巨乳キャラあつめました

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「よし、死のう」

前々から進めていた準備を終えた私は、非常に明るくそう言葉にした。
うん。それなりに時間も経ったが、だからこそしっかりと準備できたと思う。
部屋もしっかりと掃除したし、私物も一切置いていない。
いや、死にに行くための荷物は置いてあるが、それは一つのリュックの中に納まってしまうほどの物量でしかなく、広い部屋にぽつんと置いてあるだけだ。
あとは、何も置いていない殺風景な部屋だ。
テレビも、冷蔵庫も、洗濯機も、テーブルも、椅子も……人が生活していく中で欠かせないものは、どれも処分済みだ。
ベッドや布団すらない。それも処分した。
それもそうだ。もう私には必要のないものなのだから。
これから死ぬ人間に、家電なんて必要がない。
欲を言えば、ちゃんと部屋も引き払ってしまいたいのだが……もしもということがある。
百パーセント死ぬつもりだし、今更になって命が惜しいと思うこともないだろうが、自殺が必ず成功するとも限らない。
そうなったとき、念のためとはいえすごすごと戻るべき場所は置いておきたかった。
……というのと、もっと大きかったのは大家さんがしばらく旅行でいないということが大きい。
管理会社を経ない契約をしているので、退去するにしても大家さんがいなければどうにもならないのだ。
本来であれば、大家さんが帰ってくることを待って、ちゃんと引き払ってから自殺するべきなのだろうが……。
しかし、この自殺の日に向けて、私は今までコツコツと根気強く準備を進めてきたのである。
年甲斐もなく、思わずはしゃいでしまっているのかもしれない。
とにかく、死にたい。この衝動を止めることが、どうしてもできないようだった。
大家さんには迷惑をかけてしまうが、この部屋で自殺するつもりではないので、この不動産価値などを落としてしまうことはないだろう。
一応、大家さんに対する謝罪の手紙を書いており、それを何もない小さな部屋の中心にぽつんと置いておく。
ボロボロで、小さくて、狭くて……しかし、私のような落伍者には楽園のような場所だった。

「今まで、ありがとうございました」

誰もいない部屋に深く頭を下げる。
と言っても、この部屋でのんびりできたことはほとんどないのだが。
ここに引っ越してきたときは、後始末や準備などで大忙しだったから。
だが、これから死ぬと考えると、どうしてかこういう感謝の気持ちがわいてくるのであった。

「さて、そろそろ行くか」

リュックを肩に担ぎ、玄関へと向かう。
大した荷物も入っていないので、とても軽い。
扉を開けて……最後に部屋の様子を目に焼き付ける。
そして、私はもう二度と戻ってくることのない旅に向かうのであった。

さて、自殺をするにしても、色々な方法や場所がある。
たとえば、よくニュースになるのは電車に飛び込んだ自殺者である。
あれは非常に高い確率で死ぬことができるだろう。
いや、死んでいることだけがニュースになっている可能性は無きにしも非ずだが、死んでいなくてもダイヤに甚大な影響を与える電車でそれは考えにくい。
ニュースで見ると、大抵の者は命を落としているので、確実に死にたい私にはぴったりのように思える。
とはいえ、あれは他人にとてつもない影響と迷惑をかけることになる。
ラッシュ時を避けたとしても、それでもダイヤの乱れの影響を受ける乗客は大勢いるだろうし、そもそも後片付けをさせてしまう鉄道会社の方々にも申し訳がない。
ということで、電車での自殺はしない。
次に思いついたのが飛び降り自殺である。
高さと地面さえ間違わなければ、こちらもほぼ間違いなく一瞬で命を落とすことができるだろう。
しかし、これもまた他人に迷惑をかけてしまう。
ザクロのように飛び散った死体を掃除させるのも申し訳ないし、高さがあって地面が固いアスファルトのところといえば、マンションや高層ビルくらいしか想像することができないが、そんな所で死ねば価値を下げてしまうことになる。
このことから、飛び降り自殺もできない。
あと考えたのは、練炭自殺だろうか?
車などの狭い密室を作りだし、有毒な気体を充満させて命を落とす方法。
しかし、もはや車なんてぜいたく品を持つことすらできないほど、私には余裕がなかった。
そもそもの道具を調達することもできないので、これも不可能。

「となると、やはり首つりか……」

電車に乗り込みながら、ふとつぶやいてしまう。
近くにいたサラリーマンであろう男性がぎょっとしたようにこちらを見てくる。
申し訳ない。しかし、もちろん車内でそんなことはしようとも思わないので、安心してほしい。
そう、私が選んだ自殺方法とは、首つりだった。
いや、これも死体があれば処理をさせてしまうので、迷惑になってしまうのかもしれないが……場所を選べば、それも大丈夫なのではないだろうかと考えた。

「……のどかだな」

車窓から外の様子を覗けば、田んぼなどが広がったのどかな風景が広がっていた。
私が住んでいた街もそれほど都会というわけではないが、アスファルトで地面は覆われマンションなどが立ち並んでいた住宅街だった。
このように、緑や土を見るのは随分と久しぶりな気持ちだ。

「おっと。降りないと……」

到着駅を告げるアナウンスが車内を流れ、慌てて立ち上がる。
それほど乗客はいなかったが、今はもっと少なくなっていた。
こんなにもボーっとしていたのは久しぶりだった。今まではずっと忙しかったから……最後の穏やかな時間だと考えれば、良いものだった気がする。
駅に到着し、開いた扉から車外に降りる。
私以外に降りる者は誰一人としていなかったし、またこの駅から誰かが乗ることもなかった。
無人駅である。人の気配が一切しない、静かで居心地のいい場所だった。

「さて、と……」

駅の外に出て、ぐーっと背を伸ばす。
息を吸い込めば、とても済んだ空気が鼻孔をくすぐる。
うーむ……空気が美味しいというのはいまいちわからないが、しかし私がいた場所とは何かが違うことは間違いない。これを美味しいと言うのだろうか?

「よし、腹を決めて行こう」

リュックから地図を取り出す。
本来であればスマートフォンなどで地図アプリを開けば楽なのだが、今の私にスマートフォンなんていう高価なものを持つ財力は存在しない。
そもそも、今回の電車賃の往復代くらいしか残っていない。
片道切符のつもりなので、結局使うことはないが。

「……左だな」

地図を見て目的地を探した私は、こうして迷いなく歩を進めたのであった。
向かうは、誰も所有していない山だった。

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