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エピローグ: 幻燈亭を照らす、新しい朝

大地に寝そべりながら大きく息を吸い込むと、草のいい匂いが鼻孔いっぱいに広がった。桜花のあいだから射し込む日差しは暖かく、頬を撫でる春風はどこまでも柔らかい。うとうとするには最適な陽気……。

「平和だ……」

季節は春。
俺が幻燈亭に戻ってきてから5回めの春が来た。

(あっという間だったような……、なんだかんだ大変だったような……)

5年という歳月が過ぎるうち、色々なことがあった。
いちばんは家族が増えたことだろう。葛葉と月夜が妊娠、そして出産。しかも月夜の赤ちゃんは双子だった。イタズラ好きなのが玉に瑕だけど元気に成長中だ。

ちなみに、ひとりだけ遅れをとった燐火の落胆と嫉妬はなかなか可愛らしく、『あ、あたしも孕ませなさいよ馬鹿ぁ!』といった感じのおねだりについつい励みまくってしまった。去年の夏にその成果が実を結び、燐火も妊娠、現在は臨月だ。

母狐のお墓参りもした。見晴らしの良い高台にある墓に、手紙と分骨してもらった男の遺骨を埋め、いっしょに弔った。「こんなことしなくてもどうせ夜見國で睦み合ってるとおもうけどね」と燐火は憎まれ口を叩いたけど、両親がようやく再会できたことに三姉妹は嬉しそうだった。

俺はというと絵を描き始めた。我流なうえ、参考資料は男が描いた家族画だけなので下手っぴだが、なに時間はまだまだある。ちょっとずつでも上手くなって、家族のいる光景を残していきたい。

「だけど今日は一休み一休み……」

あまりに心地よい春の日和に昼寝でもするか、とうつらうつらしていたところ、3階の窓からひょっこり狐耳が見えた。続けてその主であるところの燐火が顔をだす。

「ねぇ、どうしたのよ、そんなところで」
「風呂掃除も終わったし、のんびりしてるところ」
「ふぅん。ねぇ、気持ちいい?」
「そうだな。気温もだいぶ春めいてきたし、あたたかで気持ちいいぞ」
「ならあたしもそっち行こっかな」
「おいおいお腹だいじょうぶなのか?」
「うん。今は落ち着いてるから」
「そっか。だったら迎えに行くからちょっと待っててくれ」

そこまで気を遣ってくれなくていいわよ、という声が聞こえてきたけど、臨月の妻をひとりで出歩かせるわけにもいかない。俺は燐火の室まで迎えに行き、庭の中でもとりわけ桜がきれいなエリアにエスコートした。

「綺麗ね……」
「だな……」

敷物に腰を下ろし、満開の桜を眺めていた燐火は、ふいに自分の膝をポンポンと叩いた。

「のんびりしてるところだったんでしょ? 膝枕してあげるわよ」

狐の妖怪ともなると5年じゃほとんど容姿の変化は見られない。燐火は以前とまったく変わらない美貌で破顔した。

「んじゃ失礼して……」

ただ変わったのが――大きくせり出たお腹。臨月ともなると、こんなに張り詰めて大丈夫かな? と思うぐらいに膨らむ。
燐火の柔らかな太ももに後頭部を預けながらそんなお腹をなでなですると、ぽぉんぽぉんと反応があった。

「ふふふ。蹴ってる蹴ってる」
「燐火に似て元気だな……。このまま元気に産まれて来るんだぞ……」

なでなで、なでなで。
膝枕を堪能しながら孕み腹をなでなでしていると――
桜の木の陰から少女がふたり、ひょっこりと顔を出した。

「あかちゃん、」
「げんきです?」

淡紅藤の小袖を着た、銀髪おかっぱの少女たちが狐耳を揺らしながら近寄り、なでなでしてきた。……俺のお腹を。

「そこじゃない……。赤ちゃんが入ってるのはこっちだ……」
「おお、」
「びっくりなのです」
「ふふ、早月と小夜は相変わらずおもしろいわね」
「早月はおもしろいのです」
「小夜はおもしろいのです」

少女たちが胸を張る。
早月と小夜。月夜が産んだ双子の少女たちは、素直な母親とは裏腹に、イタズラ好きのムードメーカーとして成長しつつあった。燐火は姪っ子たちにダダ甘なのでにこにこしているが、父親としてはもうちょっとまっすぐ育ってくれないかなーと頭が痛い。
そんなことを考えていると、早月がお腹を押さえながら「うーんうーん」と唸りだした。

「どうしたですか早月。おなかがぱんぱんなのです」
「じんつうがはじまったです。ととさまのあかちゃんがうまれるです」
「ぶっ!? こ、こらっ、おまっ、なに言ってっ……」
「史郎、あんた……」

うわーないわー、と言わんばかりの顔でドン引きしてみせる燐火。
いやいやそんなわけないだろ、と俺は必死に弁明した。

「俺が自分の娘に手をだすような鬼畜に見えるか!? しかも早月はまだ4歳だぞ!? 常識で考えてくれ!」
「からかっただけなのです」
「おちゃらかしただけなのです」
「冗談に決まってるじゃない。なに必死になってんのよ」
「…………」

息ぴったりだなお前ら……。
月夜じゃなくてむしろ燐火の娘ちゃんなんじゃないかと思うぐらいのコンビネーション。
はー、もう……。ため息が出る。

「だいたい早月と小夜は月夜といっしょに山菜を採りに行ったんじゃないのか? なんでももう戻ってきてるんだ?」
「もうおわったのです」
「とっくにおわったのです」
「ほう……? そりゃ随分と早いな。ところでかか様はどこに行ったんだ? 姿が見えないが……」
「かかさまは、」
「のんびりやさんなので」

白銀の狐耳がよっつ、忙しげに揺れている。早月と小夜が嘘をつくときの合図だった。
となると――
裏山に続く小径の入り口に目を向けると、案の定、竹籠を背負った月夜が「また勝手にいなくなってー」と怒りながら下りてくるところだった。それを見て逃げ出そうとするふたり。襟口をつかんで逃走犯を確保する。

「逃さんぞ。かか様といっしょにたっぷりと叱ってやるからな」
「はなすです、ととさま」
「ととさま、はなすです」

さてどうやって叱ってやるかと考えていたところ、盆を持った葛葉と秋葉がやってきた。

「鬼ごっこはひと休憩にしておやつにしませんか? 羊羹を切ってきましたよ」
「おやつなのです!」
「ようかんなのです!」

わーい! と手を挙げるふたりだったが、もちろんそうは問屋がおろさない。

「お手伝いをサボった罰に早月と小夜はおやつ抜きだな」
「おうぼうなのです!」
「ひどいのです!」
「横暴よ、史郎。おやつ抜きはさすがに可哀想じゃない?」
「かわいそうなのです!」
「あわれなのです!」
「話がややこしくなるから燐火はちょっと黙っててくれ……」

月夜に話を聞くと、裏山に向かう辺りで姿がなくなったらしい。山菜はしょうがなく月夜だけで採ってきたんだとか。
判決――おやつ抜き。

「ぐぬぬ……!」
「なのです……」
「まったく……。なんでふたりはそうイタズラばっかりなんだ……。もうちょっと秋葉を見習って真面目にかか様の手伝いをだな……」

聞けばおやつは、俺と葛葉の娘である秋葉が用意したらしい。
えらいぞ、と褒めてやったところ、美しい金髪を肩の辺りで結んだ引っ込み思案な少女は、恥ずかしそうに母親の陰に隠れた。わずかに見える狐耳が嬉しそうにぱたぱたと振れている。
秋葉は可愛いなあ……。まあ、なんだかんだ言って早月と小夜も可愛いんだけどさ。

「秋葉ちゃん、羊羹おいしいよ。用意してくれてありがとう」

月夜が声をかけると、秋葉は嬉しそうににっこりと笑い、食べかけの皿を差し出した。

「よかったら、これも……」

お互いおとなしい性格で馬が合うのか、秋葉は母親以外だと月夜にめちゃくちゃ懐いてる。

「ふふ。いっしょに食べさせっこしよっか?」

月夜のお誘いに、愛らしい耳と尻尾をぱたぱたと揺らしながら秋葉は頷いた。月夜の膝のうえに乗りながら「あーん」と食べさせっこを始める。
こうしてみると、ほんと親子みたいだな。
仲睦まじいふたりに嫉妬したのか、早月と小夜が月夜の袖をくいくいと引っ張った。

「かかさま。早月にもあーん」
「かかさま。小夜にもあーん」

月夜はそれにぷいっと明後日の方を向いて応じた。
かか様は怒ってるのよ、というポーズ。

「「かかさまぁ……」」

しかし悲しげな声を出されると、月夜の腰はあっさりと砕け。俺に困ったような視線を向けてきた。
とは言ってもなあ……。
遊びたいざかりなのはわかるが、こういうサボり癖は早いうちに芽をつんでおかないと後々ひびくし……。
どーしたものかと考えていると、葛葉が助け舟を出してくれた。

「早月と小夜には夕ご飯の準備を手伝ってもらおうかしら」
「手伝うです!」
「やりますです!」

五尾の妖狐たる葛葉に対してはふたりも従順だ。
いかがでしょうか、という葛葉の視線に俺は頷いた。

「葛葉の手伝いをちゃんとすることを条件に、おやつ抜きを解除する」
「やったです!」
「ととさまだいすきです!」

盆から自分たちの皿をとったふたりは、月夜と秋葉に混じって食べさせっこを始めた。突然のことに戸惑う秋葉だったが、月夜に促されると恥ずかしそうに応じていた。

「子どもって可愛いわね……」

俺の肩に頭を乗せながら、燐火がそんなことを言ってくる。

「そうだな……」
「あーあ、あたしのおややも早く産まれてこないかな……」
「そんなこと言ってると、ほんとに産まれてきちゃうかもよ」
「かもね……。……った、痛っ、イタタタタタタっ……」

なんてことを話していると、ほんとに燐火がお腹を押さえだした。陣痛が始まったのか!?
それにいち早く反応したのは葛葉だった。
跪き、燐火のお腹を押さえて状態を見る。そしてふたつみっつ燐火と話して立ち上がった。

「月夜、お湯の準備を」
「はい、お姉様!」
「早月と小夜は燐火の布団を敷いてあげて」
「ふとん!」
「しくです!」
「秋葉はきれいな布をいっぱい持ってきて。私の室の小箱に用意してあるから」
「は、はい」

備えをしていたかのようにテキパキと下知をくだしていく。

「お、俺は?」

こういうとき、男ってのはほんと役に立たない。
俺も陣痛がはじまったときにああしようこうしようと心の準備をしていたつもりなのだが、頭の中が真っ白になって右往左往するのが精一杯だ。

「旦那さまは燐火を室まで運ぶのを手伝ってください」
「了解!」
「それから……」
「それから!?」

葛葉は俺を安心させるようににっこりと微笑んだ。

「長丁場になります。まずは慌てず落ち着いてくださいな。そして燐火の手を握り、励まし続けてください。これは旦那さまにしかできない大切なお役目ですよ」
「判った。深呼吸をして…………励まし続ける!」

燐火を室に運び入れ、早月と小夜の用意してくれた布団に寝かせた後、俺は燐火の手を握って必死に励ました。

「傍にいるぞ。ずっとずっと手を握っててやるからな」
「うん、うん……!」

額に汗を掻き、白い顔をしてコクコクと頷く燐火。俺だけじゃなく、みんなも燐火を見守り、声をかけ続ける。
そうして10時間ぐらいは経っただろうか。日はとっくの昔に落ち、深夜に差し掛かろうという頃――

「おぎゃあっ! おぎゃあっ!」

燐火は大きな仕事を成し遂げた。

「よく頑張ったわね。元気な女の子よ」

赤ちゃんの体を濡れタオルでぬぐった葛葉が抱かせると、燐火はうっすらと涙を浮かべた。

「やや子……。あたしの可愛いやや子……」
「おめでとうございます。燐火お姉様……!」
「うん……。ありがとう……」

力をぜんぶ出し尽くしたのか、燐火の自慢の耳は力なく垂れている。それを俺は優しく撫でてやった。

「お疲れ様。本当によく頑張ったな」
「うん。いっぱいがんばった……。ほら、あんたのやや子よ……」

抱え方を変え、俺に赤ちゃんの顔を見せてくれる燐火。
ほとんど人間の赤ちゃんそのままだが、頭部に垂れきった小さな耳が生えている。可愛らしいソレをちょいちょいと突くと、赤ちゃんは「おぎゃあっ! おぎゃあっ!」と力強く泣いた。

「燐火そっくりの元気っ子に成長しそうだな。よしよし……」
「でも目元なんかはあんたに似てるわね……」
「言われてみれば……」

今度はほっぺたをちょいちょい突くと「ふぎゃぁ……」と赤ちゃんは笑った。

「ふふ、本当に可愛いわね……。……ところで名前、考えた?」
「もちろん」
「聞かせて」

この子の名は――

「朝火」

幻燈亭に新しい朝をもたらす子だ。

「朝火……。いい名前ね」
「燐火も気に入ってくれたか。良かった」

葛葉が、月夜が、秋葉が、早月と小夜が、燐火と朝火に祝福の声をかけてくれる。
その光景を見て俺は思った。
何かが起きても俺たちはこうして力を合わせ乗り越えていくだろう。
そうしてずっとずっと幸せに暮らしていくだろう。

この幻燈亭で。
家族とともに。
俺はこれからも生きていく。

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