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22話 急な遠出

「本日扱うテーマは『浸透戦術』について。塹壕戦
ざんごうせん
が滅多に見られなくなった今では、この戦術をかび臭い骨董品の一種だと考える諸姉
しょし
も多いだろうけど……」

午前中の「戦術概論」の授業は内容的にも興味深いし成績配分も高いとあって、普段の俺ならノートに齧り付くようにしてメモを取りながら熱心に聞くのだが、今はとてもそんな気分にはなれない。

(なんでルリ姉が軍学校の教官に?!)

教壇に立っているのは、つい先日俺を尋問(実際のところは俺が寝落ちしたせいで、世間話に終始しただけだったが)した武装秘密警察のトップを務める鷲峰 瑠璃、その人。

「さて、ではなぜ今日
こんにち
の戦場では『塹壕戦』という戦術が採られることがなくなったのだろうか?井上学生。貴女の意見を聞かせてくれるかしら」

教鞭をとるルリは井上に指を向けると発言を求めた。

急に当てられたことで、井上は顔色を少し青ざめながら起立する。

井上は同期の中でも明るく人気者であり、リーダーシップを発揮することが求められる軍事教練のような”実技”では好成績を収めていたものの、「戦術概論」のような理論よりの科目はどちらかと言えば不得手な方だった。

「は、はい。えっと……その……」

井上はそのまま押し黙ってしまい、一瞬、教室内に緊張が走る。

厳しい教官であれば、「バカもの!戦場でそんな悠長な判断はしていられないぞ!」と怒鳴り散らすところなのだが、

「あぁ〜、ごめんごめん。私が堅苦しくし過ぎたわね。間違っても良いから気楽に答えてちょうだい。成績にも関係しないし」

ルリの一言で、講義室に張り詰めていた空気が一気に軽くなった。

彼女に緊張をほぐされた井上が、持ち前の快活さを取り戻して自分の考えをハキハキと述べると、ルリは追加の質問をしながら生徒たちの戦術に対する思考と理解を自然に促していく。

ルリの講義は他の教官たちと違い、一方的な知識伝授型でなく、生徒に呼びかけるような相互的なスタイルをとっていた。

能動的な参加を求められる彼女の担当する選択講義は生徒内で話題となり、別学年からも生徒が参加して立ち見の学生もいる程だった。

彼女が熱心に生徒に語りかけながら教壇を歩くたびに、暗い色合いの紫髪がサラサラとたなびき、豊かな胸がたぷん、たぷんと揺れ動く。

この世界
・・・・
の美醜観と逆転した価値観を持つ俺にとっては垂涎ものだが、今はそのことすらどうでも良く感じる。

ルリがこの軍学校に「客員教授」として赴任したのが、つい1週間ほど前のこと。

だが、教壇に立つ彼女はまるで長年この仕事に携わってきたかのように、堂に入った様子で講義を行っていた。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒たちがゾロゾロと教室を出ていった後、俺とエリカはルリに言われてその場に残らされた。

「カイ君、こっちこっち!もっと前の方に来て。そうそう」
「ルリね……鷲峰先生、学内でその呼び方は不味いですって」

俺がか細く抗議の声を上げると、ルリは「別に、みんなの前じゃなきゃ良いじゃない〜」と舌をペロッと覗かせる。

そんな親しげなやり取りをする俺達をエリカはジトーとした目で見てきた。

(いや、エリカさん、別に浮気してるんじゃないんだからそんな目で見ないでくれ。後、頼むから長机の下で握りこぶしを作るのは怖いから辞めてくれ……。)

「さて、嬢ヶ崎さんも改めての挨拶となるけど、今学期からこの中央軍学校に客員待遇で赴任することになった鷲峰 瑠璃よ。今は保安局で防諜関連の仕事をしているけど、元々は軍で一通りの兵種の面倒は見てきたわ。よろしくね」

再度の自己紹介を軽く済ませたルリは「春学期から演習旅行を済ませた生徒2人に対して1人の専任教官が付くことは、2人とも知ってるとは思うけど」と俺達それぞれに、分厚い紙の資料を手渡してきた。

資料の1枚目には「指導方針」という文字がデカデカと書かれているが、これはもしかして……

「私が2人の専任教官となりました。今学期からビシビシ指導していくつもりだから、よろしくね」

ルリはそう言って、ニカっと大きな笑顔を作った。

◆◆◆◆
専任教官制度やこれからの指導方針について、ルリから簡単なレクチャーを受けた俺は軍学校の校舎を抜けてエリカと一緒に帰路についていた。

(美人で優しくて、勝手知ったるルリ姉に指導教官になってもらえるのは、本来は嬉しいことのはずなんだけど……どうにも嫌な予感がするな〜。
そもそもなんで彼女がこの軍学校に赴任したんだ?保安局の防諜の仕事で忙しいはずなのに。)

なんとなく胸にモヤモヤと湧き出る不安感から、思わず「ハァ〜」と深いため息をついてしまう。

(っと、エリカが横にいるのにこんなため息をついてちゃダメだな。)

俺は気を取り直して、横で神妙な顔をして並んで歩いているエリカに「今週末はどこに行こうか」と声をかけようとしたのだが、

「今なら大丈夫か……カイ、ちょっとこっちに来てくれ」
「え?」

戸惑う俺に応答せず、無理矢理に手を引いて校舎裏へと連れて行くエリカ。

いきなりどうしたって言うんだ?

おいおいまさか、また以前みたいに無理矢理のプレイが始めるのか?

「無理矢理なのはきらいじゃないけど、学内で青姦をヤるのは、不味いって前も話しただろう、エリカ」と言いかける。

だが、簡易通信用の小さな魔石をこめかみに押し当てながら、周囲を警戒する彼女の表情は切羽詰まった様子だ。

ただ事ではない気配を感じ取った俺は、彼女に反抗せず黙って大人しく付き従うことにする。

「エリカ?どうしたんだ一体……」
「すまない、もう少し待ってくれ」

校舎裏のすぐ近くの雑木林の中は、こんもりとしていて昼間でも薄暗い。

まるで何者かに追跡されていることを警戒するように、何度も後ろを振り返って人の気配はないことを確認したエリカは、ようやく表情を和らげた。

「お前たち、もういいぞ」

エリカが虚空に向かってそう呟くと、瞬く間に周囲の空間が微妙に歪んでいき、次々とフード姿の魔術師たちが姿を現した。

「うわ、急に人が?!」
「安心してくれ、カイ。皆、嬢ヶ崎の手の者だ」

彼女たちはまるで透明のヴェールから現れたかのように、次第にその姿を明確にしていった。

(<不可視の魔術>による光学迷彩か……!これだけの人数がいて魔力波動の痕跡すら感じさせないなんて、相当な使い手たちだな。でもなんでこの軍学校内に?)

俺が疑問の声を差し挟むより前に、魔術師の1人がこちらに歩み寄ってきた。

「お嬢様、東堂様、お待たせしてしまい申し訳ありません。裏門の近くに透明化した防弾車を手配しておりますので、まずはそちらへ……」

魔術師たちは俺とエリカにも<不可視の魔術>をかけた上で再び透明化し、俺達を守るように囲って歩き始めた。

同じ波長の魔力エネルギーで透明化されているおかげか、不可視化されている者同士は問題なくお互いに視認出来るようで、透明化した彼女たちの姿も問題なく確認することが出来る。

早足で歩きながらも「囮
デコイ
の準備は?」とエリカが、リーダー役の護衛の魔術師に尋ねた。

「問題ありません。<錯乱の魔術>も使って武装秘の監視の目を欺いている今がチャンスです」

(全員どこか殺気立っていて、口を挟めそうにないな……エリカの味方っぽいから問題ないんだろうけど。)

彼女達の導きに従って、裏路地に用意された車両に乗り込むと、車は勢い良く走り始めた。

帝都の中心街を抜けてしばらく経ってから、エリカはようやく少し安心したように息を吐くと、体ごとグイと俺の方に向けてきた。

「カイ、お前には事前の相談もなく申し訳ないんだが……これから嬢ヶ崎の実家、お母様のところに向かおうと思っている」

「えーと、エリカのお母様って言うと……うぉ、マジか」

(エリカの母親って言えば……いきなり睡眠薬を盛ってきたあのサイコ女じゃねぇか?!)

俺はあの夜のことを思い出して、思わず顔を強張らせてしまう。

エリカの母親――嬢ヶ崎家の当主、京香
キョウカ
とは婿入りの際に、一度だけ会ったことがある。

見た目こそ娘のエリカと似ていて綺麗で、知的で落ち着いた印象の彼女だが、正直なところ、俺の京香
キョウカ
への印象はあまり良くない。

可愛い一人娘を想ってのことだったのかもしれない。

だが俺にとっては、会ってそうそうに話も聞かずに催眠薬を盛ってきた激ヤバサイコ女にすぎないわけで。

(……まぁ考えてみると、睡眠薬で眠らされている俺にいきなり「従属の首輪」を嵌めてきて逆レイプを仕掛けてきたエリカも大概な奴なのだが。
この押しの強さは案外、嬢ヶ崎家の伝統なのかもしれない。)

相手が以前から恋心をよせていたエリカだったから良かったものの、普通ならトラウマになるような経験をさせてきた京香に、俺が警戒心を抱くのは当然のことだろう。

押し黙ってしまった俺の様子を見て、エリカは恐縮しきった面持ちで深々と頭を下げてきた。

「本当に申し訳ない。……もうあんな真似は親子共々しないし、させない」

「あーいや、俺としては変な形にはなっちゃったけどエリカと付き合えたのは嬉しかったし。強引過ぎるのにちょっと引いちゃっただけで……」

「そうだよな……反省していると言いながら、また私は強引にお前を連れ出してしまっている。私はどこまで身勝手な女なんだ……」

そう言って彼女はうつむいてしまう。

涙目になっているところを見ると、割と本気でヘコんでいるらしい。

(いや、普段は強引な割に繊細過ぎだろ?!まぁエリカが面倒臭い位に卑屈気味なのは、いつものことだけど。)

彼女に気持ちを切り替えてもらう為にも、俺は話を前へと進める。

「なんだってまたそんな急にエリカのお母さんのところへ?改めての結婚の挨拶にしちゃ、唐突だけど」

「結婚の挨拶ではなく、い、いや、いずれはとは思うのだが、今回はお母様に相談したいことが別にあって……」

さっきまで暗い顔でうつむいていたのに、「結婚」という言葉に今度は顔を赤く染める初々しいエリカは可愛らしい。

コロコロと変わるその表情は正直、見ていて飽きない。

だが今の俺としては、彼女の「相談内容」の方にも興味が向く。

俺が「相談って?」と話を促すと、彼女は深刻そうな顔つきに変わって話をし始めた。

「……私は、いやもしかしたらカイも……秘密警察の監視対象に入っているかもしれない」

「秘密警察?」

「あぁ。私も詳細な理由はまだ分かっていない。ただここ数日、私の身の回りを怪しげな女達がうろついて監視の目を光らせているようなんだ」

「そんなまさか」

「いや、私もまさか自分がと思っていたんだが」

そういって彼女は一枚の写真を取り出す。

「これは……」

写真に映っているのは、荒れ放題になった部屋の中の様子。

乱雑に投げ捨てられた本や衣服、高出力の魔力で少し焼け焦げた痕の残る家具類が生々しく写されている。

「昨日、帰宅したら寮の部屋を荒らされていた。敢えて何者かが侵入したのだと分かるようにか魔導痕跡まで残してあったよ」

「でも監視するにしてもなんでこんな風に……?」

「『心理侵略』という奴らお得意の手法だよ。『お前は監視対象に入っているぞ』という脅しをすることで敵の意思を挫こうというな」

「でも、よりにもよってなんでエリカを?」

エリカは『帝国御三家』の1つ、嬢ヶ崎家出身の大貴族の跡取り娘。

いくら泣く子も黙る天下の「武装秘」と言えど、明確な証拠もない状態で名門中の名門と目される貴族の子女に喧嘩を売るような真似をするとは思えないのだが。

「それはわからない。だが、先日の演習旅行で『紅の狼』とやりあって生き延びたのが、逆になにか武装秘的に引っかるところが合ったのかもしれない。最近、内務省の方から秘密警察の出身の鷲峰
ワシミネ
先生が来ただろう。彼女が専任教官になったのも何か関係あるのかもしれない」

(秘密警察……ルリ姉……そんなまさか)

ぐるぐると自分の頭の中を、嫌な想像が駆け巡る。

だが停車による緩い衝撃が体に走り、俺の思考は一時的にストップさせられた。

運転手が慌ただしく後部座席のドアを開けてくれる。

到着した先は、小ぶりな空港だった。

(ここは……首都空港か)

帝都近郊には6つの空港があるが、「首都空港」はその中でも一番規模的に小さい空港だ。

その分、中心部から一番近く利便性は高いので、財閥関係者や貴族といったハイステータスな人間たちに専ら利用されている。

「お嬢様、東堂様。竜に乗り込むまでは、申し訳ありませんが<不可視の魔術>を掛けたままにさせていただきます」

そういって護衛の魔術師たちの先導の元、俺達はターミナルを抜けて、滑走路へと向かった。

「こちらの飛竜便は嬢ヶ崎家の個人所有の物となっておりますのでご安心ください」
(うわぁ〜〜でけぇ〜〜〜)

滑走路にはプライベートジェットならぬプライベート飛竜便が鎮座している。

ジャンボジェット機程もあるその巨大な竜の胴には、大きなガラスのような材質で出来たカプセル型のゴンドラが括り付けられている。

ゴンドラの乗降口から伸びるタラップを使って乗り込むと、竜はゆっくりと地面を走り始め、勢い良く離陸した。

数分もしないうちに、窓から見える空港の建物は、ゴマ粒のように小さくなり竜の飛行速度の速さを感じさせられる。

飛竜便に乗るのは生まれて初めてだが、離陸してみると意外に揺れが少なく乗り心地は快適そのもの。

確かにこんな便利な物があるなら、この世界
・・・・
で航空機が発達しないのも納得だな。

(それにしてもエリカの部屋のあの荒らされ方、尋常じゃなかった……本当に秘密警察が、ルリ姉が関わってるって言うのか……?)

嬢ヶ崎家の専属シェフが用意してくれた機内食を食べて一息を着いたことで、また俺の思考は渦巻を巻き始める。

ルリ姉は子供の頃から多少、無鉄砲なところはあったが、俺を含めた年下の人間には優しく、人一倍強い正義感の持ち主だった。

そんな彼女が、いきなりなんの証拠もなしに部屋を荒らすよう命令を下すだろうか?

先日の尋問の時のことを思い浮かべても、昔と変わらない優しさを彼女は見せてくれたように思う。

(やっぱり、どうしてもルリ姉がそんな酷いことをする人間に思えない……)

俺が悶々と考え込んでいるのを見て、不安になっていると思ったのか、エリカは俺に優しげに微笑んでくれる。

「カイ、安心してくれ。何があっても、絶対にお前のことだけは守るよ」

そう言って彼女はそっと手を重ねてくる。

エリカのその真っ直ぐな視線を受けて、俺は何も言えなくなってしまった。

(とにかく、まずは到着してからエリカの母親――京香さんに相談してみるしかないか……)

◆◆◆◆
飛竜便による空の旅は1時間もしない内に終わりを告げた。

窓の外には雲の切れ目から緑豊かな大地がちらちらと見え始めている。

嬢ヶ崎の本屋敷は滑走路を備えているようで、俺達の乗る竜はそこに直接着陸する。

「お嬢様、東堂様。お着替えをする時間も取れず申し訳ありませんが、ご当主様がお待ちですので」

滑走路から屋敷まで車を回してくれた女性の執事に促され、俺達は屋敷内のバルコニーへと向かった。

太陽の降り注ぐバルコニーには上品なガーデンテーブルと椅子、それにティーポットやスコーンなどの茶菓子が用意されていた。

テーブルには既に先客がいるようだが、あれは……

「お母様……っ!」
「エリカ、無事で良かった。それに東堂君も……久しぶりだね」

片眼鏡をしたシルバーブロンドの髪の爆乳美女が含みのある上品な笑みを浮かべている。

それを見て、俺の心臓は早鐘を打ち始めた。

別に美女相手だからってわけじゃない。

この鼓動の高鳴りは、軽いトラウマから来る緊張によるものだ。

「お久しぶりです。嬢ヶ崎閣下」

俺は苦笑いを浮かべながら、嬢ヶ崎家当主、嬢ヶ崎 京香に挨拶を返した。

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