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22: 葛葉の想い

気づくと俺は真っ白な光に包まれていた。
おだやかで。
あたたかで。
まるで母親にいだかれているような、そんな心地よさ。
あるいは――
ぬくぬくで、もふもふで、小春日和の縁側でひなたぼっこをする猫になったような、そんな安らかさ。

(あーこれ、夢ん中なのか……。むー、起きたくないぞ……)

あまりに心地よく、ぼやぼやとした頭にそんな感想が浮かんだ。安寧な気配を逃がさないよう、俺をくるんでいた毛布にぎゅっとしがみつく。

(うあ……、もふもふの感触すげえ……)

抱きついたそばから広がる柔らかい反発。小さい頃に使っていた毛布のさわり心地を思い出し頬ずりを繰り返す。すると『ひゃんっ!』という奇妙な声がどこからか聞こえてきた。

『あ、あんたほんとは起きてるんでしょ!?』

続いた言葉の輪郭は、よりハッキリとしていた。が、何を言われているのかイマイチ理解できない。

(起きてるってなんだ……? 俺はただ毛布にしがみついてるだけで……)
『んっ……! だ、だからそんなにギュッとしちゃダメだってばぁ……!』
(と言われてもこの毛布すごく気持ちいいし……。すりすり……)
『ば、ばかぁ……。も、もう終わりっ! 終わりなんだからっ……!』

唐突に告げられた終わりの時。するとその宣言通り、毛布のもふっとした感触が遠のきはじめた。それと反比例するように真っ白な気配が強さを増す。

「待ってくれ、もう少し、あと五分だけ……、目覚ましが鳴るまででいいから……!」

逃げる毛布を掴まえるべく、俺は腕をいっぱいに広げソレに抱きつく。すると――

「きゃぁっ!?」

むにゅにゅん!
返ってきたのは、ハリと柔らかさを兼ね備えた極上のおっぱいのような感触だった。
というかおっぱいだった。

「むにゃむにゃ……。燐火……? 何でお前、俺の布団に……」

燐火がほぼ全裸で俺の腕の中にいた。おっぱいはべったりと俺の胸板にはりつき、素晴らしい弾力を肌越しに伝えてくる。

「な、なぁにがあんたの布団よ……。ここがどこに見えるっていうの……?」

横たわる俺に密着していた燐火が、ジト目と栗みたいな口を不意に光の方へと向けた。そこにあったのは山間からゆるゆると昇る朝日――

「そっか……」

俺たちがいるのは幻燈亭ではなく、羽城の山々が一望できる高台だった。
昨日、ここで俺たちは正式に結ばれた。セックス自体は前にしていたけど、昨日は気持ちを通じ合わせてから体を重ねたのだ。

「ひょっとして俺、してる最中に気を失った?」

途中までは覚えてるけど……、最後どうなったんだっけ……?

「ハリキリすぎなのよ。た、種いっぱい注いでくれるのはそりゃ嬉しいケド……。あんなお互い身も心も溶けるぐらい激しく睦み合ったら相手があたしじゃなくたってそりゃ気のひとつやふたつ失うわよ……」

聞けば昨日の夕方から始まったセックスは、互いが互いを求め合うまま俺が気を失うまで続き、結果その場で一夜を明かすことになってしまったらしい。

「そっか……。となるとさっきの毛布みたいなやつはなんだったんだ……?」

俺をくるんでいたぬくぬくもふもふの毛布。あれがあったればこそ、縁側でひなたぼっこする猫になったような夢を見ていたわけで。もし無ければ月夜との時のように風邪を引いてしまっていただろう。
といっても、だ。宿ならともかくこんな野外で用意できる相手となるとそれは限られている。

「な、なによ」

半ば確信をもって見つめると、燐火はなぜか落ち着かない様子を見せた。

「ひょっとすると妖狐の姿になって俺をくるんでくれてたんじゃないかなー、と思ったんだけど、ちがう?」
「ち、ちが……わないわよ……。だってそうでもしないと風邪ひいちゃうでしょ」

ということらしい。

「そっか。サンキュな。でもそれならさ、そんなキョドらなくても良くないか? 普段の燐火なら『あんたが風邪ひかずに済んだのあたしのおかげなんだから。感謝しなさいよね!』ぐらい言いそうなもんだけど」
「あたしのことなんだと思ってるのよ……」

むくれる燐火だったが、ふいに「でもあの姿はあんまり見せたくないし……」とポツリと言った。
あの姿――
妖狐としての本性。
人型に耳と尻尾が生えた姿が種乞い狐の本当の姿とは言うが、しかし前に月夜が見せたような獣としての姿もやはり彼女らの本性には違いないのだろう。
ただそれを俺に見せることはどうにも抵抗があるらしい。

「月夜にも言ったけど、もう妖狐としての姿を見てもビビらないと思うぞ。そりゃまあ圧倒されるぐらいはあるかもしれないけど、むしろ慣れてそうならないようにしたいと思ってるし」
「そ、そうじゃなくて……」
「ん? ちがうのか?」
「怖がられたくないというのも少しはあるけど……、あ、あたしも女の子なの!」

女の子?
そりゃ今も胸板にあたっているむちむちのおっぱいがそう激しく主張しているのは元より了解していることだが?
疑問符を頭に浮かべていると、燐火は少しだけ左に顔をかしげた。

「この角度がいちばん可愛く見えると思うんだけど……、どう……?」
「角度……? 反対を向くとどうなるんだ?」
「こ、こんな感じ……」
「どっちも可愛いと思うぞ」

どっちも変わらなくね? と言いかけたが何とか言い換えることに成功。
ふー、やべ。危うく余計なひとことを口走るところだった。
そんな俺の内心に気づくことなく、燐火は元の角度に向き直る。

「あたしとしてはやっぱり“こっち”がいちばん自信あるかな……」
「それはつまり、俺には出来る限り可愛いところだけを見せたいから、あんまり妖狐の姿は見せたくないってことでいいのか?」
「えと、その……うん。そゆこと……」

顔を真っ赤にした燐火は、所在なげに視線をさまよわせた。
うーん、びっくりするぐらい乙女。

「安心しろ。ちょっとヒネたところも含めて燐火はいつだって可愛いから」
「え、うん、ありがと……。って、ヒネたところって何よ」

眉根を寄せ、ジトーっとした目を向けてくる。
とはいえ燐火にも自覚はある、ということなのか、狐耳が不安げにぴょこぴょこと動いていた。
そう、狐耳。
燐火もまた、月夜と同じように俺の前でも本性を顕わにすることを選んだくれたんだろう、夜が明けても出たままになっていた。
そしてそれは「ヒネたところもある」という俺の言葉が気になってしょうがないと言わんばかりに揺れており――
気づけば俺は、燐火の狐耳を撫でていた。

「んっ……」
「だからそういうところも可愛いって話」

毛並み豊かな狐耳の後ろ側をこしょこしょしながら囁いてやると、燐火は拗ねたように口唇を突き出しながら照れるという器用なマネをしてみせた。

「な、なに勝手に耳さわってるのよ……」
「ダメだったか?」
「べ、べつにいいけど……。でもあたしが耳をさわらせるの、とくべつなことなんだから……。あんただけのとくべつっていうか……。そこんとこちゃんと理解しときなさいよね……」
「燐火にとって俺は特別だから、つまり好きだから許してくれるってことでいいんだよな? そりゃ光栄だな」
「そ、それは……」
「違った?」
「あ……、あんたってけっこういじわるよね……」

呆れたように眉根を寄せる燐火。そんな彼女のウェーブのかかった桃色ブロンドを丁寧に撫で、そしてまた狐耳をこしょこしょしてやりながら――俺はついでにひとこと囁いた。

「知ってたか? 人間の男ってのは、好きな女の子をついついいじめちゃう生き物なんだ」

かぁっ――と顔を真っ赤にした燐火は眉尻を下げながらぽかぽかと叩いてきた。

「ば、ばかばかっ。もう……、ほんとにばかなんだからっ……」

その殴打と声音はびっくりするほど優しくて。
夜という魔法がとけても、俺たちの関係が逆戻りすることはない――
そう確信させるに十分な響きをたたえていた。

朝っぱらからイチャらぶに精を出す俺たちだったが、あんまり長々とそうしてるわけにもいかなかった。
なんせ外で一夜を明かすことを葛葉さんに断ってない。

(それで月夜に風邪を引かせたってのに、同じことやらかすとか責任ある大人としては良くなかったな……)

というわけで急ぎ身支度をし、もっか下山中。

「大丈夫よ。葛葉姉は怒ったら怖いけど、あんたには甘いから」
「甘いっていうか、良くしてもらってるのは感じるけどな。好意的、っていうか……」
「デレデレしちゃって。いくら葛葉姉に好かれてるからってそんなあからさまに嬉しそうにしなくたっていいでしょ」
「し、してないって」
「いーや、してた。今だって笑ってるじゃない」
「そ、そうか?」

口元を撫でてみると、たしかにニヤニヤしちゃってるような気がする。

「じとー」
「わかった、わかりました。だから俺をそんな目で見ないでくれ」
「もう」

と言って燐火は俺の手を自分の方へと引っ張った。辺りは木々が林立している鬱蒼とした山の中、足元だっておぼつかない。うっかりバランスを崩した俺を、燐火は待ち構えていたように抱きとめる。

「葛葉姉のときだけそんな嬉しそうにするんじゃなくて、あたしや月夜にもちゃんとそういう顔しなさいよ。あと、その、交わるのはあたしと月夜ばっかにしてないで、葛葉姉にもちゃんとしてあげなきゃダメなんだから」
「燐火――」
「最近、葛葉姉としてないでしょ? 主にあたしのせいだと思うけど……」

たしかに月夜や燐火と仲良くなることを優先して、葛葉さんとのセックスは後回しになってた気がする。彼女は大人だから判ってくれてると思うけど、それでも少し寂しい思いをさせたかもしれない。

「そうだな、燐火の言うとおりだ。でも葛葉さんにかまけて今度は燐火や月夜がおろそかになるってことはないよう気をつけるよ」

姉の気持ちを代弁しつつも、俺の浴衣の袖をつかんだまま離そうとしない燐火にニヤニヤしていると、彼女は「むうう」と唸りながらアヒル口になった。

「と、とにかく! ……あんたはもうあたしたちを本気にさせちゃったんだから。少なくともここにいる間はみんなのこといっぱい可愛がるの。責任、とってくれるんでしょ?」

秋風が木々の間を通り抜ける。葉と葉がこすれあい、ガサガサと物悲しい音を立てた。
しかし燐火の瞳は燃えるように力強く、俺への深い信頼が滲んでいるように見えた。

「当然だろ。俺だって燐火たちのこと、手放す気はもうないんだからな」

燐火の気持ちに応えようと、つないだ手を動かし、指を指に絡めていく。いわゆる恋人つなぎ、だ。

「あ、う……。か、帰るわよ……」

絡まった指の感触を確かめるように握り返してきた燐火は、俺をぐいぐいと引っ張るように下山を再開した。
その道中、燐火は月夜とちがって珍しい草花があっても特に説明を加えようとしなかった。遠くに小動物が見えても、目もくれない。互いの手の中にある熱をたしかめあいながら、ひたすらずんずん歩いていく。

(これはこれで燐火らしいなあ)

なんて思いを強くしていると――
山の中腹にそびえ立つ四階建ての威容――幻燈亭が見えてきた。
そしてその足元に、見覚えのあるシルエットがふたつ。

「あれは――葛葉さんと月夜、か」

出迎えてくれたのか、あるいは待っててくれたのか。いずれにしても朝帰り特有の後ろめたさを覚えたが、共犯者である燐火は臆することなくずかずかとふたりの元へと歩み寄った。

「ただいま」
「おかえりなさい」
「ふたりには心配させたと思うけど……、こう、なったから……」

握りあった手を見せ、俺たちの関係性の変化を証明する燐火。

「まあまあ」

葛葉さんは嬉しそうに口元をほころばせ、月夜は恥ずかしそうにもじもじとつながった手を見つめてきた。

「ほ、報告おわり」

熱視線に恥ずかしくなったのか、燐火が手を背の後ろに隠す。が、そうするとますます興味を惹かれるのが人情(?)というもので。

「うふふ。これが音に聞くらぶらぶ、ね」
「うらやましいです……」
「も、もう! おわりだってば!」ふたりの視線に耐えかねたのか、燐火は急ぎ手を離し、俺をドンと突き飛ばした。「さっき言ったこと忘れないでよね! 大事なことなんだから!」

そう捨て台詞を残し宿の中へと走り去っていく。
ったく。さっき言ったことっていっても色々あるだろうに。ま、だいたいわかっちゃいるけどさ。

「お兄様……、どんなお話されたんですか……?」

てとてとと寄ってきた月夜が、俺と燐火の走り去った方を交互に見ながら浴衣の袖を引いてきた。その顔には、姉の行方も気がかりだけど、俺との間に何があったのかもっと知りたいと書いてあった。

「ま、色々とな。それより燐火に付いててやってくれないか? まだちょっと興奮気味みたいだから」

俺の言葉に目をぱちくりと瞬かせた月夜は、ほんのり笑って「はい。わかりました」と頷いた。
素直さは月夜の美質だ。聞きたい気持ちはあるんだろうがそれをぐっと堪えて俺の言うことを優先してくれる。
その前に、と月夜が口唇を手で隠し背伸びをしてみせるので耳を寄せてみると――

「わたしともあの手つなぎをしていっしょに散歩してくださいますか?」

こしょこしょと内緒話をしてくるので、俺も月夜の耳に口元を寄せて囁き返す。

「いいけど、こないだしなかったっけ? ほら、きのこ狩りのとき」こしょこしょ。
「でもまたしたいんです。燐火お姉さまがうらやましくて……」こしょこしょ。
「了解。じゃ、約束な」こしょこしょ。
「はいっ、やくそくですっ!」こしょこしょ。

最後に頭をひと撫でしてやると、燐火は春風のような爽やかな笑顔を見せててとてとと宿の方へと走っていった。
さて、と。

「葛葉さん、すみません燐火を一晩中つれまわしてしまって」

宿の主であり、それ以前にふたりの姉であり保護者である葛葉さん。彼女に筋を通すことは、燐火との“仲直り”における最後のミッションと言えた。

「月夜に風邪を引かせたことを考えれば自重すべきだったんですが、流れでそうなってしまいました。申し訳ない」

折り目を正し、頭を下げる。
ここまでやってしまうと、ちょっと大げさかもしれない。
ただ月夜に風邪を引かせたのは事実で、その直後に燐火を預かった責任ある社会人としては轍を踏むべきじゃなかったとも感じるのだ。が――

「葛葉さん……?」

いっかな返事がないので、ひょっとしてめちゃくちゃ怒ってるんだろうかと視線を上げてみると……。

「え……? あ、はい……?」

葛葉さんはなぜかぼうっとしていて、ついでにいえば顔が真っ赤だった。

「ええと、燐火を連れ回していてすみません、という話を今していたんですが」
「あの、はい、ありがとうございます。じゃなくて……。ああ……、あの、史郎さんが謝ることは何ひとつありません。燐火の気持ちも解きほぐしてくださったことに感謝しこそすれ責めるいわれなんて……」

しどろもどろの葛葉さん。非常にめずらしいリアクションだ。

「あの、怒ってるのであればはっきり言ってもらったほうが……」
「ち、ちがいます。高台における史郎さんと燐火のやり取り見てましたけど、私うれしかったんです。燐火の気持ちが報われて本当に良かったって……」
「え……。見て、たんですか……」

耳聡い彼女たちのことだ、聞かれることは覚悟してたけど、まさか見られてもいたなんて……。

「あっ……。ご、ごめんなさい……。つい、気になって千里眼を使ってしまいました……」
「大丈夫です。心配されるのも無理ないことですから……」

隠し立てするようなこともないしな。とはいえ、セックス中のあれやこれやもぜんぶバレてるかと思うと……。

「…………」
「も、戻りましょうか……」

沈黙が妙に気まずく、葛葉さんを促して宿に入ろうとする。と――

「あ、あの……!」
「は、はい。なんでしょう……?」

急に、葛葉さんの大きな声。何かと思って訊ねてみるが、彼女はただうつむくだけで続きを口にしようとしない。

(今日の葛葉さん何か変だな……。ひょっとして一晩中外で待ってて風邪ひいちゃったんじゃ……?)

上気した顔や着物からむき出しになった熱っぽい肩はまさしくその証に感じられた。

「葛葉さん風邪ひいてます? なら早いところ宿に戻って休んだほうが……」
「違います……。ひいてません……」

と言いつつ頬は赤くなっており、瞳も潤んでいる。風邪じゃないというならそれは一体……?
そう思っていると、葛葉さんが意を決したように口を開いた。

「あの、少しだけ向こうをむいていただけませんか……?」
「こう、ですか?」

状況がつかめてないものの、俺は素直に葛葉さんへと背を向けた。
付き合いは長くないが、彼女の誠実さはじゅうぶん理解している。何か変なことをするということもないだろう。と思っていたら――

「失礼します……」

背中を、はちきれんばかりの感触に襲われた。鼻先には芳しい香り、腰にはほっそりとした腕が回される。

「く、葛葉さん……!?」

後ろから抱きつかれたのだ、と理解する。彼女の温かさ、柔らかさ、甘やかさが触れあった箇所から広がり、戸惑いと興奮の入り交じった妙な感情が胸の裡に灯る。

「史郎さん……」

艶っぽい吐息が首筋に吹きかけられるとともに、回された腕に力がこもった。自然と背中に押し当てられた豊かな乳房との密着度が高まる。しかし葛葉さんはそれを恥じらう様子もなく、いや寧ろおっぱいで俺を煽ろうかというように極上の感触をぐいぐいと押しつけてきた。

「ど、どうしたんですか……? こんな……、ところで……」
「御情けを……、私にもくださいませんか……?」

情け……ってあれだよな、抱いてほしいってことだよな……?
葛葉さんの口からこぼれた淫らなおねだりに、体が熱くなっていく。

(しかし葛葉さんってたまに大胆だよな……。宿に着いて最初の風呂もそうだったし……)

普段は思慮深く淑やかだが、それこそ何かスイッチが入ったようにはしたなく化けることがあるのだ。

「朝から宿の外で迫られても困惑されますよね……、ごめんなさい……」

しばらく続いた沈黙をネガティブに受け取ったのか、腕の力を緩め身体を離そうとする。
俺はそんな葛葉さんの腕を取り、逆にもっと抱きつくよう促した。

「まあ、びっくりはしましたけど、いやってことはないですよ、もちろん」
「本当、ですか……?」
「そりゃそうですよ。葛葉さんに迫られて嬉しくないはずないじゃないですか。というか、なぜそんな弱気なんです?」
「その、あまり呼んでいただけてないものですから……。今は妹ふたりを優先されているのだと判っていても、つい不安になってしまって……」

おおう、燐火の危惧どおりだったかー。

「いや、それは成り行きといいますか、葛葉さんが仰った通り燐火と月夜はそれぞれ難しい面を抱えてたじゃないですか。だからコミュニケーション量……ええと、つまり触れ合う機会を増やす必要があっただけで……。葛葉さんへの気持ちがふたりに劣るということは全然ないですから……」

むしろ個人的な好みをいえば葛葉さんが一番だ。幻燈亭に初めて来たときの衝撃は今でも忘れられない。この世のものとは思えない妖しい美貌に、和服の上からでも判る成熟した女体。いずれもドストライクだった。そして交流を深めるにつれ葛葉さんへの想いは募る一方だったわけで……。
言葉を重ね、俺のそういった気持ちを葛葉さんに伝えてみる。

「なら……、もしよろしければ今日の夜に私を呼んでくださいますか……? お部屋にお伺いしても……いいですか……?」

控えめな葛葉さんの要求に、ちょっとした怒りが湧く。

「無理ですね」

俺は葛葉さんの腕をほどき、正面からその柔らかな肢体を抱きしめた。そして彼女の甘い攻撃によってカッチカチにいきり立っていた肉棒を、腹のあたりに押しつける。

「あっ……」
「判ります、よね? 葛葉さんのせいで勃起しちゃってるんです。夜までなんてとても待ちきれないですよ」
「私で……、こうなってくださったんですか……?」
「決まってるじゃないですか。葛葉さんに抱きつかれて反応しないわけがないでしょう」
「うれしい……」

甘い吐息をもらした葛葉さんが背に手を回してくる。その弾みで肉棒と熟れきった女体がこすれ、俺の獣欲はますます昂ぶった。

「こうなったからには今からいいですよね? 葛葉さんのせいなんですから、そのスケベな肉体でペニスをいっぱい気持ちよくするんです。できますか?」
「はい……。ぜひ私にやらせてください……。身も心も尽くして史郎さんにお仕えしたいです……」

葛葉さんの奉仕宣言にゴクリと生唾を飲み込んだ俺は、その優美な手をやや乱暴につかんだ。

「じゃあ俺の部屋、行きましょうか……」
「あの……」制止する素振りを見せた葛葉さんに、目を瞬かせてしまう。が、それは杞憂にすぎない。葛葉さんは顔をいっそう上気させながら囁いた。「お招きしたい場所があるんです……。そちらに行きませんか……?」

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