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第二話 魔王を母と認める勇者

粘土の様な物がいくつも組み合わさった人形がドスドスと重い音を立てて走りつつ、腕に相当する部分を高々と振り上げる。誰がどう見てもゴーレムが打ち下ろす形で殴りつける動作である。

マシューは膝を軽く曲げてどの方向にでも動ける準備を整えたまま、まだ回避するなと己に言い聞かせた。焦って早すぎる段階で動いても体力を浪費してしまうし、遅すぎればもちろん打撃を受けてしまう。回避とはタイミングと方向が何よりも大事なのだと文字通り痛い程思い知らされていた故の判断だった。

やけに長く感じる刹那の後、ゴーレムは不格好だが強力なパンチを放ち。

「やっ!」

マシューは下がるのではなく懐に飛び込む事でその一撃を回避し、ほぼ同時に左腕につけた丸盾越しに己の体をぶつけ。

「ああっ!!」

右手に持った青銅の剣をゴーレムの胸部に突き刺した。

ゴーレムはただ手あたり次第に攻撃するよりも、内部に埋め込まれた核を破壊した方がはるかに早く倒せる。問題はその核もそう簡単に壊せる程脆い訳ではない事。

「くそっ!」

手応えが浅いと感じた瞬間、マシューは剣を抜きながら後ろに跳んで反撃をかわした。回避は完全に間に合った訳ではなくゴーレムの蹴りが彼の身体をかすめていたが、身にまとった皮鎧がダメージをただ痛いだけで済む程度に軽減してくれた。

さっさともう一撃を入れてさっさと倒してしまいたいと言う衝動が胸の中から湧き上がる。しかしマシューは焦りを堪え、間合いを調整しつつ自分の息が整うのを待つ。同じ戦い方を二度連ねる愚を良く知っているからである。

これが齢わずか10のマシューの戦いぶりだった。彼は既に大人の雑兵顔負けの巧みな立ち回りが出来る様になっていた。

もちろんマシューとて誰にも習わずにこうなれた訳ではなく、10歳になってからほぼ毎日戦闘訓練を課された為にここまで学習したのである。当初彼は恐れをなし逃げ回ろうとしたが、行き止まりが少なくない日替わりの迷宮の中で逃げ切るのは不可能だった。それならいっそ殺してくれと無抵抗になっても、散々苦痛を与えられた末に回復魔法で傷を無かった事にされてしまう。

苦痛を避けたかったら戦って勝つしかないと言う奴隷剣闘士の様な扱いを受ければ、どんなに嫌でも強くなる以外の選択肢はなくなる。こうしてマシューは与えられた粗末な装備を使いこなす事を覚え、敵の動きを読む事を覚え、自分はどう動けば良いかを覚えたのだった。

「おっと……」

次にゴーレムが取って来た手は戦闘の余波で生じた瓦礫を投げつけてくると言う原始的な投擲攻撃だった。マシューは回避運動と盾での防御を併用しつつ、憎たらしいゴーレムとの駆け引きに意識を集中させる。

マシューは昔読んだ冒険譚でゴーレムと言う物は単純な動きを繰り返すだけだと思っていたが、このゴーレムはそうではなかった。

「消極的になりすぎるなと言っただろう。相手が奥の手を持っているのなら、使わせないのが一番なんだぞ」

「分かってるよ!うるさいな!」

このゴーレムは誰かが遠隔操作しているらしく、マシューの動きに対応して柔軟な戦い方をしてくるし、声を発して戦闘指南までしてくる。実は淫魔に奴隷化された元冒険者の男が操っていると言うのがカラクリだが、当然ながらそんな事情はマシューには知らされておらず、どこかの誰かに無理やり教育されていると言う不快感を与えられるだけである。

間合いの調節、スタミナの管理、周辺の地形の利用法、そして何よりも読み合いと騙し合い。教官役の教えは確かで、マシューは実戦経験でしか得られない知識を毎日叩きこまれ、並の大人よりもはるかに強くなっていた。負傷と治癒を繰り返した結果痛みを恐れぬ勇気まで身についていた為、メンタルも新米冒険者や戦場に出た事がない新兵などよりはるかに強靭になっている。

「盾もちゃんと活用しろ。力で負けていても使い方次第で相手の攻撃を防ぐだけでなく、隙をさらさせる事すら可能なんだ」

「ああっ、もう!」

最初は剣など力任せに振るだけで、切れ味など一切発揮できなかった。最初は盾を受け止める為だけに使い、体格差で押し負けるばかりだった。最初は比較的制約の薄い皮鎧でも動き方が分からず、着ていない方がまだマシだった。

「このっ!」

今のマシューは大して鋭くもない青銅の剣でゴーレムの手首から先を切り飛ばす事も出来る。

「つうっ!」

今のマシューは小さな丸盾でゴーレムの拳を上から殴りつけて攻撃を地面にそらす事も出来る。

「……うぉおおおっ!」

今のマシューは割れた床の破片程度なら皮鎧が防げると信じて反撃の為に飛び込む事も出来る。

「壊れろ!壊れろよぉおお!」

マシューは自分が強く上手くなったのを理解しており、それが腹立たしかった。最初は絶対に勝てなかったゴーレムを今では大した傷もなく倒せてしまうのが誇らしいのではなく悔しかった。

「はあっ……はあっ……」

再び核を突き刺されたゴーレムは今度こそガラガラと崩れ、二度と動かなくなった。それと同時にあの謎の人物の声も消え、お菓子の城の中は彼の荒い息以外は静寂に満ちる。

達成感はなかった。今日はもう痛い思いをしないで済む、ただそれだけだった。

「ふー……」

近くにあったカーテンで汗をぬぐう時、マシューはいつも思う。なぜわざわざ自分をこんな形で鍛えているのだろうと言う、答えの出て来ない疑問である。

マシューは自分が勇者となるべく生まれてきたなどとは知らないし、ロズリーヌも伝えてなどいない。どんな男の子でもそうある様に彼は童話や冒険譚で胸を高鳴らせ、自分も英雄になる事を夢見たりはしたが、自分がただの子供のはずと言う常識もきちんと持っていた。

彼の想像する英雄や勇者は光り輝く鎧を身にまとい、世界一の名剣を振るう立派な大人である。いずれはそうなりたいと思った所で自分がそうなった姿を想像できる訳ではなく、ましてや自分は毎日毎日粗末な装備で醜いゴーレムと戦っている虜囚であると言う現実を忘れられる訳がない。

同様にマシューはロズリーヌが魔王その人である等とは発想すらしなかった。彼の知っているロズリーヌは美しく妖しい魔族であり、なぜか自分の母親を自称する上に彼を赤子呼ばわりし、母乳と愛撫を強制的に与えてくる意味不明な存在である。乳魔と言う種族など知らず基本的な性知識も持っていない彼には彼女の行動原理など理解も推察もできない。

「はあ……」

考えれば考える程訳が分からなくなり、自分の事も彼女の事も謎にしか思えなくなる。なぜ自分を監禁するだけでなくここまで手間暇をかけて育成するのか、ロズリーヌはどんな立場の者で自分に何をさせるつもりなのか、いくら考えても頭が痛くなる以外の結果は得られない。

そうなればマシューはたった一つ、明確に分かる事にすがるしかない。

「……あきらめないぞ」

ここから脱出し、故郷に帰る事。これだけは理不尽で理解不能な日々でも忘れた事はない。

ロズリーヌが何を企んでいようとそれが彼の喜ぶ事である訳がない。どんな形で彼を利用するつもりなのかは分からなくても、魔族に利用などされたくないのは間違いない。ならばいつの日か復讐する為にもここから脱出するしかない。

こうやってマシューは決意を固め直し、脱出の為にお菓子の城からの出口を探す。これが最近の彼のゴーレムを倒した後の日課である。

「……くそっ!また訳が分からなくなった……」

しかし相変わらず通路も部屋も障害物も段差も毎日変わり続けると言う狂った構造である迷宮は攻略不能だった。マシューも本当は出口などないのではと薄々気付きつつあるものの、それを認めてしまったら全てを諦めるしかないのでたださ迷い続けるしかない。

「くすっ。今日も頑張ったのね」

「……っ!!」

そして日が暮れた頃にロズリーヌが現れ、冒険が終わってしまうのも彼の日課である。

見惚れるな。恥ずかしがるな。睨め。敵意をぶつけろ。ロズリーヌが登場した時、マシューは常に己にこう命じる。

「あ、あう……」

そしてマシューはいつも敗北し、頬を赤く染めて敵意には程遠い呆けた表情になってしまう。

4年間毎日見慣れている相手のはずなのに、ロズリーヌの美貌はいささかの慣れや飽きを許してくれなかった。比較したらアメジストがただのゴミに見えそうなつやつやの長髪も、触れたらシルクよりも滑らかだと知っている肌も、芸術家が見たら己の才能の無さを嘆きそうになる顔の諸々のパーツも、何もかもが美しすぎるのである。

ただの美しさだけなら、もしかしたら耐性をつける事は可能だったかも知れない。しかしそこに人間の美女では到達出来なさそうな桁の色気と、種族ゆえの魔性の慈愛が混ぜ合わされているとなると、マシューの魅了は日に日に深まるばかりである。どんなに努力しても冷めない初恋の情熱で胸が高鳴るのは避けられず、どんなに念じても恋しい胸元を見ずには居られない。

これでロズリーヌが見て見ぬフリをしてくれるのならまだ救いはあるが、当然ながらそんな慈悲はかけてくれない。

「ママの為に頑張ってくれて、嬉しいわ」

「……お前なんかの、為じゃ……」

「無理はしなくて良いのよ。ママが迎えに来てくれて嬉しいよ~、ってお顔に書いてあるもの」

「く、ぅうう……」

睨みつけようとしても目に力が入らず潤んだ瞳で愛情を求めてしまうのも、怒りや恨みをぶつけようとしても恥ずかしがりながらぼそぼそと喋る事しかできないのも、ロズリーヌには一目瞭然である。そんな醜態を嬉しそうに指摘されれば反論の言葉すら思い浮かぶ訳がなく、せめてもの思いで顔をそらそうとしても胸見たさにチラチラと視線を戻してしまう。

「それに……おちんちんは今日もぱんぱんでしょ?おっぱいちょうだい、白いお漏らしさせてちょうだい、ってママに訴えてるわよ?」

「………………」

一番致命的なのは毎回勃起してしまい、そのせいで自分の感情すら信じられなくなっていく事である。精液と言う単語すら知らないマシューにこの謎の現象が精神とは別の生理現象だと割り切れるはずもなく、ロズリーヌの言葉を否定するのが不可能になっている。せめて性欲を自己処理できれば何かが変わったかも知れないが、そんな性知識を身に着ける機会などここにはない。

「さ、今日も赤ちゃんらしく、大好きなママのおっぱいをちゅーちゅーしなさい」

「!!」

ロズリーヌがドレスの胸元を妖艶にずらし、片乳をさらけだすとそれだけでマシューの全身が歓喜に震えだす。あの宝石にも勝る乳首からあの素晴らしすぎる母乳が出てくると言う予感だけで、身体だけでなく精神も幸福な毒に酔わされて痺れてしまう。

「今日も痛かったでしょう。今日も辛かったでしょう。でも、今日も頑張れたでしょう?大好きなママの為に」

「……う、ぅうう……!」

「あなたはえらいえらい、良い子の赤ちゃんよ。だからおっぱいを貰えるの」

「あぁ、あぁ……!」

マシューに授乳に応じないと言う選択肢はない。身体を切り刻まれる様な苦悩に耐えて拒んだとしても、その日の夜間と翌日の昼間に地獄の苦しみを味わい、翌日の夜に餓鬼の様にむしゃぶりつく羽目になるだけ。無意味だと分かっている禁断症状を耐えられる意志力などなかった。

これはただの栄養補給。これしか与えられていないのだから仕方ない。今日もマシューはそう言い訳して見ているだけで達してしまいそうな乳首にすがりつき。

「んちゅっ……ぅううううんんんん~~~!!」

次の瞬間から身悶えしてしまいそうな程の多幸感に揺さぶられ、歓喜の涙を流した。

「よしよし。良いのよ、たっぷり飲むの。良い子良い子」

「んっ、んっ!んっ!」

不可思議な弾力で構成された乳首を舌と唇で味わうだけで天国なのに、湧き出てくる母乳は一滴舐めるだけであらゆる苦しみと不幸が吹っ飛んでしまう。更に顔面で感じる乳房の感触とロズリーヌの巧み過ぎる愛撫が添えられ、赤子の頃の原初の幸福感がマシューの心の中を埋め尽くしていく。

幸せで幸せでたまらない。気持ち良くて気持ちよくて仕方がない。マシューがどんなに罪悪感と自己嫌悪にすがろうとしても、甘くて優しい現実からは逃れられない。

「ママのおっぱいを飲んでいれば、ず~っとママの赤ちゃんで居られるからね。ふふふ」

カレンダーもないので正確な年月の進み方は把握していないが、それでも自分がもう赤子には程遠い年齢なのは自覚している。赤ちゃんプレイなどと言う概念が分かるはずもないが、意味不明ながら異常でおかしい事をされている事も察している。

「んー……ちゅうう……ん!ん!」

それでもマシューはこの退廃的な母性愛に逆らえない。苦悩している理性とは裏腹に幸せな熱がペニスに溜まっていき、爆発の瞬間をうっとりしながら待つだけになってしまう。

「お漏らししそうなのね。じゃあ、今日も大好きなママの為に、ぴゅっぴゅ~」

「んん~~~~~っ……!」

授乳が始まってからわずか1分後、マシューはいつもの様に射精させられた。いつもの様に腰が抜けそうな程気持ち良くて、いつもの様に心が蕩けてしまいそうな程満ち足りて、いつもの様に敗北感が雪の様に積もり重なっていく絶頂だった。

「出たわね。ちゃんとお漏らしも上手になっていて、えらいえらい。それだけママの事が好きで好きでたまらないのね」

「……ぷ、はっ……ち、がう……すき、なんか、じゃない……」

マシューが心地よく朦朧としている所にロズリーヌが自分と彼の絆を強調するのもいつもの事。絶頂直後の心が丸裸になった瞬間は人間同士の愛のささやきですら精神に影響を与えうるのだから、乳魔である彼女がこのタイミングを利用しない訳がない。

今日も負けてしまった。今日もこのままベッドに連れ戻され、授乳やぱふぱふを何回かされて、あの白いおしっこを出させられて寝かしつけられてしまう。マシューは温かな幸福感と苦々しい自己嫌悪に挟まれながら、いつもの様に一日が終わるのを待った。

だが今日はいつもとは違った。

「ん……ぺろっ……」

「えっ!!?」

今日はロズリーヌは彼の下着に手をつっこみ、指にからみついた白い粘液を舌で舐めたのだった。

「き、きたないよ!?それ、おしっこだよ!?」

マシューは反射的に叫んでしまい。

「あら、ママの事を心配してくれたのね?優しい優しい、良い子だこと」

「……!!?ち、ちがうっ、ちがうっ!!心配なんかしてないっ!」

直後にショックを受けた。いくら憎んでも憎み足りないはずのロズリーヌの身を案じてしまった自分が信じられなかった。彼の自我にまた一つヒビが入った瞬間だった。

「ふふふ……」

ロズリーヌは上機嫌だった。精神面の仕上がりは今の様子からして順調と言える。フェロモンや性技で壊す様な真似をせず、時間をかけて境遇と言動で少しずつ調教していった結果、あれ程反抗心に満ちていたマシューが己の意志で彼女に惹かれつつあるのは楽しくてたまらなかった。

そして肉体面でもマシューは彼女の期待に応えるどころかそれ以上の結果を出してくれていた。子供とは到底思えない戦闘力だけでなく、精の量と質も彼女を喜ばせるのに十分となりつつある。淫魔の女王たる彼女は優れた人間の精や命を沢山吸ってきたので、そんな彼女を満足させると言うのは一種の偉業と言って良い。

ロズリーヌの母乳はマシューにとって唯一の水分であり栄養源である。同時に彼は授乳される度に発情を強いられ、依存させられ、魅了を深められていた。ここまでは彼自身も把握していたが、そこから更に彼が理解していない効果もあった。

「ああ、おいしい……マシューの白いおしっこは、ママが大好きって気持ちがこもっていて、とってもおいしいわ」

「………………」

それはマシューの肉体と精神の改造だった。身体能力としてはただ単に健やかに育っているだけだが、精液は早すぎる精通の後にいくつかのおぞましい変化を遂げていた。

第一に、マシューの精液は淫魔にとってはたまらない美味となっていた。元々優れた人間程淫魔にとって素晴らしいエネルギー源となるのだが、今の彼は最高の交配によって生まれた最高の乳牛を淫魔の好みに合わせて育成した様な存在。ロズリーヌはマシューの精液をいくつか保管し、手柄を立てた淫魔に報奨として与えている程だった。

第二に、そんな最高の精が大量に生産できる様にもなっていた。マシューには普通の人間は一日に何度も射精できる物ではないと言う知識などなく、自分が大量に射精している事をおかしいとも思っていなかったが、淫魔にとっては並の人間と比べて都合が良すぎる生き物なのは言うまでもない。

第三に、その質と量の代償としてマシューは種なしになっていた。もしマシューがこの先人間の女の膣に精を放つ機会があったとしても、彼の子が宿される確率はゼロである。これもまた勇者の二世など作りたくないロズリーヌにはメリットでしかない。

「なんで、そんなのが、おいしいの……」

「ふふふ。そういう物なのよ」

そしてロズリーヌの母乳はマシューの精神面にも依存症や魅了だけにはとどまらない悪影響を与えている。長年の摂取によってマシューは人間が本来持っているはずの魅了への抵抗力を完全に失っており、ロズリーヌがその気になれば一秒とかからず操り人形に出来る状態なのである。

「ママのおっぱいはあなたには美味しいもの。あなたのおしっこはママには美味しいもの。そういう物なのよ」

「………………」

マシューはロズリーヌ以外の乳魔と出会う機会などなかったが、もしそんな事があればどんな雑魚乳魔であったとしても勝ち目はゼロに近い。ロズリーヌには遠く及ばない質のフェロモンでも浴びせられただけで虜になり、何でも言う事を聞く様になってしまうだろう。理解していようとなかろうと、サキュバスの性奴隷になるとはそういう事である。

後はじっくりと屈服を自覚させるだけ。

「おいしいおしっこを出せる様になったご褒美に、今日はもっとおっぱいをあげるわ」

「えっ……?」

ロズリーヌは調教を新段階に進める事にした。それはマシューにとっては自分の心の中をまた一段ミルク色に塗りつぶされる行為だった。

続く言葉はマシューに己の耳と彼女の正気を疑わせる物だった。

「今日はお口だけじゃなくて、耳からおっぱいを飲ませてあげる」

ロズリーヌは口ではなく耳に授乳すると宣言した。

「……は、はぁ!?」

当初マシューは自分が何か聞き間違えたのかと思ったが、ロズリーヌは確かにそう言ったのだった。

「え?え?み、耳……?」

「そうよ。耳におっぱいを注いであげる」

「な、な、なんでそんな事!?」

マシューは目を白黒させ、狂気の沙汰にしか聞こえない行為を阻もうとしたが、目の前で輝き続ける乳首に逆らう事は出来なかった。逃げようと思っても脚は動いてくれず、ロズリーヌが彼の横に立っても首の向きを変える事すら出来なかった。

「くすっ。すぐに分かるわ……はい、入れるわよ」

「んあっ……!?」

あれよあれよと言う間にマシューは右耳にぷるぷるの乳首を差し込まれてしまい。

「ぷしゅ~~~」

「……に、ぁああっ!?」

知らなくて良かった新世界を知ってしまった。

マシューの性知識は皆無に近い。ロズリーヌが吹き込んだデタラメしか知らないからである。性体験その物もロズリーヌがしてくれた事しか知らず、キスも唇か顔にされる物としか認識していない為、耳とその中を舐められた事もない。

「ああ、ああいぅあう!?」

そんな無知無垢の状態で強大な乳魔の母乳と言う劇薬が流し込まれては、対応出来る訳がなかった。

性感帯だとは夢にも思っていなかった耳の内部が母乳の接触と浸透によって一瞬にして開発され、じんじんと痺れる性の波動がやまびこの様に響き渡る。今まではペニスでしか感じた事のなかった熱くて溶けそうな感覚が脳にとても近い場所で爆発し、狂いそうなのに狂えない状態に囚われてしまう。

「な、な、なにいい、これえええっ!?あああっ、あっあっ!」

「ママのおっぱいよ、もちろん。どんどん飲ませてあげるからね」

不幸にもマシューはこれが快感だと言う事が理解できてしまった。もし出会った頃にこんな事をされていたら意味不明の度合いが強すぎて気持ちいいと言う感情が追いつかなかっただろうが、ロズリーヌの母乳に身体を馴染まされた上に絶頂させられ続けた4年間が彼の快楽の許容量を上げていた。

「ママのおっぱいをごくごくすると気持ちいい。当たり前の事でしょう?」

「ひぁあああああ~~~っ!!?」

マシューは授乳されて飲まされるばかりだったが、元々乳魔の母乳はそれ以外の用途でも力を発揮できる代物。霧の様に吹きかければ匂いだけで恍惚を誘えるし、肌に塗り付ければ感度を上げる媚薬にもなる。適切なやり方ならキスの刺激でも快感を与えられる耳となれば格好の餌食である。

「ああ、あうぅあひ、ふぇえあ……」

「頭の中がとろとろしてきたでしょう?ママのおっぱいのお陰よ」

反響と増幅を繰り返していく性感の波に揺さぶられ、普段は意識などしていない耳の内部の肌がうるさい程に快楽を訴え、いつしかマシューは脳が柔らかく煮込まれて溶けていく幻を想像していた。頭か心か魂か区別できない自分の内部が溶かされ、あふれ出る母乳と一緒に外に流されていく気がしてならなかった。

そして流されて失う度に、代わりに新しい物が与えられた。

「今のあなた、とっても可愛いお顔よ。さすがママの赤ちゃんだわ」

「……ひゃううあ、ああああ、ひぃい……」

いつしかマシューにはロズリーヌの声が今までにない程美しく聞こえていた。元々彼女が美声の持ち主であるのは言うまでもないし、計算され尽くした声音で慈愛と色気を込めているのも常だった。しかし今ではそれがこれまで以上にくっきりと感じ取れる様になっていた。

これはもちろん、耳の中を物理的に魅了されたせいである。鼓膜も含めて母乳に浸されたマシューの耳はロズリーヌの声と言う刺激に敏感になっており、今までは認識できなかった物を認識できる様になっていた。

「ひゃめ、て……なにも、言わない、でぇえええ……」

「くすっ。だあめ。ママの赤ちゃんは、大好きなママの声を聞いて育つ物よ。おっぱいをあげる時は沢山よしよししてあげないとね」

「ああああぁ~!」

無論マシューにはそんな理屈など分からない。彼に分かるのはロズリーヌの声が初めて聴いたかと錯覚する程美しくなった事、そして彼女にささやかれる度に欲しくないはずの多幸感と安らぎに呑み込まれていく事である。とっくに勃起し直しているペニスがまた破裂しそうになっている事すらこの感情の大波の前ではささいな事だった。

「分かって来たでしょう?ママがどれだけあなたが大好きなのか。あなたがどれだけママが大好きなのか」

「ち、が、ぁあああ……」

「あなたはこうやってママに気持ちよくされる為に生まれてきたのよ。ママの為に生まれてきて、ママの為に生きるのよ」

「あふぁあああ……ひぃいいい……」

「ママの良い子だから幸せ。ママは毎日可愛がってくれる。だからずっとママの赤ちゃん。ママの言う事を良く聞けるえらいえらい赤ちゃん」

「あっ……あっ……」

ここぞとばかりにロズリーヌが勝手な事をささやいてきても、口先だけの抵抗すらままならない。いつもは少しは反発できるはずなのに、喜び続けている耳に流れ込んでくる言葉が正しくて自然に思えてしまう。

「や……だ……」

マシューはそれでも抗おうとした。こんな物に騙されるな、と官能と幸福感の津波を押し返そうとした。

「ぁ……ぁ……」

その結果彼が得られたのは二度目の射精だった。押し返そうとした大波は彼をあっさりと呑み込み、戻って来られない大海原に沈めたのだった。マシューにはすがれるワラすらなく、力無く精液を垂れ流しながら陶酔の海に溺れるだけだった。

「上手、上手、おもらし上手。それでこそママの赤ちゃんよ」

まぶたが重くなるだけで嬉しくなり、力無く目を閉じてしまうと暗闇の中でロズリーヌの声が響いてくる。それだけで途方もない安心感に包まれ、もっとささやかれたいと思ってしまう。

「このままベッドに連れて行ってあげる。うとうとしていて良いからね」

彼女の声と言葉におかしくされているのはまだ分かるのに、それを拒む気持ちが一かけらも湧いてこない。このまま彼女の声を聞きながら眠りにつくのが至上の幸せにしか思えない。

「ベッドでもう片方の耳にもたっぷり飲ませてあげる。これからずっと、ママの声が大好きになれる様にね」

きっと明日からはずっと耳が魅了されたままになるのだろう。呪いの様にロズリーヌの声が愛しくてたまらなくなり、彼女の声を聞きたい欲望が二度と消せなくなるのだろう。それはすなわち、ますます彼女に逆らえなくなる事を意味する。

それはとても素晴らしい事の様に思えた。明日が楽しみでたまらなかった。

「はい、到着。おねんねしてても良いからね。スヤスヤしている間におっぱいをあげるわ」

マシューは自分に絶望しながら意識を失った。淫らで心地よすぎる眠りの渦の中で、彼の自由になる感情はそれだけだった。

望もうと望むまいと月日は容赦なく流れ、マシューは12歳になっていた。ただし彼が12歳と言えるのは外見だけで、戦闘能力は既に一人前の冒険者としてやっていけるレベルになっていた。

「ほっ!はっ!」

もはや加減されたゴーレム程度では相手にならなくなったので、彼は毎日武装したスケルトンや飢えた猛獣などと戦う羽目になっていた。これらは遠隔操作されている訳ではないので、マシューの力が足りなければ殺されてしまう危険性は十分にある。実は念の為に回復魔法を使える魔族が監視していたが、それでも事故の余地はゼロではない。

しかしマシューの力は足りていた為、結局は何の問題もなかった。

「このっ!」

ある時はスケルトンの集団を狭い一本道に誘い込んでから一体ずつ切り崩し、見事殲滅してみせた。

「……よし」

ある時は障害物と段差を利用して身を隠し、遠距離から矢を射る事で飢えた虎を仕留めてみせた。

「……走れ、炎の閃光よ!」

ある時は囲まれて一対多の戦いを強いられたが、魔法の炎による範囲攻撃で窮地を切り抜けてみせた。

人間の常識で言えばあまりにも非常識な力量を持った子供。しかし彼が天賦の才を持つ勇者となるべく生まれたと知っていれば、そしてひたすら鍛えて戦うだけの日々を過ごしていたのを見ていれば、誰もが当然だと納得するだろう。

「……あ。この魔導書は初めて見るな」

このいびつな英才教育は次のステージに進んでいた。マシューは探索と戦闘の褒美として装備や道具を得られる様になっており、時折秘薬や魔導書の類も与えられていた。

「……回復魔法か。覚えておいた方が良いな」

もちろん彼とて全てをいきなり習得できた訳ではなく、最初は苦労の連続だった。そもそも6歳の頃に拉致監禁された彼は読み書きも初歩しか出来なかったので、まずは知っている単語から他の単語の意味を推測すると言う気の遠くなる様な作業から始めねばならなかった。

「……こうかな……いや、こうかな?」

それでもマシューは試行錯誤を繰り返し、時間をかけて一つ一つ魔法を独学で習得していった。それは端的に言って偉業と表現できる実績だったが、はたして何が動機となったのかは彼にも分からない。

探索と戦闘の繰り返しで疲れていて、ただの勉強でも落ち着けたからなのか。幸い才能があったお陰で成功体験が励みとなったのか。いつの日かここから脱出した時必ず役に立つと確信していたからなのか。

マシューはこれらのいずれかが理由だと思いたかった。

「今日も頑張っているわね。ふふふ」

「あっ……」

「聞いたわよ?また新しい魔法を覚えたそうね。ママも誇らしいわ」

「………………」

夕方になるとやってくるロズリーヌが褒めてくれるのが嬉しい。それだけは理由として受け入れたくなかった。

「今日はスケルトン10体に加え、虎とライオンまで入れておいたのに、お昼前に全部倒しちゃったのね。あなたは本当に頑張り屋さんだわ」

「……別に、お前の為にやった訳、じゃ……」

「くすっ。口だけ素直じゃなくても、お顔がニコニコしていたら丸分かりよ?」

「!?……し、してない!ニコニコなんかしてない!」

マシューには日中の探索よりも戦闘よりも、このロズリーヌがやってくる時間が一番恐ろしかった。

「そうなの?じゃあどうして笑顔になっていたのかしら?」

「……や、やっと一日が、終わったからだよ。こんな所で、毎日毎日戦わせやがって……」

「ああ、一日の終わりは嬉しいわよね。ママが迎えに来てくれて、ママがおっぱいをくれるものね」

「ち……ちがっ……!」

ロズリーヌと会う度に、彼女が優しくしてくる度に、マシューは自分が自分でなくなる恐怖から逃げられなくなる。どんな言い訳を連ねようと、どんな理屈を考えようと、自分の心が信じられなくなる。

「でも、一日の最中も楽しいでしょう?毎日ママの為に頑張って、ママの為に強くなれるんだもの」

「……だ、だから、お前の、為じゃ……」

「赤ちゃんが楽しく遊んでいて、ママも嬉しいわ。本当に可愛いんだから、もう」

「………………」

彼女と話していると、口先だけの弱々しい否定すら長持ちしない。彼女が正しくて自分が間違っている気がしてしまうからである。

ここの生活が楽しい訳がない。満足している訳がない。そんな馬鹿な事はあり得ない。数年前はそれが揺るぎない真実だったはずなのに、今やマシューは本当にそうなのかと自分に問わずは居られなかった。

最初は怖かった。最初は痛かった。だが戦う事は段々楽になっていき、強くなる度に充実感を得ていたのは最早否定できない。

力と知識を得るのはあくまでも脱出とその後の為の手段に過ぎない。それが本当なら、未だにこの城の出口に一向に近づけていないのに焦りを感じないのはなぜだろう?

別にずっとここに居ても構わない。もしかして、自分はそう思ってしまっているのか?

「………………」

考えれば考える程怖くなるのに考えるのをやめられない。怖くて怖くてロズリーヌに言い返す事すらままならない。これがマシューの心理となっていた。

ロズリーヌはこれをきちんと把握していた。元々淫魔は感情に敏感な種族であり、自分が誘惑した人間の心境の理解は持っていて当然の技術である。ましてや6年間“我が子”として“育てた”マシューは彼女自身が書いた本同然に内面を知りつくしている。

そろそろトドメを刺してあげよう。ロズリーヌはそう決め、にっこりと笑い。

「この調子で強くなって、身体だけ大人になったら、ママの敵と戦ってね」

マシューのヒビだらけの自我にクサビを打ち込んだ。

「………………!!」

それはマシューが求めていた答えの一部だった。

マシューは自分が年齢からは考えられない程異常に強くなったと言う自覚はあった。そして恐らくもっともっと強くなれると言う自信もあった。

この力を世の為人の為に使えれば、と悔やんだ回数は数知れない。魔王軍と戦えばその内英雄になれるだろうと想像し、もしかしたら勇者の称号を得られるかも知れないと夢想した事すらあった。

実は彼は本当に勇者そのものであり、目の前の魔族こそ魔王そのもの。このバカげた皮肉にこそ気付きはしなかったが、マシューは遂に理解した。なぜロズリーヌがこんな手間暇をかけたのかも、彼をどう利用するつもりなのかも。

「……ふざけるなーーーっ!!!」

マシューは久しぶりに力を込めて絶叫した。迷いのない意志力を集められたのは本当に久しぶりだった。

「何が、何が、お前の為に戦えだ!お前の敵となんか戦ってやらない!魔族の言いなりになんてなってたまるかぁっ!!」

最近はもう消えてなくなってしまったのではないかと恐れていた敵意が間欠泉の様に噴き出てくる。怒りの力が身も心も熱くし、ロズリーヌに抱いていた数多の感情を焼き尽くしてくれる。

「お前たち魔族のせいで、お前たち魔族のせいで!」

もう我慢しない、叫ぶだけ叫んだらこの武器を振るってやろう。例え敵わなくても関係ない、利用されるくらいなら殺された方がマシだ。

「こんな所にずっと閉じ込めやがって……それに、それに、何がママだ、何が赤ちゃんだぁ!ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁああっ!!」

正義の怒りに身を任せる程爽快感をもたらす物はない。己の正義を疑いつつあったのなら尚の事。マシューは喉も枯れよと叫び続け、溜まりに溜まった不満を全て吐き出した。

そう、全て吐き出してしまった。ロズリーヌが望んだ通りに。

「はあっ、はあっ……!」

「くすっ……ふふふっ……」

彼の渾身の怒号はロズリーヌを全く怯ませなかった。それも当然である。

「なっ……何がおかしいんだ!」

彼女はただ微笑めば良かった。それだけでマシューの胸は怒りとは別の感情で高鳴ってしまい、その分怒りが減じてしまうのだから。

「おかしいわ。可愛いわ。だって赤ちゃんがただかんしゃくを起こしただけだもの……だから、よしよししてあげるわね」

「なっ……や、やめ、ろぉ……」

彼女はただマシューの頭を撫でれば良かった。それだけでマシューの意志力は霧散してしまい、敵意がどんどん薄まってしまう。

無論マシューとて一瞬で脱力した訳ではなく、決意を固く持とうとはした。しかしロズリーヌが彼の頭を撫でる度に安らぎが雨の様に降り注ぎ、堅牢に築いたはずの反抗心が砂の城のごとく溶けて崩れ落ちてしまい、先ほど自分が力いっぱい怒鳴っていた事が嘘の様に思えてしまう。

「ほらね?落ち着いてきたでしょう。ずーっと毎日毎日、大好きなママに可愛がってもらった物ね」

「う……う……」

「それが当たり前だものね。なくてはならない、あなたの幸せだもの」

「………………」

マシューは何も言い返せなくなった。それが悔しくてロズリーヌの顔から視線をそらしたが、それは大きな間違いだった。

「うっ……!」

ロズリーヌの顔の下にあるのはロズリーヌの上半身、すなわち胸。当たり前すぎる話である。

「………………」

無限の母乳と快楽、そして愛を与えてくれる二房の桃源郷。それがロズリーヌの乳房であり、マシューはどんな時でもこの胸を意識せずには居られない。考えない様にしても意識の片隅に残り続け、忘れようとしても忘れられる物ではない。

「ちょうど、ママのおっぱいみたいにね」

「!!」

「ママのおっぱいが欲しくて欲しくてたまらなくなってきたんでしょ?抱っこしてもらって、ちゅうちゅうさせてもらいたいのよね?」

「あ……あぅ……」

「だって、ママの赤ちゃんだものね。ママのおっぱいに甘える為に生まれてきたんだものね」

一秒一秒ごとに乳への渇望が激しくなり、身も心も自由にならなくなる。赤子呼ばわりされているのに悔しいとも思えず、むしろ母性への執着が許容され肯定される事が嬉しくなってしまう。

いつもの様に胸に甘えて、しゃぶって、白いおしっこを出させてもらいたい。それはとっても気持ち良くて幸せなんだから良いじゃないか。まだ彼女には勝てないのだから、明日また頑張れば大丈夫。

マシューの中で乳児の恰好をした悪魔がささやく。こんな欲望に屈してはいけないと叫ぶ理性はあまりにも弱くて頼りにならない。

「ねえ、マシュー。今あなたがどんなお顔をしているか、分かるわよね?鏡を見なくても分かるわよね?」

「……ううう」

今の自分はきっととてもだらしなく脱力した表情になっている。頬を緩めて物欲しそうな目でロズリーヌの胸を凝視しているに決まっている。そんな自分を見ずに済むのはせめてもの幸いか、それとも恥の上塗りか。

「と~っても可愛い、赤ちゃんのお顔よ。生まれたての赤ちゃんでもここまではおっぱい欲しいって表現できないわ」

「………………」

「乳離れなんて絶対にできない、ママのおっぱい以外何にも飲めない、永遠の赤ちゃん。生まれた時からず~っと、ず~っと、ママの赤ちゃんのまま」

「……あ、あう、あう」

「おしゃぶりを咥えさせて、おむつ以外裸んぼにしてあげたら、すっごく似合うでしょうね。ふふふ」

逃げ出したい。耳を塞ぎたい。しかしどちらも出来ない。

ロズリーヌに自分の無様さを事細かに描写される度に顔から火が出そうになるのに、彼女の声だからもっと聴きたくなってしまう。彼女の思い通りにされているのが、彼女の望む様に醜態をさらしているのが、怖いのに嬉しい。

「そういえば、もうあなたも12歳ね。そろそろ大人の仲間入りをする頃ね」

「う、ぐっ……!」

「だけどあなたは身体は大きくなっても、強くなっても、賢くなっても……ずっと、ずっと、ママの赤ちゃんのままね」

「や、やだ……」

「でも、それで良いのよ。何度でも言ってあげる。あなたはママの物として生まれてきたの。ママの良い子であり続けるのが当然なのよ」

「………………」

「だって、毎日大好きなママのおっぱいだけで育ってきたんだもの。毎日ママ大好きって白いおしっこし続けたんだもの。だから、それで良いのよ」

マシューはもう何も言葉が浮かばなかった。何もかもがロズリーヌの言う通りだった。

言われれば言われる程自覚してしまう。自分がどれだけ彼女に魅了され、依存しているかを。

この女は敵だ、憎い魔族だ。何度そう思い込もうとしても雪山の様に積み上がった恋慕の情を乗り越えられず、激情の灯火は一瞬で吹き消される。

何かがまだ魂の底でそれはおかしい、彼女は嘘をついていると叫んではいる。しかし6歳児の時点で教養と常識を止められたマシューには反論の術がない。理屈と言う柱に支えられていない感情の屋根はとっくに穴だらけとなっており、淫らな母性愛の嵐を防げるはずもない。

「これでもう6年ね……ママと暮らす様になってから」

「………………」

「最初の頃はあんなにイヤイヤを繰り返してたのに、今はたまーにご機嫌斜めになるだけ。それだけ大好きなママと過ごせる毎日が幸せになったと言う事よ。あなたは賢い赤ちゃんだから、分かるでしょう?」

「………………」

マシューは何か使える物を自分の中から探そうとした。何でも良いからロズリーヌを否定できる道具が欲しかった。

しかしいくら頭を働かせても、思い起こされるのはロズリーヌに愛された日常ばかり。キスも授乳も抱擁も愛撫も好きで好きでたまらないのが口先でも心の中でも否定できない。くじけそうになりながら迷宮探索と戦闘訓練を繰り返した思い出も、その先にあるご褒美を引き立てるスパイスにしかなっていない。

「う……う……」

母乳への渇望は際限なく膨らみ続け、喉も口内もカラカラに干からびている気がしてならない。痛い程に膨らんだペニスがジンジンとうずき、早くあの解放と昇天と堕落の時間が欲しいと泣き叫んでいる。現実から逃避したいのに、その努力自体が現実をまざまざと思い知らせて来る。

せめて胸から目をそらせれば、と死に物狂いで顔を上げてもそこにあるのはロズリーヌの優しすぎる笑顔である。

「ママも大好きよ。良い子になってくれたあなたが大好き。ママの物になってくれる程、好きで好きで仕方がなくなるわ」

「はぅ、ぅう……」

ロズリーヌは彼が彼女に魅了されているのを何度も思い知らせるのと同時に、自分の愛もふんだんに表明してくる。これが嘘だ演技だと言い張れるのならまだ救いはあるが、当然ながら彼女はそんな逃げ道など与えてくれない。

彼女は本当に彼の事を愛している。彼を支配し屈服させるのが大前提の人外の愛し方ではあるが、その愛には一片の嘘も偽りもない。マシューはこれを魂の髄まで分からされていた。

「いつまでも、いつまでも、ママが愛し続けてあげるわ。私の赤ちゃんなんだもの」

同じ事を繰り返される度に消えない初恋の衝撃で頭がぐらぐらと揺さぶられる。こんな物は愛ではないと己に言い聞かせても、自分は彼女の物になんかなりたくないと心の中で連呼しても、マシューの中で彼女の存在が無限大に大きくなり続けてしまう。

もはやロズリーヌこそがマシューにとっての世界だった。そしてロズリーヌはそれを彼に認めさせるべく、彼に呪いをかけ始める。

「だから……ママって呼んでちょうだい」

「……はっ?」

それは、言葉だけ聞けばただの背徳的なごっこ遊びにしか聞こえない台詞。

「もう分かったでしょ?ママが、あなたのママな事が。だから、これからはママって呼ぶのよ」

「なっ……なっ……」

されど、マシューにとってはこの6年間守り続けた大切な何かを壊して手放せと言う脅迫。

「マシュー。言ってごらんなさい」

「………………」

マシューはぶるりと震えた。

恐怖がかつてない程巨大化していた。活火山の噴火のごとく、破滅的な予感が押し寄せていた。この天変地異に呑み込まれたらもう助からないと本能的に分かった。

しかし思慕の念はそれ以上に膨大になっていた。

「あっ……あっ……」

間近で覗き込んでくるロズリーヌの瞳に意識が吸い込まれる。あまりにも偉大で寛大な存在が海よりも広く深い慈愛を生み出していた。自分はこの愛の海で泳ぎ続け、溺れ続け、漂い続けていた。

「マシュー」

「うぁああ……」

ただ名前を呼ばれるだけで胸が破裂しそうになる。この世でもっとも愛しい存在に愛し合おうと誘われていると実感するだけで、自分が彼女の物であるのはごく当たり前の真実にしか思えなくなる。

それでもマシューは戦った。

「ち、ちが、うぅ……」

あまりにも弱弱しく、迷いが九割を超えた情けない声で、無力な否定を試みた。

「ママじゃない……ママじゃない……」

目の前の存在と自分が母子である訳ではないと分かり切っているのに、それを信じる事ができない。息を吐くだけで自分がとんでもなく恥知らずで罪深い大ウソつきの様に思えてならない。

「僕は人間だぁ……魔族じゃないんだぁ……」

頭の中にも心の中にも敵意や怒りはもう残っていなかった。先ほど全て吐き出させられたのだから当然である。マシューは僅かに残っていた蓄えを全て使い果たしてしまったのだった。

「そういう事じゃないのよ、マシュー。そんな事はどうでも良いの。分かっているでしょう?」

「くっ、うっ……」

「あなたは大好きなママの赤ちゃん。ママに愛情たっぷりに育てられた。だから他には何も要らない。ただ、それだけなのよ」

「あっ、あっ、あっ……!」

ロズリーヌがこの世で一番愛しい。ロズリーヌは自分より大事な存在。

あってはならないはずの禁断の感情がごく自然に生えてきて、あっと言う間に大樹になり花を咲かせ実を結ぶ。心にがっちりと張られた根のせいで彼女以外の事が何一つ考えられない。自分が彼女に吸い上げられていくのに、苦痛どころか喜びしか生じない。

それでもマシューは戦った。

「ち……が……う!」

自分の一番奥底にある大事な大事な真実を伝家の宝刀として抜き放った。

「お前は、ママじゃない!ママの仇なんだぁっ!!」

力強いとは到底言えない、子供が助けを求めて泣く様な声だった。表情も泣き出す寸前で涙が目尻に浮かんでいた。

「お前がママだなんて……あり得ないんだーっ!!」

「……くすっ」

ロズリーヌは余裕たっぷりに目を細めた。こうも予想通りだと拍子抜けだと笑いたくもなったし、ここまで持ちこたえたマシューを褒めてあげたくもあった。

彼女には分かっていた。マシューが最後の切り札としているのは実の母への想いである事が。

ここに到るまでの淫蕩の日々は、全てこの仕上げの為の仕込み。今日のやり取りは調教の進度を確認し、狙い通りに彼の心の全てを手に入れられると確信する為の行為。

6年は彼女にとっても短い期間ではなかった。多忙な魔王が毎晩ここを訪れる時間を作るのも容易ではなかった。彼女の理想通りにマシューを育て上げるにはそれなりの準備と計算も必要だった。無理解な部下達に無理やり命じて手伝わせるのも一苦労だった。

だが、全てはたった今報われる。今日こそマシューは名実共に彼女の子となる。

「いいえ、私があなたの本当のママよ。他にあなたのママなんて居ないわよ」

「うそ、だぁ!うそだぁ!」

「じゃあ、本当のママってだあれ?」

ロズリーヌは最大限の母性を込め、自身の母乳の様に甘くて優しい声で問った。

「………………?」

マシューは答えられなかった。

「………………!!?」

最初の数秒間、マシューは凍り付いたかの様に動かなかった。一体何を聞かれたかも分からなかったし、なぜ自分が答えていないのかも理解できなかった。

「……えっ……?」

だが残酷な事に、彼の脳はなぜ答えていないのかを解析してしまった。

「なっ……なん、で……?」

マシューは思い出せなかった。確かに居たはずの実の母の事を。

「なに、なに、なに!?」

頭の中をひっくり返しても、心の中を隅々まで見渡しても、どこにも何もない。ロズリーヌではなかったはずの母の名前が、外見が、声が、まるで思い出せない。

「どうしたの?ねえ、本当のママって、だ、あ、れ?」

「ちょっ……ちょっと、待って……!」

いくら母親と言う存在をイメージしても、目の前に居る胸が大きすぎる魔族の事しか考えられない。彼女は自分の母ではないと言う認識が音を立てて崩れていき、自分の記憶に全く自信がなくなっていく。

「うそ……うそ……!?」

そんな馬鹿な、と頭が痛くなる程考えようとしてもロズリーヌ以外は何も出て来ない。何度己に問いかけても母の記憶はロズリーヌにしか結びつかない。

母の髪の毛の色は?ロズリーヌのしっとりと輝く紫髪はいつ見ても美しく、角度によってまっすぐにもふわふわにも見えるのが不思議だ。

母が着ていた服は?ロズリーヌは様々な豪華なドレスを着こなして登場するが、どれも胸を際立たせるデザインなのは共通している。

母はどんな外見をしている?ロズリーヌは巨大な乳房を中心に絶世の美女としか言いようがなく、見飽きる事などあり得ない。

母はどんな料理を作ってくれた?ロズリーヌの母乳の味はこの上なく良く知っている。彼女の母乳以外は吐き気がするゴミだ。

母と一緒に遊んだ記憶は?ロズリーヌは毎日キスをしてくれて、抱きしめてくれて、授乳しながら寝かしつけ、白いおしっこを何回もさせてくれる。

「あ……あ……あぁあああ……!?」

何を考えようと出てくるのはロズリーヌの存在だけ。母を思えば思う程彼女への欲望と愛情が高まり、なぜ彼女を拒んでいるのか分からなくなってしまう。意味不明な事を言って彼女を困らせているのでは、と言う罪悪感すら抱いてしまう。

それでもマシューは戦った。

「おちつけ、おちつけ、僕、おちつけ……!」

「あらあら……」

自分に向かって冷静になれと呼びかける姿はこっけい以外の何物でもなかったが、もはや恥などに構っていられなかった。自分がどんどん狂っていくと言う危機感が最後の砦だった。

ロズリーヌは彼がもがくのを見守ってくれた。彼の最後の砦も砂で出来た城どころか紙を組み合わせたハリボテに過ぎないと知っていたからである。

「僕は、僕は……!」

マシューは信用できなくなった記憶を一つ一つ手繰り、信用できる部分に辿り着こうとした。だがそれも無駄なあがきだった。

少し前まではゴーレムとしか戦えなかったのは覚えている。その前は日替わりの迷宮で困り果てていたのも覚えている。

ではその前に何があったのか?

「う……ぁあああああ!?」

ロズリーヌと初めて出会った時の事はくっきりと思い出せる。こんなに美しい存在が実在するなんてと驚き、妖精でも魔女でも王妃でもない魔族だと知って慄き、キスだけで屈服させられたのはしっかりと覚えている。

それより前は完全に消えていた。どこかからこのお菓子の城に連れて来られた瞬間までは覚えているのに、その前はどこから来たのかさっぱり思い出せなかった。

「そんなに困っちゃって……ママが手伝ってあげるわね。ママじゃなくてパパの事は思い出せるかしら?」

「パ……パ……?」

父親の事を聞かれても何一つ思い出せない。母親の時と違ってこの人じゃない、と浮かんでくるイメージすらない。父親と言う概念その物は知っているが、自分にそんな者が居た記憶がない。

「分からないの?じゃあ……人間だったらどこか、魔族の領土ではない場所で生まれたはずよね。どこで生まれ育ったか、言えるかしら?」

「……どこ……どこ……」

故郷の事を聞かれても何一つ変わらなかった。この城に来る前に居たはずのどこかは一体どこだったのか、名前も風景もさっぱり浮かんでこない。考えれば考える程自分は生まれてこの方この城から出た事がない気がする。

そして最後の質問が来て。

「ふふふ……ねえ、どうしてそんなに魔族が嫌いなの?」

「……えっ……?」

「あなたに魔族を恨む理由なんてない。そうよね?」

「………………」

マシューは頭の中がバラバラに砕け散った錯覚に囚われた。

何かがあったはずだった。絶対に魔族を許してはならない理由が、魔族を好きになるなどあり得なくなる原因があったはずだった。

しかし何もみつからなかった。なぜロズリーヌは敵だと自分に言い聞かせていたのか、どうしてもどうしても分からなかった。

何もない、何もない、何もない。

「ね?あなたはずっとここで、ママの赤ちゃんとして生きてきたのよ」

「うぁ……ああ……」

何もないから逆らえない。全てを失くした事に気付いた今、ロズリーヌの存在だけが唯一の救いに思えて拒絶できない。どうしてこうなったのか、と考える事すら出来ない。

マシューには知り得ない事だが、ロズリーヌは別に忘却の魔法をかけた訳でも暗示で記憶を操作した訳でもない。ただ単にここに来る前の6年間を彼女だけと過ごす6年間で上書きしただけだった。その気になれば人間でも出来る洗脳手段を魔王の財力と乳魔の魅力を活用して極端な形で実現しただけだった。

もしマシューが彼女の予想を上回って抵抗し続け、強固な自我を保ち続け、彼女を拒絶し続けた場合は彼の心を壊す形で洗脳するつもりではあった。手塩にかけて鍛え上げた彼が成人し、彼女を脅かし得る程の力を得た時に敵に回ったとしたら、この上なく愚かなリスクと損失でしかなくなるからである。

しかしその心配ももうなくなった。彼女の調教は完璧に成功した。

「ひっ……ひっ……!」

あったはずの足下の地面がなかった事に気付き、マシューの目から涙がこぼれ落ちる。何も信じられず何も持っていないと言う絶望の暗闇が四方八方から迫ってきて、狂気しか逃げ場がない様に思えてくる。

「泣かないで良いのよ」

ロズリーヌはそれを見計らって救いの手を差し伸べた。

「よし、よし」

「あっ……」

今までそうしてきた様に、ロズリーヌはマシューの頭を穏やかにゆっくりと撫でた。たったそれだけで虚無と言う名の怪物が彼の意識から遠ざかっていく。

「怖いの怖いの飛んでけ~。いやなのいやなの飛んでけ~」

「………………」

「何にも怖くないのよ。だって、大好きなママがここに居るでしょう?ママの言う事を聞いていれば、何の心配も要らないのよ」

「………………」

マシューはもう怒れなかった。赤子扱いされてもそれは屈辱とも異常とも思えず、もっと撫でて欲しくて仕方が無かった。

マシューはもう拒めなかった。いくら考えてもなぜ拒絶せねばならないのか分からないのなら、彼女が正しいと言う結論しか出なかった。

マシューはもう戦えなかった。

「赤ちゃんがつらい時は、これが一番ね」

「あっ……お、おっぱい……」

ロズリーヌが胸元の布を引っ張り乳房を盛大に揺らしながら放り出すと、魅惑の丸みが上下に踊るのを見ただけで悲しみなど忘れてしまった。あれ程苦しかった気持ち悪さが幻の様に消えてしまい、慣れ親しんだ乳児の幸福感が心を温めて満たしていく。

「そうよ、ママのおっぱい。赤ちゃんなんだから、いくらでも甘えて良いのよ」

「おっぱい……」

何もなかったと言うのはとてつもない勘違いだった。彼にはロズリーヌのおっぱいがあるのだから、他に何も要るはずがない。

誰も思い出せないと言うのはどうでも良い事だった。彼にはロズリーヌが居てくれるのだから、他の誰かと出会う必要もない。

巨大な膨らみの頂点にある至高の果実を見詰める度にマシューは愛欲に満たされていく。彼女の乳房がどれ程の喜びをもたらしてくれるかはもう十分に知っている。

「お顔、むにゅむにゅされたいでしょう?お乳、ちゅぱちゅぱしたいでしょう?」

「したい……したいよぉ……!」

後は抱かれて吸わされるだけ。それだけでマシューは忘却を受け入れてロズリーヌの物となっていただろう。しかし今日のロズリーヌは更に深く深く彼を閉じ込めるつもりだった。

「でもね、今日はもっと良い事をしてあげるわ」

「えっ……?」

「裸になって、そこに座りなさい。脚を大きく開いてね」

「………………?」

マシューはお預けをくらった事に面食らいつつも、言われた通りに脱衣して近くの段差に腰かけた。なぜそんな体勢を取らなければいけないのかはさっぱり分からなかったし、もっと良い事とは何なのか想像もつかなかった。

あるいはそれで良かったのかも知れない。もし彼にロズリーヌの意図を推測できる程の性知識があれば、興奮のあまり気絶していたかも知れない。

「そこでじっとしていなさい。ママがどれ程あなたを愛しているか、教えてあげる」

彼にとってペニスとはいつの間にか勝手に気持ちよくなり、勝手に白い粘液を出している物だった。ロズリーヌが膝立ちになって乳房を股間に近づけてきても、抱擁も授乳もしてくれないのかとがっかりするだけだった。

「ママのおっぱいでね」

「……ふ、ぁ?」

彼の決して大きくないペニスが、彼女の大きすぎる谷間の中に呑み込まれるまでは。

「あ……あ……あうぇえ?」

マシューには何一つ分からなかった。パイズリと言う単語も概念も知らなかったし、乳魔のそれがどれだけ莫大な快感を植え付けるかも知らなかった。ましてや魔王であり世界一の乳魔であるロズリーヌのパイズリなのだから、この世で望み得る最高のパイズリをいきなり体験してしまった事など理解できる訳がなかった。

「うぁ、ひゅ……あ?」

マシューに分かるのは、ペニスが今までとは桁違いの快楽を味わっている事。今まで直接的な刺激をされた事がない初心なペニスには、ロズリーヌの乳房の感触は劇物どころではなかった。

ロズリーヌはペニスを乳房の中に挟み込んだだけで、それ以上は何もしていなかった。ここで圧迫したり激しく揺さぶったりすればマシューはたちまち噴水のごとく射精し続け、快感を快感と認識する事も出来ないままショックで気絶していただろう。それでは母性も何もあった物ではないので、極限まで手加減していたのである。

「……な、に、こ、れ……?」

そして彼女の狙い通り、マシューは幸せすぎて声も顔も蕩かしていた。笑顔とも呆けともつかない快楽に乗っ取られた表情で、夢見心地なつぶやきを漏らすのが精一杯だった。

「ママのおっぱいで、おちんちんを抱っこしてあげたのよ。気持ちいいでしょう?」

「……うん……」

「こうしてあげると、ママの好き好きって気持ちがおっぱいからおちんちんに染み込んで、いつもよりずっと大好きな気持ちになりながら、白いお漏らしができるのよ」

「……はぁ、んん……」

相変わらずまともな性知識を与えられず、パイズリと言う単語すら教えてもらえず、マシューはロズリーヌのいびつな教育を鵜呑みにさせられる。性愛と親愛の区別もつけられないままこれこそが愛だと信じ込んでいく。

快楽のあまりにペニスが勝手に震えると、不動の乳肉から少しだけさざなみの様な弾力が返って来る。その柔らかすぎる振動はまるで揺り籠の中で揺られている様で、我慢など一切知らないのに快楽神経は極限まで開発されたペニスには丁度良かった。刺激と呼ぶには余りにも微弱で安穏すぎる感覚だったが、衰弱していた意志力を慰めるには最適だった。

「おちんちん、ママのおっぱいの中に隠れちゃったわね。いつもママのおっぱいに抱っこされながらお寝んねしてきたものね」

「ああ……ああ……」

くらくらしながら視線を上に向けてもロズリーヌの爆乳の上側が見えるだけで、挟み込まれているはずのペニスは影も形も見えない。それが彼女に守られている、彼女と共にあると言う実感を強めてくれて、泣きたくなる程嬉しくなる。

いつもこうだった。ロズリーヌの愛はどうやっても拒めなくて、必ず幸せにされ続けた。

「可愛い可愛い私の赤ちゃん。そろそろお漏らししちゃいそうね?」

徐々に絶頂が迫り、視界が白い闇に覆われ始めた時、ロズリーヌが微笑んできた。魔族どころか女神にしか見えない、光り輝く様な笑顔だった。

「う……う、ん……」

マシューもおずおずと微笑み返した。今まで快感に酔って表情を緩ませた事はあっても、好意を好意で返す為の笑顔を作った事はなかった。

「良いわよ、とろとろ~ってお漏らししちゃいなさい。ず~っとママの赤ちゃんで居られる様にね」

マシューはとうとう理解した。自分がどれ程ロズリーヌに恋焦がれているかを。

「……うぅううう……!」

マシューはとうとう絶頂を望んでしまった。流されるのではなく自らの意志で。

「気持ちよくなりなさい」

「あ、あぁあああ~……はぁああああぅうううう~~~……」

ペニスからゆっくりと精液が噴き上がり、とろとろと零れ落ちていく。乳肉によって粘液は外に出る事もなくペニスに塗り返され、閉じ込められた性感が反響を繰り返し、同時に何回も絶頂している気にさせる。

初めて心の底から望み、喜んだ射精はそれまでの物とは比べ物にならなかった。パイズリによる肉体の陥落と求愛による精神の堕落はあまりにも甘美すぎた。

「この気持ちよさをよく覚えておくのよ。あなたが良い子にしていれば、毎日だってしてあげるわ」

「あっ……あっ……これ、を、もっとぉ……?」

乳房に揉み解され、精液によって薄められた心の中で、何かが必死に叫んでいた。これはだめだ、こんなのおかしくなると。

「そうよ。今すぐもう一回されたいかしら?」

それはとっくのとうに役立たずになっていた理性の断末魔だったのかも知れない。

「……う、んっ!も、もっとぉ!」

マシューはそんなか細い声には耳を傾けなかった。それよりもロズリーヌの誘惑の方が比較にならない程大事だった。

「もっと……なあに?」

「もっと、もっと、してぇ!今の、してぇ!」

「くすっ。ちゃんとおねだりしてごらんなさい。ママのおっぱいで、おちんちんに、何をして欲しいの?」

「え、えっと……その……お、おっぱいで、おちんちん……抱っこして、ぇ!」

おねだりをしろと命じられても、少し迷っただけでそれに応じてしまった。今までとは違い自分の意志で彼女を求めているのには不安を感じたが、一度知ってしまった幸せはもう手放せなかった。

そしてロズリーヌは最後の仕上げに移った。

「良い子ね。おねだりも上手に出来て、とっても良い子だわ」

「……あうう……」

「だから、おっぱいに抱っこしたまま、おちんちんにキスしてあげる」

「!!」

ロズリーヌは乳房を少しだけ遠ざけて挟み方を浅くし、ペニスの先端だけが谷間の中から出る様にしてから唇を近づけた。

抱っこだけじゃなくて、キスまでしてもらえる。マシューは大喜びで胸を高鳴らせたが。

「だから……ママって呼んでちょうだい」

「……えっ」

ロズリーヌはもう一度呪いをかけた。つい数分前、マシューが血を吐く様な想いで跳ねのけた呪いだった。

「抱っこもキスもママの赤ちゃんだけの物なのよ。だから、ママって呼んでちょうだい」

マシューはもう戦えなかった。

「………………」

抱っことキスを同時にされればどれだけ気持ちいいのか想像すらつかない。分かるのは自分で望んで気持ちよくなった場合は無理やりされた時よりずっと幸せな事。

ロズリーヌに求められた通りにママと呼べばどうなるのか。彼女を母だと認めればどんな多幸感がやってくるのか。期待感が爆発的に膨らみ、欲望が制御できなくなっていく。

「………………」

しかし、最後の最後で恐怖は蘇った。ここを超えたらもう戻れなくなるのを魂が察知していた。

ロズリーヌは本当は自分の母親ではない。実の母の事を思い出せなくなっても、それだけは忘れていない。

母子でこんな淫らな関係になる訳がない。教養と常識がなくても、こんな事をされるのは異常だと言う感性は消えていない。

この一線を越えてしまったら、後で取り消す事は不可能になる。一度ロズリーヌを母と慕ってしまったら、二度とそれ以外の存在と認識出来なくなる。

「う、う、う……」

だが、なぜそれではいけないのか。なぜ彼女を拒まなくてはならないのか。マシューにはそれが分からない。

マシューはもう一度だけ頭と心をひっくり返して何かないか探してみた。すがれる物なら何でも良かった。ワラどころか泡にすら手を伸ばしたかった。

しかしどこを探してもあるのはロズリーヌの存在だけ。何を思い出そうとしてもロズリーヌとの記憶しかない。彼の感情と絆は全てロズリーヌにしか向けられていない。

「マシュー」

パニックに陥りそうになった時、ロズリーヌは彼の名を呼んだ。他の言葉は要らなかった。

マシューは見た。彼女の目を見た。彼女の胸を見た。

どこからどう見ても彼の母親その物だった。

「……ママ」

気が付けばポツリと一言つぶやいていた。

「あっ……」

それで世界その物が変わった。彼が生まれ変わった瞬間だった。

「良い子ね、とっても良い子」

彼の最愛の母は更に笑顔を輝かせてから。

「ん、ちゅううううっ」

亀頭に唇を当てて何かを吸い上げた。

「あ、あぁっ、マ、マ、ママぁああ~!」

彼女が吸い取ったのは精液だったのか、それともマシューの魂だったのか。もう何も分からなかった。

「ママ、ママッ、あああああ~……」

マシューは何かが永遠に失われた気がした。それはとてつもない解放感を味わわせてくれ、射精による浮遊感を引き立ててくれた。

「あ、あはっ、あはっ……」

マシューは笑った。マシューは泣いた。とてつもなく嬉しくて、なぜか少しだけ悲しかった。

「んん、ちゅっ。ふふふ、美味しかったわ」

「ママ、ママ、ママ……」

「ええ、ママはここよ。あなたの大好きなママよ」

「ママ……何だか、僕、変なの……嬉しいのに、なんだか、寒いの……」

「大丈夫よ、ママのおっぱいで温めてあげるから。たっぷりお漏らししたら、おっぱいをちゅうちゅうしながらスヤスヤしなさい。お寝んねできるまでママが一緒に居てあげるから、な~んにも怖くないのよ」

「……ママ……」

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