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「え……なんだこれ……?」

私は愕然とその屋敷を見上げた。
……そんな馬鹿な。ここに、こんな立派な建物があるはずが……。
ちゃんと私は調べた。準備にもあれだけ時間をかけたし、この山が誰の所有物でもないことは確認済みだ。
実際、この山を登ってみて……ろくに手入れがされていないことは、この身を以て理解している。
人が通った道みたいなものもなかったから、そもそも入山する者すらいなかったはずだ。
それなのに、この立派な建物は……。

「しかも、こんな山奥の平地でない場所に……」

私はそういった建築の知識が微塵もないが、これがどれほど大変なことなのかは素人目でも分かる。
斜面で建物を正常に立てるなんて、とてつもなく大変なことだろう。
それも、住宅街などのように整備されているのではなく、こんな荒れた山で……。
木材や人員を運んでくるとき、道がないのにいったいどうやって……。

「まさか、こんな山奥にこれほど立派な建物があるとは……」

いや、これが小屋みたいなちんまりとした建物ならまだ分かる。
だというのに、私の目の前にそびえたつ巨大な屋敷は、少なくとも人が十人……いや、それ以上住むことができるほどのものだった。
こんな建物がいきなり目の前に現れるまで気づかなかったなんて……よっぽど疲れていたのか?

「はあ……しかし、これだとまた探さないといけないな」

私は深いため息を吐いた。
当然だ。ここで自殺することは、もうできないのだから。
私は自分の死で他人に迷惑をかけたくない。
所有者はいなかったはずの山だが、こんな立派な和風の屋敷があるのだ。誰も持っていないはずがない。
ボロボロになっていたのであれば無人だと認識していたかもしれないが、外見を見る限りとても綺麗な状態を維持している。
……仕方ない。一度、戻るとするか。
幸い、まだ部屋は引き払っていない。助かったと言えるだろう。

「……しかし、どのような人が住んでいるんだろうな」

思わずつぶやいてその屋敷を見上げてしまう。
こんな荒れた山の奥深くに、どうして住んでいるのだろうか?
どういった理由で住んでいるのだろうか?
余計な興味がわいてきてしまう。

「……ちょっと尋ねてみるか。人が住んでいないようだったら、ここで死ぬことができるし」

私はそう思いついて、この屋敷の入り口を探すことにした。
もしかしたら、中には山姥のような人殺しが住んでいるのかもしれない。
それはそうだったで、私としては悪い話ではないのだが。
少し歩いて、立派な外壁の周りを探していると……入り口を見つけた。
木でできた重厚な門だ。そこが、客を歓迎するかのように開かれていた。
不用心だと言うことができるかもしれないが、そもそもここに人なんてほとんど寄りつかないということを考えたら、問題がないのかもしれない。
さて、もちろんいきなり入って行くことはできない。

「ごめんください」

門の外から、そう声をかける。
中をチラリとのぞき見れば、広い庭が広がっていた。
縁側も見えることから、あそこに座ってボーっと庭を眺めているだけでとても幸せそうだ。
その様子を見ながらしばらく待ってみるが、中から誰かが出てくることはなかった。
というか、人の気配すらしない。
軍人でもないからそんなハッキリいるかいないか判断することはできないが……おそらくは、無人なのだろう。

「……失礼します」

そう声をかけて、一歩足を踏み入れてみる。
好奇心から、敷地内に入ってしまった。
中から人が出てきたら、何度も謝ろう。

「凄いな……」

庭を見て、私は感嘆のため息を漏らす。
日本庭園というのだろうか? 手入れされているかどうかは私には判断できないが、少なくとも乱雑に生えているという印象は受けない。
木々や苔が生え、岩や石が敷き詰められ、小さな川もあった。
それは池まで伸びており、そこには大きな魚がゆったりと泳いでいる。
さらに、少し歩いていくと、人が住んでいるであろう大きな建物とは別に、庭にいくつかの建物が建っていることを知る。
蔵のようなものもあれば離れのようなものもあったが、何よりも驚いたのは馬とニワトリが飼育されていたことである。
チラリと見たが、馬はとても大きく骨格がしっかりとしており、そして生きていた。
ニワトリも一般的なものとは違った雰囲気を醸し出しており、こちらも当然生きている。
それらは私のことを認識してじっと見つめてくるのだが、驚くべきは一切騒ぐことがなかったことである。
私は初対面だし、こんな山奥だと客だってろくに来ないだろうから、人というのは飼い主以外見慣れていないはずだ。
それなのに、騒ぐことも狼狽することも怯えることもなく、私を見定めするかのようにじっと見つめてくるのである。
多少の不気味さと気まずさを感じるので、私はそれらに近づくことはなかった。
しかし……これで確定だな。この屋敷には、人が住んでいる。
魚も、馬も、ニワトリも。飢えた様子もなく、元気にしっかりと生きているということは、誰かにちゃんと世話をしてもらっているということだ。
残念だが、この山で死ぬことはできないらしい。

「……帰るか」

また、死ぬ場所を探さないといけない。
そう考えて戻ろうとすると……。

「ん……?」

スンスンと鼻を鳴らしてしまう。
というのも、腹を鳴らしてしまいそうになるほどのとても良い匂いが漂ってきたからだった。
食事? やはり、誰かこの屋敷にいるのだろうか?
私のことを警戒していたのかもしれない。滅多に人が来ないだろうから、人に対して敏感になっている方がここに住んでいるのだろう。
屋敷の方を見れば、ちょうど縁側の障子が開かれており、中の部屋の様子を窺うことができた。
大きなテーブルに、所狭しと並べられている料理。
それらは、今まさに作られたばかりというような様子で、湯気も立ち上っているほどだった。
見ているだけでお腹が鳴り、思うままに食べたくなるような魔力があった。
しかし……ふと冷静な部分が冷たく告げてくる。
あれは、いつ誰が用意したものだ、と。
出来上がったばかりという様子なので、ついさっき用意されたものだろうか?
しかし、それならば、配膳した者がいるはずだ。私はそれに一切気づかなかった。
また、あちらの方も無遠慮に敷地を跨っている私を奇妙に思って声をかけてくるはずだ。
それなのに、それはなかった。だというのに、まるで私のために用意したと言わんばかりに障子を開けて歓迎しており、テーブルにも未だ誰もついていない。

「…………」

食べたい、というのは事実だ。
余裕もなかったことから、最近はろくなものを食べられていなかった。
まるで、高級料亭で出されるような懐石料理が並べられており、お腹いっぱいそれを食べたいと思うのは当然のことだろう。
だが……やはり、あれが私のものであるはずがない。
今、こうして勝手に敷地内に入っているだけでも、十分無礼である。
だというのに、おそらく自分が食べるはずで用意してある料理を貪ったとしたら、これほど失礼なことはない。
あれを配膳した人も、もしかしたら素性の知れない私のことを怖がって声をかけなかったのかもしれない。
だとしたら、一刻も早く立ち去るべきだろう。

「お邪魔しました」

そう言って、私は門から一歩外に出た。
残念だが、自殺をする場所はまた考えるとしよう。
帰り賃も残しておいてよかった。
そんなことを考えながら歩く。
途中、ふと後ろを振り返ってみる。
すると、また深い霧が発生し始めており、山奥にある不思議な屋敷を見ることはできなかった。
また足止めされてはかなわないと、私も歩く速度を速めて下山するのだった。

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