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23話 気まずいお茶会を経て

「お母様……っ!」
「エリカ、無事で何よりだ」

金髪美少女なエリカと、銀髪美女の京香。

そんな美しい母娘の親子水入らずの空間に混ざった異物の俺。

気まずいのもあるのだが、何より……少し怖い。

「東堂君も久しぶりだね」

エリカの母親――嬢ヶ崎 京香は、俺に向き直ると灰色がかった銀髪を揺らしながら淑
しと
やかに微笑んだ。

その肌は瑞々しく唇は艶やかで、とても10代後半の娘がいる女性とは思えない。

キラリと光る、右目に掛けた片眼鏡が知的な印象を与える落ち着いた雰囲気の美人である。

(やっぱり怖ぇ〜〜。うぅ、緊張でツバも飲み込めない)

こんな絶世の美女を前にしているというのに、心は沸き立たない。

それどころかさっきから何かが喉につかえたようになって、胸のざわめきが止まらない。

自分自身、繊細な人間ではないと思う。

だが、それでも彼女と対面すると、嫌でも「あの夜のこと」――「飲み物に睡眠薬を混ぜられて、知らぬ間に縛り上げられたこと」が思い起こされてしまい、平常心を保っていられなくなる。

「お、お久しぶりです。嬢ヶ崎閣下」

美女、美少女を眼の前にすると、すぐ頭が浮かれてしまうムッツリスケベなところのある俺だが、緊張の余り思わず声が少し震えてしまう。

「フっ。まだ正式な結婚前とは言え、エリカの婚約者の君とはもう義理の家族だ。閣下ではなく、京香
キョウカ
で良いよ。私も今度からはカイ君と呼ぶことにしようかな」

「え、えーと。じゃあ……京香さん」

挙動不審気味な振る舞いをする俺を見て、エリカは気遣うように体を寄せてくる。

一方の京香はと言うと、余裕タップリに鼻で笑って、横に控える執事が用意したホットティーを優雅に啜
すす
った。

俺は京香のそんな悠然
ゆうぜん
とした態度に、彼女への恐怖心を忘れて……段々とむかっ腹が立ってきた。

こいつ、仮にも薬物を盛った男が眼の前にいるのに、何なんだその態度は?

エリカ程とは言わないが、少しは反省する素振りすら見せられないって言うのか?

こんな美人とは言え、いや美人だからこそかもだが、マジでムカムカするぜ全く。

「カイ君は先程から紅茶や茶菓子に手を付けていないようだね。長旅で疲れたのかな、それとも……」

京香は冷ややかな笑いを浮かべながら言葉を続ける。

「『秘密警察』の件で、震え上がってしまって、まともに食事も取れないのかな?」
「お母様、ちょっと……!」

エリカは眉を釣り上げて、声を少し荒げる。

「ふふっ。意地悪を言ってしまって申し訳なかったね。まぁ、泣く子も黙る『武装秘』の監視対象になっているかもしれないんだ。か弱い
・・・
男性なら怯えてしまうのは分かる」

彼女は娘の抗議を軽く受け流しながらも、またチクッと嫌味を吐いた上で満足したようにティーカップのお茶を飲み干した。

(このアマ、舐めやがって!)

男の俺を徹底的に下に見てるって言うこの態度、気に食わねぇ。

エリカの手前失礼のないようにするつもりだったが……ここまでコケにされたんだ、少しくらいやり返してやってもバチは当たるまい。

「いえいえ、お気遣いはご無用ですよ、閣下
・・

俺はカップを手に取ると、それを傾けて一気に飲み干した。

「以前、お茶に睡眠薬を盛られたことがありましてね。それ以来、慎重になっていたんですよ。ただ、閣下が飲まれているのを見て、安心しました!
いや~しかし美味しいですねコレ。さすが高級品だけあって香りも良いし、それに体が凄く温まる!」

俺は空になったティーカップをわざと音を立ててソーサーの上に置くと、そのままふんぞり返るようにして椅子にもたれ掛かった。

「ちょ、ちょっとカイ!?」
「ほう……」

アタフタとしているエリカとは対象的に、穏やかな表情を保っている京香だが、その目元はピクピクっと引き攣

っているようだ。

(うわ〜〜ついカッとなってやっちまった〜。これ、滅茶苦茶怒ってんじゃねぇか〜〜怖ぇ〜〜!)

俺は京香の背中から怒りのオーラが湧き上がっているのを見て、早速自分のやったことを後悔し始めていた。
(自分でも認めるよ、俺がヘタレってことは。)

気まずい時間が続く。

(場が凍りつくとはこういうことなのかー)と半ば現実逃避していると、エリカが「ゴホンっ」と大げさに咳払いをして沈黙を打ち破ってくれた。

「ご、ごほん。じゃあ、そろそろ今日の本題に入りましょうか、お母様、カイ」
「あぁ、そうしようか」

京香は俺に鋭い視線を向けつつも、それに同意して話をし始めた。

いやぁ〜、助かった、オシッコちびるかと思ったぜ。

俺がエリカにサンキューとウィンクすると、テーブルの下で足を軽く叩
はた
かれてしまった。

悪かったって、そんなに怒らないでくれよ。

◆◆◆◆
「つまり、お母様のお話をまとめると、私が秘密警察の監視の対象になっているのはほぼ間違いないと」

「あぁ」

「カイは以前、保安局、副長官の鷲峰
ワシミネ
から直接の呼び出しを受けて尋問をされたこともあるけど、まだ彼の名前は当局の監視対象者のリストには入っていないようだから、おそらくは大丈夫だろうということですよね」

「そういうことだ」

エリカから速達の相談の手紙を受けてからのわずか数日足らずの間に、京香は侯爵家や経営する商会などのコネクションをフル活用して、秘密警察のことを調べ上げてくれていた。

彼女の調査によるとエリカが武装秘の監視対象に指定されているというのは、まず間違いない事の様で、一方の俺はというと特に監視ターゲットにされている様子はなかったとのこと。

秘密警察内部にいる嬢ヶ崎家の息のかかった職員からの物を含めた、複数の情報筋からの裏付けも取れているらしい。

(国家機関にまで根を張っているのは、流石『帝国御三家』の嬢ヶ崎家と言うべきか。絶対に敵には回したくないな……。
まぁその恐ろしい家の当主様に先程、俺は軽く喧嘩をふっかけてしまった訳だが。)

「でも、どうして私が?」とエリカが眉を潜める。

「『赤い貴族事件』以降、保安局の連中は少しでも『外国勢力と繋がっているのでは?』という疑いの出た連中は、たとえ高級貴族出身者であっても、すぐにマークするとは聞いてはいるのだが……まだ確たる情報を掴めていなくてな。すまない」

エリカが「なぜ」監視されているのかについては分からない。

だが、その身に危険が迫っていることには違いないだろう、と京香は続けた。

「いずれにしても……」

京香は内偵から提出された調査資料の束をまとめ上げる。

「まずエリカ、お前はほとぼりが冷めるまでは、しばらくここにいなさい。軍学校の方には私から連絡をしておく」

「でも、お母様……」とエリカが食い下がるのを無視して、京香は続ける。

「それからカイ君。君は逆に軍学校に戻った方が良いだろう。エリカと同じタイミングで軍学校を休んだとなると、当局からいらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
幸い、まだ君が嬢ヶ崎の家に婿入り予定の婚約者であることは情報統制が効いていて漏れていないようだし」

「そうですか……俺としてはエリカの側にいたい気持ちもあるのですが、仕方ないですね」

俺の言葉に京香は少し驚いたようで、わずかばかりその目を見開かせて俺を見つめてきた。

何か変なこと言ったか、俺?

「お母様……っ!」
「……急に大きな声を出してどうした、エリカ?」

エリカが少し苛立ったように声を出すと、京香はしかめ面をしながら娘に向き合う。

「カイを軍学校に1人で帰させるのは、私は反対です」

「……なぜだ?」

「先程も少しお話に出しましたが、カイは以前、武装秘から直接呼び出されて尋問を受けたことがあります。
それにカイは私と演習旅行でバディを組んだ関係で、よく学内で行動を共にしていました。ですから彼が既に当局に疑われている可能性は十分にあり得ます」

「だから、秘密警察の監視対象リストには彼の名前は無かったと言っているだろう」

突然の娘の反抗に、京香は苛立たしげに指をテーブルに叩きつける。

「でも、だからと言って彼が本当に監視対象に入っていない
・・・・・・
という証拠もない以上、油断は出来ません」

「ないということは証明することは出来ない。それは悪魔の証明というやつだ」と京香が呆れた調子で言葉を返す。

だがエリカは、そんな露骨に苛立った様子の京香のことなどお構い無しといった調子で主張を続けた。

「仮にカイにまだ疑いの目が向いていなかったとしても、監視対象の私が居なくなったら、次は彼に監視の目が行く可能性だってあります。」

「だが、彼が戻らないとなるとお前との関係を余計に勘ぐられる……」

「ですから……!」

自分の言葉を強引に遮る娘に、京香はわずかにたじろいだ。

「ですから、彼と一緒に私も軍学校に戻ろうと思います!」
「エリカ、それは危険すぎる……」
「少しでも彼が危険な目に合う可能性が減るのなら、それも構いません!」

エリカはそう早口で捲し立てると、「お話は以上です!」と言って乱暴に席を立って屋敷の中に引っ込んでしまった。

えーと、エリカさん。さっきの俺より余程、貴女の方がアグレッシブなんですけど。

というかこの気まずい空間に俺を取り残さないでくれますか〜。

俺の側に座っている京香は、今しがた起こった事に頭が若干追いついていないようだった。

彼女は難しい顔をしながら「近々、私が離縁する話もエリカにしようと思っていたのだが……」と何かボソボソと呟
つぶや
きながらこめかみを抑え込んでいる。

「えーと、とりあえず。お茶をもう一杯いただけますかね?」

俺は気まずさに耐えかねて、少し距離を取って控えていた執事さんにお願いしてホットティーのお替りを頼んで、場を濁すことにした。

◆◆◆◆
嬢ヶ崎家の本屋敷内には、本格的なアートギャラリーが併設されている。

絵画廊に並ぶのは、歴代の当主達が直々に買い付けた美術品の数々。

「はぁ……」

美しい田園を描いた風景画を前に、京香は憂鬱なため息をついてしまう。

いつもなら仕事で疲れた彼女の心を癒やしてくれるコレクションたち。

しかし今日ばかりは、その美しさも心に響いてくることがないようだ。

京香は首を振って、心の中で独り言

ちる。

(娘の態度に悩んでいるなんて……私らしくもない)

彼女は気持ちを切り替えるためにギャラリーの奥に展示されている「竜の彫像」の方へと足をむける。

「竜の彫像」は嬢ヶ崎家が代々受け継いできた家宝の中でも特に貴重な品だった。

嘘か真か、なんでも数百年前に、別の世界から舞い降りたという異世界人が作った逸品だとか。

その真偽はさておき、京香は子供の頃から「竜の彫刻」が大のお気に入りだった。

屋敷の天井にまで届くほどの巨大さを誇るその像は見るものを圧倒する。

ある美術評論家などは、この彫像の迫力と造形の生々しさには恐怖すら感じると評した程だ。

だが、京香はその彫像を見ていると不思議と妙な安心感を覚えてしまう。

それが未だになぜなのか、彼女自身にもよく分かっていなかった。

(む、あれは)

「竜の彫像」の前には先客の男が1人。

彫像の大きさに圧倒されて、まだこちらに気づいていないようだ。

京香はなぜだが急にその場から立ち去りたい気持ちに駆られた。

だが彼女がその決断をするより前に、男の方が先に京香の姿を認めたようだ。

「あ……京香さん」
「あ、あぁ、カイ君。ここに居たんだね」

京香は今更、踵
きびす
を返す訳にもいかず、何となく居心地の悪さを覚えながらもカイの隣に並んで「竜の彫像」を一緒に眺めることにする。

しばしの沈黙を経て、カイがポツポツと喋り始めた。

「なんだか不思議な魅力がありますね、この竜の彫刻は……」
「……」
「一見すると威圧的なのに、どこかほっとする感じがするというか」
「……そうかもね」

会話はそこで途切れてしまった。

京香は「竜の彫像」に対して自分と似たような感想を抱くカイに、少しだけ好意を持ち始めていた。

だが同時に、彼にどう言葉を返せば良いのか分からず押し黙ってしまう。

カイはそのまましばらく彫像を見つめていたが、ふと何かに気づいたようで、また口を開いた。

「あぁ、わかった。目だ。目が優しいんだ、このドラゴンは」
「目?」
「はい。こうして近くで見てみると、瞳の奥にどことなく優しさのような物を感じるんです」

京香は改めて「竜の彫像」の顔を見た。

言われてみれば確かにそうだ。

彫像の竜の瞳は、爬虫類のそれのような冷たさはなく、どこか暖かさを感じさせてくれる。

まるで幼き日に別れた母のような……。

(そう言えば、カイ君も母君を亡くしていたのだったな)

これまでの苦い人生経験を経て、男性全般に憎しみに近い感情を募らせてきた京香だったが、不思議と眼の前の少年に対しては嫌悪の情が湧かない。

むしろその逆。

カイに対して、妙な親しみと申し訳なさを覚えている自分に気づき、京香は戸惑った。

「あの……」
「少し良いかな……」

二人の声が重なる。

カイが「どうぞ」と話を譲るので、京香は頭をしずしずと下げながら謝罪の言葉を口にした。

「あの時は……本当に申し訳なかった。謝っても許されるようなことではないが……」

侯爵家の当主でもある京香が急に頭を下げたことで、カイは慌てふためいた様子を見せる。

「あ、あの京香さん、頭を上げてください。俺……自分の方こそ、先程はあんな失礼な態度を取ってしまってすみませんでした」
「いや、君が謝ることじゃない。最初に不躾な態度を取った私の方に非がある」

お互いに頭を下げ合う二人。

しばらくしてどちらからともなく顔を上げると、二人は同時にはにかむように笑いあった。

それからしばらくカイと京香は、屋敷内の美術展示を見て回りながら何気ない会話を楽しんだ。

芸術の素養がないカイだったが、京香の解説はわかりやすく聞き入っていた。

「カイ君、あんな事をした私が頼める義理ではないのだが……」

展示室の終わり際になって急に京香が神妙な顔をする。

「君も知っていると思うが、この国の貴族は基本的に多婦一夫の『重婚』の制度に従うことになっている」

「はい、『帝国』の貴族典範では、健康な男子は最低でも3人の妻を娶らないといけないと決まっているとか……」

「あぁ、その通りだ。嬢ヶ崎家は当主の私が言うのも何だが……余裕のある家だ。今更、他の名家と無理をして付き合いをしなければいけない状態にはない」

京香が何を言いたいのか、カイはいまいち掴みかねているようで黙ったままでいた。

「だから、初婚は無理矢理な形を取ってしまったが……他の妻は君が好きな人を選ぶと良い。嬢ヶ崎家が君の選ぶ人に注文をつけるようなことはしない。ただ……」

京香はすがるような目でカイを見つめて言葉を続けた。

「ただ出来れば、他の妻を迎えた後でも……あの娘を、エリカのことも邪険にしないでやって欲しいんだ」

カイは緊張した面持ちで彼女の言葉に耳を傾けていたが、最後の言葉を聞くと穏やかな笑みを見せた。

「色々と変なことにはなっちゃいましたけど、自分はエリカのことが前から好きでしたし、愛していますから。だから、その、何と言うか……安心してください。京香さん、いえ、もうお義母さん
・・・・・
ですかね?」

「あぁ、本当にありがとう。あの子のことを、これからも頼む」

京香がそう言うと、彼は展示室の外で心配そうな顔を見せるエリカへと駆け寄っていった。

2人が仲睦まじそうにする様子目にした京香の胸にチクリとした痛みが走った。

本来であれば、自分と似た容姿で色々と苦労させてしまっている愛娘
まなむすめ
の幸せを素直に祝福するのが当たり前のことなのだろうが。

カイの隣に座る女が自分だったら……というあり得ない妄想が頭に浮かび上がってくる。

(私は一体何を考えているんだ!!)

京香は自分の考えを振り払うように頭を振った。

(お義母さん……そう……私は母親であって女ではないんだ。私では彼の隣には立てない)

カイの「お義母さん」という言葉を思い出すと、胸の奥底が締め付けられるような感覚に襲われる。

(考えてはいけない。こんなことを考えてはいけない……っ!『私も、彼に娶って欲しい』なんて……。娘の夫に対してこんなことを考えるなんて、私はどれだけ薄汚れた女なんだ……っ!)

京香は涙目になった顔を見られまいと、ふらふらとした足取りで2人から離れていくのだった。

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