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余話: おひい様の日――月夜(前)

冴えた夜空には銀砂を零したような夏の星々が瞬き、草陰からは風雅な虫の音が聞こえてくる。
時は七月。
七夕を騒がしく終えた幻燈亭はこれから盛夏を迎える。しかし立地が山の中腹ということもあって夜になれば外気は涼やかだ。
火照った肌に、欄間から差し込む風が気持ちいい――
そんな夏夜に俺は、月夜の室を訪れていた。

「おー、ずいぶんとめかしこんだな」
「これは、その……、はい……。いかが、でしょうか……?」

出迎えてくれた月夜が、普段とは違うその装いを控えめにアピールする。
白綾の小袖に、やや崩した形で羽織った青牡丹柄の打掛。胸元はしっかりと閉じられ、煌めくような白銀の髪は翡翠の玉簪でハーフアップにまとめられていた。
第一印象は、時代劇か何かに出てくる深窓のお姫
ひい
様。
もちろん――

「うん、似合ってるぞ。めちゃくちゃ可愛い。本物のお姫様みたいだ」
「本当ですか? 嬉しいです!」
「でもそれって今日が“お姫
ひい
様の日”だから? 合わせたの?」

俺の問いに、月夜が華やいだ笑顔を見せながらこくり、と頷く。

「はい……。本物のお姫様には程遠いと思いますが、せっかくお兄様がもてなしてくださるのだから、と少し勇気を出してみました……」

幻燈亭の四女――朝火が生まれて一年と三ヶ月が過ぎたこの夏。俺は“お姫様の日”というイベントをつくった。
三姉妹にそれぞれ子が出来、みんな家事や育児に忙しい。早月と小夜は相変わらずいたずら好きだし、秋葉はおとなしく自己主張しないぶん目配りが必要だ。生まれたての朝火はとうぜん手が掛かり、燐火が四六時中つきっきり。
子どもたちはみんな可愛く、日々は喜びに満ちている。
だけどその一方で子育ては大変なことも少なくない。それを実感した六年だった。
そして一番の悩みが――

(ふたりきりの時間がなかなかとれない……)

ということ。
家事や育児に時間がとられることは元より、人が増えたことで葛葉、燐火、月夜それぞれとふたりきりになっていちゃいちゃする機会そのものがグンと減ってしまった。

そこで“お姫様の日”だ。

これは俺と誰かがふたりきりになって心置きなくいちゃいちゃできるよう、他のふたりがその間の家事と育児をサポートするというもの。
そして俺は相手を“お姫様”として遇し、そのおねだりを聞くことによって日々の疲れやストレスを癒やしてもらう――
そんな過ごし方を考案したのだ。
今日がその初回――

「というわけで、存分におねだりしてくれ。月夜がしてほしいことなんでもしてやるぞ」
「は、はい!」

弾かれるように返事をしたものの、その後は黙りこくって恥じらいの表情を向けてくる月夜に、思わず笑みが零れてしまう。

「そういうとこ、変わらないよなあ」
「え……?」
「いやさ、月夜って早月や小夜の前だと毅然としてるだろ? ちゃんとかか様してるっていうかさ。だけど俺とふたりきりになったら前みたく引っ込み思案な妹になっちゃうからちょっとおかしくって。もちろん悪い意味じゃないんだけど」

むしろ愛くるしくってぎゅっと抱きしめてやりたくなる。

「もう少し大人にならなきゃって……、早月と小夜のかか様として立派にならなきゃって……、思ってるんですけど……。でもお兄様とふたりきりになると胸がどきどきして、体がふわふわして、頭がぼーっとなって……。昔みたいに、お兄様と出逢った頃のようになってしまうんです……」
「あれ? それって俺といっしょだと月夜は成長できないってこと? ひょっとして俺のいない方が――」
「やっ、嫌ですっ! そんなこと言っちゃ嫌です、お兄様っ……!」

俺が現世に戻ったときのことを思い出したんだろう、慌てて膝を寄せた月夜が、袖口を引いてきながら必死の形相でイヤイヤと首を振る。
しまった……。これは言っていい冗談じゃなかったな……。

「あー、ごめん月夜。今のは俺が悪かった。もう言わないから許してくれ」

月夜が浴衣の袖口を強くつかんだまま、端っこに涙の浮かんだ瞳でじーっと見つめてくる。

「ほんとに、もう言いませんか……?」
「言わない言わない。特に今日は月夜をもてなす日なのにからかおうとしたこと、反省してるよ」

なおも疑わしそうな目を向けてくる月夜だったが、やがてそれは羞恥に染まった上目遣いに変わり――

「なら許して差し上げます……。その代わり、ぎゅってしてください……」

両手を広げ、抱擁のおねだりをしてきた。
子どもっぽいその仕草に、思わず口元が緩む。

「こんな感じで……、いかがでしょうか、月夜姫……?」

腋のあいだから背中に腕を通し、その華奢なからだを抱きしめながら問いかける。
が、お姫様には物足りなかったらしい、ダメ出しをされてしまった。

「もっと強くしてほしいです……。もう二度と離さない、といったふうに熱っぽく……。頭とか耳とかもなでなでして、ください……」

お姫様のご要望の通りに、細い腰を掻き寄せ腕に力を篭める。そしてぴこぴこ、と嬉しげに揺れる耳の付け根を優しく撫でてやった。

「んっ、ふぁっ……。お兄、様ぁっ……」

具合はどうだ? と聞くまでもなかった。月夜が鼻にかかった甘ったるい声を出し、幼い胸を押しつけるように抱きついてくる。
途端に腕の中へと広がる甘やかな香りと柔らかな感触。月夜が醸し出す幼い色香にクラクラしてしまう。

「んー、月夜の抱き心地は最高だな。ちっちゃいのに柔らかなのが興奮する」
「できればお姉様たちみたいになりたいんですけど……。でもお兄様が昂ぶってくださるのなら、このからだもいいかな、なんて思います……」

二女の母になった月夜だが、その体型は以前と変わらず幼いままだ。
ふくらみかけの乳房に、あやうい曲線を描き始めたばかりの腰つき。背が伸びないかわりに、肌もなめらかなまま。
人知を超えた妖狐ともなれば六年の月日など微々たるものなんだろう。……俺は少しばかりおっさんになってしまったが。
ともあれ妻が美しいままというのは男として嬉しい話であり、役得とばかりにその華奢な感触を楽しむ。
ただ――気になることがひとつ。

「こうしてるだけでいいのか? 歌留多
かるた
とか花札とか持ってきてるぞ?」

抱き合い初めてしばらくすぎた頃。ずっとこうしてるのもなんだなと思って訊いてみる。
が――

「もう少し、このままがいいです……」
「そっか」
「ダメ、ですか……?」

俺のリアクションから何やら感じ取ったらしい。月夜はこういったところがかなり敏感だ。……早月と小夜にはいっさい受け継がれてないのが子育ての難しいところだけどそれはさておき。

「いや、暇じゃないかと思って。……あと臭わないかな、とも気になる」

いくら外が涼しいと言っても今は夏。こうして室内で抱き合っていたら触れた箇所から熱がこもり汗も掻く。ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけど加齢臭が気になり始めた俺としては、臭わないかな、と考えてしまうのだ。

「少し、匂うかもです……」
「えっ!?」

額に浮かんでいた汗が玉になってタラリ、と流れた。
そんな俺に対し、月夜が「ふふっ」といたずらな笑みを向けてくる。

「いい匂いがする、って意味です……。お兄様のことがもっと好きになってしまうような、もっと虜になってしまうようないい匂いがします……。ずっとこうして嗅いでいたいです……」

言葉の通り、俺の胸元に鼻をうずめた月夜は、くんくんと犬みたいに匂いを嗅いできた。

「ちょっ、こらっ」

普段なら何とも思わないところだが、ついこないだ早月と小夜に「とと様からかれーしゅーがするです」「とと様はかれーなのです」などと言われてしまったからな……。
そんな言葉どこで知ったんだ、と恨めしく思う一方、心にクるものがあったのも事実……。風呂に入ったら前よりゴシゴシするようにはなったが、俺の判らないところで臭いが濃くなっているのかも知れず……。

「汗で臭いから。やめとこう、な? 月夜?」

何とかやめさせようと抵抗を試みるが、逆に困ったような、それでいてどこか嬉しそうな月夜に「ダメですよ、お兄様」と窘められてしまった。

「今日はお姫様の日、なんですから……。一杯くんくんさせてくださらないと……。くんくん、くんくん……」
「くっ、それを持ち出されると……。よし、こうなったら……!」

俺は月夜のからだをいっそう抱き寄せ、覆いかぶさるようにうなじへと鼻を寄せた。
しっとりと濡れた肌から立ち上る、甘酸っぱい少女の香り。それを思い切り吸い込む。

「お、お兄様っ……!? だ、ダメですっ、ふぁんっ、汗くさいですからっ、そんなくんくんしないでくださいっ……!」
「臭くなんてないぞ? くんくん! うん、ミルクにライムを一滴二滴と垂らしたような、甘くて芳しい匂いだ。これは月夜の虜になってしまうなー」
「か、感想を言うのはもっとダメですぅうぅうぅっ~……!」

予想した通り激しい拒絶反応。これを盾に取れば……!

「月夜がやめてくれたら俺もやめようかなー」

恥ずかしがり屋の月夜のことだ、これで引いてくれるはず……。
と考えたのは後から考えれば浅はか以外の何ものでもなかった。俺のひとことは、ふだん見ることのできない“意地を張った月夜”なるものを召喚してしまった。

「嫌、ですっ……! 月夜は、お兄様のこと、一杯くんくんするんですっ……!」

こちらの提案を敢然とはねつけた月夜は、俺にいっそう抱きつき、しかもあろうことか腋のあたりに鼻をうずめてきた。

「さすがにそれはまずいって! 腋はほんとに臭いって!」

月夜のためを思って忠告してみたものの、火がついてどうにも止まらないらしく「いい匂いですっ! やみつきですっ!」などと意味不明な供述をしつつ結局やめてくれなかった。
こ、こうなったら俺も月夜の芳香をかぎまくるしか手は残されていないのでは……!?
テンパった頭でそう結論した俺は、改めて魅惑のうなじに鼻を寄せた。
そして――

「「くんくんくんくんくんくんくんくんっ!」」

暑苦しい夏夜に抱き合ってお互いの匂いを必死にかぎ合う俺と月夜。
葛葉や燐火に見られでもしたらドン引きされてしまう光景だ。

(いったいなぜこんなことに……!?)

じわりじわりと滲み出る汗にいっそう体を熱くしながら、その一方で互いの匂いを堪能する俺たちだった……。

熱っぽい吐息が互いの口から漏れる。
羞恥と興奮によって体温は際限なく上昇し、俺も月夜も汗だくだ。
時間感覚はとうに消え失せており、あれからどれくらい抱き合っていたのかも判らない。
そんな状態に陥りながら、俺と月夜は未だ互いの匂いを嗅ぎ合っていた。

「お兄様ぁ……。んっ、はっ、んぅっ……。はぁっ、はぁっ……。いい匂い、れすぅ……」

とろけきった声を出しながら幼い肢体を俺に擦りつける月夜。そのたびに官能的な感触と甘酸っぱい香りが腕の中へと広がり、ピリピリと脳が痺れる。
ずっとこうしていたい、と思う一方、いい加減にしないと熱中症にでもなりかねないという思いもあり……。

「月夜……、汗をかいて喉が渇いたろ……。水を汲んでくるからちょっと離してくれ……。な……?」

あやすように優しく背を叩き、月夜を促す。
が、返ってきたのは用意周到すぎる答えで……。

「このようなこともあろうかと水差しを用意しておきました……。お兄様のすぐそばの……、はいそちらです……」
「うわ、ほんとだ……」

月夜の言葉に辺りを見回した俺は、盃台に乗せられた水差しと坏を見つけ、ぎょっとなった。
嬉しそうに喉を鳴らした月夜が、「ですから……」と改めて抱きついてくる。

「もう少しだけこのままお願いいたしますっ、お兄様っ……」

月夜のおねだりは「もう少し」と言い出してからが長い――ということを改めて思い知らされる。
嘆息した俺は、月夜を膝に乗せなおし、空いた手で坏に水をなみなみと注いだ。それを月夜に差し出す。

「ほら。喉、渇いてるだろ?」
「お、お兄様から先に……。月夜は後からで結構です……」
「遠慮するなって。俺もこの後もらうから」
「い、いえ……、あのその……、つ、妻は夫を立てないとですから……。ど、どうぞお先に……」
「? そうか? なら遠慮なく……」

どこかソワソワした様子の月夜が気になったが、これくらいのことで遠慮しあってもしょうがない。飲んだらすぐ汲んでやればいい話だし、と坏を傾ける。

「んくっ、んくっ、んくっ……。ぷはーっ……、うまいっ」

渇ききった喉に、冷えた水が沁み入るこの感覚……! うー、たまらん……!

「月夜の分も、いま汲んでやるからな」
「あの、お兄様……」
「ん? どうしたんだ……、……月夜?」

なぜか水差しを取ろうとした手を押さえられた。頭に「?」を浮かべながら月夜の顔を覗き込む。
室の主である姫は――
情欲に濡れた、紅色の瞳を俺に向けてきていた。
“男”を知り、“牡”を煽る術を覚えた少女の淫らな眼差し。その視線に背筋がゾクリ、と震える。
息を凝らしながら見つめ返すと、薄桜色に色づいた小ぶりな唇がゆっくりと動いた。

「口移しがいいです……。ちゅっ、ってしながら月夜にお水をください……」

えっちなおねだりに、全身が熱くなる。
そしてピン、ときた。

「最初からそれを狙ってたな……?」

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