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「いやいや」

女性はカンッとキセルを叩いて灰を落とす。
その音がやけに高く響いて聞こえた。
しかし、キセルとは……。時代劇でしか見たことのないものだ。
まさか、現代においてまだ使用している人がいるとは思わなかった。
……と、そこまで考えたところで、じっとこちらを見ていることに気づく。
赤い瞳がとても印象的だった。

「まさか、二度もこの迷い家に来られるとはのう。妾もここの家主となってから長いが、同じ人間が二度も入ってくることができたのは、お主が初めてじゃ」
「あ、やっぱり、迷い家だったんですね」

別の何かと言われていたら、さらに困惑していた。

「うむ。誘惑はあったじゃろうが、それに打ち勝ち何も持って帰らなかった者に富を与える迷い家じゃ。お主も何も持って帰らなかったから、富を手に入れたはずなのじゃが……あったよな?」
「え、ええ、ありました」

確かめるように私に問いかける女性。
あの時、私の目の前には出てこなかったが、監視はしていたのだろうか?
私の返答に、不可解と言いたげに頭を悩ませる女性。

「ふうむ……では、何故また迷い家に? もっと富が欲しい、というわけではないのは分かっておる。そういった欲望を持つ者の前には、もう一度現れることはないからのう。お主が迷い家を見つけ、そして入ってこられている時点で、お主がそのような考えでないことは証明されておる」

こちらを見定めるように見据える女性。
赤い目に捉えられると、何でも話してしまいそうになる。
別に隠すことなんてないから、全て洗いざらい吐いてもいいのだが。

「えっとですね、その……」
「ふむふむ」
「そのいただいたものを、お返しに来まして……」
「…………は?」

ポカンと口を開ける女性。
絶世の美女なので、そのマヌケとも言える表情も美しかった。
人は見た目が重要と言われるが、その通りだと思わせられるのであった。

「返しに来た?」
「はい」
「せっかく手に入れられた富を?」
「はい」

何度も確認するように尋ねてくるので、私はそのたびに頷く。
しばらく、考えるように静かな時間が流れるが……合点がいったとばかりに両手を合わせる女性。

「……あ、もしかして、それをもらったら後々災いが返ってくるとか思っておるんじゃろ? 大丈夫じゃ、そういうのは一切ない。もう二度と迷い家にたどり着くことができんだけじゃ」

確かに、たちの悪いものならば、富を押し付けてきてから代償を求めるとかありそうだ。
女性はその危惧を払しょくしようとしてくれているようだが……私にとってそれは重要な関心事ではない。
ぶっちゃけ、災いが戻ってきた方が返さないという考えが強くなっていたと思う。

「ああ、そうですか。でも、お返しします」
「……返すのか?」
「返します」

私の頑なさに、女性は顔を下ろして身体を震わせた。
もしかして、怒っているのだろうか?
善意でもらえたものを返そうとしているのだから、いい気分にはならないだろう。
とはいえ、これから自殺をしようとする人間に、金銀財宝なんてまったく必要なものではない。
女性の反応をじっと待っていると……。

「くっ、ふふっ……くふふふふふふふふふふふっ!」

女性は笑っていた。
心底面白いと、しかし上品さを失わない程度に笑っていた。
口元を袖で隠し、肩を震わせる。
病的なまでに青白い肌は、赤く紅潮していた。

「はー、はー……笑ったのう。ああ、久しぶりにこんなに笑った。何百年ぶりじゃ?」
「えーと……」

目じりに溜まった涙を指で拭い取りながら言う女性に、私は何と声をかければいいかわからなかった。
とりあえず、返しに来たものを受け取ってほしいのだが……。
早く自殺する場所を選びたいし。

「そうかそうか。返すか。なるほどのう。だから、また迷い家はお主の前に現れたのじゃろう。更なる富を求めて近づいてきた者は大勢いるが、返しに来たなんて者はお主が初めてじゃからな!」

ははぁ……皆生きる希望を持っていたのだろうな。
私にはそれが微塵もないから……。

「のう、お主……いや、お前様よ。名を教えてくれんか?」
「名前、ですか……?」
「おう。おっと、聞く方が先に名を述べるのが礼儀か?」

どうして、という考えが頭に浮かんでしまい、すぐに応えることができなかった。
女性は私が別のことを想っていると勘違いしたようで、自身の胸に手を当てた。

「妾の名は七穂。呼び捨てでも構わん。好きに呼んでくれ」
「七穂、様……」
「うむ、それでもよい。して、お前様の名は?」

好きに呼んでくれとは言われたが、どうしてか彼女のことを呼び捨てにしようとは思えなかった。
なんというか……自分よりはるかに格上というイメージがあるのだ。
敬称をつけたが、彼女の……七穂様の機嫌を損ねることはなかったようで、何よりだ。
さて、そんなことを考えて彼女を待たせるわけにはいかない。
私は久しぶりに他人に自分の名前を教える。

「私は一色 明人と申します」
「うむ、そうか。明人、明人……お前様と呼ぶ方が多いかもしれんが、よろしくのう」

美しく微笑む七穂様。
私はこの時から彼女に囚われていたかもしれない。

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