巨乳キャラあつめました 巨乳のキャラクターが登場する漫画や小説を集めたサイト

4話 許し

木々の間から差し込む陽光に瞼を焼かれ、目を覚ます。

「…………」

まどろみと覚醒の間をさまようぼんやりとした頭のまま辺りを見回す。
視界に入ってくるのは、すやすやと寝息を立てる男……吉弥といったか。

彼を視界に捉えた途端、頭のもやが一気に吹き飛び昨夜の蛮行が思い起こされる。

「……私は……なんてことを……っっ」

自分は奪われる側だと思っていた。奪われる人の痛みを知っているから、奪う側のやつらと同じようなひどいことなんてするわけがないと思っていた。奪う人間を軽蔑していた。

……でも、所詮は同じだったのだ。例えるなら、そう、オセロゲーム。
オセロゲームの盤上の石のように、人は誰だって奪う側にも奪われる側にもなる。

「はは…………」

乾いた笑いが自然とこぼれ、涙が頬を伝った。
私は外見だけでなく、心すらも醜い。
みすぼらしい自分のどす黒い気持ちを心の奥底に押し込めることで、自分を騙していただけ。

吉弥はまもなく目を覚ますだろう。
冷静に考えれば何の装備もなくペルドートの森にやってくるなんて、死ぬために来たに決まっているじゃないか。私と同じだ。
そんな傷つききってボロボロになった男の人にムチ打つような真似をするなんて。

私は、最低の中の最低。死ぬ程度のことではこの罪を償うことはできないだろう……。

……。
…………。
………………。

そんな私の思考がまとまることを待たずして、吉弥が目を覚ます。
彼からぶつけられるであろうありとあらゆる罵詈雑言に備え、私は身を固くする。
しかし彼は眠たそうに目をこすり、キョロキョロと見回して私を視界にとらえると、朗らかに微笑んだ。

「おはようございます、フェリシアさん」

とても軽やかな挨拶。まるで、これから二人でお散歩にでも出かけませんかとでも言い出しそうなくらいに。
……ここが死の森ペルドートで、昨夜の私の蛮行がなければだが。

「…………フェリシアさん?」

黙りこくった私に、こてんと首を傾げる吉弥。
私は、意を決して口を開く。

「……私が、憎くないのか」

彼はわずかに驚きの色を浮かべ思案する。
そして、私の想像とは全く異なる反応が返ってくる。

「なんでですか?」

「なんでって……。私は昨夜、貴方にひどいことを……」

私の言葉のせいで思い出してしまったのか、俯く彼の表情は見えない。だが、絶望に打ち震えているであろうことはわかる。

「私は……どう償えばいい。今すぐここで死ねと言うのなら、命を断ってみせよう。街まで案内しろと言うのなら、安全に街まで案内しよう。お金は私の自宅にある。だが私は追われる身でな、財産は王立軍のやつらに没収されていると思うが……」

俯いた視界が湿り気のある土で埋め尽くされる。いつも下を向いてきた私が見慣れた景色だ……。
だが、次に彼が言ったことは信じられない言葉だった。

「僕のほうこそ、ごめんなさい……。昨日はその、あんなに、な、中に出してしまって……。せ、責任は取ります」

「どうして貴方が謝るんだ……。悪いのは全部私なのに……」

優しすぎる。強姦されたというのに。恨んで当然なのに。恐怖するでもなく、号泣するでもなく、怒りをぶつけるでもなく、謝るだなんて。
彼はきっと、この世界を生きるには優しすぎたのだろう。彼と言葉を交わすほど、心を圧し潰す罪の重みが増していく。

「フェリシアさんは悪いことなんて何もしていません。だからどうか、顔を上げてください」

私ははっとして顔を上げた。彼は少し困ったような、だけど穏やかな表情で私を見ていた。

彼は、私と全く違う世界を生きている。
卑屈で薄汚い欲望を押し隠す私などでは想像もつかないような、広く遠い世界が見えているのかもしれない。

「許して……くれる、のか……?」

「許すもなにも……その。う、嬉しかった、です……」

教会の神父のような慈愛に満ちた彼の言葉は、私の淀みきった心の奥の奥を照らす。
こんなに醜い私を、心まで醜い私を、そんな私の薄汚い欲望さえも。全部全部見透かしていて、理解して、許してくれて、受け入れてくれて、救ってくれて、そして…………愛してくれる。

「あ……うぁ……わぁぁぁぁぁぁっ!」

私は、ただただ泣いた。父に縋る赤子のように。彼に縋り付いて泣き続けた。今までの苦しみを全て吐き出すかのように。

私の人生は、今この瞬間のためにあったんだ。やっと見つけた。私の命の使い道。

私の全てを彼に捧げよう。
彼が何かを望むなら、どんなことをしてでも叶えよう。
もしも彼が恵まれない私を見かねて空から降ってきた天使だと言うのなら、本気で信じるだろう。

こんな素晴らしい人が私なんかに愛情を注いでくれたんだと思うと、愛おしくてたまらない。昨夜たっぷり注いでもらった温かい愛情が残るお腹に手を当て幸せを噛み締めながら、彼に甘え続けた。

……。
…………。
………………。

「さて、これからどうしようか」

服を整え、出発の準備が整った私は彼に問いかける。これからの行動は全て、彼の望むままにするつもりだ。

「うーん、そうですね……。まずはここから出たいです。その後は、もしフェリシアさんさえ良ければ、その……」

恥ずかしそうに言い淀む彼の言葉は途中で途切れる。だけど、後に続く言葉はわかる。
彼は私と共に過ごすことを望んでくれている。
それだけで、どんな苦境だって乗り越えられる気がした。

「任せてくれ。何も心配はいらない。貴方の願い、このフェリシアが何としてでも叶えてみせる」

気分はさながら、王子を護衛する騎士
ナイト

私は行動を開始する。

「まずは飲み水を確保する。貴方も喉がカラカラに乾いているだろう? 待っていてくれ」

幸運にも尻ポケットに捩じ込まれていたスキットルを取り出し、葉っぱに溜まった朝露を集めていく。
それだけでは足りないので、日の当たらない場所から苔をつかみ取って水分を絞る。

近くの座るのにちょうどいい木の根に腰を下ろし待っていた彼の隣に腰を下ろすと、いっぱいになったスキットルを手渡す。

「ありがとうございます、いただきます」

喉が渇いていたのか、あっという間に飲み干してしまう。
そんな彼の姿を見て、彼の役に立てたことに深い喜びを感じる。

「残りはどうぞ」

「あ、す、すまない……」

彼は私の分を半分も残してくれたのだ。
自分の分のことなんて、全く考えていなかった……。

スキットルの、彼が口を付けた部分をじっと見つめる。
カラカラに乾いた喉からよだれが溢れてくる。

間接キス……。いや、昨日もっとすごいことをしたんだけど、いやいや! でも昨日は色々重なって我を忘れてたからノーカンで……。い、いやいやいや! 人生で一番幸せだった出来事を無かったことにするなんてできるわけ……

ぐるぐる。思考回路がショートして、ポンッと頭から煙を吹く私に、彼が心配そうに声をかけてくる。

「す、すいません。僕なんかが口をつけたものなんて、飲みたくないですよね……」

「えっ!? い、いや! の、飲みます! 飲ませてください!」

早く飲まないと奪われてしまうかのように、急いで口をつける。本当は彼が口を付けた部分をベロベロ舐めまわしたいが、さすがに彼の真横でそんな変態行為をするわけにはいかない。
間接キスに夢中で、水を飲んでる感覚なんてなかった。
そんな飲み方をすれば、当然――。

「げほっ! げほげほっ! かはっ!」

むせた。かっこいいところを見せなければならないというのに、水を飲むことすらまともにできないなんて。うぅ……。

「あっ、だ、大丈夫ですか!? そんなに急いで飲むから……」

むせた苦しさと恥ずかしさで涙目になりながらしばらく悶絶する。

「はぁ、はぁ、すまない、もう大丈夫だ……」

なんとか気を取り直した私は腰を上げると、周囲の木々に生えた苔の場所や雲の流れを確認する。

「何をしているんですか?」

「あぁ、出口の方角を調べていたんだ。私たちが今いる場所はこの森の浅い部分。方角さえ間違えなければ、2日も歩けば街に出られる。それで、苔は日が当たらない北側に生えるんだ。それに今は夏だから季節風が吹く。雲の流れから季節風の向きを知れれば、方角がわかる」

「すごいです……」

彼が私を見る目は尊敬と憧れのまなざし。キラキラと輝くその瞳は、まるで小さな少年のよう。
遭難する可能性もある冒険者ならば当然知っているべき知識なのだが、そんなことにすら興味津々で話を聞いてくれるものだから、私もつい饒舌になってしまう。

「よし、そろそろ出発しよう。この辺りには食べられそうな植物はないから、食べられそうなものを探しながら進もう」

そうして私たちは夏だというのにひんやりとした空気の中、樹海を進んでいく。
彼は興味深そうに辺りを見回している。

「この辺りの植物が珍しいか?」

「はい。見たこともない植物があって。例えば、あそこの。柳みたいな木。なんか葉っぱがぼんやり光ってるような……」

「あぁ、あれは魔樹
ソーサリープラント
の一種だな。大地を流れるマナを栄養にしてるから、日当たりは関係ないんだ。葉が光っているのは魔素が漏れ出してるんだろう。この土地にマナが豊富に含まれてるんだろうな」

「えぇと、もしかして、魔法とかあったりしますか……?」

「あ、あぁ。貴方も生活魔法
コモンマジック
くらいは使うだろう?」

「……なんですか、それ」

誰だって日々の暮らしで当たり前に使うはずの生活魔法
コモンマジック

王族や貴族なら、下々のものに身の回りの世話を全部やらせることもあるから使えないかもしれないが、知ってすらいないなんてありえるだろうか。

私のことも嫌悪しないし、この世界の常識とは根本から違う感性のように思える。
もしかしたら彼は、本当に……。

「……それより、ちょっと大事な質問がある。貴方は一体、どこからやってきたんだ?」

「……自分でもよくわからないんです。僕は確かにここじゃない違う樹海にいたはずなんです。でも気がついたらここにいて、フェリシアさんが目の前にいて……」

やはり、彼は別の世界から来たのかもしれない。
別の世界から転移する魔法なんて聞いたこともないけれど。だからといって存在しないとは限らない。王立軍の連中に知られれば、どんな目に遭わされるか……。

詳しく話を聞いたほうがいいだろう。地面に根が張っていたり苔で滑るような場所もある樹海を長時間歩くのは体力を削られるから、こまめに休憩をいれておきたいと思っていたところだし。

「そろそろ休憩も兼ねて、軽食を取ろう」

「わかりました。お腹も空いていたので助かります」

丁度いい倒木を見つけると、二人で腰掛ける。
この辺りは死の森と言われるだけあって食糧に適した植物はあまり見当たらなかったが、それでもいくらかは見つけることができた。

彼と分け合いながら口に運んでいく。

「もしゃもしゃ。うーん、わがまま言える状況ではないんですけど、これちょっと苦いですね」

そう言いながら、葉っぱをもしゃもしゃと頬張る。可愛い。

「あぁ、それは薬草だからな。苦いしあまり腹には溜まらないが、体力は回復するはずだ」

私も薬草を頬張る。苦い。ここを出たら彼と美味しいものを食べよう。そのためにはお金が必要だ。まずはエルシオンを出よう。どこか遠い辺境の国で仕事を見つけよう。彼との未来に夢を膨らませている横で、彼が騒ぎ出す。

「あれ、あれ……。なんか体が軽くなってきました……! この薬草すごいですね! もぐもぐ」

まるで、薬草の効能を初めて体験したかのように無邪気に喜ぶ彼の姿に目を細める。
こんな時間がずっと続いて欲しい、そう思えるような幸せな時間。
穏やかな軽食の時間も終わり、手持ち無沙汰になった彼に声をかける。

「そういえば貴方は先ほど言っていたな。別の世界から来た……ようなことを」

「はい。たぶんそうなんだと思います。日本ってわかりますか?」

「ニホン? なんだろうな。何かの植物の名前か?」

「いえ、僕が住んでいた国の名前です。一億人くらい人がいて、知らない人は世界中ほとんどいないと思うんですけど……」

「むぐっ! げほ、げほっ! い、一億人!? それだけ住んでる大国を知らないなんてあるはずがない……。やっぱり貴方は別の世界から来たとしか考えられない」

「そうですよね……」

不安そうな表情を浮かべる彼に心が締め付けられる。
見ず知らずの世界に突然、なんのアテもなくたった一人放り込まれるなんて……どんなに不安だろうか。

私が支えなければ。彼が寂しくないように。
そう思うと同時に、胸が締め付けられるような不安を覚える。

「帰り、たい……のか?」

「いいえ」

妙にキッパリと即答する彼の声に私は少しばかり驚く。
そこには明らかに拒絶の意思が含まれていたからだ。

「元の世界にだけは帰りたくありません……絶対に」

「そうか……。もしよかったら、聞かせてくれないか? 元の世界での貴方のこと……」

彼は語り始める。上手に話すことができなくても、明るい話や楽しい話ができなくても。彼の本当の姿を私に話してくれた。

……。
…………。
………………。

「すみません……少し長くなりました」

「いいんだ。ありがとう。話を聞かせてもらえて嬉しかったよ。ただ、貴方が醜いだなんて、どうしても私には信じられないんだ」

改めて彼を見る。目も眩むような美しさと、その中に漂う消えてしまいそうな儚さ。心惹かれない人など存在するのだろうかというほどに整っている。

「街を歩けば、女たちは皆貴方を振り返るだろう。男だって見惚れるほどの容姿じゃないか」

「そ、そんなことありえませんから……。フェリシアさんならそんな風に見られるのは当然だと思いますけど……」

「……え?」

彼の言うことが理解できない。先ほどから急に話がかみ合わなくなった。
落ち着いて冷静に、常識を取り払って考えてみる。

彼が言うには、彼は醜く私の容姿が優れていると。いや、もしこんな発言をしたら誰だって私を殴るに決まってる。
私が思うに、私は醜く彼の容姿が優れている。

……つまり。

「お、思いついた私自身ありえないと思ってるんだが。も、もしかして。美醜観念が逆転……してるんじゃないか?」

「た、たしかに……」

それからしばらく二人とも言葉が出なくなる。
彼は私の思い付きを肯定した。それはつまるところ、毛虫のように嫌われ続けてきた私の容姿を彼はその逆に思っているということだ。
えぇと、それはつまり……。昨日私がしたことを彼は嬉しかったって、確かに言った。
そ、それって……。それって……!

彼に聞こえそうなくらいにバクバクとうるさい心臓。
だけど、今までの人生で培われてきた卑屈さを打ち破ることは、私にはまだできない……。

「も、もう十分に休憩はできただろう。そろそろ、し、出発しようか」

「は、はい、い、行きましょう」

お互いにわかっているのに。喉元まで出かかっているのに。
大事な言葉を伝えられないまま、二人は再び樹海の中を進み始めた。

他の漫画を見る