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第一話 魔王の赤子にされる勇者

「その情報は確かなの?誤報ではないでしょうね」

「はっ!占星術師と呪術師、更に堕天使にも確認させました。この水晶玉に映りし幼子こそが間違いなく、天に選ばれし勇者です!その名はマシュー!」

魔王ロズリーヌは悩んでいた。側近の淫魔がもたらした予想外の知らせに対し、どの様な手を打てば良いか迷っていたのである。

「そう……そこまで手順を重ねれば、ほぼ間違いないと言って良いわね」

「いかにも!もちろんこんな年齢ではただの人間の子供としての力しかありません。今の内に仕留めるのが得策……」

「………………」

「……魔王、様?」

この情報を持ち込んだ側近はお褒めの言葉を頂けると確信し意気揚々と拝謁しに来たのだったが、彼女の期待に反してロズリーヌは渋い顔だった。魔族の常識で言えば勇者を弱い内に殺してしまえるのは願ってもない幸運のはずなのに、なぜか彼女の主は大して喜ぶ様子がない。

ロズリーヌは側近の察しの悪さを責める気はなかった。彼女は今までの魔王と比べて力押しに偏る事を善しとしないのだが、そんな異端な考え方についていける者は少ないだろうと理解していた。

ロズリーヌの悩みは二つ。将来勇者となる定めの子供を無力な内に殺したら、臆病風に吹かれたと見なされる恐れがある事と、そのリスクを受け入れてもただの対症療法にしかならない事である。

魔族はどの様な種族であろうと弱肉強食を大前提とし、力を尊ぶ事が共通している。それは戦闘向きとは言い難い種族である淫魔でも同じ事であり、淫魔でありながら史上初の魔王となった乳魔であるロズリーヌにも無視できる伝統ではない。

ロズリーヌは乳魔でありながら類まれな武力を発揮し、他の種族を抑えて魔族の頂点に立ち淫魔に天下をもたらした。だが他の種族がそれを素直に受け入れたかと問えば断じて否。むしろ魔王にはなれそうにないと評されていた淫魔がまさかの地位を得た事で、強大な種族はどれも不満を抱いているのは公然の秘密だった。

大きな力量、知能、そしてプライドを持つ種族は表面上はロズリーヌに従っているものの、隙あらば寝首をかこうとしているのは疑いようがない。今まで魔王を何回も生み出してきた竜族、魔神、悪魔、死霊などと言った種族の場合はこの傾向が特に顕著で、やはり淫魔の女王など魔王には相応しくないと見なす風潮が生じれば大歓迎するだろう。

魔族の世界では下剋上も裏切りも当たり前の様に起こり得るが、限度を超えた群雄割拠の戦国時代になってしまっては人類が漁夫の利を得るだけ。勇者を幼い頃に殺した結果臆病魔王のレッテルを張られ、そんな最悪の事態が起きてしまうのはロズリーヌは絶対に避けたかった。

「あ……あの……私めが、何か粗相を……」

「……そうではないわ。ただ、今勇者を殺してもすぐに別の赤子が次の勇者として生まれるだけでしょう」

「はい、いかにも……しかし、恐れながら、それでも十数年の時間は稼げるのでは?」

「そうね。たかが十数年、されど十数年、ね……」

それでも勇者を無力な内に始末するのは魔族にとってある程度の利益となるのは間違いなく、具体的には次の勇者が育ち得るまで十数年の猶予を得られると言うメリットがある。逆に言えばほんの十数年でしかなく、大抵の種族の場合は人間よりはるかに長い寿命を持つ魔族にとってはそれ程の年月でもない。

勇者とは天界がこの世に仕組んだ防衛反応の様な物であり、魔族の勢力が増している時代には必ず生まれる様になっている。そして厄介な事に苦労して勇者を討ち取ったとしても別の赤子が勇者として生まれてくる為、いずれはまた次の勇者と戦わなければならなくなる。

魔王は勇者を打ち破ってこそ、と言う武勇を持て囃す魔族の伝統を無視すれば当然反乱や暗殺のリスクが増す。そんな代償を支払ってまでたった十数年しか効果が続かない対症療法が割に合うとはロズリーヌには思えなかった。

では折角発見した将来の勇者を放置してしまえば良いのか、と問えばこれまた答えは否である。

「……魔王様?もし魔王様が弱き人間の子供になど力を振るうのは高貴さに欠けると思われているのなら、誰かに命じるのはいかがでしょうか?命じられれば、私めでも今すぐ……」

「そういう事ではないわ」

「で、では……下らない存在として、無視してしまえと?」

「………………」

相変わらず自分と同じ物の見方を出来ない側近に煩わしく対応しながらも、ロズリーヌは更に思考を深める。

殺す価値もない存在として無視してしまえ、その内強くなったら褒美として仕留めてやる。この理屈なら一応魔王としての面子は立つが、さりとて勇者に強くなる時間をわざわざ与えるのも馬鹿々々しい。過去には愚かにも勇者が自分の配下を全て討ち取るのを待ってから挑み、無様に返り討ちにされた戦闘狂の魔王すら存在したが、ロズリーヌはそんな轍など踏みたくない。

また、自分がこの勇者を放置していても他の魔族がそうするとは限らない。何かの拍子で誰かがこの子供を発見してすぐさま殺せば、魔王の癖に勇者の存在に気付きもしなかった、とロズリーヌに対する難癖として利用してくるかも知れない。そうなったら結局は彼女の支配が揺らぐ事に変わりはない。

「………………ふぅう」

考えれば考える程何をしても良い手とは思えなくなり、ロズリーヌはバラ色のため息をついた。だがそれを見てなぜか魔王は不機嫌になったと勘違いした側近の慌てた一言が彼女の救いとなった。

「そ、それにしても、この幼子……可愛いですね。流石は天界の祝福を受けた存在とでも言うべきでしょうか」

「それはそう、当たり前ね。人間は美に惹かれる種族なのだから、人間を束ねる存在は美しく生まれるのでしょう。理に適っているわ」

「然様ですね。勇者でなければさらって性奴隷にしたい位です」

「………………!!?」

彼女の怒りを恐れる側近のただのご機嫌取り。彼女の深慮を理解出来ない愚者のただの媚びへつらい。それがロズリーヌを玉座からガタッと音が立つ程激しく立ち上がらせ。

「ヒッ!?も、申し訳ござっ、おゆ、お許しを……!」

「それよ!!」

「………………を?」

「離宮を作るわ!宰相を呼んできなさい!」

「……は、はいっ、ただいま!」

世界の命運を変える閃きに導いてしまった。

「ふっ……はははははは!そうよ、私は乳魔なのだから……こうすれば良かったんじゃない!正に灯台下暗し、ね!あはははははは!!」

魔王の城で前代未聞の計略がめぐらされてから一ヶ月後、とある地方の村から裏山に繋がる荒れた道を6歳前後に見える男の子が歩いていた。

「………………」

もし誰かがこの子供を視界に入れたら、二つの理由で目を引かれるだろう。

一つ目の理由はその男の子の類まれなる外見。服こそ田舎育ちらしく継ぎ接ぎだらけだが顔立ちは見る者が息を呑む程整っており、きちんと身なりを整えれば将来どころか今の段階でも女達の欲望をそそるであろう。

二つ目の理由はその生まれつきの宝を台無しにしている悲嘆の表情。泣きはらした赤い顔と目は何か悲劇があった事を物語っており、心に生傷を負っているのがとても分かりやすい。

だがここは常に人の往来がある都ではない為、男の子は誰にも声をかけられないまま裏山にたどり着いた。そこにあるのは村の死者がまとめて弔われる粗末な墓地である。

ここには墓石などと言う贅沢な墓標はなく、地面に突き立てた木の板が並ぶだけ。男の子はその内の一つを持ってきた水と布で拭き、摘んだばかりの野薔薇を添えてから一言つぶやき。

「おかあさん……」

もう何度流したか分からない涙をまた一粒こぼした。

彼の名はマシュー。まだ齢6の、少年とすら呼ばれない小さな男の子である。しかし彼はどういう訳か周りの子供達よりはるかに賢く育ち、この歳で既に“死”の概念を理解していた。してしまっていた。

村の者達からすれば彼は妙に賢い良い子でしかなく、むしろこの歳で母との永遠の別れを分かってしまった事を哀れまれている。マシュー自身も自分が特別な存在などとは思っておらず、三週間前に死んだ母の事で胸がいっぱいで未だ立ち直れていない。

彼が天から選ばれた勇者として生まれたなどとは、本人も含めて誰も察していない。ましてや魔王に目をつけられたなどとは知る由もない。年月を重ねれば同年代を更に引き離し続けて天才としての頭角を現せるだろうが、それはまだまだ先の話だ。

「………………」

目をつむればマシューは否が応でも思い出してしまう。三週間前のはずなのに大昔の様にもつい数分前にも感じてしまうあの日に起きた悲劇を。

それはこの時代では良くある悲劇だった。この村は地産地消だけで食べていける程豊かではなく、農業や狩猟だけでは冬を越すのも難しい。故に村の男達は都会から不定期に入って来る労働者の募集に応じるのが毎年の出稼ぎとなっており、あの日もマシューの父を含め村の健康な男達はほぼ全員が居なくなっていた。残されたのは老人、女、そして子供達だった。

魔物の群れが村を襲ったのはそのタイミングだった。ただの偶然か、それとも村から男手が減ったのを観察していたのか、どちらかは誰にも分からない。

分かっているのはゴブリンやオーガなどの狂暴な亜人達が乗り込んできた時、マシューには何も出来なかった事、そしてマシューの母が犠牲になった事である。

マシューの母は数少ないある程度戦える女であったが為に、マシューと一緒に隠れていると言う訳にはいかなかった。彼女は自分の息子を自宅の地下室に隠してから武器を取り、他者を守りに行った。それが永遠の別れとなった。

マシューは良い子だった。母の言う通りの場所に隠れ、母に言われた通りそこでじっと待ち続けた。良い子にしていれば何も問題は起きず、また明日から普段の日常が始まると信じて疑わなかった。

だがそうはならなかった。

「おかあさん……!」

数時間後、彼は隣の家に住む老婆によって発見された。そして魔物の群れは追い払われたが、彼の母は犠牲となった事を知った。

その後の数日間はまるでぼやけた悪夢の様だった。父が仕事を放り出して戻ってきて号泣していたのは覚えている。自分が泣いているのか泣いていないのかも分からなくなっていたのは覚えている。葬式で村の皆が泣いて、他の犠牲者達と一緒にここに埋められたのも覚えている。だが全てが実際に起こった出来事とは信じ難く、それでいて彼の知性が現実を否定させない為、マシューの瞳と心は未だに曇り続けている。

「ぼくが……ぼくが……」

笑いもせず遊びも忘れたマシューを周囲の者達は哀れみ悲しむだけだった。子供である彼を責める声などあるはずがなかった。

「強ければ……戦えれば……!」

マシューを責める者はただ一人、マシュー自身だけである。

同年代の友から慰められても、大人たちから強く生きるんだと諭されても、父からお前だけでも生き延びてくれて良かったと感謝されても、マシューの想いは変わらなかった。悲しみによる痛みを乗り越えるには怒りが必要だった。

「……ううっ……!」

マシューは己の無力を呪い、人間を脅かす魔族を憎む。やがてそれは力への渇望に変わり、強くなると言う誓いとして形を成す。それは誰もが抱き得る勇気と正義感だが、神に与えられた才覚があれば比類なき大樹となる。

本来ならこれが後の勇者の目覚めとなる運命だった。

しかしロズリーヌに発見され、ロズリーヌが今までの魔王とは違う手段を選んだ事で全てが狂う。

「………………はぁ」

マシューはため息をつき、村に戻る為に踵を返そうとした。

「………………?」

彼の耳に何かが響いたのはこの時だった。

「……えっ?」

マシューは最初、それが何の音か分からなかった。だが何度も耳を澄ませていると、それが女の声だと気付いた。

こっちへおいで。

「………………!?」

その声は確かにそう言っていた。そしてどういう訳かその声を聞いた途端、マシューは酷く胸が締め付けられた。

まさか、と思って声が聞こえてくる方向に足を運べばもっとはっきりと聞こえる様になる。

こっちへおいで。

「あ……あ……!」

その声には何かがあった。マシューが求めてやまない何かが、もう決して手に入らないと嘆き悲しんだ何かが籠っていた。

そんなはずはない。マシューの理性は即座に判断した。

これはおかあさんの声じゃない。マシューの心はしっかりと否定した。

「………………」

それでもマシューは足を止められず歩き続け、やがて地面に光る円を発見した。

「………………」

こんな物が裏山にある訳がなかった。これが魔法陣であると見抜く知識はなかったが、怪しいと感じる知性はあった。

こっちへおいで。

「……う、ううぅっ!」

それでもマシューは声の正体を確かめたくて仕方がなくなり、恐る恐る魔法陣に足を踏み入れてしまった。

「ぁああああああっ!!?」

次の数秒間マシューが味わった感覚は筆舌に尽くし難い物だった。すごく高い所から落ちている気もするし、どこかに打ち上げられた様な衝撃にも思える。左右に向かっているのか前後に移動しているのかさっぱり分からないが、じっとしていない事だけは確か。

それはいわゆるワープと言う現象であり、彼が踏み入れた魔法陣は転移の罠だったのだが、そんな事が彼に分かる訳もない。

「ああ……うわっ!?」

気がついた時マシューは柔らかい物の上で尻もちをついていた。それがいわゆる絨毯である事、ただし彼の知っている絨毯よりずっと豪華で柔らかい代物である事を理解するのにまた数秒かかったが、その後は驚きの連続となる。

「……えっ?えっ?……な、何?これ?」

恐る恐る立ち上がって周囲を見渡してみれば、目に映るのは豪華だが奇妙で非現実的な内装。彼の基準からすれば信じられない程大きなその部屋はどこかの王城の一室の様にも見えたが、壁や天井はチョコレートを模した模様になっており、かかっているカーテンもデコレーションクリームにそっくりだった。床のタイルには色とりどりの飴玉が描かれているし、燭台やシャンデリアは紅白のキャンディーにしか見えない。ドアも大きなビスケットに良く似ているし、今彼が踏んでいる絨毯さえもが長方形のケーキを模している。

一言で言えば、お菓子の家どころかお菓子のお城にしか見えなかった。絵本の中に描かれた世界がここに再現されていた。

「………………」

この光景を見てマシューが感じたのは喜びではなく不安感だった。こんな奇妙な内装は幻想的ではあったがそれ以上に不気味であり、見ているだけでおかしな気分になってしまうのである。彼の語彙では自分が幼児退行を強制させられているとまでは自己分析できなかったが、このどことも知れぬ場所の雰囲気はとても落ち着ける物ではなかった。

「あの……すみませーん、誰かいませんかー?」

訳が分からない事だらけだが、まずはここがどこなのか知りたい。誰かの家なら無断に入ったのはまずい。マシューは6歳児に出来る最善の判断を下し、周囲をきょろきょろと見渡した。

そして答えは返って来た。

「……ええ、居るわよ」

「!!」

彼を誘ったあの声が、聞くだけで優しさが伝わってくる様なあの声が、今度ははっきりと聞こえた。

そして彼女は何もない所からきらきらと光の粒を散らしながら現れ。

「………………!!?」

「……くすっ」

姿を一目見せただけでマシューを硬直させた。

マシューはてっきりおとぎ話に出てくる様な妖精か、あるいは魔女でも登場するのかと思っていた。しかし彼の前に登場した淫魔の女王たる乳魔ロズリーヌは彼の想像をあらゆる意味で超えていた。

ロズリーヌの美は幼いマシューには到底受け止められる物ではなかった。紫色の髪がつやつやと輝く様も、芸術的な眉毛や鼻のカーブも、極めつくされた笑顔を作る目と唇も、全てが圧倒的すぎた。

彼が今まで見た美人など精々たまに連れていってもらった町で見た町娘程度なので、後はいわゆるお姫様を妄想した事がある位。その程度の感性で人知を超えた美貌が愛しい物を見る目で微笑んでくるのだから、頭も心もまともに機能出来る訳がない。

だがただ美しすぎるだけで済むのは首から上だけで、そこから下はマシューは概念すら知らない淫らさが加わる。ロズリーヌの装いは一体どれ程巨万の富を積み上げれば買えるか分からないドレスだったが、下こそ大きくふくらんで脛まで覆う上品なデザインでありながら、上は谷間どころか乳房の大半が強調されつつさらけ出されている。乳首こそぎりぎり見えていなかったが乳輪らしきピンク色は少しだけ縁から覗いており、マシューは理由が分からないまま胸を高鳴らせずには居られなかった。

一方彼女が人間ではないのは一目で明らかで、黒々とした角と蝙蝠の様な翼、そしてスペード型の長い尾を持っていた。しかしこれらが淫魔の特徴だとはマシューは知らなかったし、もし知っていたとしても彼女に見惚れるのに忙しすぎて気付けなかったかも知れない。

暴力的なまでの美と色気の塊はマシューの内面に奇妙な矛盾を生んでいた。彼女を見ると甘い痺れで心がかき乱されるのだが、同時になぜか落ち着いて安心してしまうのである。

特に彼の魂を引いたのは優しそうなのに妖しいと言う雰囲気を象徴する乳房。美しすぎる二つの至宝はどう見ても彼の頭より大きいのに、どう成形すればこうなるのかと驚愕させる程完璧な曲線を描いている。完全に前に突き出ている訳ではなくほんの少しだけ下向きになっているのが重さと柔らかさを約束している様で、見ているだけでくらくらしそうな魅力の塊となっていた。

あの胸に抱かれたい。顔面をなすりつけたい。あそこに抱かれて頭を撫でられたらどれ程幸せになれるだろうか。マシューは自然にそう思い、それを恥にも思わなかった。

「ふふふ……いつまで見惚れているのかしら?」

マシューにかけられた魔法を解いたのは、魔法をかけた本人のロズリーヌだった。

「……あっ!え、えっと、ごめんなさいっ!」

すっかり顔を真っ赤にしていたマシューは慌てて頭を下げるしかなかった。彼の幼稚な礼儀でも人をじろじろ見詰めてはいけないと思う程度の判断力はあった。

「あ、あの……ここは……じゃなくて……えっと……」

「どうしたの?」

「えっと……ご、ごきげん、うるわしゅう?」

この時マシューは相手がどこかの王妃か何かではないかと考え、必死になって礼儀正しい言葉を選ぼうとし、片膝をつく真似までしてみせた。自分が滑稽な事をしているのは理解していたが、それでも出来る限りの事を試みるのがマシューと言う子供だった。

「あら、賢いのね。良いわよ、気にしないで喋りやすい様に喋りなさい」

「は、はいっ。それじゃ……あの、ここはどこ?なんですか?」

ロズリーヌはこの愛らしい努力を喜び、朗らかに笑ってから普段通りにして良いと言った。マシューは彼女の寛容さに感謝し、この人はきっと良い人だと信じる事にした。

彼がその選択を悔いたのはすぐ後の事だった。

「ここはね……絶海の孤島、と言われて分かるかしら?」

「はっ……?ゼッカイノ、コトー?……あの、それ、リーリズ村からどこら辺にあるんですか?ぼく、リーリズ村って言う所に住んで……」

「そうねえ。あなたの居た村からは、北東にざっと1万2千キロかしら?それ位離れた場所の、海のど真ん中にポツンとある小さな島なのよ」

「……い、いちまん?……島?」

「くす。遠すぎて分かりにくいかしら?じゃあこう言ってあげる。ここは魔族の領域にある島に建てたお城よ」

「!!!?」

返って来た答えはあまりにもあり得なくて、とんでもない内容で。

「もしかして気付いていなかったのかしら?もちろん私も人間じゃなくて、魔族よ。それもとっても強い魔族……うふふ」

それを告げた相手は妖精でも魔女でも王妃でもなく人間の大敵だった。

「は……ひっ……」

マシューは数秒間ショックで硬直した後、膝をガクガクと震わせて怯え始める。彼は自分が無力な子供である事は良く分かっており、最弱の魔物にも勝てない事を正確に理解していた。そして目の前に立つ相手はどう見ても最弱には程遠いのは、本能的に分かってしまっていた。

転機となったのはロズリーヌの次の台詞だった。

「そして今日から私があなたのママよ」

「……へっ?」

「あなたは私の可愛い赤ちゃん。ここで大事に大事に育ててあげるわ」

ロズリーヌはあまりにも意味不明な事を宣言した。それも淡々と告げるのではなく、慈愛を込めた視線と声色での宣告だった。

マシューはまたしても数秒間動けなくなったが。

「ふっ!ふざけるなぁっ!!」

今度は怒りを爆発させた。

「えっ……?」

「何が、何がママだ!お前なんか、魔族なんかが、ぼくのおかあさんな訳ないだろーっ!!」

「………………」

「お前ら魔族のせいで!死んだんだ、ぼくのおかあさんは!魔物に殺されたんだ!お前らのせいで!何がママだ、何がーーーっ!!」

「……あら、そうなの?」

「そうだよっ!!お前なんか絶対に、絶対に、ママなんて呼んでやるもんか!ぼくのおかあさんはもう天国に行ったんだからなーっ!!」

マシューは母を失った子供としての正当な憤怒を燃やし、先ほどまで感じていた恐怖も憧れも全て忘れて金切り声をロズリーヌにぶつけた。もしこれが人間の大人だったら思わず後ずさる程怯まされていただろう。

しかしロズリーヌはしばし目を丸くしただけだった。

「ふふふ……あっはっははは!」

次に彼女は朗らかに笑い出した。マシューの感情の爆発は彼女を怖がらせる事はもちろん、苛立たせる事も焦らせる事もなかった。それどころか彼女を楽しませただけだった。

「なっ……なんで笑うんだ!なにがおかしいんだ!」

「あはははは……!これが笑わずには居られないわよ!」

ロズリーヌは上機嫌だった。マシューが予想外の抵抗を見せてくれたお陰で。

彼女はこの計画を練り始めた当初からマシューを虜にする事はたやすいと考えていた。彼女は淫魔であり、人間の欲望をいとも簡単に引き出して操る事ができる種族の女王なのである。更に彼女は淫魔の中でも特に母性と慈愛に秀でる乳魔と言う種族であり、相手の人間が幼ければ幼い程相性が良い。

ロズリーヌは赤子でさえ性的に魅了できる自信があり、いかに勇者と言えども自分なら一目で夢中にさせられると思っていた。事実マシューは彼女と出会った途端に顔を赤くして胸を高鳴らせていた。

しかしマシューは実の母の死と言う火種で彼女の誘惑に抗った。ロズリーヌはそれが嬉しかった。淫魔の女王のプライドはこの程度で傷つく程安い訳がなく、むしろ工夫の凝らし甲斐があると心が躍るのである。

淫魔にとって英雄と言う物は凄ければ凄い程堕とした時の達成感がある。ただの子供であれどさすがは勇者、とロズリーヌは小躍りしたい気分だった。

「いい加減笑うなよぉ!」

「ふふふ……マシュー、無理はしなくて良いのよ」

「何がだよ……!何の事だ!」

自分の意志力が相手を楽しませたなどとは理解できず、マシューは尚も怒りの焚火に薪をくべ続けようとしたが、それは叶わなかった。

「どきどきしちゃったんでしょう?ママを見た途端に」

ロズリーヌはただ指摘するだけで良かった。彼がつい先ほどまで彼女を夢見心地な表情で見詰めていた事を。

「!!?」

素直なマシューはそれだけで己の非を否定する事が出来なくなり。

「特に……ママのおっぱいをじーーーって、見ちゃったでしょう?」

「うぁっ……!?」

更にロズリーヌが己の谷間を指でなぞって見せると、マシューは視線ごと自分の意識も魂も深い深い肉の割れ目に吸い込まれる気がした。

「だってあなたはママの赤ちゃんだもの。ママのおっぱいが欲しくて欲しくてたまらないのよね……抱っこされたくて、ちゅっちゅしたくて、たまらないのよね……」

ロズリーヌの声と表情はあくまでも優しく、まるで聞き分けのない幼子を辛抱強く諭している様だった。それが彼女の果てしない色香と混ざるといよいよもってマシューの頭が不自由になっていく。何か得体の知れない気持ち良さが脳にゆっくりと絡みついてきて、ゾクゾクするのにホッとしてしまう。

「うっ、うっ、うるさいっ!」

言うまでもなく、マシューは性欲などと言う物は知らないし理解できない。一方で母性なら実母を筆頭に年上の女性からふんだんに与えられてきたが、いやらしさと混ぜ合わされてから爆弾の様に投げつけられた経験などない。

「うるさい!うるさい!」

彼はただ何となく言い負かされている事だけは理解して、それをヒステリックに否定する事しか出来なかった。出来る物なら論理的に反論したくはあるが6歳児としては聡明な程度ではどうしようもなく、腕をぶんぶん振り回して子供っぽく高い声を出し続けるのが関の山だった。

なによりも腹が立っては仕方ないのは、内心ではロズリーヌの言葉を否定出来なかった事。あんなおっぱいがどうした、抱っこなんかされたくない、赤ちゃんみたいにちゅうちゅうなんてするもんか。いくらそう感情を爆発させても心の中で芽生えてしまった欲望を消す事は出来なかったし、ロズリーヌが谷間の上で滑らせている指から目を離す事も出来なかった。

もしこの場でマシューがなおも悪あがきを続けたかったら、背を向けて走り出すのが一番の手だっただろう。しかし彼は怒りを頼りに彼女を睨みつけると言う選択をしてしまった。

「くすくす……じゃあ、分かりやすくしてあげる」

「……!?」

それ故にロズリーヌが彼に向かって歩き出すと、これ以上粘るのは不可能になってしまった。

ロズリーヌは別にフェロモンを浴びせかけた訳でも催眠魔法を使った訳でもなかった。彼女はただ単にゆっくりと歩き出し、少しずつマシューに近づき始めただけだった。たったそれだけの動作がどんな高級娼婦の渾身のストリップよりも強力な誘惑になっていた。

彼女が一歩踏み出す度に、彼女の胸もその大きさに相応しくゆっくりとだが大きく揺れる。ぶるんぶるんと言う音が聞こえてきそうな程重そうかつ柔らかそうなダンスがマシューの視線を釘付けにして離さず、距離を詰められれば詰められる程実際以上にはてしない大きさに見えてくる。

「あ、ああ……ぅう……?」

当然すぎる事ながら、マシューには色気に惑わされる感覚など理解できない。男と女の違いも身体的特徴と喋り方くらいしか認識していないし、性行為のせの字も知らない。子供向けの絵本に淫魔などと言う教育に悪い存在が出てくる訳もないのだから、ロズリーヌがどんな種族なのかも全く分かっていない。

「うぁああ……!?」

彼に分かるのはなぜか自分の身体が自分の言う事を聞かなくなった事だけだった。

何かがまずいのは分かる。逃げ出した方が良いのは分かる。その程度の判断は出来るのだが、何の役にも立たない。

「ほうら、やっぱりママのおっぱいをじーって見ちゃっているじゃない。可愛いわね、もう」

ロズリーヌが穏やかに笑っても、否定の言葉すら出て来ない。いつの間にか足は固まった粘土の様に動かせなくなっていたし、せめて視線をそらそうとしても首どころか目すら向きを変えられない。あの素晴らしすぎる乳房から逃げられない。

「な、なんで……なんで……」

名前を知らない感情が胸の中でぐるぐると渦巻き、心すら自由にならなくなるのが感じ取れるのになぜかそれが嬉しい気がする。名前をつけられない欲望のせいで身体中が熱くなり、早すぎる性の目覚めに神経が狂わされ、絶対に反応しないはずの小さなペニスがピクピクと震えて膨らみ始める。

おかしいのは分かっているのに何もできない。母を侮辱された怒りを忘れた訳ではないのに、先ほどあれ程頼もしかった力が煙の様に消えてしまってどうにもならない。

「なんで?それはとっても簡単な事よ」

彼が困惑と混乱に打ちのめされている内にとうとうロズリーヌは目の前に来てしまい、床に膝をついて屈み込んでから。

「あなたがママの赤ちゃんだからよ。あなたはママの赤ちゃんになる為に生まれてきたの」

「ひゃっ……!?」

マシューの腋の下に手を入れて軽やかに抱き上げた。

この瞬間、マシューは更なる喜びと驚きを知った。乳魔を見るだけでなく、乳魔に触られるとどうなるかを知った。

ただ腋の下に手を当てられているだけなのに、普段はくすぐったいだけのはずの場所から理解できない快感が走る。身体の側面から芯に向かって温かくて心地よい何かが染み込んできて、暴れる気など全く湧いてこなくなる。

「ふぁ……」

しかも目の前にはあの大きな大きな乳房が迫ってきており、今まで以上に思う存分鑑賞する事が出来る。奥が知れない谷間の陰影を見てしまうとどれ程深いかがますます分からなくなり、ちらちらと見えていた乳輪のピンク色もくっきりと瞼に焼き付いてもっともっと見たくなる。

更に近づいた事でロズリーヌのかぐわしいのにどこか優しい匂いが自然に吸い込める様になり、頭の中が風船で浮き上がったかの様に軽やかになっていく。その反動で逆にまぶたは重くなり、目がとろんと脱力して睨む事すら出来なくなる。

誰がどう見ても淫魔に魅了されてぼうっとしている男の子の姿だった。

「ふふふ……」

それでもロズリーヌは満足気に笑った。自分の魅力が彼に通じたからではなく、マシューの腑抜け具合が中途半端だったからである。

魅了にも深度と言う物があり、今のマシューは呆けてはいるものの理性や知性を失った訳ではない。本当に心の底から魅入られた人間なら矢継ぎ早に快感をねだったり、あるいは喋る事も出来なくなる程脳が使えなくなる物である。

今のマシューは勃起してうっとりしているが、それだけだった。ロズリーヌはその気になれば生まれたての赤子でさえ数秒で絶頂させられる力がある。それでも彼は抱き上げられ、間近で乳房を見せられたのに、性的興奮に戸惑うだけで済んでいる。

ああ、なんて楽しいのだろう。ロズリーヌはまた一つマシューの評価を上げ、もっと彼を愛してあげようと決意してまずは腰を大胆に折り曲げて乳房を下に垂らし、マシューに接触させない様配慮する。そしておもむろに目を閉じて彼の顔に自分の顔を近づける。

「あ……あ……」

マシューはやはり何も出来なかった。女神めいた美貌がどんどん迫って来るせいで金縛りの様に動けなくなり、顔をそらす事など夢にも思わないままただじっとしていた。

「ちゅ、ん……」

「………………?」

そしてロズリーヌの唇が淡雪の様にふわっと降りてきて、マシューの唇を大事そうに覆った。

幼い男の子に理解できる性的な行為と言えば、キスか精々女の胸を触る事くらいである。それも結局は大人の真似をしているだけで、そこに性欲など生じる訳がない。

マシューにとってもそれは例外ではなく、キスはただの親愛の表現としか思っていなかった。今まで彼がキスした相手など実母を除けば近所の仲の良い女の子くらいであり、なんだか湿っていて生暖かい変な仕草としか認識していなかった。

ただ、恋や性の衝動で胸が高鳴る事こそなかったが、相手の好意を感じて胸が温かくなる事はあった。親しい誰かと愛情を交換しあう喜びは本能的に理解していたので、時には自分から母にキスをねだる事くらいはあった。

「……!?……んんんっ!!?」

だからこそロズリーヌのキスは二重の意味で彼を揺さぶった。実母から感じた心地よさが、もう二度と味わえないと思っていた感覚が、信じられない程鮮烈に唇から注ぎ込まれる。これだけでも頭がおかしくなりそうなのに、存在も概念も知らない愛欲を強制的に目覚めさせられ、なぜか分からないがこのキスがずっと続いて欲しくなる。

ロズリーヌの唇はあまりにも温かった。決して不快になる熱さではなく、春の木漏れ日や程よい温度のお湯、もしくはうたた寝中の布団がくれる心の底から安心できる類の温もりだった。

ロズリーヌの唇はあまりにも柔らかかった。田舎女の荒れてざらついた唇しか知らないマシューにとっては、唇と言う物がこれ程滑らかで柔らかくなれるなんてまるで信じられなかった。

ロズリーヌの唇はあまりにも甘かった。極上の女の唇は味覚とは別の意味で甘いなどと知っている訳がないマシューに、淫魔の女王にまでなった乳魔の唇の甘さは理解不能にも程があった。

「ちゅむ……ぷちゅ……」

「んっ……!?んぅ……ぅ……?」

ロズリーヌが極限まで優しくしたキスを振舞う度に、マシューの唇は空気の流れすら感じ取れる程敏感になっていく。唇の中の神経が全て剥き出しにされたとしか思えず、それらを一本ずつ愛でられていく度に心身ともに甘い痺れに支配されていく。そうすればより気持ちよくなれると察した本能が目を閉じさせ、暗闇の中で触感と嗅覚が高まっていく。

何も分からない。だけどもっとこれが欲しい。マシューはいつしかそう考える様になり、敵対心を失って身体中から力を抜く。

良く知っていたはずの亡き母の愛情が、もしかしたら偽物だったのかも知れない。マシューが無意識にそう思ってしまう程ロズリーヌの母性はあまりにも濃厚だった。あれだけ会いたかったはずの母の思い出の中の慈愛が100倍以上分厚いロズリーヌのそれで塗りつぶされていき、罪悪感や怒りを覚える暇すらなく酔わされていく。

乳魔とは淫らな母性を司る悪魔であり、彼女達に堕落させられた者は赤子に戻される定め。人間の女は守り育てる為に使う母性を乳魔は引き寄せて壊す為に使う。いかに天に選ばれし将来の勇者であろうと、いかに実の母を失った怒りを燃やそうと、影響を減じるのが精々である。

「ぅ……ぁ……んん……」

マシューは次第に自分の心が何かとても甘い物で塗り固められ、閉じ込められていく錯覚に陥る。町で一度だけ食べさせてもらって感動したケーキの生クリームをもっと甘くし、もっと重く濃くしてから口の中に注ぎ込まれたらこうなるだろうか、と他人事の様なイメージが湧く。自分の心理状態を客観視出来ているのではなく、心が鋭敏になりすぎる一方で頭脳がまるで機能していないのだった。

「ぷちゅ……れろ……る……」

「んんー……!んぅ……ぅ」

これが精神的な快感だけだったらまだ至福の世界に閉じ込められるだけで済んだかも知れない。しかしロズリーヌは匠の技で限りなく穏やかでありながら淫らでもある矛盾に満ちたキスを実現し、肉体的な快感も容赦なく積み上げていく。

ロズリーヌはもう十分唇と唇を重ねたと判断して舌を差し込み、口内と舌を少しずつ少しずつ刺激する。未知の感覚にマシューはまたビクビクと震えだし、硬直と脱力を繰り返して頭の芯に快楽を溜め込んでいく。唾液を舌伝いに与えられれば乳魔らしく甘くてとろりとした味にくらくらさせられ、思わず飲み込んでしまえば頬から顔中が熱くなる。

わからない。もうここがどこかも、なにをしているかもわからない。

マシューの陶酔と混乱はピークに達し、自分が浮かび上がっているのか沈んでいるのかも分からなくなる。かろうじてロズリーヌとキスをしている事だけは理解していたが、自分の知るキスとあまりにも違いすぎて信じられなくなっていた。

あるいはそれはまだ幸せだったのかも知れない。ロズリーヌのキスが圧倒的すぎるが故に彼のペニスは下着の中でピンと突き立っていたが、その異常事態に怯える事だけは免れたのだから。

「……ふふ。すっかり蕩けちゃって、良い子ね」

ロズリーヌはこれ以上続けたら彼は気絶するか発狂してしまうと見定め、唇を離してから数秒間だけマシューを休ませてあげた。

無論それは慈悲ではなく、最後のトドメを引き立てる為の僅かな焦らしだった。

「ご褒美よ。ママだけがくれる、この最高の幸せ……」

「……んぁ?」

ロズリーヌはマシューが目を力無く開いた瞬間に彼のズボンと下着の中に手を差し込み。

「しっかり覚えなさい」

小さなペニスを大きな手で包み込んだ。

「……ひぇ?ぇ、ぁあ、ああうぅうううううう……!!?」

一瞬のタイムラグの後、マシューは絶頂を迎えていた。

「気持ちいいでしょ?ママのお陰で、おちんちんが気持ちいいのよ」

ロズリーヌは手コキなどしていなかった。シャボン玉も壊さない様な絶技の力加減でマシューのペニスに保護と癒しを与えただけだった。それこそがマシューの未熟すぎる性感と彼女の目的に最適の触り方だった。

「ぁあああう、ぅうううううっ、ふぅあああああ……?ああああ……?」

「気持ちいい、気持ちいいね……ママのお陰で気持ちいいね……」

精液など持っていないペニスが空撃ちを繰り返し、早すぎる人生初の快楽を教え込まれる。ロズリーヌに導かれた新世界を二度と忘れられなくされ、喜びのトラウマを刻まれていく。

「……あっ。あっ……ふ……」

「よしよし……気持ち良かったね……」

たっぷり三十秒は喘がされた後、マシューは意識をほぼ失ってくったりと首を前に倒した。ロズリーヌはすぐさま抱き方を調整し、今までは遠ざけていた胸元で彼の顔を受け止める。こうすれば乳魔の胸こそが最大の安らぎを得られる場所だと気絶中に学習させられるからである。

「これから毎日、ママが気持ちよくしてあげるからね……よ~く教えてあげる。ママがどれだけあなたを愛しているかも、あなたがママが大好きな事も……」

自分が呪縛そのものな初体験をさせられた事など全く理解しないまま、マシューの意識は淫らな闇の中に溶けていく。自分では何一つ考える事は出来なかったが、ロズリーヌの言葉だけははっきりと聞こえた。

「あなたはママの物だって言う事も、ね……ふふふ……」

彼女の声は最後の最後まで慈愛たっぷりで、耳にとても心地よかった。

マシューが拉致監禁の憂き目に遭ってから月日はあっと言う間に過ぎて行き、6歳児は7歳児に変わった。この間マシューは何もしていなかった訳ではない。

「くそっ!くそっ!」

ロズリーヌのキスと愛撫で気絶させられた初日の次の日から、マシューは必死に脱走を試みる日々を送った。彼女に何をされたかはまるで理解できなかったがとにかく何か変な事をされたと解釈し、ここに留まれば自分はおかしくなってしまうと言う一番肝心な部分だけは正確に把握していた。

「ああっ、もう!ここも行き止まり……」

とにかくここから逃げ出して村に戻らねばと言う決意を胸にマシューは毎日今日こそは、と勇気を振り絞って与えられた自室を出るのだが、問題は彼の部屋の外は日替わりの迷路となっている事。内装自体は彼の自室と同じくお菓子の城その物でありながら壁と通路が毎日移動している為に、昨日通れたはずの道やあったはずの部屋がなくなって見慣れぬ場所に変わっていると言う非常識な場所である。

このカラクリはイミテーターと言う床や壁の形をした魔法生物を配置し、それらを予め決めておいた数十種類のパターン通りに日替わりに切り替えていると言う代物。これがある程度以上の腕前と知識のある冒険者なら見破って対処する事も可能だが、ただの子供のマシューはここはそういう場所なのだと受け入れて攻略に挑むしかなかった。

「うわっ……!ま、また落とし穴……くそうっ!」

この迷宮の悪質な所は子供でも軽く痛い思いをする程度で済むトラップがあちこちに仕掛けてある事、丁度いい運動になる様に段差などのアスレチックな要素がある事、そして偽りの希望を用意してある事である。いつまで経っても出口に近づけないのでは、とマシューが絶望しない様に時には開かない窓にたどり着かせたり、意味深な宝箱に鍵を用意して休憩に丁度いい部屋に入らせたりもしている為、実際には絶対に脱出出来ない作りになっているとはマシューには気付けない。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「こんばんは。今日もたっぷり遊んでいたみたいね?」

「……!や、やめろぉ、来るなぁ……!」

こうして頭脳と身体の両方を駆使させられ、健康的な一日を過ごした頃にロズリーヌがやってくる。するとマシューはたちまち顔を赤らめながら彼女から距離を取ろうとするのだが、逃げ切れるはずがないのは言うまでもない。

「イヤイヤなんてしちゃダメよ。おっぱい、欲しいんでしょう?」

この時ロズリーヌは彼を追いかける必要などない。彼女はただ自分のドレスの胸元をずり降ろし、どんな宝石よりも美しいピンク色の乳首を見せるだけで良い。

「……あ、あう、ぅうう」

たったそれだけでマシューは瞳を潤ませ、衝動に逆らえずに彼女に近づき、抱き上げられるのに身を任せてしまう。そして雛鳥の様に口を開き、差し出された乳首に吸い付いてしまうのである。

「よしよし。たっぷり飲みなさい。良い子良い子」

「ん、んゆっ、ちゅうっ」

この離宮にてマシューが与えられる飲食物はただ一つ、ロズリーヌの母乳だけである。一日中動き回った後で飢えていない訳がなく、渇きに耐えられる訳もないので意志力で我慢できる物ではない。そもそも飲まされるのが乳魔の母乳では、一度味を知ってしまったらどんな麻薬よりも恋焦がれるのは避けられない。

ロズリーヌの母乳はマシューにはとうてい言い表せない天上の美味だった。もし彼が豪勢な暮らしが出来る王族だとしたら最上級の生クリームと蜂蜜を混ぜた様な濃厚な味わいと、喉を通ればすっと消えてもっと欲しくなる儚さを兼ね揃えた奇跡の液体とでも表現できただろう。それでいて飲めば飲む程ホットワインの様な安らぎに満ちた酩酊感まで与えてくるのだから、彼は食生活だけはある意味とても贅沢な境遇だった。

もっともいくら美味と言えど乳魔の母乳は淫らな毒であり、人間への悪影響は計り知れない。

「う、うぅうんっ、ぅううう!」

「おちんちん、気持ちよくなってきたわね。ママのおっぱい大好きだものね」

数ある乳魔の母乳の力でも最も分かりやすい影響が、飲むだけで発情し絶頂に追いやられてしまう事。彼女達の乳首を吸うと言う行為自体がディープキスにも勝る刺激となっている為、乳魔に授乳されて興奮しない人間など居ない。

「んんん……!ぅ、ああう、ぉおお……ほおぉお……」

「今日もおっぱいで気持ちよくなれて良かったわね。可愛い可愛い私の赤ちゃん」

マシューの一日は授乳で絶頂し、精液が出ないペニスを震わせる事で終わる。いくら我慢しようとしてもすぐに吸い付いてしまい、一度吸い付いたら絶頂するまで止められず、絶頂後は膨大な幸福感のせいでロズリーヌに反論する事すらままならない。そして明日もきっと脱出できない迷路を一からやり直し、と絶望しながらロズリーヌの乳房に甘やかされたまま自室に連れ戻され、寝かしつけられるのである。

こんな生活を続けていれば遅かれ早かれ多感な子供の心がねじまがるのは当然であり、マシューは8歳になった時遂に脱出を諦めた。だがロズリーヌがそんなわがままを許してくれる訳がなかった。

「あら?マシュー、今日はずっとお部屋に居たの?」

「……そうだよ」

ある日彼はもうまたしても昨日とは完全に別物になった部屋の外の迷路を見てうんざりし、自室のベッドの上に座り込んで何もしなくなった。夜になってやってきたロズリーヌが少しだけ驚いた顔をしたのを見ると、不貞腐れた甲斐があった様に思えた。

「ダメよ、ずっとお部屋に閉じこもっているだけじゃ。運動不足になっちゃうわよ?」

「……運動したって何になるのさ。こんな所にずっと閉じ込めたままで……」

「ふ~ん……ママの言う事を聞けない悪い子になっちゃうのね?それならおっぱい、お預けよ?」

「……いらないよっ!そんなの!」

しかしロズリーヌはすぐに何時もの可愛い物を見る目に戻ってしまい、それが気に入らなくてマシューは意地を張る。こうなったら是が非でも彼女を困らせたくて、その為には言う事を聞かないのが一番に思えた。

もちろんロズリーヌにとってこんな反抗は子供の浅知恵に過ぎず、むしろ更に自分に都合の良い様にしつけるチャンスですらある。

「そう。じゃあ、明日はちゃんとママを探しに来るのよ?じゃないと明日もおっぱい無しだからね?」

「いらないってば!」

マシューはその晩意地を張って授乳を拒み。

「……う、うぅうううう……うくぅうううっ……!」

そのせいで一睡も出来ないまま朝を迎え、翌日は足をふらつかせながら部屋の外に出る羽目になった。この時初めて彼は自分がどれ程ロズリーヌの母乳に依存し、中毒しているかを思い知らされた。

「み、水、水……」

この時ロズリーヌは迷路のあちこちに水差しを用意しておいた。中身はただの水だった。

「ぶえぇえっ!?な、なにこれ……に、にがぁあああ!」

しかしマシューはそのただの水が飲めなくなっていた。喉が痛む程渇きに苦しんでいるはずなのに、ただの水が苦くて臭くて口に近づけるだけで嫌になる。これは一重にロズリーヌの母乳と言う贅沢すぎる液体に慣らされたせいであり、もはや彼は彼女の母乳以外全てが苦味と悪臭の塊にしか感じられなくなっていた。

「う、うぅうう……おっぱい、おっぱい……!」

こんな状態で十数時間、いつ終わるとも知れない迷宮をさ迷わされた末に。

「うふふ。時間がかかったわね、私の赤ちゃん」

やっとの思いでロズリーヌと再会できたらどうなるか?

「あ……あぁ、あああああ……!」

答えは彼女が女神に見えてしまい、そう感じてしまった自分が情けなくて泣いてしまい、それでも母乳欲しさで飛びついてしまう、である。

「よしよし。おっぱい欲しいのよね?」

「ぅ……ぅ……」

「どうしたの?やっぱり欲しくないの?」

「……ほ、しぃ……」

「欲しいわよね?だってあなたはママの赤ちゃんだものね?」

「……うん……うっ、ううっ、うっうっ……」

「そんなに泣いちゃって……もう二度とママのおっぱいを我慢しちゃダメよ?分かったかしら?」

「……うん、うん……!」

この日マシューは泣きながら授乳され、泣きながら絶頂させられ、二度と母乳への渇望を否定できなくなった。更にこの日以降は脱出の為ではなくロズリーヌに会う為に迷路に挑む事を余儀なくされ、恥辱と自己嫌悪と欲望に震えながら全力を尽くす様になる。

「ふふ、今日も頑張って迷路を突破したのね。偉いわよ、マシュー」

「う、うん……」

9歳になった頃のマシューは見た目だけは極めて健康そうな男の子になっていた。毎日の運動で身体はしっかりと鍛えられ、勇者として生まれた素質が存分に開発されている、将来が楽しみな健やかな肉体である。だが毎日の授乳によって内面は心身共に乳魔に都合良く作り変えられており、成長と共にその弊害は加速しつつある。

「どうしたの?落ち着きがないわね」

その弊害の分かりやすい現れ方が、早すぎる性の目覚めだった。この頃のマシューはロズリーヌと会うだけで毎回もじもじする様になっていた。

「……あ、あの……あの、ね?」

「当ててあげようか。最近、ママに抱っこされると以前よりもっと気持ちよくなってしまうのでしょ?」

「………………うん」

マシューは苦悩し、怯えていた。もう3年もほぼ毎日ロズリーヌに可愛がられてきたのに、一向に慣れない所かますます快感が増えていく事に。自分の肉体がどんどん変わってしまい、性欲と言う得体の知れない衝動で心がかき乱される事に。

「それはあなたがどんどん良い子になってきたと言う事なのよ。ママの赤ちゃんらしくなってきたの。ママの言う事を何でも聞きたい、って素直に思える様になってきたのよ」

「……そ、それは違う!そんなのおかしい!」

こんな閉鎖的な環境でマシューが真っ当な性知識を得られる訳がなく、ロズリーヌに歪んだ嘘を吹き込まれるだけである。それでも持ち前の知性で何となくそれは間違っていると言う直感は抱けるのだが、論理的に反論できない日々を重ねていれば自信など得られない。

「おかしくないでしょう?最近はママがおっぱいを見せる前からおちんちんがぷっくり膨らんでいるじゃない」

「そ……それ、は……」

マシューは未だに勃起が何なのか理解しておらず、絶頂と言う言葉も知らない。ただ毎日ロズリーヌに壮絶な快感と人間の倫理からかけ離れた愛を注がれ、虚勢を張る事すら難しくなっていくばかりである。

そしてこの日、マシューは新たなトラウマを植え付けられる。

「さ、ママのおっぱいにいらっしゃい。これからはもっともっと、たっぷり可愛がってあげる」

「う……うぅう……」

いつもの様に腕を広げられて抱擁に誘われ、いつもの様に顔を胸に埋めてうっとりする。いつもならここから授乳され、射精を伴わない絶頂を味わわされる。

「ほうら、ぱふ、ぱふ。ぱふ、ぱふ」

「あ、あぷっ、ふぁっ」

しかし今日ロズリーヌはいつも以上にマシューの頭を深く深く抱き込み、乳肉を動かして快感を塗り付けた。乳魔の乳房にかかれば顔どころか頭全体を性感帯に変えてしまうのは朝飯前で、マシューはこれまでにない程性の衝動を高く強く、そしてこれまで以上に濃く甘く実感させられる。

「ママのおっぱいは気持ちいいわよね。大好きなママのおっぱいだものね」

「ああ……ひゅううう……」

気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。それしか考えられなくなり、反骨心はどこかに引っ込んでしまう。ロズリーヌの乳房こそが極楽であると脳も心も魂も覚え込み、二度と消せなくなってしまう。

その時だった。

「うっ……!?」

マシューのペニスが今までとは違う痺れと熱に満たされたのは。

「あなたはこの為に生まれてきたのよ。ママのおっぱいに甘えて良い子になる為に。ママの言う事をちゃんと聞いて、ママと一緒に幸せになる為に」

「う、むぅ、むむむっ!?」

何か熱い物が身体の奥底から湧き上がり、止められなくなっていく。このどうしようもない熱を放ちたくて放ちたくてたまらない。

「……今日は記念日ね。ぴゅっぴゅっ、しちゃいなさい」

「むぁああああああっ!!?」

そう自覚した瞬間、マシューは射精した。人生初の精液をまだ幼過ぎるペニスから盛大に放っていた。

「ああああ……はぁあ……あ、ああ?……えっ、お、お漏らしっ!?」

「そうよ。これは白くてねばねばした、特別なおしっこなの。ママと赤ちゃんが心の底から愛し合った時に出る、愛の証なのよ」

「………………」

精通の白い熱の爆発が終わった後、マシューはまたしても嘘八百をロズリーヌに吹き込まれたが、今度は反論する気にならなかった。なぜか今回ばかりは彼女が正しい様な気がして、理由も分からずに背筋を震わせるしかなかった。

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