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「えーと……」

おかしいな。何だか凄い言葉が聞こえてきたような気がするのだが……。
いやいや、聞き間違いだろう。
こんな純真無垢で可愛らしい幼子が、あんなとんでもないことを言うはずがない。
私も疲れているのだろうか?
この程度で音を上げていたらダメだな。しっかりとしないと……。

「む? 聞こえなかったか? よし……」

何やら頷いた桔梗様は、もう一度小さな口を開けて……。

「きいと交尾してくれ」

き、聞き間違いじゃなかった……。
きいというのは、桔梗様ご自身のことをおっしゃっているのだろう。
……え? 私と桔梗様が交尾? どうして……?

「な、何故ですか……?」
「実は、きいは今日来たんじゃなく、ちょっと前に遊びに来ていたんだ」
「そうなんですか?」

私が問いかければ、あっさりと事情を説明してくれる桔梗様。
私は今日やってこられたと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
とはいえ、七穂様も知らない様子だったし……。

「その時、たまたま開いていた障子から中を覗き込んだら……あきひととななほが交尾していた」
「――――――」

私は絶句した。
み、見られていた? こんな純粋な桔梗様に?
い、いつ……はっ!!
確か、あの時ウサギに見られていて……。そして、桔梗様はウサギにもなることができて……。
あ、あれって桔梗様だったのか……!?

「それを見てから、なんだか身体が熱いんだ。そう言えば、きいも交尾をしたことがないから、子作りをしないとって思ってな」

下腹部を小さな手で撫でる桔梗様。
子作りという言葉に、私はごくりと喉を鳴らしてしまう。
一般的に……少なくとも、この迷い家にやってくる前の社会で、桔梗様のような見た目は間違いなく子供だと言われるだろう。
そんな容姿の彼女が、子作りがしたいと私に迫ってきているわけである。
何とも背徳的というか、インモラルなものを感じてしまう。

「で、でも、何故私を……」

喉がカラカラになっている。
どもりながらも尋ねれば……。

「優しく撫でてくれた。人参くれた。悪いやつじゃない」

純粋すぎませんか!?
お菓子を差し出されたらどこへでもついて行ってしまいそうな危ういものを感じてしまう。
……しかし、桔梗様の申し出を受け入れることはできない。
私は、七穂様と……そういうことをしている間柄である。
すなわち、浮気。
もちろん、普通の人間とはお二人とも違うことは分かっているため、社会的な倫理観をこのまま押し付けることは良くないことなのだろうが、七穂様が嫌な気持ちになられることは十分に考えられる。
ならば、桔梗様のことを受け入れるわけにはいくまい。

「そ、その……桔梗様のお気持ちは嬉しいのですが、私は七穂様の……」

性処理係って言いづらいな……。
クリクリとした赤い目をこちらに向けてくる。
そこには一切の不純な気持ちもないため、思わず目を逸らしたくなってしまう。

「七穂様のものですから。申し訳ありませんが……」

ハッキリと性関係があるから……と言うことはできなかったが、しかしこれで断るという意思は伝わったはずだ。
申し訳ないが、桔梗様とそういう関係になることはできない。
七穂様を裏切ることにもなるし、もしかしたら彼女を悲しませることになるかもしれないからだ。

「? 友達だから貸し借りはオッケーだ」

クリクリとした目を見せながら、首を傾げる桔梗様。
そんな理屈ある!?
いや、良く言えば純粋すぎるのだろう。
桔梗様にとって、性的な関係を結ぶということ……つまり、交尾をするということは、別に特定の相手同士でなければならないということではないのだ。
私が七穂様と関係を結んでいるからといって、自分と結ぶことができない理由にはならないと考えているのだろう。
や、やはり、普通の感覚を持つ人間ではないのか……。

「いやいや! それでも……」
「きいも我慢できないし、お願いだ」
「う、うーん……」

真剣にお願いしてくる桔梗様。
彼女からすれば、悪意も何もないのである。
ただ、純粋に私と交尾がしたいというだけであって……凄いことだな、これは。
桔梗様のお願いに応えたいという気持ちは強くあるのだが……。
やはり、それはダメ……というか、裏切りになってしまうので……。
私の反応を見て、どうやらダメだということが分かったらしい。
桔梗様は神妙に頷くと……。

「よし、わかった。神酒をもっと飲め」
「んごぉっ!?」

私の口にお神酒を大量に流し込んできたのであった。
あ、アルハラだ!
そんな馬鹿なことを考えながら、私の意識は次第に遠のいていくのであった。

「こうか? ……わからないな」

ゆっくりと意識が浮上してくると、そんな舌足らずな声が聞こえた。
それは、もちろん桔梗様だろう。
この迷い家にいるのは、彼女と私に七穂様だ。
七穂様はもっとしっとりとしつつハキハキとした成熟さを感じさせる声だから、このような子供を思い出すような声ではない。
ぐわんぐわんと揺れる頭で、必死に考える。
あ、そう言えば、私はいきなり度数の高いお神酒を飲まされて……。
あれ、本当に危ないんだけどな……。
桔梗様にそれとなく注意を……と。
そこまで考えて、簡単な疑問を思いつく。
今の私は、いったいどうなっているのかということである。
ゆっくりと感覚なども戻ってきたときに感じるのは……顔に感じる柔らかさである。
うーむ……なんだろう。柔らかく、温かい。そして、少し息がしづらい。
……あ、そうだ。既視感があると思ったら、七穂様の胸に頭を抱き寄せられている時に感じていたものだ。
彼女ほど柔らかさはないが、逆に押し返そうとする張りはこちらの方が強い気がする。
……起きないと!

「あ、起きた? おはよう」
「…………」

私の顔にグイグイと胸を押し付けている桔梗様が、そう声をかけてくれた。
小柄なため、全身を投げだすような形になっている。
……いや、何しているんですか!?

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