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11話 紅い狼

亜熱帯特有のスコールが過ぎ去り、今度は気が滅入るような曇り空が広がっている。

私はこの地域のうざったいくらいの湿気に苛立ちを覚えつつ、部下の森
モリ
と共に小さな駅員執務室に篭っていた。

駅舎の窓越しからは「帝国」南方植民地の総督とそのお付きの官憲共が列車に乗り込む姿がはっきりと見える。

事前のタレコミ通りだ。私は一息ついて、室内に目を向けた。

「森、私たちの目的は分かっていると思うが、もう一度念を押しておく。絶対に
・・・
総督を殺すな。今回の襲撃の目的はあくまで身代金を搾り取ることだということを忘れるな」

「ヘヘッ。アチキがヘマなんてしたことありますかい、姉貴?」

「お前の脳には記憶を司る器官が欠けているのか!!」と怒鳴りつけたくなる気持ちを何とか抑えつける。

暴力革命を志す『紅い狼』のメンバーたちは皆、血気盛んで向こう見ずな跳ねっ返りばかりだが、その中でも森の残忍さと浅慮さは際立っていた。

この前、私が任せていた身代金目的の誘拐の件でも、攫
さら
ってきた貴族の婆さんが抵抗した際、森は彼女を躊躇
ためら
いもなく殺してしまい、骨折り損な目に会わされた。

革命を目指す武装闘争組織にとって最も重要なのは、命知らずの鉄砲玉でも立派な思想でもない。

カネだ。一にも二にもカネ。

潤沢な兵站
へいたん
が用意されている官憲や正規軍と違って、私達、革命家は自らの力で資金を獲得していかねばならない。

それが現実だ。

今回の作戦では、南方植民地の総督を人質に帝国政府や総督の実家の貴族連中から身代金をできるだけ毟りとることを目標にしている。

そうして得た軍資金で、革命活動を継続するのだ。

そんな大事な作戦にこんな粗野で身勝手な女を使いたくはないのだが……。

マトモな人材の払底
ふってい
する我が組織では、森のような組織人として動けない人間であっても追い出すことは出来ない。

本当に、腹立たしい限りだ。

私は首を振って気持ちを切り替えると、駅舎内に備え付けの通信機器を使って、伏兵として控えている別働隊のメンバーに作戦開始の連絡を入れることにした。

「こちらAチーム、これより作戦を決行する。各員、奮起せよ。帝国に死を」
「こちらBチーム了解。武運を祈る。帝国に死を」

通信を終え、私と森は事前に用意しておいた鉄道警備隊の制服を急いで着込んだ。

既に列車は汽笛を上げて始めていた。早く出ないと……。

「姉貴、上から預かってる例の魔石
・・・・
の方は持っていかなくていいんですかい?」

森の言葉で、机の上に置かれている禍々しい輝きを放つ魔石が嫌でも目に入る。

見ているだけで不安になるような毒々しい輝きを放つそれを、懐
ふところ
にしまうかどうしても逡巡
しゅんじゅん
してしまう。

正直、あのマッドサイエンティストなパトロンの事はあまり信用出来ないのだが……。念の為の切り札だ。

私は魔石を布にくるんで上着のポケットに押し込むと、森と共に駅舎を飛び出して既に動き始めている列車に飛び乗った。

駅員たちは車両に駆け込んでいく我々を見て怪訝な顔をするが、注意をして官憲に睨まれでもすれば大変だと思ったのか何も言ってくることはなかった。

最後尾の三等車両の乗客たちが、こちらをジロジロと見てくるが気にせずにズンズンと先頭へと進んでいく。

最前列の車両の窓を無理矢理にこじ開け、車両の側部を伝って機関室へと無理やりに押し入る。

この程度のこと、何度も銀行や貴族の屋敷を襲撃をしてきた我々には造作もないことだ。

運転室は魔石を燃やしている焚口
たきぐち
から湧き上がる熱気で、むせ返りそうな暑さだった。

突然の来訪者に、気が荒そうな機関士の女たちが慌てて立ち上がる。

その中でも特に大柄な女がこちらを睨みつけながら、躙
にじ
り寄ってきた。

「あんたら、いきなり一体なんなんだ。いくら警官だからって……」

ガチャリ……と鈍い音が響き、彼女の言葉を遮
さえぎ
る。

「物分りの良い奴は嫌いじゃない。指示に従うなら命まで奪うつもりはない」

森がニヤけ面でアサルトライフルを構えているのに、機関手たちは顔を青くして怯えていた。

「次の橋を渡りきった先でこの汽車を一度停止させろ」

私の指示通りに、操縦手たちは橋を超えたところで、ブレーキ弁のハンドルを引っ張って列車を急停止させた。

急ブレーキによるわずらわしい金属音の擦れる音が途切れたタイミングで、林の中からワラワラと武装した私の仲間達が現れる。

「総督殿をお迎えにあがるぞ、くれぐれも丁重
・・
にな」

今のところは、怖いくらいに全てが順調だ。

この分なら切り札を使うことにもならなそうだな。

私と森は運転席の監視を仲間の一部に任せ、残った連中と共に総督の乗る2列目の車両に足を進めることにした。

◆◆◆◆
ベッドの寝具には、お互いの体液が飛び散ってカピカピになっており、狭い個室には未だムンムンと男と女の交わった性の匂いが滞留している。

ここまで部屋を汚してしまうと、後で鉄道会社から文句をつけられてしまいそうだなと苦笑してしまう。

だがそれと同時に私の心の中は、生まれてこの方これ以上味わったことがないという程に満ち足りたような気持ちで溢
あふ
れていた。

「フフ、こんな私のように醜く異常な女と一緒なのに、何の心配もないように寝てしまって」

カイは、ポッカリと大口をあけた少し間の抜けた顔をして、グーグーと安心仕切ったように寝ている。

彼の無防備な寝顔を見ていると庇護欲
ひごよく
がムクムクと湧いてくる。

私は、思わず彼の髪をクシャクシャと触ってしまっていた。

「ん〜母さん。もうちょい寝かせてよぉ〜」

「あぁ、まだ目的地までタップリ時間はある。ゆっくりおやすみ」

私は寝ぼけた彼を起こさないように、ゆっくりと立ち上がり、部屋を抜け出して列車に備え付けの洗面所へと向かった。

「相変わらず酷い顔だ……フフフ」

鏡に映るのはいつも通りの化け物のような顔の女。

けれども今の私は、いつもほどは自分の顔に苛立ちを覚えていなかった。

(彼は『ポニーテールが可愛い』って言ってくれたっけ?)

自分の長く金髪を、後ろでくくってみる。

これのどこが良いのか自分にはちっともわからないが、彼が好ましく思ってくれるなら……。

キキキッーーー!!

突如、不快な金属音が響き渡り車内がガクンと揺れる。

洗面室から飛び出して窓の外を見ると、どうやら列車が急ブレーキをかけたようだ。

(妙だな……駅についたわけでもないのに……列車の機材トラブルか……?)

部屋に戻ってみると、これだけの衝撃音がしたというのにカイはまだ、いびきをかきながら寝ていた。

私は念の為、部屋に鍵を占めた上で、車列の先頭へと向かうことにした。

「おい!他の乗客に手を出したらタダじゃ済まないぞ!」

「総督殿、アンタまだ今の自分の立場が分かってねぇみたいだな」

(あれは……?!)

先頭の一等車は異様な緊張感に包まれていた。

武装した複数の輩が、軍服姿の上品な顔立ちの婦人を囲んで銃を突きつけている。

婦人の軍服についた勲章、それにあの顔だち、新聞か何かで見たことがある……確かこの南方植民地の総督を務めている……。

「覗きってのはいい趣味じゃないねぇ、お嬢さん。油断し過ぎだよ」

突如背後から嫌らしい声が聞こえ、銃口が頭に押し当てられた

「お、森さんやるねぇ。ってそいつの着てる服、軍学校のじゃねぇか?魔道士かもしれねぇぞ。気をつけろよ」

「魔導杖はうちの連中の息がかかった鉄道警察に乗車前に没収させてあるからよぉ。心配し過ぎだぜ」

「あぁ、こいつら杖がなきゃ、私達と変わらねぇんだから」

女達がニヤけながら集まってくる。私の心臓はドキドキと速く鼓動を打ち始めた。

「森、そいつも殺すな。軍学校の学生なら爵位持ちの家の出身である確率が高い。もしそうなら、そいつの家からも身代金をせしめられる」

この襲撃者たちのリーダーだろうか。

こちらに矢のように鋭い目線を向ける女が、私に銃を向ける背後の輩に声をかける。

「えぇ、わかってますよ、あね……ってうわっ!」

背後の女が眼の前のリーダーの言葉に気を取られている一瞬の隙を突いて、素早く背後の女から銃を奪い取り、視界に映る前方の女達全員の足と手を一気に撃ち抜いた。

「てめぇ!舐めやがって……っぶはぁ!!」

銃を奪われた女が叫びながら飛びかかってきた。

その顔に冷静に肘打ちを食らわせてやる。

中々のクリーンヒットだったようで奴の鼻血が勢い良く服に飛び散った。

「クソ……こんな小娘一人に!コイツを使いたくはなかったんだが、ここで失敗するわけにはいかないんだ!」

倒れ込んだ襲撃者のリーダーが、懐から何か怪しく光る石のような物を取り出して飲み込もうとしているのが目に入った。

それを見て私の心はざわめき始めた。あれが何かはわからない。だがあれを使わせると何か不味いことが起こる気がする……!

奴の息の根を止めようと、私は急いで撃鉄を振り絞り残りの弾を全てを奴に浴びせる……!

鈍い金属音が数度、響き渡る。

銃弾は全て奴の出す分厚い魔力障壁に弾かれてしまったらしい。遅かったか……!

「ハハハッ……!コイツは、素晴らしい……体中から力が漲ってくるようだ!!」

彼女の白目は真っ黒に染まっていき、瞳孔は蛇のように濁った黄色に変わった。

先程、撃ち抜いてやったはずの足と手から傷はすでに消えており、肌がビリビリとひりつくような膨大な魔力が奴から垂れ流されるのを感じる

「……ッグハァ!」

女がこちらに手を向けると、凄まじい魔力の衝撃波が私の体に打ち込まれ、体ごと壁に弾き飛ばされてしまった。

衝撃の大きさに頭にチカチカと光が走るような錯覚すら覚える。

(これは不味いことになった。なんとかカイに知らせて、彼だけでも逃さないと……)

私はなんとか歯を食いしばって意識を保ちながら、この場を切り抜けてカイを逃がす方法を必死に考え始めていた。

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