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13話 その『命令』には従えない

廊下にいた襲撃者達を退けた俺は、客車の窓をこじ開け、窓枠へと足をかけた。

足元では鋼鉄のレールと車輪が轟音をたて、無数の小石や泥が舞い上がっている。

誤って落ちてしまえば、体はバラバラに砕け散ってしまいそうだ。

(魔力をまとっているとは言え、流石に怖ぇな。……でもウダウダ言ってる時間は無さそうか……。)

窓枠を逆手で持ち、全身に魔力を行き渡らせる。

「行くぞぉ!オラァ!!」

俺は気合の叫び声をあげながら、逆上がりをするように勢い良く飛び出す。

空中に浮遊するような感覚、心臓がキュッとしまるような錯覚すら覚える……!

「オットット……無事着地……と」

列車の屋根の上は、高速で走る列車の揺れや吹きすさぶ風がダイレクトに伝わってきて、かなりバランスが取りづらい。

振り落とされないように、足元の魔力構成を操作して体の平衡をなんとか取り戻し、俺はエリカが囚われているという2号車に向かって勢い良く走り始めた。

周囲の景色は、俺の内心の緊張とは対照的に、異常なほど穏やかだ。

太陽の光に南国特有の草花が輝き、鈍重な水牛がゆっくりと草を食む。

パームツリーの林を抜けると、青々とした山々が視界に広がり、その間を縫うように汽車は突き進んで行った。

(エリカ……頼むから無事でいてくれよ……!!)

ー魔力探波ー

目的の2号車の屋根にたどり着いた俺は、自分の目に魔力を集中させることで、魔導探波を放って中の様子を伺った。

魔法の力を込めた目を通せば、分厚い鋼鉄で覆われた車内の様子もレントゲン撮影されたように透視することが出来る。

(倒れているのはエリカか……はぁ、良かった!命に別状はないみたいだな……)

魔眼を通して映る彼女は、額から出血していることが確認出来たが、見た目ほどのダメージは受けていないことが魔力波動を通して伝わってきた。

俺はひと呼吸置いて気持ちを切り替え、再度中を見渡すことにする。

(後は自動小銃を装備したのが2人と……やけに魔力反応が強いのがいるがまさか魔術師か?)

奴らが話す内容を聞き取るために俺は、耳にも魔力を込め始めた。

列車の轟音で鼓膜が破れないように、慎重に魔力操作をして、客車内の会話のみ聞き取れるようにする。

細やかな魔力操作は中々に骨が折れるものだったが、徐々に奴らの会話が聞き取れるようになってきた。

「……上……魔力を感じ……念の為……」

(……奴は、何を言ってるんだ?)

襲撃者たちの中心にいる女が何かモゾモゾと言っている。

もっと耳に魔導エネルギーを集中すれば聞き取れるようになるかも……。

「上にいるやつ!屋根が吹き飛ばされるぞ!気をつけろ!!」
(なに……?!)

突如として聞こえたエリカの警告の声……!

反射的に宙返りで後ろの客車に飛び移った次の瞬間……耳をつんざくような破裂音が鳴り響き、列車の屋根が思い切り砕け散った……!!

上部が破砕された客車の中からは、血だらけのエリカが見える。

出血が激しいのか顔は青白いものの、その目には強い戦闘の意思が見えた。

「ちっ、余計な真似を」
(なんだコイツは……?!)

一瞬の静寂の後、客車から一人の女が屋根へと這い上がってくる。

全身を覆うボロボロの鉄道警察の制服という異様な出で立ち、死者のように灰色の顔、白黒が反転した悪魔のような眼、おおよそこの世の者とは思えない。

しかし、それ以上に不気味だったのは、女の体からデタラメに湧き出る強烈な魔力の波動だ。

別にその魔導波動の量

にビビったわけじゃない。

魔力量に関して言えば俺もかなりある方だし『帝国』軍内部にはもっとチートじみた量の持ち主もいる。

だが、この女のようにこれほどまでの魔力量を持ちながら、魔導操作に関しては赤子のそれとしか言いようの無いレベルの人間と会うのは初めてだった。

まるで……ほんのついさっきまでは魔導を扱ったことのない人間が急に魔力を与えられたかのような振る舞い。

「まぁ良い……お前は見た所、貴族でもなさそうだし金にならなそうだ……」

軍学校の制服ではなく、動きやすい軽装に身を包んでいた俺を平民と判断したのか、奴はそう呟くと手をこちらへとかざした。

俺は魔力で何重にも防御膜を自分の体にまとわせながら、サッと身体を屈める。

一瞬遅れて、魔導防御膜を焦がす嫌な臭いが鼻をくすぐり、さらにそこから数瞬遅れて……凄まじい轟音!

振り向けば、後ろの客車の天井に大穴が空いているのが見えた。

少しかすっただけだという言うのに、防御膜数枚にヒビが入ってやがる。

不味いな。それに、こんなのを連発されたらいずれ列車の客に死人が出ちまう。

その前に何とかこいつを片付けないと。

俺は足に魔力をまとわせ高速移動をしながら、眼前のバケモノ女を殺す気
・・・
で雷撃の魔法を数発ぶっ放してやった。

俺の放った雷撃は全て奴の胸に命中し、女の身体は紫色の稲光
いなびかり
に覆われる。

だが……

「ほう、魔導杖もなくそれだけの魔術を扱うか……」
「マジかよ?!」

奴はケロリとした表情で立っていた。

身に付けている服にもダメージが大して入っていないところを見ると、どうやら奴は凄まじい量の防御膜をノーモーションで自分の体に張ったらしい。

魔眼を通して見れば、奴の身体に再び多量の防御膜が急速に再構築されていくのが見えた。

その枚数、驚異の27枚!!

転生特典
・・・・
で多量の魔力を扱える俺ですら、瞬時に張ることが出来るのは精々13枚程度。

(こんな奴、どうすれば倒せるんだ……せめてエリカだけでもなんとかして逃してやりたいんだが)

列車は既に深緑に覆われた山々を抜け、巨大な自然石で組み上げられた大橋に入りつつあった。

橋の下には泥色の大河が広がっており、その水面は太陽の光でギラギラと輝いていた。

(爆破魔法で列車ごと川に沈めちまうか……?ダメだ……それじゃあ何十人も死人が出ちまう。エリカだって無事で済むかわからない……)

俺の心は眼の前の敵の頑健さにグラつき始めていた。

ズガガッ!!ズガガッ!!

突如鳴り響く、けたたましい火薬音と叫び声。

目の端で動きが見えた。エリカだ!

見張りが目を離したほんの一瞬の隙を突き、彼女は敵の手からアサルトライフルをすっと奪い取った……!

次の瞬間、弾幕が飛び交う。

エリカの手から噴き出した無数の鉄の雨が、見張りへと襲いかかった……!!

突撃銃の乾いた音が響き、その反響が鼓膜を揺さぶる。

それはまるで鳴り響く雷のような音だった。

彼女は銃を床に投げ捨てると、見張りに奪われていた自分の魔導杖を取り戻す。

エリカはその勢いのまま「風の魔術」を体に纏わせて、俺と敵の魔女がいる屋根へとふわりと昇ってきた。

(やるなエリカ……!2人で一気に攻めれば奴の防御膜も貫けるかもしれない!)

普段の若干の陰キャ感と暴走ヤンデレ少女気味な振る舞いで忘れがちだが、エリカは俺なんかよりもよほど軍人・魔術士として優秀な人材なのだ。

(彼女となら、この難局も何とか切り抜けられるかもしれない……!)

俺の心には再び温かい希望のエネルギーが満ち始めていた。

「全く、魔術を使えないガキ1人のおもりも出来ないとは、つくづくウチの組織には無能しかいないと嫌になってくるな……」

俺の眼の前のバケモノ女は、ウンザリした様子で眼下に目をやった。

「これで2対1だな、降伏するって言うなら……」

「カイ!今すぐに川の下に飛び込め!!」

俺が相手に挑発の言葉を相手に並べようとしていると、急にエリカが割り込んできた。

川に飛び込め?!

アイツこんな時に、何を言ってるんだ?

「エリカ、お前何を言って……」

「今なら間に合う!お前ではアイツに勝てない!」

エリカの目は真剣そのものだった。おいおいまさか俺一人だけで逃げろって……。

「川に飛び込んで逃げるんだ!カイ!これは『命令』だ!!」

『命令』

この言葉が発せられた瞬間、俺の首元の「従属の首輪」から凄まじい魔力の震動が漏れ始めた。

それはまるで、眠っていた大蛇が目を覚まし、凄まじい力でとぐろを巻き始めたかのよう。

俺の足は自らの意思に反して、ゆっくりとではあるが屋根の端へと歩みを進め始める。

「私が逃すと思うか?」
「お前の相手は私だ……!」

魔導杖を取り戻した彼女は、得意の重力の魔術や氷の魔術を奴に連発して邪魔をし始めた。

時空が歪んだかと思うような衝突音が鳴り響き、同時に周りの空間には凍てつくような冷気で充満する。

その間にも列車の構体のヘリから俺の体は今にも川へと飛び込もうとし始めていた。

(頼む……間に合ってくれ……!)

俺は肚の内の魔力を全力で首輪にぶつけた。

この1ヶ月弱もの間、俺は毎日欠かさず「従属の首輪」に体内から魔導エネルギーをぶつけ続けていた。

(このクソ鎖!切れろ!!切れろってんだよ……!!)

首輪からは激しい反発が返ってくる……!

魔術的拘束の鎖からギチギチと金属が歪む音が聞こえる。

あともう少しなんだ……!頼む!切れてくれ……!!!

バリバリと金属の擦れるような音が頭に響き渡る……。

「手こずらせやがって……ふん、だがお前の男妾は恐怖で体が固まっているようだぞ。ハハハッ」
「カイ……すまない……『命令』だ。逃げてくれ……」

振り返れば防御膜がボロボロになって絶望に染まったエリカの顔、そして残忍な笑みを浮かべるバケモノ女……。

それを見つめる俺の足は時間が凍結したかのような感覚とともに……止まった。

……全く、この女
エリカ
はどこまでも俺の気持ちに気づかずに手前勝手なことばかり言いやがる。

鈍感系が許されるのはラノベの男主人公だけだってのが俺の持論だ。

「エリカ、別にキスでもク○ニでも、セッ○スだって、お前がヤりたいって言うなら、これからいくらでもしてやるよ……ただ悪いけどさ」

「カ、カイ?!こ、こんな時にお、お前何を言って……」

エリカが顔を真っ赤にして目を見開いているのが見える。

「その『命令』だけは従えねぇな」

俺はニヤリと挑発的に笑いながら「従属の首輪」に人差し指を引っ掛けて、思い切り引っ張った。

魔導構成がグチャグチャになった拘束具は、バラバラとガラス細工の砕けるような音を立てながら崩れていく。

「そこのイカレヤンデレ女は俺のモノだ!返してもらうぞバケモノ女郎
めろう
!」
「男風情が……!調子に乗るなよ……!!」

俺は勢い任せに雷撃魔術や爆炎魔術を相手に繰り出しながら、列車の上を駆け出し始めた。

もう弱気にはならねぇ!

必ずエリカとこの窮地を生き延びてやる!!

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