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37: 彼方からの贈り物

幻燈亭に戻った俺はまず用意してもらった手ぬぐいと湯で手足を拭った。
次いでスーツを脱ぎ、葛葉さんに手伝ってもらいながら浴衣に着替えた。
これから三姉妹に大事な話をする。旅塵を落としておくのもその準備のうちだった。

「葛葉姉が腕によりをかけて馳走を用意してくれてるのに……。後でも良くない……?」
「本来はそうすべきだとは思うんだけどさ。でも本当に大事な話なんだ」

俺は、以前過ごした3階の一室で三姉妹と向かい合った。
大事な話、と前置きしたせいか、それぞれ緊張している様子が見て取れる。

「葛葉さんもすみません、せっかくおいしい料理を用意してくださっているのに」
「いえ、それは構いません……。それで大事なお話というのは……?」

葛葉さんの問いかけに、ふたつの所持品を確認する。
ひとつは旅行鞄。
もうひとつはここへと運ぶのに命を賭すハメになった大きな“お土産”、だ。
俺はまず旅行鞄を開け、パスポートケースを取り出した。中で大事に仕舞っておいた封筒を3人の前に差し出す。

「これは……」

宛名欄に、端正な字で4つの名前が書いてあった。

翠 様
葛葉 様
燐火 様
月夜 様

三姉妹が身を固くする。
俺は頷きながら言った。

「うん。みんなのお父さんからの――手紙だ」

戸沢先生の紹介で向かったお父さんの実家。そこで俺はお兄さんに会い、その最後について伺った。そのとき託されたふたつのアイテムのうちひとつが――この手紙だった。

「そ、それで父は……」

緊張した面持ちで、葛葉さんが膝を詰めてくる。

「……残念ながら既に亡くなっていらっしゃいました。俺がそれを受け取ったのは皆の伯父さん――つまりお父さんのお兄さんからです」
「――そう、ですか……」

細くて長い溜息が漏れる。
一縷の望みを残していたんだろう。それを断ち切ってしまったのは心苦しい。でも、いつかは乗り越えなきゃダメなんだ……。

「兄って……? 他に家族は……、妻と子は……、いなかったの……?」
「……結婚はしていらっしゃらないと聞いた。現し世には、妻も子もいないらしい」

俺の返答に、燐火は神妙な面持ちでうつむいた。そしてその姿勢のまま唸るように言う。

「ならなんで父さんはあたしたちの前から消えたの……? なんで帰って来なかったのよ……!」
「それは、“直接”聞いたほうがいいかもな……」

俺は手紙を見つめながら言った。

「中を勝手に読むなんて失礼なことはもちろんしてないから何が書いてあるかは判らない。でも亡くなる直前に記した手紙だと伺っている。……燐火たちが知りたかったこと、それが書いてあるんじゃないか?」

真実を知る。
それは覚悟のいることだ。この世には知らなくていいこと、知らなかったほうがいいことなんて山とある。それでも知りたいというのなら、勇を奮って手を伸ばすしかない。

「手紙を持ち帰ってくださってありがとうございます……。……私は、父の遺した言葉を受け取りたいと思います」

葛葉さんが手紙を手に取り、封を切る。

「翠へ。そして三人の愛しい娘たちへ……」

葛葉さんは、落ち着いた、淀みのない口調で内容を読み上げ始めた。
それは。
感謝のメッセージだった。
妻、そして子どもたちと共に暮らせた日々。いかに幸せであったか。それが切々と綴られていた。

男は生きることに倦んでいた。
芸術家として絵を描き、木や石を彫り刻み、陶器をつくった。他にも創造と言えることは何でもやった。
男には才能があった。作るもの全てが高い評価を得た。しかし男にとって外の評価は何の価値も持たなかった。ただ漫然と、意味を見いだせないまま何かを作り続けているだけなのに名だけが上がっていく。そのたび創作意欲は摩滅した。男はすり減り、生きる意味を見いだせなくなった。
死ぬつもりで山を彷徨った。いや、それすら眼中になく、生きようが死のうがどうでも良いという境地に達していた。
飢え、力尽き、倒れた。いよいよ死ぬ、というそのとき神獣があらわれた。
男はこれまで欠片ほども信じてこなかった神に感謝した。
美しい神獣に喰われて死ぬのは、価値のなかった人生に意味を見いだせる気がして愉快だったから。
しかし死に損なった。抵抗しない獲物は神獣にとって価値がなかったらしい。なぜか保護され、食べ物を与えられた。
男は気まぐれに、神獣の神々しい姿を彫刻にした。それを手渡すと、思いのほか喜ばれてしまう。
その眩しい笑みを目の当たりにした男は――魂が震えるのを感じた。
これまで得てきた高い評価になぜ意味を見出せなかったのか男は知った。
男は評価が欲しいわけじゃなかった。
笑顔。
つくったものが、誰かを笑顔にする瞬間が見たかったのだ。
男はついに知った。己の魂の有り様を、その在り処を。
男は少女のために木を彫り、着物を織り、陶器をつくった。
少女はそれらを悉く喜び、長じて自らつくるようになった。
作って相手に見せ、喜んでもらってまた作る。
そうしてふたりは共に暮らしはじめた。
ふたりの奇妙な共同生活が愛へと発展するのに時間はそうかからなかった。
男は幸せだった。妻となった少女を深く深く愛していたから。
男は幸せだった。愛しい妻との間に子ができたから。
この生活が永遠に続けばいい。そう思った。
しかし幸せであるほど不幸が忍び寄る。
男は病にかかった。神獣でも癒せない難病だった。
男は里に降りることにした。治して愛しい妻と子らの元に帰る。そう決意した。
だが待っていたのは長く苦しい闘病生活だった。
体を切り刻み、体を機能を失いながら何とか生きる。
それを何度も何度も繰り返し、男は命をつないだ。
かつてあれほどどうでも良いと思った命を、今こそ拾いたかった。
どんなに惨めでもどんなにみっともなくても、生きて家族の元に帰りたかった。
しかし男はベッドから起き上がれなくなってしまった……。

「君たちがこの手紙を手にしているということは、僕はみんなの元に戻れなかったことになる。もし本当に、約束を破ってしまったのなら、こんなに苦しいことはない。だけどまだ僕は諦めていない。これを書いている今も病いと戦っている。皆の元に戻る戦いを続けている。最後まで諦めないつもりだ。翠に、葛葉に、燐火に、月夜に幸せを、生きる意味をもらったから。みんなと生きた日々があるから、まだ戦える。もういちど病いと戦って、今度こそ勝って、僕はみんなの元に帰る」

葛葉さんが手紙を読み終わったとき、葛葉さんも燐火も月夜も泣いていた。
室内に、すすり泣く声が満ちる。
それを破ったのは、燐火だった。

「こんなの……、無いわよ……! あたしは、何のために父さんを嫌って、憎んだっていうの……? どうせ病で死ぬんなら、現し世になって戻る必要なかったじゃない……! ここでなら、あたしたちとなら辛くても幸せな日々が送れたのに……! こんなの、無いわよぉ……!」

燐火の言うことはもっともだ。でも俺は、幻燈亭を去った男の考えも否定できなかった。
当時はまだ小さかった葛葉さんや燐火に心配をかけたくなかったから事情を明かさなかったんだろうし、わずかな時間をいっしょに過ごすより、長い時間を共に生きることを求めて戦った。それはそれで認められるべきじゃないかと思う。

「もうひとつ――見てほしい。これも、彼方からの贈り物です」

俺は、持ち帰ったもうひとつのアイテム――“お土産”を取り出した。覆っている布を解く。
中から現れたのは――絵、だった。

「――とと、さま……、ととさまぁ…………」

それを見た葛葉さんは目を大きく見開いた。やがて涙を溢れさせ、口元を手で覆い、体をくの字に折った。その姿勢のまま全身を震わせ嗚咽を漏らす。
燐火は膝の上で拳を握りながら唇を噛んだ。そして人目もはばからずぽろぽろと、ぽろぽろと涙をこぼす。
月夜は俺のところに覚束ない足取りでやってきて、腕に抱きついてきた。ぎゅっとしがみついてきながら、すすり泣きを始める。

家族の絵。
幻燈亭の庭で遊ぶ幼い葛葉さんと燐火。そしてそれを優しい笑顔で見守る両親。月夜は母の腕に抱かれている。
男が最後の力を振り絞って描いた絵、だった。
もう力が残ってなかったんだろう、線はへろへろで塗りもあちこちはみ出している。世間から持て囃された芸術家とは思えない稚拙な絵だった。それでも心が強く揺さぶられる……。

「皆、いい笑顔ですね……」

それはそこに愛があるから。
被写体に対する、描き手の想いが伝わってくるから。

「さあ、受け取ってください……」

俺はそれを三姉妹に手渡した。
男の最後のメッセージを、たどり着きたかった場所を、家族の元へと返した。
泣く声は、しばらくやまなかった。

やがて葛葉さんたちは、父が遺した手紙と絵を届けた俺に感謝の言葉を口にした。燐火の言葉が、特に印象的だった。

「あたしからもありがとう……。すぐには納得できないと思うけど、でも知ることができて良かった……。父さんには父さんの事情があって、母さんとあたしたちを愛してくれてことを確かめられて良かった……」

たぶん俺は――
この言葉が聞きたくて現し世に戻ったんだと思う。
燐火を始め、三姉妹の胸に刺さったままだった“父親に裏切られた”という棘、それを抜いてやりたかった。
もちろん俺自身の社会的責任を果たすために戻るのが第一だった。でもそれで終わらせたくない。どうせ現し世に顔を出すというのなら、俺にしかできない、俺にならできるかもしれない手段で皆をもっと幸せにしてあげたかった。

(そのせいで帰るのがギリギリになって皆にヤキモキさせちゃったみたいだけど……)

ともあれ使命を果たせて良かった……。

「突然お時間いただいてすみませんでした。話は以上です。さて、葛葉さんがつくってくれたおいしいご飯、いただきましょうか……」

俺がそういうと、三姉妹はそれぞれ顔を見合わせた。
ん……、なんだろう……?

「あの……、旦那さま……。私たちからも少しお話がありまして……」
「はい。何でしょう……?」

促すと、頬を火照らせた三姉妹が、つと膝を進めてきた。そして帯の上からお腹を押さえる。
ま、まさか……。

「実は旦那さまとのおややが……」
「出来たんですね!?」
「できなかったんです……」

ズッコケそうになった。
何と思わせぶりな……。
まあ、三姉妹とセックスしたのはこっちの時間で一年も前のこと。その時点で仕込めていたら既に赤ちゃんが生まれているはずで。見当たらない以上、できなかったと察するべきだろう。
ただそれを報告してくる理由が判らない……、と首を捻っていたら、葛葉さんが申し訳なさそうに俯いた。

「せっかくたくさんの子種をいただいたのに……。しかも私、先走ったことを申し上げていたから本当に申し訳なくて……」
「あ、そういうことですか。いやいや、何と言っても赤子は授かりものですから……。それにこれからはいっしょに暮らすわけですし、機会はたっぷりあると思います。焦らず励んでいきましょう」

言ってることはこれから毎日セックスしましょうね、ということなんだが、葛葉さんは感極まったように真紅の瞳を潤ませた。その艶やかながら可愛らしい反応を微笑ましく思っていると、燐火と月夜が、俺を確保するように両脇から腕に抱きついてきた。

「聞いたわよ」
「はっきりと耳にいたしました」
「な、なんだふたりとも急に……」
「私たちとの子作りに励んでくださるとのこと……、とても嬉しいです。旦那さま……」

突然のことに右往左往していると、正面から葛葉さんがにじり寄ってきた。そして嫋やかな手つきで、俺の太ももに指を置き、そのまま股間に向かってつぅ、と撫で上げる。

「いやだからそれは焦らずゆっくりと……」
「なに言ってるのよ、あんたは一月
ひとつき
だったかもしれないけど、あたしたちは一年
ひととせ
よ。一年もの間、あんたに抱かれてないんだからね」
「くんくん……。ああ、久しぶりのお兄様の香り……。おまたが濡れてきちゃいましゅ……」

耳朶に甘い吐息を両脇から吹きかけてくる燐火と月夜。
そんな中、正面に陣取った葛葉さんの白くて細い指が、俺の鼠径部に到達した。

「旦那さまもお疲れでしょうから、今日はゆっくりとお休みいただくつもりだったんです……」
「ならこの事態はいったい……。急かなくてもちゃんと種付けしてさしあげますから……」

俺の性欲を煽るように、支子色
くちなしいろ
の袖口から伸びた艶めいた手が内股を行ったり来たりする。

「でも、旦那さまが母と父のお話をしてくださるから……。早く旦那さまとの家族がほしくなってしまって……。……お食事とお風呂の後、宜しいですよね……? 旦那さま……」

愛欲に蕩けきった瞳を三方から向けられ、俺は逃げ場がなくなったことを悟った……。

(そうだ……、すっかり忘れていた……)

この幻燈亭は――
種乞い狐の棲む宿だ、ということを……。

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