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1話 ものさしの狂ったこの世界で

夢を見ていた。

軍学校へ入学したばかりの頃の夢だ。

将校課程の学生が集まる大講堂のまわりは、当然のように女生徒
・・・
や女性の教官
・・・・・
ばかり。

ただでさえ人口比率的に少ない男が、カーキ色の軍服風の制服を身に纏っているとあって嫌でも目立ってしまう。

だがあの日の俺は、入学初日の興奮でアドレナリンが回りきったせいかそんなことを気にしちゃいなかった。

(今日からここで、俺の新生活が始まるんだ……!)

俺は一歩一歩踏み固めるようにして、入学式会場へと歩みを進める。

(前世では彼女1人いなかった俺だけど、ゆくゆくは出世して高級将校になって今世こそ……!)

誓いも新たに、講堂の階段を駆け上がって行く。

(今世こそ「自分のことを愛してくれる可愛い女の子と幸せな結婚」をするんだ……!!)

「カイ、ねぇカイってば、起きてよ」

同じ部屋のルームメイトの男の声が、やかましく頭の中に響き渡る。

まぶたがやけに重たい。

あれ、俺は入学式の式典会場の近くに居たはずじゃ……?

「もう11時過ぎだけど殿下との約束がお昼前からあるんじゃないの?」
「ふわぁぁ夢か……ってヤバっ?!もうこんな時間なのかよ!ありがとう、ノリヒコ!」

その言葉に俺は急速に意識を取り戻し、目やにで固まったまぶたを無理矢理にこじ開けた。

平日の軍事教練で疲れ切っている俺の体は「まだベットの中でまどろんでいたい」と駄々をこねるがするが、そうも言ってられない。

部屋の壁に掛けられた時計の短針は、ルームメイトの言うとおり11時を既に過ぎ始めている。

心を鞭打って、ベッドから無理矢理にでも体を起こす。

今日はあの殿下
・・
のプライベートなお茶会に誘われているのだ。

遅れるのは色々とマズい。

それに俺自身、気さくで朗らかなあの可愛い女の子と会えるのが、楽しみで仕方ないんだ。

例え、身分差的にどう考えても結婚するなんてことが考えられない相手であっても。

急いで寝間着を適当に脱ぎ捨てて、洗面所へと向かう。

「カイ、急いでるのはわかるけど流石に男子がそんな格好するのは、はしたないよ」
「え?あぁ、別にノリヒコ以外、見てねぇんだし……」
「またそうやって言い訳する」

俺が薄いシャツとパンツ姿でいるのに、男子寮のルームメイト、明定
アケサダ
規彦
ノリヒコ
が抗議の声を上げる。

彼は休日だというのに、ピッチリと看護課程の薄青色の制服に身を包んでいた

ノリヒコは根は良い奴なのだが、服装の乱れ等「淑男として〜」云々
うんぬん
イチイチうるさく注意してくる。

別にこの程度の格好、男同士ならいいだろうと言いたくなるが……残念ながら「この世界」の常識的には彼の言っていることの方が正しい。

俺はまだ横でグチグチと注意してくるおせっかい男を適当にいなしながら、洗面台に備え付けの水の魔石
・・・・
を起動する。

魔石から溢れる水で顔を洗い、ボサボサの髪を整えていると背中越しからノリヒコの非難の声が聞こえてくる。

「そもそも君は普段からスキを見せ過ぎなんだよ!女性に対してもっとガードを固くしないと。女ってのはね狼なんだよ!」
「狼ねぇ……」

(俺自身としては美人相手なら性的に襲ってもらえるのはむしろウェルカムなんだけどなぁ)と言いたいところだが、流石に口をつぐんだ。

洗顔をした俺はカーキ色の将校服風の軍学校制服をまとい、小さな金属製のネームプレートを首からさげた。

キラリと光るドッグ・タグにはこの世界
・・・・
での俺の名前『東堂
トウドウ

カイ
』という文字が刻印
こくいん
されている。

「ただでさえ、男は貴重なんだから。僕らみたいな美少年ともなるとね……」
「自分で美少年なんて言うかね、普通」
「でも事実だろ。カイと僕が街中を歩くだけで女たちは目を血走らせてこっち見てくるじゃない?」

俺は洗面台の鏡に映る自分の顔を見る。そこには前世と全く変わらない芋顔の平凡な男が立っていた。

(どうしてこの顔でイケメン扱いになってるんだ、この世界は……)

魔術が溢れ、男女の役割が逆転しているこの異世界に転生してはや十数年。

前世と神様による転生の記憶を取り戻した10歳のあの日から考えても、既に数年弱の時間をこの世界で過ごしてきたわけだが、未だに違和感が拭えないことが1つある。

美醜観の狂い――この世界の女性に対する美醜の評価は、元の世界(日本)とちょうど逆転していた。

つまり、

– 肌にシミやシワ、吹き出物がなくみずみずしいこと
– 目がパッチリと大きく小顔であること
– 胸と尻が大きく、腹が凹んでいること
– 髪がサラサラとしていること

以上のような俺
カイ
基準での美少女が、この世界では醜女としての扱いを受けていた。

男性に対する美醜の評価も逆転とまではいかなくとも、少々狂っていた。

まぁ俺のような平凡な芋顔がありがたがられて、前世であれば爽やかイケメンと評価されるだろうアイドル顔の男性陣が残念フェイス扱いされるわけだから、十分に狂ってるとは言えるかもしれないが。

(とはいえこの世界ではレディーファーストならぬメンズファーストが定着しており、彼らもそこまで悪い扱いを受けることはないのだが。)

「あ、そういや、久々に看護課程の子たちと夜ご飯なんてどう?将校課程の話聞きたいってみんな言ってたよ」
「悪い。夕方からも別件の予定があるんだよ」
「もしかしてまたあの侯爵家の嬢ヶ崎
ジョウガサキ
さんと?」
「あぁー、エリカのことならそうだけど。また夕食兼勉強会でな」

夕方から将校課程の同期の女性、エリカと会うことを告げると、ノリヒコは顔をしかめる。

エリカは、殿下
・・
と同じくこの世界
・・・・
基準では醜女だった。

俺がノリヒコの無言の非難に構わず軍用の魔導杖を手に出かけようとすると、彼は俺の正面にグイっと回り込んで来た。

「あのね、あんまりこういうこと言うの彼女たちに申し訳ないんだけど……。いくら身分が高いからって嬢ヶ崎さんみたいな人にカイみたいな美少年が優しくしてたら勘違いさせちゃうよ」

ノリヒコの小言は続く。

「それに不敬になるからあんまりこういう事言いたくないんだけど。殿下
・・
だってカイがああいう女性
・・・・・・
に優しくしてるの見たらさ……」
「そろそろ時間だから出ないと。あと最後の発言は聞かなかったことにしとくぜ」

俺相手にはついつい口が滑りがちなこのルームメイトには悪意がない分、あまり強くは言えない。

俺はノリヒコの軽口を戒めるのを口実に彼の小言を止めて部屋から脱出することに成功した。

◆◆◆◆
休日の昼下がり。

俺、東堂 海
カイ
は、殿下とのお茶会のために軍学校の講堂から少し離れたところにある小さなレンガ造りの建物へ駆け足で向かっていた。

(時間ギリギリだっ!ヤバい!)

門には”東雲
しののめ
会館”と言う揮毫
きごう
が刻まれたブロンズ製の看板が掲げられている。

この建物は、本来、外部から軍学校の視察に訪れた帝族や帝族出身の生徒しか使用することが許されていない場所だ。

俺はいつも通り入口の警備兵に殿下の紹介状を見せると、中へと早足で入っていった。

建物の中庭には壁一面に鮮やかな緑色の植物が生い茂り、その自然の日陰が昼夜問わず涼しげな空間を保ってくれている。

俺は庭の涼しい空気を肺いっぱいに吸い込ませて息を整えると、殿下の方へと向かった。

「殿下、お待たせしました」
「ううん、全然お待たせじゃないよ。あ、でも君、汗だくだね。さては寝坊して走って来たでしょ」
「え?あ、いや。これは」

必死でハンカチで顔を拭
ぬぐ
うを俺を、彼女はクスクスっと笑うと、ガーデンテーブルの席へと案内してくれた。

「殿下にお茶を淹

れていただくわけには……」
「君は僕のお客様だからね。ゲストにお茶を振る舞うのはホストの役目だよ」

俺がお茶のセットの用意を手伝おうとすると、彼女はそれを笑顔で制し、いそいそとティーポットや茶菓子を小ぶりなテーブルに並べ始める。

「それと、何度も言ってるけど僕たちは軍学校の同級生なんだから。昔みたいに『カナデ』で良いって言ってるでしょ?なんだったら僕の方が年下なんだから、敬語も無しで良いって」

「えーと、それなら……奏
カナデ
さん?」

「うーん、少なくとも『殿下』よりはマシか……。まぁ、今のところは、それで我慢してあげる」

いたずらっぽくふわりと笑う彼女に、俺は思わず目を奪われてしまう。

長い黒髪にはところどころに白銀色のメッシュが入り、まるで美しい小川を泳ぐ白魚のような可愛らしさを放っていた。

明るいゴールドの瞳は王冠のように輝き、その眼差しを見ているだけで何とも言えない幸せな気持ちになってくる。

(あぁ〜〜。カナデって本当に可愛い女の子だよなぁ。)

この優しい森の精霊の王女のような美少女の顔を見つめていると、どうしても胸の高鳴りを抑えられない。

思わず赤く染まってしまった顔を逸らすために視線を下げると、今度は途方もなく豊かな2つの膨らみが目に飛び込んでくる。

Iカップ以上はあるだろうか。

カナデが紅茶のカップを飲むために腕を少し動かすと、その度
たび
にたわわに実った胸は魅惑的に揺れ動き、俺は思わず股間を固くしてしまう。

いつもの茶褐色の軍学校制服とは違う休日の浴衣
ゆかた
姿のカナデはとても新鮮に映る。

何より衿
えり
から見える胸元の白い肌は淡く色づいていて、その艶やかな彼女の肢体
したい
に俺は今も目を離せないでいる。

彼女は帝位継承順位2位、東九条
ヒガシクジョウ

カナデ

『帝国』の頂点たる帝室所属の彼女に真っ向から逆らうことが出来るのはおそらく『帝国御三家』の当主たちくらいのものだろう。

間違っても俺のような貧乏子爵家の息子が面と向かって気軽に話をしてよい相手ではない。

だけど今の彼女は、ここではただの級友、カナデとして扱って欲しいとのこと。

まぁ身分差を忘れたとしても、前世も今世もずっと童貞な俺にこんなド級の美少女をただの一同級生として扱えというのも無理な話で……。

俺はどうしても緊張してしまって、言動が固くなってしまう。

まぁ言動はともかく股間を固くするのは不敬の極みなので、何とか別のことを考えて興奮を抑えねば!別のこと!別のこと……!

(こんな美少女がブス扱いを受けてんだからなぁ。狂ってるよな、この美醜逆転世界は。)

俺は先程のノリヒコの発言を思い出して、改めて「この世界」の美醜観に関して思いを巡らせる。

そうやって、なんとか眼の前の美少女から気を逸らすことで、自分の股間の屹立
きつりつ
を抑えようと悪戦苦闘するのだが……全然ダメだわ。コイツ、梃子
てこ
でも小さくならねぇ。

そんな俺を尻目に、カナデは急に何かを思い出したようだった。

「あ、そう言えば昨日、宮城
きゅうじょう
に戻った時、カイの母君に会ったよ。息子のことよろしくお願いしますってこっそり頼まれちゃった」

「ゲホッゲホッ!?え?あの、うちの母がですか?」

「うん、僕もビックリしちゃった。あの鬼武者と恐れられた東堂家の当主殿も、可愛い一人息子のこととなると変わっちゃうんだねぇ〜♪」

俺は驚きのあまり思わず口に含んでいた紅茶を吐き出してしまう。

宮城――すなわち皇帝の住まいで、カナデは俺の母に会ったらしい。

それ自体はまぁ別に驚くということでもない。

俺の母は「軍人」という言葉をそのまま具現化したかのような存在だ。
生真面目で勇猛果敢、魔力量もかなり高く、将校として一流の能力を持っていると評価されている。

最近では、准将という立場ながら植民地総督府にて相当重要な軍務を任されているらしい。

なので時たま帝国議会や枢密院
すうみついん
のある宮城に顔を出しては、他国の軍事情勢や植民地での反乱分子対策についての軍議に参加しているとは聞いていた。

しかし、あの堅物を絵に書いたような母親が自分の目上の人物、それも帝族に対して、私的なお願いするとは……。

公私混同を何よりも嫌う母の意外な行動に俺は驚きを隠せないでいた。

「あー、母が何かお手間を取らせてしまったようで、申し訳ありません」

「手間だなんてそんな!ま、まぁき、君みたいにか、かわいい男の子がむさ苦しい女だらけの軍学校にいるわけだから心配にもなるよ」

普段は余裕たっぷりな振る舞いをするカナデが俺を指して「かわいい」という時だけ照れたような表情を見せてくる。

クソっ!これでせめて俺が公爵、いやせめて侯爵家とかだったら、この美少女とお付き合いするチャンスがあったかもしれないのに……。

「いえ、うちみたいな低級貴族が帝室の方にお願いするなんて。ここでお茶をご一緒するのも恐れ多いのに……」

俺が世のままならさを感じて思わず卑屈な言葉を吐いてしまうと、カナデは少し頬を膨らませてくる。

「あのねぇ。君はよく『自分みたいな子爵が恐れ多い』なんてよく畏
かしこ
まるけど、”東”の字を受け継ぐ帝室の血筋なわけだし!それにむしろ君みたいなびしょうね……ううんなんでもない!とにかく『恐れ多い』なんて感じる必要なんてないから!古い付き合いなんだから、もっと気楽に絡んでよ」

名字に”東”の字が入ることを許されている貴族の家は元々は帝室の血縁者だというのは公に知られた事実だ。

俺の家、東堂家も家系図を辿っていくと帝族関係者に行き着く。(まぁかな〜り遡
さかのぼ
らないといけないのだが。)

口数の多くない当主の母が唯一酒が入った時にする自慢話で、俺は耳にタコが出来るほどそのことを聞いていた。

軍人としての評価も高く、帝室の遠縁でもある東堂家当主の息子である俺は、幼い頃から何度か宮城でカナデの遊び相手をさせられていた。

なので実際、俺と彼女は古い付き合いではあるわけだ。

しかし、実際問題としてうちの家は随分前の時代から帝族ではない一般貴族の立場になっている。

何より当主である母はそのクソ真面目さが災いしたのか金勘定に疎く、領地経営の失敗で家計はギリギリ。貴族と言って良いのかという貧乏暮らしをしているわけで。

とてもじゃないがそんな貧乏貴族の俺が(前世の記憶が戻る前の)昔のように「カナデ」と呼び捨てには出来ないだろう。

俺が誤魔化すように苦笑いしていると、カナデはそれ以上なにも言わず少し膨れた面でお茶を上品に飲み始めた。

(いくら俺が出世したところで、流石に帝族の女性と付き合うなんて出来っこないし。
あぁ〜あ、世知辛いなぁ身分社会って。)

カナデと俺が結ばれることはないだろう、というほろ苦い気持ちは抱えつつも俺は眼の前に座る美しい姫君との時間を目一杯、楽しむことにした。

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