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12: 折り重なる祈り

「お兄様、早く!」
「そんなに慌てなくてもキノコは逃げないよ!」

背をぐいぐいと押す月夜に負け、俺は林の中へと分け入っていた。時間は午後の一時過ぎ。これからふたりで夕食用のキノコを採りに行くのだ。

「あれがカシで、こっちがブナ。むこうに見えるのがクヌギの木です」

道々で生えている木や花を月夜に説明してもらいながら進む。が、基本的に都会っ子の俺には何が何やらサッパリだ。
時には狐をはじめとした小動物を見つけることもあって、月夜はそれも嬉しそうに教えてくれる。

「あいつらも月夜たちみたいに変身できるのかな?」
「いえ、この山で人型になれるのはわたしたちだけだと思います。あやかしとなる前の先祖はああだったと思いますから、あの子たちもいつか変身できるようになるのかもしれませんね」

そう言って、月夜はくすくすと笑った。

あれから――
五日の時が流れていた。
俺は約束通り、ほとんどの時間を月夜と過ごした。朝や昼は彼女の仕事に付き合い、夜は彼女の穴を拡張する。そうやって日々を繰り返していくうち、月夜はどんどん明るくなった。というか元々快活な子だったのだろう、人見知りなところが邪魔して地が出せないでいただけで。
そして予想外だったのが――

「あの……手を、つないでも……いいですか……?」
「いいよ。ほら」
「ありがとうございますっ……。えへへっ」

甘えん坊なところ。
月夜は何かにつけて俺とスキンシップを取りたがった。こうやって手をつなぐのは朝飯前で、意味もなくくっついてきたり、腕に抱きついてきたり。ひと目のないところではキスをねだったりもしてくる。今も、片手で握るだけでは満足できないらしく、もう片方の手もそっと添えてくる有様だ。

「それだと逆に危ないよ」
「だめ……でしょうか?」

しゅんとした上目遣いを向けてくる。ったく、こんなの誰が駄目だって言えるんだ。

「転ばないよう気をつけること。判った?」
「はいっ」

嬉しそうにくっついてくる月夜。

「だから危ないって」

ほんとにもう、判ってんのかな? ……俺もまあ、妹に甘えられてるみたいで内心ニヤニヤしてしまうんだけどね。
そんな半ば付き合いたてのバカップルのようなことをしながら獣道を進み――

「お兄様、いっぱい生えています!」

俺たちは、キノコが多く自生しているエリアにたどり着いた。

「おー、すごいな」

そこかしこに地面から顔を出したキノコが見える。

「さっそく狩りましょう」
「じゃあ俺も……」
「きゃっ!」

月夜とは別のキノコに向かおうとしたところ、後ろから手を引っ張られた――と思ったら月夜がひっくり返っていた。

「だ、大丈夫? どうしたの?」
「て、手が……」
「手?」
「お兄様の手が離れていきそうだったので、必死につかんだら転んでしまいました……」
「……そりゃそうだよね」

けっこうなおっちょこちょいでもあるらしい。
体を起こすのを手伝った俺は、ぽん、と軽く頭を撫でてやった。

「ま、とりあえずキノコ拾っちゃおう。帰り道でまたつないであげるから」

が――

「わたしも……、こちらでご一緒してはいけないでしょうか……?」

けっきょく月夜は俺の後についてきてしまう。
しょうがない子だあ……。

「じゃあ月夜はカゴを持つ係ね。俺が拾うから」
「はい……!」

雲が晴れたような笑顔。うーん、可愛い。
途中で役割を交代したりしながら、俺たちは楽しくキノコ狩りをした。

「どうしたの?」

帰り道。月夜がしきりにきょろきょろしているので声を掛けてみる。

「セイの実がないかと思いまして……」

背の高い広葉樹に生る、珍しい木の実なんだとか。もんのすっごく甘いらしく、もしあれば俺に食べてもらいたいという。

「どんなやつ?」
「小さくて赤いんです。触るとちょっとぷにってしてるかも……。上の方に生っているので、下からだととても小さく見えると思います」
「へえ。月夜の乳首みたいだね」
「はい! わたしのちく……はぅ……」
「あれも赤くてぷにぷにしてるし、舐めるとものすごく甘いんだよねえ」
「うぅ……お兄様、いじめっこです……」

などとたまのセクハラを楽しんでいると――

「ん……。ひょっとしてあれ?」

望遠鏡アプリ越しに赤い実が目に入った。

「ど、どこですか?」
「あの木の、ほら左の枝」
「――あ、ありました! お兄様、目がいいんですね。すごいです!」

いや、アプリのお陰なんだけどね? 肉眼で見えちゃう月夜の方がすごいというか。

「でも、あんな高いんじゃ取れないよね」

二〇メートルぐらいはあるだろうか。大人の俺でも無理な高さだ。

「大丈夫です、あれくらいなら。わたし、木登り得意なんです!」

そう言うや、カゴを俺に預けた月夜がスルスルと木を登っていく。
おおう。上手なもんだな。本性が狐なだけある。でもヒラヒラした着物きてるから引っ掛けないといいけど……。ハラハラと見守る俺をよそに、月夜は難なく木の実までたどり着いた。

「お兄様ぁ!」

手に入ったことが嬉しいのか、枝にまたがりながら、木の実をふりふり見せてくる。

「うん! 判ったからぁ! 早く降りといでぇ!」
「はぁい……きゃっ!?」
「危ない!」

不安的中! 着物でも引っ掛けたのか、枝の中程でバランスを崩す月夜。細い枝が大きく揺れ、今にも彼女を投げ出そうとする。
緊張の一瞬――が過ぎ、木は安定を取り戻していく。
はぁー……、良かった……。細い枝だからかなりヒヤッとしたけど、なんとか耐えてくれたか……。
と思った瞬間だった。

ピシピシピシ、ボキィッ――
嫌な音が響き、月夜が空中に投げ出されてしまう!

「くそっ!」

カゴを捨て、急いで落下地点に入る。
間に合え――!
滑りこんだ瞬間、ドンッ! という衝撃が体に走った。そして――

「ったた……。お、お兄様!? ごめんなさい! だいじょうぶ……です……か……」

急いで体を起こした月夜が声を凍らせる。一方の俺も、この上なく嫌な予感に苛まれながら、加速度的に熱くなる右腕に目を向けた。
チィッ――折れたか。
肘から先が変な方を向いてしまった上肢。手は砕けてしまったのか血まみれだった。不思議と痛みは感じない。衝撃に脳が神経を切ったのかもしれない。ただラバー製品でぐるぐる巻きにしたうえ茹だった熱湯にぶち込んだような鈍い感覚が、とにかく腕に絡みついてくる。

「ぁっ――、いや……、いやぁっ……!」

血の気の失せた顔をいやいやと振って後じさる月夜。

「大丈夫、だから。何ともない、から」

もちろんそんなわけはないのだが、明らかに恐慌をきたしている彼女には他に掛けれる言葉がない。

「とにかく落ち着いて。大したことないから。怒ってもないし、月夜が無事そうで何よりだとも思ってる。本心だ」

熱が頭まで回り、徐々に呆けていくのを感じながら必死に言葉を紡ぐ。
が、いやいやを続ける月夜にそれは届いていないようだ。

「大きく息を吸って、吐いて。とにかく落ち着こう?」

体を起こそうとしてみるが――ぐっ、ダメか。体が思い出したように痛みを訴えてくる。
とにかく冷静にならないと。月夜を追い詰めたらダメだ。俺こそ取りあえず深呼吸を――と息を吸い込んだ瞬間だった。
月夜が四肢をついた。
え? いったい何を? と思った時には始まっていた。

「アアッ……、ガァ、アッ、ア―――――ッ!」

世界の終わりを予感させる断末魔。
それを上げながら――

月夜は、変身した。

手が、いや見るからに獣の前足となったソレが爪を煌めかせながら大きくなっていく。腕から、そして巨大化したことによって剥き出しになった全身から伸びていくのは白金色の獣毛だ。口には深々と切れ目が入り、牙がゾロリと覗いた。鼻は前に伸び出、面相が獣のソレへと変化していく。頭部にはピンと逆立つ耳。尻尾も数本、生えているようだ。

すっかり。
忘れていた。
彼女が妖狐だということを。
いや、その恐ろしい風貌は、狐というより巨大な白狼と言う方が相応しい。
いずれにせよ、ちっぽけな人間ごときとは存在からして違う。圧倒的な威圧感。それを無意識のうちに感じ、体が勝手にビクッ、と震えた。
そんな俺を見て、妖狐
・・
が面を伏せる。

『見―――……――さ―……』

え? 今、なんて……?
大事な何かを聞き逃した気がしたけど、時間は巻き戻らない。
そうしているうちに、前足が前に出る。
ゆっくりと、まるで痛みを堪えるような足取りで俺へと近づいて来る。
そして俺のすぐ傍まで来たとき、妖狐はその鋭い牙を剥き出した。
俺の全身を恐懼が襲い――

「ヒッ
・・

と無様な悲鳴が漏れた。それに妖狐は一瞬おびえたような反応を見せたが、けっきょくは構うことなく牙を――

己の前足に突き立てた
・・・・・・・・・・

深くえぐったソレを抜いた途端、間欠泉のように噴き出る血。それが俺の折れた腕に振りかかる。

『狐血、です……。これで……治りますから……お願いですからっ……きらわ、ないでぇ……』

涙声。
それを残して月夜が後じさる。さらにくるりと反転し、バンと地面を蹴った。そのまま二蹴り、三蹴りし、俺の元から走り去って行く。

「あ…………」

馬鹿な俺はそこでようやく、月夜に何をしてしまったのか気づいた。
なんて。
俺もなんて取り返しのつかないことを……!
傷つけた。月夜を思いっきり傷つけてしまった……!

月夜の言うとおり、俺の体は治っていた。
立ち上がって月夜を追おうとする。が、既にその姿は何処にも見えなくなっていた。
だけど月夜をこのまま行かせてはならない。
そうしたら。もしそうしてしまったら、二度と笑いかけてくれない気がする――!
息を吸い込む。
そして思い切り叫んだ。

「痛えええぇぇぇえええぇぇぇえええ――――――ッ! 腕がぁあぁ―――ッ! 腕がぁあぁ―――ッ!」

地面に倒れこむ。腕を押さえバタバタと暴れ、叫ぶ。無様に地へと這いつくばりながら叫び続ける。
痛いと叫びながら、心で頼むと願った。
月夜、頼む! 馬鹿な俺に、一度だけチャンスをくれ!
何度も。
何度も。
何度も何度も叫び声をあげ、のたうち回っていると――

『だいじょうぶ、でずがぁ……!?』

前足から血を、声から涙をこぼしながらも、月夜は戻ってきてくれた。

『ずぐに、血をぉ……!』

そして、何の躊躇もなく、無傷だったもうひとつの前足に牙を突き立てようとする。

「ごめん!」

前足に抱きつき、俺はそれを阻止する。

「嘘だから! 月夜のお陰で治ったから! もう大丈夫だから!」
『ふぇ……』
「そしてもっとごめん。俺は、月夜を、傷つけた」

抱きしめた月夜の前足が強張る。

「正直に言う。俺はあの時、確かに月夜に怯えた。月夜が怖かった」

月夜の外見に、それを形作る妖狐という本性に、負けてしまった。無様な悲鳴を上げてしまった。それは今さら取り消せることではない。

「だけど、嫌いになんて、絶対ならないから!」

面を上げ!
妖狐となった月夜の顔を見据える!
震えてはならない!
もう二度と! 絶対に!
巨躯の獣に怯えるのが人間の本能だったとしても! 震えてはならない!

「月夜の本性がこの姿だというのならそれを受け入れる。だからいつものように、『お兄様』、と呼んでほしい。その頭を、撫でさせてほしい。お願いだ――」

俺は、頭
こうべ
を垂れるように、月夜の足に額をつけた。

『今は……怖ぐ、ないんでずが……? わだじのこど、怖くないんでずが……?』

祈るような月夜の声。
全身全霊を込めて――!
嘘でもなんでも――つき通せ!

「当たり前だろう、どこの世界に妹のことを怖がる兄がいるんだ!」

その言葉が引き金だったかのように――
月夜が、元の姿に戻っていく。
狐耳と尻尾を残しただけの、元の月夜に戻っていく。
そうして、生まれたばかりの無垢な姿をさらした彼女を、悲しみに顔を歪ませ涙を必死に堪えている彼女を、俺は引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。

「ふぐっ、ぇっ、ふぇっ、えっ……ふえぇえ~~~んっ!」
「ごめんな。本当にごめんな」

腕の中で大泣きする月夜のぬくもりを確かに感じながら――
俺はそう何度も繰り返した。

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