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第三話:希望の未来と、地下二階と(???)

「なんか、あれかな? 緊張しちゃった? ……大丈夫、私がたっぷりフェラしてあげるから♡ そしたらきっと勃つよ♡ 勃起したら孕ませセックスしようね♡」

「んー……、お疲れ? みたいな? だから勃起出来ないのかな。とりあえず、素股してれば大きくなる? 出そうな時は言ってね、子作り中出しさせたげる……♡」

「すっ、すいません! 私が下手なせいで勃起出来ないんですよね……! 私ったらいつもこうで……! ごめんなさい、ごめんなさい……っ! で、でも、赤ちゃん出来ちゃうような中出しだけは欲しいです……!」

───あれから何度か学園風俗に通い、半ばヤケクソのように、色々な女の子とセックスをしてみた。
けれどもいっこうに、勃起することは出来なかった。
なのに家に帰ると何事もなかったかのように勃起し、問題無く射精もするという、悲しい毎日を繰り返した。
女の子と触れ合う経験は増えていったが、肝心な時に勃起が出来ないようではどうしようもない。
なので未だに、僕はまともなセックスが出来ないでいた。

そこから数日間、僕は一度も学園風俗に顔を出せなかった。
正確には、受付を通って更衣室までは行くものの、その先のホールに向かうことが出来なかった。
いざ学園風俗を利用して、女の子とセックスをしようとしても、勃起出来るかどうかの自信がなくて尻込みしてしまうのだ。

ただ幸いなことに、その間に生徒会長からの呼び出しはなかった。
ありがたい、もし呼び出されて調子はどうだねなどと聞かれようものなら、僕は隠し切れずに全てを話して、もっととんでもない事態になっていたかもしれない。
まあ会長としても、僕ばかりに構っているわけにはいかないのだろう。

そして今日も、僕はここにいる。
ガウンまで着替えて、更衣室の端っこで椅子に腰掛けている。

「はぁ……」

ため息なんてどれくらい出たか、数えようもない。
こんなことじゃ、天櫛さんともしかしたらなんて、夢のまた夢だ。

「おい、さっき三年の水葉先輩とすれ違ったぞ。相手はもう決まってたっぽいけど」
「マジか! 超レアじゃん!」
「すっっげ尻でかかった! マジで! その場で写真撮りたかったけど、そういうの出来ないだろ? めっちゃ目に焼き付けたわ」

「俺、この前ついに、ついに念願のひなちゃんに相手してもらった……!」
「すげーな。やるじゃん。成し遂げたか」
「おっぱいぽよんっぽよんでさ、尻もぷりっぷりでさ……! しかも小生意気可愛くて、マジで天国行ったわ」
「羨ましい……」

他の男子生徒の噂話が聞こえてくる。その大半は、やはり三巨頭のことだ。
結局僕は、あれから天櫛さんどころか、八色さんも水葉先輩も、この学園風俗で見かけることはなかった。
しかし実際に相手をされている男子生徒はいるようで、つまり僕が見かけることが出来ないほどの奪い合いが起きている、ということなのだろう。
なんというか、某人気ゲーム機の開店奪い合いを思い出してしまった。

そういえば、あの三人が学園風俗を利用する理由って何だろう?
彼女達なら、わざわざ学園風俗で活動しなくても、いくらでも男は寄ってきそうなものなんだが。
特に水葉先輩は、あんな面倒くさそうにしているくらいだし。
そうだ、この学園風俗の目的は草食男子撲滅とは言ったけど、じゃあ女子は?
対義語となり得そうな地味子の撲滅と一瞬考えたけど、三巨頭の三人は完全にそれに当て嵌まらない。
学園風俗に参加している女子は、何の理由で、どういった理由で、この学園に集められているんだ?
何かおかしい。何か妙に引っ掛かる。なんだこれ。

「いや……、僕は疲れてるんだ。そんな余計なこと考えても、しょうがないだろ」

ふるふると頭を振って、妙な考えを振り払う。
今日はもう帰ろう、こんな気分じゃどうせペニスも勃起しない。
僕はガウンを脱いで制服に着替え直すと、男子更衣室を出た。

「……あれ? 歌垣くん?」

出たところで、ちょうど天櫛さんに出くわした。
彼女は何故か、僕と同じように制服を着ていた。

「何してるの? 制服で出てきたってことは、これから帰るの? ……あれ、でもちょっと時間早くない?」
「あ……ああ、それが……」
「んー? なんかワケあり?」
「はは……、どうなんだろうね」

渇いた笑いを浮かべる僕。
そんな僕の手を、天櫛さんがぎゅっと握った。

「ねえ歌垣くん、知ってる? 向こうに自販機コーナーがあるんだよ。ほら、セックスってお腹も減っちゃうでしょ? だからそういう人のために設置してくれてるの。カップラーメンやパンの自販機もあるんだ!」
「へえ……、そうなんだ」
「行こ」
「え?」
「いいからいいから、行こう行こう!」
「あ、ち、ちょっと……!」

いつかの生徒会室から連れ出された時みたいな勢いで、僕は彼女が言う自販機コーナーに連れていかれた。
自販機コーナーには、学食のようなテーブルと椅子が並べられて、壁側に色々な自販機がずらっと並んでいる。
ホールの熱気とは違って、ここに流れる空気はゆったりとしている。男女で会話をしている生徒もいるけど、その内容は他愛ないものだった。
まさにここは、休憩所だ。

「で? 何があったの? 歌垣くん」

二人掛けのテーブルで、僕の対面に座りコーヒー牛乳を飲む天櫛さん。
その目は、聞き出すまでは逃がさない、と言っていた。
僕は自分のミックスフルーツジュースを飲みながら、つい目を逸らしてしまう

「何かあったんでしょ。話して」
「えっと……、なんというか……」
「あたし達、クラスメイトじゃん。そんで、あたしは歌垣くんの童貞貰った仲じゃん。話して」
「……笑わない?」
「笑うわけないでしょ。あたし、そんな嫌な奴じゃないよ」
「う、うん……、そうだよね。……ていうか、もうその理由、天櫛さんも知ってるんだ」
「え?」
「天櫛さんとした後に、色々な女の子ともしてみたんだけど……、全然勃起出来ないんだ」
「え……」

天櫛さんは、最初目をぱちくりとさせて驚いた顔をする。
けどその目はすぐに、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「……え、えっと、ねえ歌垣くん、それ大丈夫なの? 病気とかってことない? お医者さん行った方が……」
「う、ううん! 病気ではないよ、っていうのも……その、家に帰ると普通に勃起して射精も出来るんだ」
「あ……、そ、そうなんだ。良かった〜……」
「精神的なものだとは思うんだ。いずれ治るはずだよ。……でも、また勃起出来なかったらって思うと、学園風俗に来ることそのものが苦痛になっちゃって」
「そっかー……」
「はは……、情けないよね」
「情けないとか、そんなことあるわけないじゃん」

ぎゅうっと天櫛さんの手が僕の手を握る。
ジュースの紙パックを持った手を、彼女は両手で包み込むように握ってくれた。
優しい笑顔を、僕に向けながら。

「人生色々あるよ。歌垣くん転校してきたばっかりだし、しかもいきなり学園風俗に放り込まれてさ、戸惑ってるだけ。だから大丈夫。不安にならないで。ね?」
「天櫛さん……」
「……てゆっか、あたしも勃起した歌垣くん見てみたいし。やり直しで、恋人みたいにイチャイチャしながらセックスしたいなー……♡」
「え……、えっ!?」
「だってほら? ちょーっとあの時は消化不良? だったじゃん? だから、本気の歌垣くんを見てみたいなーって♡ ね? 時間も延長しちゃってさ、恋人がするみたいな子作りセックス、何度も何度もしちゃおうよ……♡」
「ごくっ……!」
「ほら歌垣くん、人差し指ちょっと突き出してみて。あたしに向かってさ」
「え? こ、こう?」

言われるがまま、右手の人差し指を天櫛さんに向かって突き出す。
すると天櫛さんは、左手の親指と人差し指で輪を作って、僕の指に輪をくぐらせた。

「はーい、あたしのおまんこに、歌垣くんの勃起ちんぽが挿入されましたー♡」
「ちょっ……!?」
「ねえ歌垣くん、ぼさっとしていないで、あたしの指まんこずぽずぽして♡ あたしとこういうセックスするっていう練習だよ♡ ほらぁ、ぬっぷぬっぷ動かしてよぉ……♡」
「う、う、うん……!」

可愛いピンクのネイルの細い指、それが作る輪の中に僕の指を出したり入れたりする。
天櫛さんは小声で、僕が突く度にあんっあんっと喘ぐ真似をして、僕を興奮させようとしてくる。

「ねえ、指の先っぽで、入口の近くを浅く抜き差しみて……♡」
「こ、こう?」
「あん♡ そこ♡ その上のとこがGスポットだから、ちんぽの先でぐりぐり抉って♡」
「Gスポット……! お、女の子が気持ちいいところ……!」
「そうだよー……♡ 次は奥、ずーっと奥突いて♡」
「こ、こうかな?」
「んんっ♡ そこ、あたしの子宮があるの♡ 赤ちゃん作るとこだよ♡」
「ここ、ここが……!」
「射精する時は、そこにちんぽぎゅーって押し付けてー……、ぶびゅるるるるっ♡ ってたっぷり射精すると、女の子は赤ちゃんが出来ちゃうの……♡」
「赤ちゃん……、妊娠……!」
「あはは♡ そうだよ、それが本気のセックスなんだから……♡」

そう言って天櫛さんは指の輪を崩し、頬杖をついてまたコーヒー牛乳を飲む。
僕は気が付けば、はあはあと息を荒くしていた。
なんとかその呼吸を落ち着け、僕もジュースを飲む。冷たい物が喉を通っていくのが、気持ちいい。

「……ね、今ので勃起した?」
「ご、ごめん、さすがにそんな急には……」
「そっかー、残念。……でもね、こういうセックスしたいなーって思ったのは本気だからね?♡ 本気ちんぽで、あたしのおまんこぬっぽぬっぽして欲しい♡ そしたらあたし、本気で惚れちゃって、歌垣くんの彼女になっちゃうかも♡」
「ははは……、そんなまさか」
「えー……、本当にそう思う? あたしがこんなこと、冗談で言ってるって?」

少しだけ真剣な目で、僕を見る。
そして僕の手に、軽くキスをした。そんな仕草に、僕は思わずドキっとしてしまう。

「今度、教室であたしに挨拶する時、わざとおはよおはよーって二回言って。そしたらその日は、あたしが相手したげる。絶対に」
「え、え!? でも、予約はだめって……」
「予約じゃないよ、約束。誰かに群がられても、今日の相手はあなたですって、あたし絶対に歌垣くんを選ぶから。あんまり頻繁だと怪しまれるから、たまにだけ。ね? ……勃起の練習でも、自信がついて本気で勃起出来たからとかでも、どっちでもいいよ」
「あ……ありがとう、天櫛さん」
「本気の歌垣くんとのセックス、どんなに気持ちいいんだろうね?♡ 楽しみ♡」
「き、期待外れかも」
「そんなことないよ。気になっている人とのセックスが、気持ち良くないわけないし」
「え……?」
「あ、ああ……えっと、ていうか、あたしもそろそろ、彼氏、ちゃんと決めたいからなーって……。い、いやマジであたし何言ってんだろ」
「っ……!」
「あ、あはは。ごめん、なんでもない。……あ、あの、えっと、あたしも実はちょっと体調悪くて帰ろうとしてたんだ
「ご、ごめん! そんな時に相談に乗ってもらって」
「いいのいいの! ……歌垣くんの力になってあげたかったんだ。ほんのちょっとでも、助けてあげたかった」
「天櫛さん……!」
「じ、じゃあ歌垣くん、またね! それじゃ!」

ちゅーっと一気にコーヒー牛乳を飲むと、天櫛さんは慌てたように、足早に休憩室を出て行ってしまった。
僕も呆然としながら、残ったジュースを飲む。

今の会話は、何だったんだろうか。
よくわからない、よくわからないけども、なんだか僕は天櫛さんから、とてつもないことを言われた気がする。
今まで見えなかった、光のような物が見えた気がした。
僕は、絶対に自信をつけてやるぞと異様な熱を胸に秘めつつ、ぽやーっとした頭のまま休憩室を後にした。

休憩室を出て受付を通り、階段から校舎へ戻ろうとした時、スマホを持っていないことに気付く。
たぶん更衣室のロッカーだろう、あそこに置きっぱなしにしてしまったらしい。
僕は足早に来た道を戻る。

「……あれ?」

再び受付を通って更衣室に向かおうとした時、不意に視界に天櫛さんの姿が入った。
体調が悪くて帰ったと思ったのだけど、彼女は制服姿のまま、ホールの隅っこの方で一人の男子生徒と話していた。僕の知らない、ちょっとイケメンの男子だ。
僕はなんとなく、こそこそと隠れながら近づき、耳をそばだてる。
すると、二人の会話が聞こえてきた。

「こないだの先輩、手マンめっちゃ気持ち良かったです♡ 腕を骨折って聞いた時はびっくりしましたけど、あれだけ気持ち良くしてくれたんなら、もう大丈夫ですね♡」
「まあな。これで天櫛に満足出来ないって怒られることもないわけだ」
「次もすっごい期待してまーす♡ きっと先輩のことですから、イっても許してくれないんだろうなあ♡」
「そのセリフ、すっげー搾り取られちまいそうだな。普段も俺のちんぽ、射精してるのに何度もフェラで吸い付いてくるし」
「だってー……、気になる人の精液は、ぜーんぶお腹に欲しくなるじゃないですかー……♡ 先輩の精液、一発で妊娠しちゃいそうなくらい濃かったし……♡ あんなの、舐めただけで惚れちゃいますよー……♡」
「ふーん? なんだよ、随分と意味深なこと言うな」
「まあほら、あたしもそろそろ素敵な彼氏が欲しいなーって感じで?♡ どうせなら、精力旺盛なつっよいオスがいいかなーって……♡」
「精力は強いぞ。今だってほら、天櫛を押し倒したいくらいだ」
「あんっ♡ もうやだぁ♡ こんなとこで乳首触っちゃだめ……あ、あっ♡ すりすり擦るのだめ♡ もう♡ 先輩のえっち♡」
「次に天櫛に相手してもらう時は、本気で気に入られるかどうか試してみようか。腕も治ったことだし、手加減なしのガチで孕ませて、俺の彼女にするから」
「受けて立ちますよー……♡ あ、でも予約は出来ませんから、約束で♡ 先輩があたしを選んだら、あたしも先輩を選びますから♡ おまんこも、こってり精液を子宮でたっぷり受け止められるようにしておきまーす……♡」
「ああ、約束な。俺は今からでもいいけど?」
「あはは、今日はちょっと……気分が悪い感じなので。でも、約束嬉しいです♡ じゃあ先輩、また♡」
「またな、天櫛」

───あれ?
なんだろう、何か。あれ?
何か変だ。おかしい。
わからない、何がおかしい? いや、おかしい。
二人の会話、天櫛さんと、きっと天櫛さんとしたことがある先輩の男子生徒、そんな二人の会話。
それがグサグサと刺さる。心臓に刺さっている。抜けない。

「……天櫛先輩」
「ん? ……ああ! こないだの後輩くん!」

先輩男子が去った後、それを待っていたかのように、ガウン姿の別の男子が近づく。
この男子生徒の顔も見たことがない。天櫛さんが後輩と言ったので、新入生だろうか。

「どう? もう学園風俗には慣れた?」
「はい、ありがとうございます。天櫛先輩に相手をしてもらってから、どんどん自信がついて、女の子とのセックスも抵抗がなくなってきました」
「えー、凄いね! この短期間で自信ついちゃったんだ。……てか、マジでいい顔してる。初めて会った時とは大違いだね」
「先輩が優しく指導してくれたからですよ。……それで先輩、今日は学園風俗しないんですか?」
「あー……、うん、ちょっと気分悪くてね。帰るとこだったんだ」
「なんだ……、残念です。ボク、天櫛先輩のこと彼女にしたくて、また相手をしてもらいたかったのに」
「おー?♡ なんだよー、調子に乗っちゃってさー♡ ……でもあたし、そういうオス丸出しな感じ、嫌いじゃないよ♡ ていうか、結構好き……♡」
「ほんとですか? ボク、天櫛先輩のことが忘れられないんです。今すぐにでも、ボクので犯したいくらい……!」
「あー、ガウンがテント張るくらい勃起してる♡ だめだぞー、ホールじゃそれは御法度なんだから♡ ほらこれ、カリカリっと♡」
「す、すいません。……って、そう言うなら指で先っぽカリカリするのやめて下さいよ!」
「あはは、ごめんごめん♡ 元気があってよろしいね♡ ……あたしも、そんな元気なちんぽ、また味わいたいな♡ もし次に相手する時に、あたしのことちんぽで三回中イキさせられたら、彼女になってあげる♡」
「……いいんですか? ボクそれ、本気にしますよ。イかせるどころか、妊娠させますからね」
「おっ、やる気だ♡ もちろんいいよ♡ ……だってあたしも、それくらい気持ち良くしてくれる素敵な人を彼氏にしたいかなーって♡」
「三回と言わず、五回も六回も中イキさせて、絶対に孕ませますから」
「あはは、楽しみだ♡ ……予約は出来ないから、約束ね? 今度あたしがここに来る時は、傍にいて♡」
「絶対ボクを選んで下さいね。待ってます」
「うん♡ じゃ、あたしもう行くね♡」
「はい。それじゃあ」

───ざく、ざく、ざく。
刺さる音が聞こえる。
僕の心に、槍のような何かが降り注いで突き刺さる。
僕は何を、何を見せられているのだろう。
先ほどの先輩と、今の後輩と。

僕だけじゃなかったのか?
僕にかけてくれた言葉は、約束は、僕だけじゃなかったのか?
なんで? どうして?

二人が別れると、天櫛さんはそのままホールの脇から、奥の方へと向かって行った。
そこは部屋が並ぶ区画とは違う場所だ。
僕はふらふらと、半ばよろけたようになりながら、それに何の意味があるかもわからないまま、天櫛さんの後を追った。

天櫛さんが向かった先は、細い廊下のようになっていた。
薄暗い廊下をしばらく歩くと、階段が見えた。下へ続く階段だった。
階段の近くには、関係者以外立入禁止と書かれた表示スタンドが立っており、どうやら天櫛さんはこの先を下りていったようだ。

「地下……二階?」

確か仲村くんが言っていた。地下二階は女子の控え室のような物があるって。
でもこの道、天櫛さんと僕とが入ってから、女子はおろか誰ともすれ違わない。声さえも聞こえてこない。
僕は控え室と聞いて、セックスを終えて疲れた女の子達が休んだりする場所なのかと思っていたけど、それにしては誰ともすれ違わない。
今日だって多くの生徒が学園風俗を利用しているんだ、もっと人の出入り、往来があってもいいはずなのに。
そもそもただの控え室なら、何故女子専用ではなく、関係者以外立入禁止なのか。
僕は周囲を見回し、ただ天櫛さんを追いかけたい一心で、階段を下りた。

足音を立てないようにゆっくりと下りると、急に足元の感覚が変わった。階段の途中から、床は綺麗なカーペットに変わっていたのだ。
これで足音を気にしなくていいと思う反面、何故こんな風に、地下一階のように木の板ではなく、ホテルの床のようになっているのかは気になった。

地下二階に出ると、雰囲気が変わった。
真っ白な壁に真っ白な天井、壁の上部に淡いオレンジ色の間接照明が付けられた、広い廊下が続いていた。
その廊下は、まさにどこかのホテルのように絵画や調度品で飾られている。
廊下は奥まで続いているようだが、しかし部屋の扉が見えない。奥に進めば部屋があるのだろうか。
そして、天櫛さんの姿も見えない。きっと奥へ進んでしまったのだろう。
だが帰ると言っていたはずの天櫛さんが、何故ここへ? この先は、例えば何処かの駅やバスターミナルにでも繋がっているのだろうか?
まさか。だとしたら、学園風俗のメンバー全員が知って、利用しているはずだ。

僕は意を決し、物陰に身を隠しながら、ゆっくり先に進む。
ここまで来るともはや好奇心が勝ってしまい、誰かに見つかった場合のリスクなんて、頭の中から吹き飛んでしまっていた。

廊下を少し進むと、奇妙な場所に出た。T字路だ。
左側の道は少し行ったところで行き止まりになっており、奥、右、左、それぞれに部屋の扉が三つ見える。上の階にもあった、取っ手の無い扉だ。
右側の道は、少し先で開けた場所に出るようだ。
小さくプレートが掛かっており、休憩所と書いてあるのが見える。扉の無い部屋だった。
やはりここは、女子の控え室的な場所なのだろうか。だがそれにしては、人の気配が無いのがおかしい。

「……って感じで〜、もうおっかしくて〜」
「……ふん」

急に、不意に、僕の後ろから誰かが会話をする声が聞こえた。女子の声だ。
僕が通って来た階段を下りて、やって来たのだろう。
だがまずい、このままでは僕がここにいることがばれてしまう。この場所が何なのか、何もわからないままだが、とにかく見つかってはいけない。
少なくとも僕は、この階に関わっている関係者ではないから。

左側の部屋が並ぶ方へは、部屋の中に誰かがいる可能性があるし、開かなかった場合に身の隠しようもない。
なので僕は、右側の休憩室の方へ向かった。

休憩室の方からは、近づいても音も声も聞こえない。
こっそりと首だけ出して中を窺うと、やはりそこには誰の姿も見えなかった。
テレビが備え付けられ、豪華なテーブルとソファが並び、自販機はもちろん紅茶やアロマなどが用意された、まるで生徒会室を少し大きくしたかのような部屋だ。
僕は中に入り、奥の隅っこにあった給湯室の、流し台の収納を開けた。
そこには人が入れるくらいのスペースがあり、僕はそこに潜り込み隠れた。ここでしばらくやり過ごそう。

収納の扉、その僅かな隙間から、休憩室の様子が見える。
休憩室にやって来たのは、なんと八色さんと水葉先輩だった。
二人は自販機で何かペットボトルのジュースを買うと、ソファに座って談笑を始めた。

「ていうか水葉せんぱ〜い、今日は学園風俗しないんですか〜? こんなとこでフラフラしちゃって〜」
「……お前こそ。せっかく仕事の合間にここに来てるのに、やるのは休憩だけか?」
「だーって、ホールって熱気が凄くてすぐ喉渇いちゃうし、今日はイケメンの人もあんまりいないし、気分が乗らなくて〜。……って、だからそういう水葉先輩も、ひなとやってること変わってないじゃないですか〜」
「……私は昨日バンドの練習が忙しくてな、あまり眠れていないんだ。少し仮眠を取ってから行こうと思ってる」
「そうだったんですか〜。ひなもレッスンありましたけど〜、元気いっぱいなのでそんなに疲れてませんよ〜? せんぱ〜い、年なんじゃないですか〜?」
「……あ? クズガキが、黙れ」
「あ〜、怒っちゃった〜。にははは」

八色さんと水葉さんが、楽しそうに、しかし険悪に会話をしている。
だがピリピリとした空気が流れている以外は、これといって他愛ない内容だ。
二人もここで、ただなんとなく休んでいるだけのようだし、きっと地下二階は少し豪華な控え室といったところなのだろう。
それ以外に、何があるわけでもなさそうだ。

しかし、先ほどの天櫛さん。あの会話は、いったい何だったんだろうか。
予約は出来ないから約束、彼女はそう言っていた。僕以外の男子にだ。
約束もしてはだめ、などとはルールに書いてあるわけではないし、僕だって言われて喜んでいたけど、でも酷くモヤモヤとする。
僕だけじゃ、僕だけじゃなかったと───

「いや〜、でもほんっっと、学園風俗様々ですよね〜。男子をからかって射精させれば、山ほど”ポイント”が入って来ますし、ポイントはすぐお金として振り込んでくれますし〜」
「……人気絶頂アイドルのセリフとは思えんな。ここで稼ぐ以上の金を、お前は余裕で稼いでいるだろ」
「そうですけど〜、将来のためにお金はいっぱい稼いでおきたいじゃないですか〜。ちょーっと男子を射精させるだけで、ひなも気持ち良くなれてお金もがっぽりで最高ですもん。……そう言う水葉先輩だって、こんなとこで稼がなくてもいいんじゃないですか〜?」
「……私はセックスでのストレス発散と、まあ、もしもの時の蓄えってとこだ」
「ほら〜! 水葉先輩も一緒じゃないですか! やっぱりお金! お金ですよ!」

───なんだ。
何を言っているんだ。
お金? お金ってどういうことだ?
お金はかかっていないはずだ、僕だって払っていない。受付でそんな話はされていないし、もちろん生徒会長だって。
ポイント? ポイントが入るって?
ポイントって何だ?

「膣外射精は1ポイントで膣内射精は5ポイント、”コンドームは使えないけどピルは使ってよい”なんて言われたら、そりゃ膣内射精させまくりですよね〜。その辺割り切れてない子は、全然ポイント稼げないから、三巨頭どころか楽しむのも難しそうですけど〜」
「……孕ませて、妊娠させてと、生殖本能を煽るようなセリフを言いながら膣内射精させれば、それだけでプラス5ポイントと言われれば、そりゃあ……な」
「ここ最近はほんっっと入れ食い状態でしたもんね〜。学園風俗の初利用者の相手は、さらにプラス5ポイントが貰えますし〜」
「……AI監視のカメラで判定、ウェアラブル端末に結果を表示……。さすが政府が力を入れているだけあるな、ハイテクって奴だ」
「だからもう政府様々なんですよ〜。”1ポイント二千円換算”とか、気持ちいいことしてイケメンの相手しつつ、お金稼ぎまくり。しかもトップ三位に入れば、ホテルのファミリールーム並みの部屋を、一人ずつあてがわれて好きなように使えるとか〜」
「……ま、しばらくこの地位は譲れないな」
「ですよね〜」

何を言っているんだ。何を。
お金?
プレイの、射精の内容で、貰える金額が変わるのか?
だからなのか?
だからみんな、セックスをして射精をする時に、不自然なまでに妊娠を煽るような言葉を向けてきたのか?
僕が勃起していないのに、無理にでも膣内射精させようとしていたのは、そのためだったのか?
だから、だからみんな───

「……そういえば、転校生とやらの相手をした時、やけにポイントが貰えたな。あれはどういうことだ?」
「ああ、あのふにゃちんモブ顔くん〜! あれ美味しかったですよね〜……って、え、水葉先輩知らないんですか〜? ざっこ〜♡」
「……あ?」
「ちょっと、睨まないで下さいよ〜。生徒会から予約を受けた時は、別枠で10ポイント貰えるんですよ。ボーナスみたいなもんです」
「ああ……、そういうことだったのか。あいつは、あのオタクは楽だったな。早漏だったし」
「にはははは! そうそう! ふにゃちんで早漏とか雑魚すぎて! ひな達みたいな有名人を前に緊張しました〜みたいなこと言って、全っっ然勃起しないんですよ! 無茶苦茶に腰振るだけの奴より、全然疲れなくて楽でしたもん〜」
「……正直、入ってるかどうかもわからなかった。たったあれだけでボーナスは、美味しい話だな」
「ね〜! また会長からあの人のご指名こないかな〜。ひながい〜っぱい可愛がってあげるんだけどな〜。にははは」

───吐き気がする。
気持ちのことではなくて、本当に胃の中の物が出てきそうだった。
高熱が出た時みたいに、身体がぶるぶると震えていた。
鼻の奥がツンとする。
口に血の味がする、気が付けば唇を噛んでいた。
目が熱い、涙も出ている。
僕はどうしてしまったんだ。

頭の中がぐるぐるして、何も考えがまとまらないけど、この学園風俗は何もかもが捻曲がっていることはわかった。
恐ろしくて、怖い、打算と、侮蔑と、汚い何かが渦巻いている。

「ていうか水葉せんぱ〜い、例のプロデューサーさんとはどうなんですか〜? ほらほら、ひなも一度お会いしたことありますよ。あの、ちょっと抜けてそうだけど、優しいイケメンさん」
「……うるさいクソガキ、お前があの人のことを口にするな」
「うっわ、こわ〜。目がマジだし。その人のこと好きなんですよね〜? ……ってか、あの人と話してる時の水葉先輩、マジでメス出てましたし。あ、でもでも、先輩の事務所のシンガーさんも、あの人といい雰囲気じゃなかったですか〜? 戸塚
とつか
アヤさんでしたっけ? ちょっと前に、雑誌で噂になってましたよね〜?」
「黙れ、潰すぞ。あれは誤解だとあの人が言っていたんだ」
「うっわ、こっわ〜。しかも早口だし。マジ怖」
「……そういうお前はどうなんだ。お前だって確か雑誌で、男性アイドルグループのメンバーと熱愛とかどうとか……」
「あ、聞いちゃいます? それ聞いちゃいます? マジで〜す♡ 背が高くて、すっごいイケメンの、葡萄ノ木
ぶどうのき
ってグループのリーダー、桃木
ももき
くんでーす♡ まだ清いお付き合いなんですけどね〜♡」
「……はっ、淫乱メスガキが何を言ってるんだか」
「え〜、酷〜い! ていうかひなを言うなら、天櫛先輩なんかは……!」

気になる言葉を八色さんが発しようとした瞬間、水葉先輩のスマホが鳴った。
アラームのようだったが、水葉先輩はアラームを止めると、大きく伸びをして欠伸を漏らした。

「もうあまり時間が無い。仮眠を取る」
「あ〜、ひなも行きます〜。せっかくすっごいお部屋をあてがってもらいましたし〜、いっぱい使ってあげないともったいないですよね〜。ひな、やわらかクッションを五個も買って並べてるんですよ〜」
「……自由な奴だな……」

そんな会話をしながら、どうやら二人は左側の通路へ向かったようだ。
ホテルのファミリールーム並みの部屋と言っていたけど、そうか、向こうにあった扉はその扉だったのか。

少し、わかってきた。
頭痛もするし、吐き気もするし、お腹も痛いし、けれどもだんだんと見えてきた、この学園風俗の仕組みがわかってきた。
何が悪いとか、いけないとか、そういうことじゃない。
僕は、いや僕だけじゃない、男はみんな、ただ食い物のようにされている。
ただただ、ひたすらに。

「ううぅっ……!」

休憩室には、もはや誰の気配も無い。
八色さんも、水葉先輩も、そして天櫛さんも、自分達の部屋にいるはずだ。抜け出すのは今このタイミングしかない。
今の内にここを出よう。
そして帰ろう。今日は帰って、もう寝てしまおう。
考えるのが辛かった。
この学園風俗と呼ばれる場にいることそのものが、辛かった。ただ今だけは、ここからすぐにでも逃げ出したかった。

僕は音を立てないように、そっと収納の中から出ると、こそこそと一階に続く階段へと向かった。
途中、何度か三人のための部屋を振り返った。
うっかり三巨頭の誰かが出てきたところで鉢合わせる、そんなシチュエーションが怖かったからじゃない。
何か、どこか、今まで感じたこともないような感情だった。
その感情が、僕を振り返らせた。

「くそっ……!」

僕は知らずそんな言葉を呟いて、階段に向かう通路の角を曲がっ───

「何をしているのかな? こんな場所で」

───僕の目の前に、一人の女子生徒が立ちはだかった。
僕も良く知るその人は、うっすらと笑みを浮かべている。

「もう一度聞こう。ここで何をしている、歌垣蓮」
「和久……、会長……!」

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