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20: 秋の夕暮れは、甘く切なく(前)

西日を浴びて朱に染まる羽城の山並み。それが一望できる高台に燐火はいた。
表情は窺えない。いよいよ沈み始めた太陽に向かって膝を抱えており、俺からは落ち葉のうえで丸くなった背が見えるばかり。
そんな燐火から一本、黒い道が伸びていた。影法師だ。俺はそれを踏みしめながら近寄っていく。

「こっち来ないでよ」

燐火は力なく言った。
相手が俺だということは見ずとも判ってるみたいだった。

「話、あるんだけど今ダメか?」
「……言っとくけど、葛葉姉が話したあたしの気持ちとやらは当て推量にすぎないんだからね。あたしはあんたのことなんて別になんとも思ってないんだから」

そうか、と言いかけてハタと気づく。
なぜ葛葉さんがさっき話した内容を知ってるんだ?

「ひょっとして聞いてたのか?」
「ぬ、盗み聞きしたわけじゃないわよ。あたしはずっとここにいたし、ただ聞こえてきただけで……」

そういえば燐火たちは鈴の音が数里先まで聞こえるぐらい耳がいいんだったな。
ということはこの会話も葛葉さんと月夜にだだ漏れなのか……。まあいいけど……。

「横、座るな」

燐火の隣、肩が触れ合うぐらいの距離で腰を下ろす。するとますます膝を抱えられてしまう。

「い、良いって言ってないんだけど」

と言いつつ、燐火は俺を追い払おうとはしなかった。逃げ出そうともしない。
口調や態度は刺々しいけど、内面はたしかに葛葉さんが言ったとおりなのかもな。
そんなことを思いながら話しかける。

「あの狐って燐火だったんだってな」
「あ――あれは違うわよ!」

軽いフリに、びっくりするぐらいの大声で否定してくる燐火。
“あの狐”ですぐ思い当たること自体がそれを認めてるのと同じだと思うんだけど……。

「なんだ違うのか。じゃあ葛葉さんの思い違いだな」
「…………あ、……よ」
「え? 今なんて?」
「…………あたしよ」

反射的に否定したものの言い逃れはできないと悟ったのだろう、燐火がしぶしぶといった感じで認めてきた。
その消え去りそうなその声が可愛らしく、つい意地悪なことを言ってしまう。

「すまん、よく聞こえん。もう少しハッキリ言ってくれないか?」
「あたしよ! あの狐はあたしだって言ってるの! な、なにニヤニヤしてるのよ、イヤな男ね!」
「はは、すまんすまん」

そりゃそんな恥ずかしそうに怒ってくれば相好も崩れるって。

「あの狐はたしかにあたしだけど、あんたの胸で眠ってたのは好ましく思ったとかそういうんじゃないんだから。勘違い、しないでよね」

燐火はまた自ら地雷原に足を踏み入れた。
そんなこと言われれば当然こう聞き返したくなるわけで――

「ああ、あれな。懐きそうになかった狐が胸のうえで眠ってたのは驚いたなあ。でもそれならどういうつもりだったんだ?」
「うっ……。そ、それは……」
「それは?」
「もう! いいでしょ、別に、なんだって!」

ツンとした燐火にまた吹き出してしまう俺。
笑って、笑って、笑って。
その笑いが夕日に吸い込まれて。
辺りには沈黙の帳がおりた。

「…………」
「…………」

山並みに目を向ければ、峰に身を削られた陽が血のような赤を世界にぶちまけていた。
そして夕方の気配を帯びた風が、ふたりのあいだをそろり、と吹き抜ける。それは思ったよりひんやりとしていて、もう少し燐火と肩を寄せ合いたいな、と俺に感じさせた。

「なあ……燐火」

沈黙を破りつつ――燐火たちの父親について考えていた。母狐と愛し合い、三人の娘をもうけ、その末に去った男のことを。
男はなぜ去ったのか。
聞きかじりの情報しかない俺に男の気持ちは判らない。
その一方で、立場がまったく同じという事実は、俺だからこそ判ることがあるんじゃないだろうか、という気にさせた。

「なによ……」

俺ならどうするだろう。
葛葉さんに燐火そして月夜と子をもうけ、ここが自分の居場所だと思えるぐらいにみんなといっしょに暮らした末に――三人とその子を捨てるようなことをするだろうか。
しない、と思う。できない、と思う。
じゃあどうして男は――
その時、ふいに先生の言葉が甦った。

(……実はそのひと、忠七さんと違って生きて帰ってきたんだ。どこに行っていたのかは黙して語らずすぐに亡くなったんだけど、最期の言葉が『翠、すまない』だったそうなんだよ)

気づくと俺は、湧き出た水が川を下っていくように自然と口を開いていた。

「燐火たちのお母さんって、“翠”って言うのか?」
「……そう、だけど。なんであんたが知ってるのよ」

やっぱり……。
そうか、そうすると先生の話していた神隠しにあって戻ってきた男というのは、三人の父親だったんだ……。

「『翠、すまない』……」
「え?」
「あ、いや……。あのさ、燐火たちのお父さんは何か事情があったんじゃないかな。やむにやまれぬ事情があって、それでここを去った。約束通り戻ってこようとしたけど叶わなかった……、そうは考えられないか?」
「あんたに!」燐火は勢い良く立ち上がった。「何が判るっていうのよ!」

陽よりもよほどに赤い、燃え盛る焔のような緋色の瞳。それを仇敵へと向けるようにつりあげて。燐火は俺を見据えた。

「あの男は嘘をついてあたしたちを捨てた。そうやって母さんを死に追いやった。ニンゲンのオスってのはね、そういうイキモノなの。あんただってあと少しすればここからいなくなって、あたしたちのことなんて忘れて生きていくの。そうでしょ? 違う!? なのになぜハッキリそう言わないの!? ニンゲンのオスは、すぐあたしたちを誑かそうとする……!」
「ずっとそばにいる。俺は燐火のことを捨てたりしない。万が一にでもそうしたなら俺を殺していい。――そう誓えば俺のこと、受け入れてくれるか?」
「う――、嘘。またそうやってすぐ嘘を……」
「嘘じゃない。嘘じゃないよ。で、どうなんだ?」
「そ、それは……」

燐火の言葉が揺らぐ。強い意志を宿していた瞳も窮したようにサッと伏せられた。
そんな反応を目にしながら――
俺は覚悟をもって次の言葉を紡いだ。

「ごめん、ずっとそばにいるっていうのは無理だ。それはできない」

言い終わる前に燐火が襲いかかってきた。
馬乗りにされ、喉に鋭い爪を当てられる。
燐火の頭にはいつのまにか狐耳が生えていた。俺の言葉に激高し、思わず顕現してしまったのだろう。

「だと思った。あんたニンゲンのオスだもんね。そんなもんよね」

燐火の怒りの形相から目を背けてはならない――
そう思って見上げた俺の目に飛び込んできたのは、意外な光景だった。
雫。
それがぽたり、と頬に落ちる。
ぽたり、ぽたり、ぽたり。
燐火は泣いていた。

「今さっきあんたが言ったことだもの。覚悟はできてるってことでいいわよね。ああ、安心して。苦しまないように殺してあげるから」

皮膚を今にも突き破らんばかりに爪が食い込む。が、燐火はそこから先をやろうとしない。

「ずっといっしょにいるってのは無理なんだ。無理なんだよ、燐火」
「まだ言うの!?」
「だってそうだろう? 燐火は俺のことをたやすく殺せる。人間は脆弱なんだ、燐火たちに比べれば寿命だってずっと短い」
「――――」

男のやむにやまれぬ事情――
それはそういうことなんじゃないかと思う。

「ずっとそばにいたくなってそれはできない。俺がどうというより、生命の持つ業が、それを許してくれないんだ。葛葉さんや月夜だって、ずっと燐火のそばにいられるわけじゃないんだぞ」

爪はまだ当てられたままだったけど、燐火の体から力が抜けていく。

「人間同士だってそうなんだ。ずっといっしょになんていられない。死は俺たちの頭上に等しく降り注ぐ。別れってのはいつか必ずやってくる、不可避なんだよ。それも突然やって来たりするしな。けっこう厄介なもんなんだ」

俺の話しぶりに察するところがあったのか、燐火がおずおずと口を開く。

「あんたも……? 大切な誰かを失った経験、あるの……?」
「ま、いちおうな」

親父は交通事故。
母さんはガン。
俺の両親はすでにこの世にない。

「親父は突然すぎてさ。死んだって言われても何が何だか判らなくて。棺桶に収まってる親父みても実感まったくなくて。葬式が終わって火葬が済んで家に帰って“ただいま”って言った瞬間だったな。涙があふれて止まらなかった」

親父には話したいことがいっぱいあった。
してやりたいこともいっぱいあった。
でもぜんぶできなかった。

「だからかな。母さんがガンの告知を受けたときはむしろ動揺とかあんまなくて。残された、いっしょに過ごせる時間を大切にしよう、ただそれだけだった」

両親の死を通して学んだことがあるとすれば、死は残される側の心の問題だということ。
辛いけど。
悲しいけど。
心残りさえなければそれは受け入れられることなんだ。

「大事なのはどういう時間を過ごすか、だと思う。せっかく縁があってこうして出会ったんだ。いつかくる別れに怯えて距離を置くのはやめにしないか?」

燐火の涙。それを指でをぬぐってやる。

「あたし、だって……。本当は、あたし、だってっ……!」

言葉をそこで切り――燐火はまた泣き出した。
ぽろぽろと、ぽろぽろと。
燐火は大粒の涙をこぼしながら、ルビーを思わせる美しい瞳で俺を見つめてきた。

「燐火……」

女の涙は強力な武器だと思う。
普段への字口の燐火の泣き顔に、胸がキュンとなった。
そして同時に――

(燐火と深いところで交わりたい……!)

欲望に突き動かされた俺は、その可憐な口唇を自分の元へと引き寄せた。

「な、なにする気……!?」
「キス……、ダメか?」
「そ、そういうのは本当に好きになった相手とだけって、言われてて……」
「ダメってこと?」
「だ、だめ…………じゃないけど…………んっ」

燐火の口唇を奪うと、口の先にハリのある柔らかさが広がった。
すげえ……。
ぷるんと弾けるような感触なのは知っていたけど、自分の口で受けるとまったく違う印象になる。
ずっとこうしてたいぐらいだけど、そうもいかないわけで――

「ぷぁっ……」

口唇を離すと、びっくりしすぎたのか燐火は泣き止んでいた。そして見たことがないぐらいに顔を真っ赤にし、いつもは強気な瞳をキョロキョロさせ、キスの感触を確かめるように口唇へと指を当てる。

「口吸い……、はじめてで……」
「ああ、うん」

もっと気の利いたことを言いたかったのだが、ふだんの燐火からは想像できないうぶなリアクションに、頭がまともに働いてくれない。

「よ、よく……わからなかった、から……」

風にさらわれていきそうなほど小さな声。それを口にした燐火は、何かをねだるように、俺の浴衣の襟をひっぱった。
もちろん――
ここまでされて何を求められているか判らないほど俺も子どもじゃない。

「んっ……、ちゅっ……ん、んっ、ちゅ……ちぅ……」

二回目のキスは少し長めになった。ぷるっとした感触を楽しんだ後は、柔らかさを堪能するように燐火の上唇を吸ってみた。すると張り合うように燐火が俺の口唇を吸い返してきた。たどたどしいというか、おっかなびっくりって感じだったけど。

「どう、だった?」

俺の問いに、困ったような顔をしながら上唇と下唇を合わせてキスの余韻を確かめる燐火。
やがて薄く口唇を開き――

「その……、わ、わからなかった……から、もう……いっか、んちゅっ……」

こんな可愛いリアクションされて男が我慢できるかよ。
言い終わる前に口唇を押しつけ、キスを再開する。

「んっ、ちゅっ、ちぅっ、んっ……ぢゅっ、んぁっ、れろっ」

三回目ということもあって、お互い大胆になっていた。小鳥のようにちゅっちゅっと音を立てながら口唇を吸い合う。そして燐火が息継ぎをしようと口唇を薄く開いた瞬間、舌を絡めにいった。

「んんぅっ!? んっ、んっ、んむぅ、んぢゅ、んっ、んぅっ……!」

驚いたのか、体を硬くする燐火。動きも止まり、俺の舌のなすがままを受け入れる。しかしそれを続けていると、燐火の体から力が抜け、おそるおそる舌を絡め返してきた。

「んじゅるっ、んれろぉ……んれろっ、れりゅっ、えろっ……」

燐火との舌の絡め合いは思った以上に官能的で、ずっと続けていたいぐらいだったが、息継ぎもあったので、キリの良いところで離す。

「いわゆる大人のキスってやつだけど、舌を絡めるのもけっこう気持ちいいだろ?」

胸の高鳴りがそのまま顔に出たような、余裕のない表情を燐火が見せる。

「うん……。すごかった……。でも、ね……、すごくて、よく……わからなかったから……、その……」

上目遣いにねだる燐火が可愛すぎて、俺はがっつくようにキスを再開した。

「んちゅっ、んぁっ、あむ……んぅっ、んっ、ちゅむっ……んちゅっ、ちゅぅ……、んっ、れろっ、んれろぉ……」

甘い……、甘すぎる……。
新鮮な果実のようなみずみずしい口唇から広がる官能の味が、俺の胸をドキドキさせる。
そして舌と舌の絡み合い。まるで性器をこすり合うような淫らな蠢きが、俺の下半身を著しく刺激した。ディープキスをしてるだけなのに、いつのまにやらペニスはビンビンになっていた。

「悪い燐火、体いれかえるな」
「え? きゃっ」

辛抱できなくなってきた俺は、燐火を組み敷く格好に体位を入れ替えた。

「燐火としたい。初回よりはやさしくするからさ」

そう言って帯に手をかけると――

「うん……」

燐火は期待に満ちた瞳を俺に向け、素直に頷いた。

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