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17: 嘘と涙

夢。夢を見ている。
心がささくれだったときに必ず見てしまう夢。こんなの忘れてしまいたいのに。夢それ自体が辛くて見た後にもっと悲しくなってしまうのに。でも何故だか見てしまう。
あたしが悲しいという感情を知った時のことだからだろうか。

夢は必ず手の映像から始まる。大きな大きな手。まだ幼子だったあたしには大空を覆う雲のように見えていた。
何かに没頭してきた人生なのだろう、手はごつっとしていて、何より手のひらの皮膚が硬かった。髪ごしにも判るぐらい。でもあたしはその手に撫でてもらうのが何より好きだった。
だからその日も頭を撫でてもらうことが出来て、あたしはごきげんだった。
そのひとは、

「必ず帰ってくるから」

と言った。
里に下りて、用事を済ませてくるのだという。
少しの間でも離れ離れになるのは嫌で最初は反対してたけど、とても大切な用事らしいからあたしは我慢することにした。あたしももうお姉ちゃんなのだ。我慢くらいできなくちゃ。
傍らには母と姉と妹がいて、そのひとをあたしといっしょに見送っていた。
母はふだんどおりの威張ったような笑みを浮かべ、

「ふん。帰って来ずとも良いわ」

なんて言っていた。
母は一事が万事この調子でなんというかあたし以上に口が悪い。でもそれは愛情の裏返しだと家族みんな判っていて、だからそのひとも困ったような笑みを浮かべながらピンと逆立った母の耳に指を差し入れてこしょこしょしたりしていた。

母はこの一帯の妖怪がふたつの陣営に別れて相争ったときどちらにもつかず双方の総大将を打ち負かして騒動を収めた大妖だ。ただの人間であるそのひとの手を払いのけるのはもちろん、不敬だと一瞬で消し炭に変えるぐらいわけないほど強い。しかし母がそうすることはなかった。
「ええい触るな鬱陶しい」だの「いい加減にやめよ、我をなんと心得る」だの言いながらも見ようによっては嬉しげにそれを受け入れている。

そのひとも「ごめんごめん」だの「もう少しだけ。ね?」なんて言いながらやめないのだ。
人間の文化をいくらか知った今のあたしならこういうのをなんていうか知ってる。バカップル、ってやつだ。
生まれたばかりの妹も、母に手をふりふりと振らされて、それでもなんだか嬉しいのか「きゃっきゃ」と言いながら笑みを浮かべていた。
ひとりだけ泣きそうにしていたのが姉だった。

「ほんとうに、かえってきてくださいますよね……?」

姉はとにかく可憐な美少女だった。肩まで伸びた金髪は透き通るように美しく、目鼻立ちも幼ないながらに優しさと凛々しさを兼ね備えている。あたしより数倍キレイ。同じ姉妹なのになぜこんなに違うのかと悔しくなるほどに。
そんな姉が美貌を悲しげに歪ませるのは見ていて辛かったのだろう、そのひとは姉を優しく抱きしめ、

「約束するよ。僕は葛葉を悲しませたりしないから」

と言った。
羨ましかった。そのひとに構ってもらえる姉のことが。
幼いあたしは、

「かえってくるっていってるでしょ。なんでおねえちゃんはしんじないのよ!」

とふたりの間に割って入ろうとした。

――やめて!

とそれを見ていた今のあたしは喉を震わせる。声が届くことはないけれど、どうしても叫んでしまう。
ひとつは幼い嫉妬を剥き出しにする過去の自分に。
もうひとつは姉の危惧を抱きしめることでごまかしたそのひとに。
そう。
そのひとが帰ってくることは二度となかった。

「必ず帰るよ。お土産買ってくるから」

去り際にもう一度あたしたちに掛けたその言葉は、だから嘘になった。
夢から覚めたとき、あたしは泣いていた。
どんな夢を見たのかはもう覚えていない。だけど判る。あの時のことをまた夢で見たんだ。
胸を刺す痛みに嗚咽が漏れる。
違う。これは葛葉姉の予感を信じていっしょに引き止められなかったことへの後悔なんかじゃない。
人間は嘘つきということを知らずに“父”の言葉を鵜呑みにした自分の愚かさへの嫌悪だ。

だから――
あの男にだってもちろん期待してはいけない。
ここに連れてくるのも別にあの男じゃなくたって良かった。
ひと目みたとき、“父”だと勘違いするほど匂いや醸し出す空気がいっしょだったとか関係ない。

ただ……。
ただ、いい加減だれか人間の牡を連れてこなくちゃいけなくなったときに、たまたま小萩山の近くを通ったのがあの男だった、それだけなのだ。
あたしの関心事は三姉妹の誰かが人間の牡の種を宿せるかどうか。
だってそれは果たさなければならない宿業だから。
そうしなければもうあたしたちだけになった狐の血を残せないから。
あの男が好きで抱かれたんじゃない。

『相手のことをぜんぶ受け止めてないってのはちょっと悪いなって思ったんだ』

だからそんな嘘にはだまされない。
一ヶ月経ったらあたしたちの気持ちなんか見向きもせず絶対に出て行くはず。
だったらあたしだってあの男のことなんて受け入れてやるもんか。

「あっ……」

不意に“父”がたまに見せた困ったような笑顔とあの男の顔が重なった。
違う違う違う。ぜんぜん似てなんかいない。
似ているのは嘘をつく、ただそれだけだ。
だから胸に痛みを感じる必要なんてない。

だというのに――
あたしはなかなか嗚咽を止めることができなかった。

葛葉さんと月夜にこってり精を搾られてから数日が過ぎた。
いや――
過ぎたというよりはむしろ何も出来ずに過ぎ去ってしまった、というべきか。
そのふたりとの関係は順調だ。ここ数日は体を重ねていないが、昼にちゃんとコミュニケーションを取っており、安定的な関係が築けている。
深いところで理解しあえた月夜はもとより、葛葉さんとも名前を呼ぶようになってから距離が縮まった感は確かにある。
問題なのは――

「次女」

なんだよなあ……。
ひとりだけハブってしまったこともあって、翌日から連夜にわたって鈴を鳴らしてはみたものの、いっかな姿を現そうとしない。
四人でいっしょに食卓を囲むようになっていたのでその時に話しかけてみたりもしたが軽く無視されてしまった。

「俺が何したっていうんだよ……」

いや、色々した記憶はありますけどね?
初エッチのときに処女膜見せろと迫ったりとか……。
4Pしようとしたりとか……。
あとは顕現してくれって言ったときもめちゃくちゃ怒ってたよなあ……。
アレなんでなんだろなー……? そんなに耳を見せるのが嫌なんだろうか……?
なんて鬱々と考えているところに月夜がやって来た。

「燐火の今日の予定わかった?」
「はい。聞いてきました」

とりあえずコミュニケーション量を増やそうということで、スケジュールを調べてもらったのだ。
それによると今日は客座敷と風呂場の掃除が燐火の予定らしい。

「客座敷ってことはこの部屋も含まれるよね? ならここに燐火くる?」

これはチャンスだ。向こうからノコノコとやって来るとは……。くくく……もう逃しはせんぞ!
そう思ったんだが……。

「そ、それが……」

この部屋の掃除だけ代わってほしいとお願いされたらしい。

「もちろん断ったよね? 俺が燐火と話す機会を窺ってるの知ってて請けたりしてないよね?」
「ひーんっ! ごめんなさいっ、お兄様ぁー!」
「つーくーよー!」

燐火の剣幕に押され、つい了承してしまったらしい。

「はぁー……。ったくー……」
「ごめんなさい……」

しゅん、と狐耳を垂らす月夜。
主人に叱られた子犬のようなそのリアクションに思わず口元が緩む。
やっぱ月夜は可愛いや。思わずよしよしと頭を撫でてあげたくなる。

「しょうがないな。ほれ、座れ」
「え……?」
「ブラッシング。燐火の予定を聞いてくる代わりにしてあげるって約束だったろ」
「で、でも……。いいんですか……?」

月夜が、期待と不安が入り交じった瞳を向けてくる。
約束は約束だけどヘマしたのにいいのかな……、とか考えてるんだろう。

「ん。してほしくないならそれでもいいけど?」
「し、してもらいたいです! お兄様に、ブラッシング! ……あぅ」

勢い込んでみたものの、ニマニマと笑う俺に自分の振る舞いを認識したのか、かぁっと顔を赤らめる月夜。
それでもブラッシングの魅力には抗い難かったようで、緊張気味に膝を進め、背を向けて俺の胡座に腰を下ろした。
対する俺が取り出したるは華美な装飾が施された櫛。月夜から預かった代物で、母の形見らしい。
これを使って月夜の輝くような髪やら尻尾をブラッシングする――
それが月夜と交わした“約束”なのだった。

「相変わらずサラッサラだな、髪」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。櫛で梳いてもぜんぜんひっかからないしね。赤ちゃんの髪みたい」

跳ねてるところも髪が絡まってるところもないから、長い髪なのに上から下まで櫛が素直に通る。
ある意味、梳き甲斐のない髪ではあるが、感触が最上級の絹糸みたいでいつまでもこうしていたい気持ちになる。

「はうぅ……」
「ん、どした? 今の痛かったか?」
「あ、そうじゃないです……。お兄様に髪を梳いてもらってるかと思うとそれだけで嬉しい気持ちが溢れて……。胸がきゅぅってなるんです……」

その言葉を裏付けるように、キレイに逆立った狐耳が所在なげに動く。

「なるほどな。なんかさっきから耳が動いてるなーと思ってたんだけど、そういうことか。あとちょっと緊張してる?」
「そ、それもあると思います……。耳と尻尾をこんな無防備にしたこと、はじめてですから……」

それだけ俺のことを信頼しているし、懐いてもいるということなんだろう。
うむ、悪い気はしないな。

「さて。髪のブラッシングはひと通り済んだし、次は尻尾だな。……って、こら」

もっふもふの尻尾に手を伸ばすとひょい、と躱された。
もう一度と思ってチャレンジするが今度は逆方向に触れ、またもや空を切る。

「つーくーよー?」
「ち、ちがいます! これは、その、尻尾が勝手に……!」
「あー、興奮すると尻尾がぶんぶん振れちゃうやつ?」
「そう、です。それです……」

ますます犬みたいな反応だなー。
でも、狐って確かイヌ科の生き物だったっけ。
妖狐とか神獣のクラスにある月夜たちに対してもそういう考え方でいいのかは迷うところだが、このぶんぶんっぷりを見ているとそこは変わらないようにも思える。

「よっし。掴まえた」

左右に揺れようと両サイドから囲めば捕らえるのは簡単だ。月夜も触れられないようにしてるわけじゃないから、いちど掴まえれば振り払いはしない。

「あの、お兄様……。ふぁっ!? はっ、んぁ……」

目の前に豊かな毛並みの尻尾があれば撫でさすってみたくなるのが人の性。その欲望に逆らわずさすさすしてみると月夜がエッチしてる時のような声を上げた。

「ん。尻尾で感じてる?」
「は、はい……。自分でもはじめて知りましたけど……、感じるっ、みたいっ、ですっ……」
「そっかー。……じゃあこうやってもふもふさすさすするとすっごく気持ちよくなっちゃう?」
「ふぁあっ! お、おにいしゃまっ……!」

毛の中に手を入れ、尻尾の形を直接たしかめると、月夜が背をピンと反らし可愛らしく喘いだ。

「ははっ。すまんすまんやりすぎたな。ちゃんと毛を梳くから許してくれ」

手触りは極上のファーのようだし、月夜の反応が愛らしくていいんだけど、続けてると俺までエッチな気分になってセックスしなくちゃ収まらなくなりそうだからな。
ふさっとした尻尾を下から支え、上から丁寧に櫛を通す。

「おひい様。これでいかがでしょうか?」
「あ、はい……。とても、いい、です……」
「ん。梳き方があんま良くなかったりするか? 気になるところとかあれば遠慮なく言ってくれよ?」

なんとなく言葉のニュアンスが引っかかって訊いてみる。
そうなのだ。月夜とのやり取りを重ねたことによって最近は含意にも気づけるようになったのだ。

「えと、その……」
「ほら、遠慮せずに」
「は、はい。あの、お兄様の手で尻尾なでなでされるの気持ちよかったです……。あれも……その……」

月夜の意外な要求に軽く吹き出してしまう。

「別にいいけど続けるとエッチな気分になっちゃうんじゃないのか?」
「い、いいんです。月夜はお兄様の前ではえっちな子ですから……」

月夜がそういった面を見せてくれることを嬉しく思いつつ――
じゃあ次に種付けするときいっぱい撫でてやるからな、とその耳元に甘く囁くのだった。

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