寂。
心臓に悪いその音に、ひたすらじっと耐えていると。

「……ふふっ」

それを破って、渚さんが、
にへらと笑って、吹き出す。

「ふへ、フフフッ、ククククク……♡♡♡」

いや──吹き出すというよりは、噴き出す。
枷を切ったかのように、顔を右手で覆いながら。

「クク、ウッフフ、アハハ……♡♡♡あっは……!!♡♡♡♡ハハハハ、アーッハッハッハ!!!♡♡♡♡♡」

狂ったかのように、笑う。
起こした上体を、またぽすりとベッドの上に倒して、咽るほどの大声で。

──ああ、失敗、したかなぁ。
内心泣きそうになりながら、いや、実際に少し涙目になりながら。
しかし、それよりも、目の前で見たことが無いほど転げまわる渚さんが心配になり、上からその表情を覗き込む。

──あの、大丈夫ですか……?
そんな事を、悲しみを堪えながらも言おうとした矢先に。

がばり。

何か見えないほど高速で瞬発的な、獣のようなものに体当たりされて、押し倒される。
その獣のようなものとは──当然、一人しか、この空間には思い当たるものはない。

「ウフ、ウフフ……♡♡♡♡♡」

──え、渚さん……?

身震いしながら、がっしりと僕の両腕を押さえつけ、痛いほど握りしめながら、喉奥から笑い声を上げる渚さん。
何と言うか、明らかに、正気ではない。
そして、この状態を、僕は恐らく知っている。
その表情を、恐る恐る覗き込むと──

「あっは、本ッッッ当に、キミってばさぁ……♡♡♡♡♡私の事を、どうしたいわけ……?♡♡♡♡♡脳みそブッ壊したいの……?♡♡♡♡♡」

にんまりと、耳まで裂けそうなぐらい、両の口を吊り上げて。

「なら、私だって、言うよ……♡♡♡♡♡
私と、今すぐ結婚しろ♡♡♡♡♡子供作らせろ♡♡♡♡♡一生、永遠に、今よりもずっとずっと、幸せにしてやる♡♡♡♡♡」

そのまま、プレスするかのように──ペニスを生膣に、叩き込む。

──~~~~~ッッ!?!?♡♡♡♡♡

全身に、むっちりとのしかかる肉感。
長身女体につぶされるようにして行われる、レイプそのもののようなまぐわいに──堪らず、精液を漏らしてしまう。

「あはっ……♡♡♡♡♡あんなに、ブチ犯したくなるぐらい可愛すぎる真似をするから、悪いんだ……♡♡♡♡♡あんな事言ってさぁ、犯されない訳ないってことぐらい理解できないの?♡♡♡♡♡ほんと、仔猫くんは、とことん……♡♡♡♡♡いじめられる、天才だねっ……♡♡♡♡♡」

──ばこ、ばこ、と音が鳴るくらい、強烈なピストン。
薄い膜越しではなく、直接味わう膣の感触は、その荒々しい抽挿の刺激を含め、あまりにも濃すぎる快感をもたらす。

──~~~~~っっ!!!♡♡♡♡♡っっ!!!♡♡♡♡♡~~~っっ!!!♡♡♡♡♡

「なぁに?♡♡♡♡♡今更喚いても、鳴いても、無駄でしかないよっ……♡♡♡♡♡キミが、あんなに、煽るのが、悪いんだろっ♡♡♡♡♡」

火がついたように、腰を振る渚さん。
三日間の疲れなど一切感じられない、欲望に任せた腰振りに、もはや喘ぎながら屈服する以外の行動がとれない。

「クク……♡♡♡♡♡あーあー、また甘えた射精して……♡♡♡♡♡もうクセになってるんだね、その勢いのないやつが……♡♡♡♡♡それじゃあ、パパになるのまだおあずけだろうね……♡♡♡♡♡そんな情けない絶頂では、卵子はあげられないね……♡♡♡♡♡」

今日、別に危険日ってわけでもないしね、と付け加えながら、クク、と小馬鹿にするような笑い声を上げる渚さん。
その声を、遠くなる意識で聞き届けながら、最後の気力を振り絞って、彼女に伝えた。

──すき、です……♡♡♡

「……ああ、もう、本当に……♡♡♡♡♡うん、私も、愛してるよ……♡♡♡♡♡」

────────────

「そう言えば、こんな話知ってるか?……いや、噂に疎いお前の事だから、多分知らねぇんだろうけどさ、ネットに上がってたぞ」

──うん?

友人に付き合って出席した、土曜の一限の講義が終わった後。
そのまま大学の中庭で駄弁り、時間も正午近くになったので、これからどこかで昼飯でも食べに行こうかと歩きながら相談していた時に、彼は突然そんな話を切り出した。

この男は、生来気まぐれな気質がある。
ある決まったテーマについて話していても──今回の場合なら、昼食を食べる店についてだ──ふと話題を思い付いたら、脱線してそっちの話をしてしまう。
おかげでこの男と喋っていると、中々会話が終わらない。
人付き合いが上手くない僕からすれば、その話題提供力は羨ましいが、肝心の内容は大抵が暇を持て余した主婦がするようなどうでもいい井戸端会議にも似た内容だ。

──まあ、こいつが話す内容はいつも暇つぶしには丁度いい温度感だから、実際こういう時は結構ありがたい。
まだ小腹が空いた程度の腹を撫でて、紙パックのジュースに口を着け、続きを促す。

「──早瀬渚、男と付き合ってるらしいぜ」

──んぐっ……げほっ!!

しかし、今日ばかりは、暇つぶしとはいかないようだ。
とびっきりの特ダネに、思いっきりジュースを気管に誤嚥して噎せこむ。

「信じらんねぇだろ?相手は誰なんだか知らねぇけど、あの早瀬渚と釣り合う男なんて、多分俺たちが見ても惚れるぐらいの超美形なんだろうな」

冷や汗が、たらりと流れ落ちた。
一体どこまで知られているのだろうか、どこから知られたのだろうか。
そんな素振りは、少なくとも大学内では見せていないはずだが──いや、よく考えてみれば、僕達は二人で堂々とラブホ街を闊歩して、挙句の果てには路上で思いっきりキスされたし、大勢の客が居るホテルのロビーを腰を掴まれながら連れられたりもした。
部屋で三泊した後に、あの時は意識が朦朧としていたのではっきり覚えていないが、僕がすっかり腰が抜けて立つこともままならなくなったから外まで運んでくれた時も、多分──渚さんの事だから、見せつけるみたいにお姫様抱っこをしたのだろう。

そんな事をしでかしておいて、まさか僕たちの関係がバレない訳が無い。
それどころか、写真や動画が出回っていても全くおかしくないだろう。

──大丈夫だろうか。
僕の顔が出回るのは最悪いいとして、渚さんの立場は。
もしも、万が一、僕と付き合った事が原因で、彼女がファッションモデルを続けられなくなったりしたら。

さあっと、顔中から血の気が引く音がした。

「おいおい……そんな青い顔するほど落ち込むことないだろ。お前、そんなに熱心なファンだったっけか?まあ、心配しなくても、どうせ今回の噂もデマだろ。早瀬渚のゴシップなんて全世界が求めてるから、閲覧者稼ぎのために週刊誌とかネット記事によく恋人について書かれるんだよ。もう今時この手の話題は誰も相手にしてねえのにな」

しっかし、こんな見え透いた嘘に引っかかる奴が居るんなら、案外こういう話もどっかでは需要あんのかな。
なんて、脚をぶらぶらさせながら、友人は僕を小馬鹿にするようにからからと笑う。

──なんだ、そうか……。
そんな男に、最早やり返すだけの気力も残っていなかった僕は、ただ胸を撫でおろしてため息を吐いた。

「しっかし……早瀬渚が本当に付き合うんなら、どんな男なんだろうな。いや、女かもしれねぇけど……やっぱし、同じ芸能人と付き合うのかねぇ」

──さあ、どうなんだろうな……。

心臓を痛くしながら、気のない返事をする。
顔色は元に戻っただろうか、脂汗は止まっただろうか。
とにかく、あまり正面から奴と会話をすると、今の精神状態では確実にボロが出る。
不自然にならない程度に体を背け、携帯を弄るふりをした。

「まあ、俺らみたいな奴は眼中に無いだろうけど……いや、逆にあれぐらい美人だと、付き合う相手の顔は気にしないのかもな。案外、大学内の人間とくっついたり……もしかして、俺にもワンチャンあったりして」

──っ……!

手を強張らせて、思わずスマホを手から落としそうになる。
忘れていたが、この男──勘だけはやたらと鋭いのだ。
まさか──ああそうだよ、渚さんは付き合う男の顔は平凡でも気にしないし、大学内でもイケてないグループに属してる男と付き合ってるよ──なんて口が裂けても言えるわけがないが、それを僕が言わずとも、ひょいと真相を当てられてしまいそうで、気が気ではない。

──馬鹿言えよ。って言うか、そもそもお前彼女居るんだろ?

いや、大丈夫だ、そんな訳がない。
そもそも、当てられたから何だと言うのだ。
証拠がある訳でもないし、僕がほんの一言「そんな訳がない」と否定すればいいだけだろう。

パックのイチゴミルクを一口含んで、自分に言い聞かせるように心の中で唱える。
そう、交際を否定する材料は無数にあれど、証拠なんてどこにもない。
僕がボロを出さなければ、渚さんに迷惑が及ぶ事は決してないんだ。

「なあ、お前はどう思うよ?」

──ん?……何の話だっけ。

うん、全く問題はない。
普通にしていれば、渚さんと交際していると疑われる場面なんてあるはずがないんだ。

学祭のミスターコンで優勝するようなイケメンですら、渚さんと交際しているんじゃないかなんて、身の程知らずな噂が立つはずがない。
それこそハリウッド映画の主演男優だとか、若くして一財を築いたやり手の社長だとか、そういう男になってようやく、渚さんと交際しているという噂の信憑性が出る──つまり、彼女と同じ土俵にやっと立てるのだ。
こんな、今年の就活がどうのとほざいている一般男子に、そんな疑いの白羽の矢が立つ理由が無い。

ただ、自然体で居ればいい。
それで、護身は十分だ。

「だからさ、早瀬渚の好みのタイプの話だよ。俺はさ、意外と草食系男子とか好きなんじゃねえかなと思うんだよな。色々薄そうな男って言うか」

──何か、コイツ、放っておけばどんどん核心に近づいていく気がするな。
そんな空恐ろしさを覚えながらも、努めて気張らずに、気を抜いて口を開いた。

──そうだな、渚さんの好みと言うと……やっぱり、普通に芸能人なんじゃないか。何だかんだ言って、吊り合う相手と結婚するのが自然だと思うけど。

なるべく友人の思考を逸らせるように、事実とは真逆の、しかし理屈で考えれば真っ当な事を言う。
さて、これでそっちの方向に考えが向くか、あるいはこの話題にさっさと飽きてくれればいいのだが。
なんて、そう軽く考えていると、友人は再度僕に問いかける。

「なあ……お前さ。実は、早瀬渚と仲良かったのか?」

──え。

予想だにしなかった問いかけに、フリーズ。
彼は驚いたように目を見開き、こちらをじっと見ている。
明らかに、何らかの原因があって、僕を疑っている様子だ。

──どこで、何を、失敗した?
顎を触りながら、必死にさっきの会話を脳内でさかのぼり、疑いのタネとなった部分を探っていると、僕よりも先に友人が口を開く。

「いや、だって……お前、俺も含めて大体の奴は苗字で呼ぶのに、渚さんって呼んでただろ?」

──……あ。

思わず、間抜けな声が口から零れた。
これ以上ないほど、至極単純な、ケアレスミス。
それでいて、それは最上級に致命的で、不自然さが際立つ最悪の失敗だった。

興味と好奇心の目線で友人からじっと見られ、内心頭を抱える。
もちろん、これ以上の追求はされないよう、なるだけ表情筋を強張らせて。

「そういや、この前合コンにお前を代理で送り込んだよな。彼女欲しそうにしてるくせに、こうでもしないと合コンなんざ行かないだろうから、無理やり行かせてやったんだが……まさか、お前……いや、いくら何でもそんな訳ないよな……?」

──ちょっと待て、彼女持ちのくせにと思ったらそんな意図があったのか!?

しかし、そうして必死に作った硬い表情も、友人の言葉によりすぐに剥がれてしまう。
初めて知った事実に驚愕して声を荒らげると、友人はからからと笑い、何が楽しいのか手を叩いて喜んだ。

「ははっ、まあいいじゃねえか、たまにはよ。お前も興味あるって前から言ってたし、実際こうしないと行かなかったろ?」

背中をバシバシと叩き、笑顔を向ける友人。
それに対して、お前は酒でも飲んでるのかと揶揄しながら──心の中では、ほっと安心のため息を吐いていた。
どうも、奴の会話の興味は他に移ったようだ。
この時ばかりは、友人の気まぐれさに感謝する他ない。

「けどよ、実際有り得ないよな。早瀬渚がどれだけ男の顔を気にしなくっても、わざわざお前と付き合うなんて。まあ、そんな事いちいち言うまでもないんだが……」

──んー……。

頭の後ろに腕を組み、少々つまらなさそうに、友人が言う。
彼の言っている事は、実際その通りで、理屈に適っている。
渚さんの彼氏が僕である必要は、他人から見ればという前置きはつくものの、確かに一切存在しない。
だから、まあ、友人もちょっとした冗談──それも、冗談であると態々言わなくても冗談だと誰もが理解できる非現実的なもの──のつもりで言ったのだろう。

「まっさか、俺らみたいな奴が早瀬渚と付き合える訳がないんだよな……。そもそも、オーラが凄すぎて喋りかけられねえし。いくら俺でも、あの早瀬渚に話しかけるなんて、心臓が潰れちまうわな」

──まあ、そうだな……。

友人のぼやきに、適当な相槌を打つ。
確かに、渚さんは常に覇気のようなものを纏っているような、常人離れした雰囲気がある。
特に、独りカフェテリアで佇んでいる時のような、普通の女性ならば絶好のナンパ日和として話しかけられそうな場面では、格別にその空気が引き立てられてしまい、人間に畏敬の念を抱かせて引き離してしまう。
それは、例えるなら、住職や司祭ですら絶対に立ち入り禁止で、もし侵入してしまえば即刻警察が飛んでくるような、誰一人として入る事の許されない神域を、土足で踏みにじるような。

そうである故に、彼女の追っかけは誰一人接触することなく、遠巻きからその姿を眺める。
その何の特別性も個性もない一般人の人だかりと、対照的にたった一人神々しいまでの美を放ちながらコーヒーカップを傾ける彼女の姿は、これまた神秘性を引き立てて、また他人を遠ざけてしまう。
だから、渚さんに接触してくる人間と言うのは、度を越して頭が悪くて空気の読めない下半身だけで動いているような人間と、渚さんと対等な知性やビジュアルを持った人間なのだが──当然、何かの国際的かつ世界何十か国で中継されるような規模のイベントが行われているでもない大学構内には、前者の人間しか居ない。
そう考えると、あの合コンでああいう事件が起きたのも、また当然なのかも知れないなと、今更ながらに思う。

「しかもさ、大学生カップルなら、まあセックスも一回ぐらいはするんだろ?あの早瀬渚が、男か女か知らねえけど、誰かに体を許すなんて考えられねえよな……」

──…………。

特に返事をするでも、あるいは頷くでもなく、ただ無言。
その言葉には同意するが──しかし、同意はできないからだ。
何故なら、つい昨日も、彼女から激しいスキンシップがあったから。

もう、あの日から三日が経とうとしているが、まだ一度も夜の付き合いは欠かしたことが無い。
と言うか、彼女がそれをすっぽかす事を許してくれない。
結局、あれから話し合いの末、彼女の家に引っ越しする事になり、そしてまんまとぬかるみに沈んでいる。
渚さんのカラダ、手練手管、そして肉欲というぬかるみに。

今までにも、早めに寝た方がいいのではないかと進言することはあった。
講義のスケジュール的に僕は問題ないが、渚さんの次の日の朝が早い時にそう言ったのだが──彼女はお構いなしに求めてくる。
正直、僕はいつも受け身で喘いでいるので、渚さんの方が跳ねたり動いたりと体力を消耗しそうなものだが──どういう鍛え方をしているのか、一向に彼女が疲れている姿は見たことがない。
そして、結局その日も、いつも通り遅くまでまぐわって、そして次の日にはきっちり身だしなみを整え、朝食も食べて出かけて行った。
僕は、気絶したように昼まで眠っていたというのに、だ。

そして、そうした性的な行為を行うほかにも、渚さんは兎角僕と触れ合いたがる。
寝るときは毎回抱き枕にされるし、家で課題をする時も何故か膝の上に乗せられる。
渚さんは家事は得意ではないので、代わりに僕が掃除やら炊事をしている時も、後ろから抱きついて甘える事も日常茶飯事だ。

──と、そんな渚さんだが、僕以外の他人に触れられることは、かなり嫌う方である。
そもそもパーソナルスペースが広く、あまり自分から他者に近寄らない。
ファンサービスの一環として、ちゃんとマナーを弁えたファンの人には、近くで囁いてあげたりすることもあるそうだが、それも稀なことらしい。

言われてみれば、確かに居酒屋での一件の時も、彼らに触られる事にはかなりの嫌悪感を示していたような記憶がある。
そして、こうして友人にも言われているのだから──この男は勘が良いから何となく気付いているだけという可能性はあるが──普段からそのスタンスは貫いているのだろう。

「あーあ、やっぱり初合コンは収穫なしだったって訳か。あそこなら、早瀬渚を狙ってたけど取り逃がした女に付け入る隙あるかなーと思ったのに、つまんねーの」

──悪かったな、面白い土産話の一つも持って来れなくて……。

本当は、友人が何より喜びそうな、とびっきりの話はあるのだが──今は、話すべきではない。
いつかはこの男にも報告をしたい──というか、元を辿れば僕達が付き合ったのもこの男のおかげだから、ちゃんと話すのが道理なのだろう──が、この男は口が柔らかいので、ちゃんと渚さんがメディアに向けて正式に発表することを決めてからの方がいいだろう。

何にせよ、少なくとも今は、この窮地を乗り切れそうだ。
頭の後ろで手を組み、だらだらと歩く友人と歩調を合わせながら、僕はほんの少しだけ口角を上げた。

「まあ、そうだよな。そもそも女にがっついてないし性欲も薄そうなお前が、合コンでお持ち帰りなんてできる訳ねえか」

──そりゃあそうだろう。そんな事したいと思った事もない。

そう、間違っても、僕は彼女を持ち帰った訳じゃあないし、そうしたいだなんて決して思わなかった。
むしろ、その逆。
僕は、彼女に、連れ込まれたのだ。
だから、友人の言葉には軽々しく同意した。

「じゃあさ、逆に言えば、肉食系の女に持ち帰られればいいんじゃね?」

──…………。

そうだな、と相槌を打つかどうか逡巡し、やめる。
実際、彼のいう事は正しいというか──現実にそうなった訳で。

「そんでさぁ、ホテルで……なんて言うんだろ、逆レっていうの?それで向こうから犯されるぐらいが意外と丁度いいんじゃねえのか?」

──……あのな、あまり適当な事を言うなよ。

いい加減に、友人の言葉を遮る。
このまま自由に喋らせておいたら──全部、言われる。
そんな妙な確信を抱かせる、奴の予知じみた直感に震えながら、予防線を張るために釘を刺した。

──そうやって積極的に僕を持ち帰ろうとする女なんて、居る訳がないだろう。

そう、全ては疑いの芽を摘むため。

──そんな何が目的か分からないような女と付き合うなんて、恐ろしくてとてもじゃないができないな。

ひいては、渚さんの立場を守るために。

──第一、僕も男なんだ。それなのに向こうから、その……無理やりされるなんて真っ平御免だからな。

その為、だったはずなのだが。

「へぇ……それは初耳だね?」

──え?

後ろから、ぬっと影が現れ、僕を遮る。
その影は、僕の全身をすっぽりと包むほど大きい。
そして、その声は、風鈴が鳴るように冷涼で、どこか異様な艶がある。

「ん?誰……あ、え、ウソだろ……」

友人が、その声に気づいて振り返る。
黒の長髪ウイッグに、目の色を隠すサングラス。
露出の少ない男物の服、そしてワンポイントの入った黒マスク。

それは、彼女の特徴を隠すための変装用のファッションだったが──しかし、その女性が早瀬渚である事は、誰の目にも明らかだろう。
腰の高さが全く自分たちと違う高身長に、シミ一つない絹肌に、そして何よりも圧倒的な美しさ。
必死に格好よく見せようと日々自分を磨く人々に唾を吐くかのような、ステージの全く違う群を抜いた端麗さが、そこにはあった。

「成程、それは知らなかった。キミを積極的に、それこそ獣のように求めて、何が何でもモノにしてやると息巻く女は気味が悪くて嫌いなんだね。ああ、悲しいなぁ。大声を上げて泣いてしまいそうだよ」

──や、ちょ、違っ……!

渚さんは、大げさに悲しむ素振りを見せながら、ごく自然に僕の腰を抱いて寄せた。
その行動と、この言葉の内容に、友人は目を白黒とさせながら、僕と渚さんの顔を交互にあたふた眺めている。
彼はまだ状況が飲み込めていない様子だが、こんな直接的に関係性を見せつけていれば、どれだけ鈍い人間でも、ものの数秒で僕らに何があったかを察するだろうし──何より、渚さんは、どうも隠す気すら持ち合わせていない。

「無理やりされるのは真っ平御免、反吐を吐く程嫌いだなんて、ちっとも気がつかなかったよ。キミが悪いなんて責任転嫁するつもりはないけれど、夜になる度にあまりにもキミが幸せそうな顔で嬌声を上げるものだから、てっきりそれが好きで好きで仕方がないのかと勘違いしてしまったよ。ああ、今日からは気を付ける。私が下になって、キミの望むまま喘いであげようじゃないか」

サングラスのレンズが額に当たるほど、腰を抱き寄せ顔を近づけ、頬に手を添えながら僕に囁く。
のけぞる程に近いから、黒い色ガラスの奥の碧眼が、どんな色を持っているかも見えてしまう。
──絶対、100%、怒っている。
何ならキレていると表現してもいいくらい、渚さんの目の色は深く、炎のように揺らめいていた。

「あのー……お取込み中申し訳ないんすけど……」

そんな渚さんに、友人は恐る恐るといった様子で小さく右手を上げ、声をかける。
ふっと視線をそちらに切った渚さんの目には、もう不機嫌な色は見られない。

「率直にお伺いすると……その男とはどういう関係で……?」

普段の適当な口調とは一変し、同い年であるはずの渚さんに敬語で問いかける友人。
いつもなら初対面の人にも砕けた語り口で話すのに、やっぱり流石のアイツも渚さんには丁寧語なんだな──と思いつつそれを眺めていると。
渚さんは、僕の腰から手を放し、貴族がするように恭しく一礼し、キャスケットを外して言った。

「これはこれは、申し遅れてすまないね。私は早瀬渚。この子の婚約者……まあ、妻と言っても差し支えは無いか」

──え、と。
二人の男の間抜けな声がシンクロする。

「そちらの彼は、この子のご学友かな?いやはや、流石は仔猫くんのご友人、お話が分かるお人だ。やっぱり仔猫くんは私のような女に娶られて、いいように愛でられるのが丁度いい。ほら、ご友人のお墨付きだよ?」

──あの、聞いてたんですか……?

友人のように恐る恐る、横から渚さんに尋ねると、彼女はにっこりと微笑む。

「ああ、すまないね。普段は可愛い仔猫くんが、私の前では見せない男の子らしい口調で喋っていたから、つい気になって、盗み聞きしてしまっていたんだ。そちらのご友人も、ごめんね?」

──あ、いえ、ッス……。

ぼんやりと、心ここにあらずといった様子で、友人は肩ごと頷く。
──生の早瀬渚と喋ってる、すげえ、ついでに握手とかできねえかな。
なんて、どうせあの男の事だから考えているのだろう。
見るからに鼻の下を伸ばしていて、何となく腹立たしい。

──などと、心の中で身勝手に独占欲を働かせていると。
ぐるりと首がこちらに向き直り、またサングラスの奥から笑顔で睨みつけられる。

「……で?仔猫くんは、そんなに私と付き合っている事を知られるのが嫌だったのかな?」

──あ、いや……!

そうだ、会話を聞かれていたのなら、それこそ嘘をついてまで、僕が必死に友人を誤魔化していた事も当然知っているはずだ。
何故不機嫌そうにしているのかと思っていたが──渚さんはもしや、僕が彼女と付き合っている事が不利益であると感じていると、そう勘違いをしているのではないだろうか。

──その、違うんです……あの、渚さんに恋人が居るって知られたら、お仕事にも影響が出ちゃうだろうから……。

必死に、しどろもどろになりながら、弁解する。
友人に情けない姿を見せながら、しかしそんな事に気を払う余裕もなく。

「ああ……そういう事か。私を気遣ってくれたんだね。けれど、その点に関しては問題ないよ。私はアイドルじゃなくて、ただのモデルだ。別に恋愛禁止じゃあない。何なら、こうして……」

慌てふためく僕に、渚さんの指が添えられる。
そっと、顎を掴まれて、くいっと持ち上げられて。

──むちゅう……♡

「えっ……あらら……」

──……!?!?!?♡♡♡

見せつけるように、大胆なキス。
人通りも少なくないこの場所で、堂々と唇を重ねて、見逃すなと言わんばかりにたっぷりと、二秒、三秒、四秒。

ぷは、と酸素を補給して、唇の唾液をぺろりと挑発的に舐め取る。
そして、頬を少し染めて、これまた煽り立てるかのように囁いた。

「……私は、見せつけてあげても、いいんだけれど……♡」

──ぅ……♡♡♡

流石にカメラを出して撮影するような輩は居ないが、数多くの眼がこちらを向いている。
忘れろと言われても忘れられない光景だ。
きっと、明日には、大学中に噂が広まっているのだろう。

「ねえ、ご友人?この子、借りてもいいかな?」

腰を蕩かせ、ものの一瞬で骨抜きにされた僕の胴を抱えながら、渚さんは友人に問いかける。
あくまでも爽やかに、いやらしさや粘着質な欲望など一切感じさせない声色で。

「あ……どうぞどうぞ、そんな男でよろしければいくらでも……」

友人は顔を赤くしながら、手で顔を隠して──そのくせ、指の隙間からがっつりその様子を眺めていた──軽々と僕の身柄を差し出した。

「フフ、ありがとう。では……」

その言葉を聞くと、渚さんは身を翻して。

「お家に帰って、お仕置きの続きと行こうか……♡」

──っ……♡♡♡

僕の腰を抱いたまま、門までの道のりを堂々と闊歩する。
隠すこともせず、むしろ誇らしいように、泰然自若と。

──きっと、渚さんとの家に帰れば、また激しく愛されてしまうのだろう。
渚さんの愛欲が赴くまま、魂までとろとろになるほどに。

ぞくりと背筋を震わせて、ぎゅっと自分の体をかき抱くと──ふと、渚さんの鞄の中に、一枚の紙が見えた。
何となく見覚えのあるそれをじっと見ていると、渚さんはぴらりとそれを取り上げて、見やすいように僕の目の前に差し出す。

「ん……?ああ、これ?さっき市役所で貰ってきたんだ。結局、昨日もゴム無しでびゅーびゅー射精させちゃったし、それなら早いうちに提出した方がいいだろう?」

──婚姻届。
正式に結婚するための、愛情の極地とも言えるその書類を見せられる。

「私のところは先に記入しておいたから、後でキミも書いておいてね」

──そう、渚さんは、言うまでもなく、僕と一生を添い遂げるつもりだ。
命ある限り、愛して、愛して、この体も心も溶けきってしまうような生活を、僕に永遠に捧げてくれる。
それの、これ以上ない証。
それを見て、僕は。

「んー……?♡フフ、どうしたの、甘えたくなった……?♡」

もう、居ても立ってもいられず、やにわに渚さんに抱き着いた。
誰が見ているとか、そんな事は関係ない。
ただ、愛おしくて、嬉しくて、そうせざるを得なかったのだ。

「心配しなくても、家で好きなだけ甘えさせてあげるよ……♡♡♡だから、ほら、帰ろう……♡♡♡」

──こくこくと、壊れた人形のように、頷く。
もう、幸せで幸せで仕方がない。
とことん渚さんに堕ちきった脳みそで、渚さんに従う。
それ以上の幸福なんて、この世にはあり得ないと確信しながら。

「フフ、仔猫くん……♡♡♡愛してるよ……♡♡♡」

抱きしめた僕の手を取り、渚さんは手の甲にキスを落とす。

──僕も、あいしてます……♡♡♡

そして、お返しになるかは分からないが、僕も負けじと渚さんに愛を伝え返した。

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