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32: 穏やかじゃない!? 第一次栗拾い合戦!(始)

羽城の山路は、もうすっかり晩秋の気配を漂わせていた。紅葉もだいぶ落ち、地面には茶褐色の絨毯が広がっている。

「お兄様、燐火お姉様! お早く、こちらです!」

小桜柄の長羽織に見え隠れする尻尾をはしゃぐように揺らしながら、月夜が俺たちをせかした。今日はこれから3人で栗拾い。葛葉さんは晩御飯の下拵えがあるらしくお留守番だ。

「あんまり先々行かないの。履物が履物なんだから転ばないよう気をつけなさい」

月夜が履いているのは木履
ぽっくり
という下駄の一種だ。厚底ブーツの靴底みたいな見た目のぽっくりぽっくりと音が鳴るやつ。
光沢ある黒漆の木履と褐色の落ち葉のコントラストは趣深いけど、燐火が指摘した通り山道を歩くのには向いてなさそうだ。

「かしこまです、お姉様!」

威勢よく返事しながらその場でぴょんぴょんと跳ねる月夜の姿に、燐火はため息をついた。

「判ってないわね、アレは……。まったく、山歩きにぽっくり下駄もないでしょうに……」
「いやあ……、その格好で言うようなことじゃないだろ……」

隣横を行く燐火に視線を向けると、月夜に輪をかけて場違いな格好をしていた。
ふわっとカールした桃色ブロンドは普段のツインテールからサイドポニーに。髪留めは翡翠の玉簪を用いており、小袖のうえには吉祥文様の色打掛を羽織っていた。ついでに言うと足元は月夜と同じ木履だ。お前は祇園の花見小路をそぞろ歩く京舞妓か、とツッコミたくなるゴージャスな出で立ち。

「いいでしょ、どんな格好したって」
「月夜に言ったことと矛盾してるのはさておき、見てるこっちとしては木に着物を引っ掛けないかとか心配なんだよ……」
「問題ないわ。打掛の裾は術で浮かせてるから引きずらないし、着物にも力を通してるから枝にでも引っかかったらそっちが燃え上がるって寸法よ」
「山火事になるだろ! ったく、はた迷惑な……」
「そんなことより! ど、どうかしら……?」

袖口をちょこんと持ち上げつつ前と後ろを見せてくる燐火。上目遣いで俺を見上げるオプションつき。あざといなさすが燐火あざと可愛い。

「うんまあ普通に可愛いけどな」
「普通ってなによ……。それで褒めてるつもり……?」

ジト目を向けてくる一方で口元が緩んでいた。いちおう嬉しいらしい。

「褒めてるぞ。サイドポニーが大人っぽくて似合ってるし、燐火はキレイ系の顔してるから着飾るとそのぶん映えて見えるんだよ。最初見たときドキッとしたもん」
「ふ、ふーん……。ま、まああんたのために盛装したわけじゃないから褒められても大して嬉しくないケド……」

そう言いつつ燐火は頬をかぁ――っと赤らめ、視線をきょろきょろと彷徨わせた。耳と尻尾もパタパタと振れており、気持ちと裏腹なことを口にしているのは明らかだった。

(最近ちょっと素直になってきたかな、って思ってたけどまだまだか)

そんな感想を抱いたところに月夜がやって来た。なかなか来ない俺たちに、業を煮やしたらしい。

「どうかなさったんですか? お兄様、お姉様」
「ん? 燐火が俺のためにおめかししたらしいんでその寸評をちょっとな」
「ちがうって言ってんでしょ!」

緋色のつぶらな瞳をぱちくりとさせた月夜が、袖口をくいくいっと引っ張ってくる。

「あの……、つ、月夜の装いはいかがですか……? わたしも何を着ていくかお姉様といっしょに子夜まで悩んだんです……」
「うん、可愛いぞ……、って子夜まで……?」

子夜ってのは午前0時のことだ。
そんな時間まで姿見ファッションショーをしていた、と……?

「つ、月夜っ! しぃ、しぃーっ!」
「……? はっ……! な、何でもありません……! あの、月夜はこの先にある栗林のようすを見に行ってきま……、ひゃうぅんっ……!」

抜き足差し足忍び足で逃げ出そうとする月夜を後ろから抱きしめて捕獲。ふっさりとした耳裏をこしょこしょと撫でてやりながら、その大きな耳穴に吐息を吹きかけるようにして囁く。

「今の話、もうちょっと聞かせてもらっていいかなあ……?」
「はうぅっ……、でもでも栗林が……」
「月夜はお兄ちゃんのことが大好きな、質問にはちゃんと答えてくれる良い子なんだよな?」
「ひゃ、ひゃいっ……! ちゅくよはおにいしゃまのことがだいすきなしつもんにはちゃんとおこたえするいいこでしゅ……!」
「ちょっとちょっと! なに月夜をメロメロにして無理やり聞き出そうとしてんのよ!」

燐火の抗議は流し、俺の腕の中でピクンピクンッと体を震わせる月夜の狐耳に吐息を流し込む。

「何のためにそんな遅くまで鏡の前で試着を繰り返してたのかなあ……?」
「そ、それは……」耳裏をこしょこしょこしょこしょ。「ひゅうぅうぅんっ……! おにいしゃまれしゅっ……! おにいしゃまに可愛いなって言っていたらきたくれぇ……!」
「うんうん世界一可愛いぞ。さすが俺の妹だな」
「ありがとうございましゅうぅっ……!」
「ちょ、ちょっと! あんたいい加減にしときなさいよ! それ以上、月夜を弄ぶならあたしがこの鉄拳で制裁を――」

燐火の抗議をさらに無視し、狐耳に息を吹きかけながら質問を続ける。

「燐火もそうなのかな? 姿見の前で着物あわせながらなんか言ってた?」
「おねえしゃまは……、30着ぐらいお着替えされてましゅたぁ……。『あいつけっこう派手好みだから、これぐらい綺羅びやかでもいいかな……』ってぇ……」
「ほーお……?」

証言を引き出した俺がニンマリとした視線を向けると、燐火は「ち、違うわよ……」と言いながら後じさった。

「あ、あんたのためじゃないって言ったでしょ……!」
「でも『あいつけっこう派手好みだから』とかなんとか……」
「そ、それは……その……。先に栗林へ行っておくから! あんたは月夜といっしょに来なさい! ………………ち、違うのよ? 違うんだからね!」

そう言い残し、脱兎のごとく逃げ出す燐火に、俺は口元が緩むのを抑えられなかった。

「ったくセックスのとき以外は素直じゃないよなあ。……さて、俺たちも燐火の後を追いかけて栗林に行くか」

声を掛けると月夜は俺に抱きつき、逆に耳元へと蕩けボイスを吹きかけてきた。

「おにいしゃまぁ……。ちゅくよ、からだがきゅんきゅんうずいちゃってましゅぅ……。せきにんとってなぐしゃめてくらしゃいねっ……!」
「し、しまった……! やりすぎた……!」

今日は健全な栗拾いだから健全オンリーだから、と月夜を宥め賺すのに一苦労する俺だった。

月夜の案内を頼りに、イガ栗がごろごろと転がる林に到着。すると――

「栗拾いで勝負よ! いちばん拾った者が勝ちの一本勝負!」

俺たちの姿を見るや先着していた燐火がピッと指差しながらそんなことを言い出した。

「いきなりだな。さっきの話をうやむやにしたいのは判るが……」
「そ、そんなんじゃないったら!」
「だったら俺が本当に派手好みかどうかの話を……」
「し、しつこいわね! その話は終わったの! 終わったんだから!」

ということにしたいらしい。

「はぁ……。わぁったよ。で、栗拾いで勝負か。別にそんな競争することないんじゃないか。皆で仲良く拾えば」

俺の横で月夜がこくこくと頷く。そんな俺たちに対し、燐火がふん、と鼻を鳴らした。

「ただ拾うだけなんてつまらないじゃない。それに史郎ってあたしたち狐の力をちょっと侮ってるでしょ? ずーっと気になってたのよね。この辺りではっきりと教えてあげるわ!」
「栗拾いで示すのか……、実力を……」
「その通りよ!」

エヘンと胸を張る燐火には悪いが、栗拾いで妖狐の実力を教えてやるとか言われてもプークスクスって感じなんだが……。
まあいいか……。

「ところで勝ったら何か報奨はあるのか?」
「そうね……。勝者は敗者に対してひとつだけ命令ができるというのはどうかしら?」
「ほう……。じゃあ燐火のその格好は誰に見せようとしたものかとか訊いていいんだな?」
「むぐっ……。いい、わよ……。どうせ勝つのあたしだし?」
「嘘はなしだぞ?」
「だから勝つのはあたしだって言ってるでしょ!」

視線をぶつけ合い、バチバチと火花を散らす俺たち。
そこに恐る恐るといった感じで月夜が割って入ってきた。

「わたしも参加していいんでしょうか……?」
「もちろん……、てか月夜は俺と組まないか? いつものようにカゴ持ち係をしてくれたら助かる」
「はい! ぜひ!」
「ちょっとちょっと! 1対2ってわけ? それ、ずるくない?」
「おやおや。我こそは最強の栗拾いストと胸を張った燐火さんも俺と月夜のタッグの前には尻尾をくるりんと巻いてお逃げになる、と。だったら俺たちも別々に拾って……」
「だ、誰もそんなこと言ってないでしょ! いいわよ、そっちはふたりで。完膚なきまでに叩き潰してやるんだから!」

相変わらずチョロいな。

「月夜もそれでいいか? 俺たちが勝ったら何かひとつ言うこと訊いてやるぞ」
「ほんとですか!? 月夜、がんばります!」

目をキラキラとさせる月夜にちょっとしまったかなと思う。

(ふだんはピュアだからいいんだけど、エロ方面はかなり貪欲だからな。そっち方面のお願いをされたらアレなことになるかもしれん……)

ま、いっか。
まずは勝利せんことにゃ話しにならんわけだし。

「制限時間は四半刻よ」

そう言うと燐火は差し渡し10cmほどの杭を地面に突き立て、その上に小さな光球を浮かべた。

「簡易的な日時計ってわけか」
「うん。この杭によって生じた影が半周したら終了よ。いいわね?」
「了解」

月夜もこくりと頷く。

「じゃあいくよわ……、始め!」

こうして“第一回栗拾い王決定戦イン栗林”が緊急開催されることになった。

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