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26話 ルリの決意

「ん?俺、今何をして」

頭が少しぼんやりするし、視界の焦点も合わない。

そして妙に気持ちの良い疲労感が体を覆っている。

何度か目をこすって辺りを見渡す内に、ようやくここがルリの教官室で、先程まで個人指導を受けていたことを思い出してくる。

ルリはと言うと、教官室の換気をしたいのか窓の取っ手を持って何度もバタバタと揺り動かしていた。

窓の外には既に三日月が顔を覗かしている。

あれ、まだ夕方だったはずじゃ……あ、でも時計を見るともう19時を回っているのか。

「も、もうこんな時間なのね。そろそろお開きにしましょう!」

ルリがわざとらしく手をパンっと叩いて指導の終わりを慌ただしく告げ、次の個人指導に使う戦術課題を手渡してきた。

心なしか顔の赤い彼女の顔を見ると、口の端に縮れた毛が1本、ニョロンと張り付いているのが見える。

「あれ、ルリ姉。口にゴミ?何か毛みたいな物が付いてるよ」
「え?あっ!」

ルリは口元に着いた縮れ毛を取って、一瞬怪訝な顔をした後に「あっ!」と小さな悲鳴を上げて慌ててそれをポケットに隠した。

なぜポケット?側にあるゴミ箱に捨てれば良いのに、と思ったがまぁそんな細かい事はどうでも良いか。今は、それよりも……。

俺は部屋を退出すると、すぐに開きっぱなしになっていたファスナーをジジジッっとお仕上げた。

(俺、最近疲れが溜まってボケてるのかなぁ。ここを開けっ放しにしてるなんて。ルリ姉に気づかれてないよな?)

◆◆◆◆
「はぁ、なんとか気づかれずに済んで良かった……。肝が冷えたわね」

ルリは、ポケットから取り出したカイの陰毛
・・
を少し頬を染めて眺める。

フェラチオをしていた時かアナル舐めをしていた時かわからないが、口に付着してしまっていたようだ。

先程まで我を忘れてカイの精を搾り取ろうとしていた彼女だが、少し時間が経ったおかげか今は気持ちを落ち着けることに成功したらしい。

(そろそろね。)

ルリは壁掛けの時計で時間を確認すると、執務机の引き出しから1枚の丸型の青銅板を取り出した。

板の表面には神代文字と複雑な魔術的図像が刻み込まれている。

「求めに応じて、その姿を表しなさい」

ルリがそう唱えると、青銅板に描かれたペンタクルは青い光を放ち始め、次いで半透明の女の形をした使役霊が数体現れた。

「繋いで」

ルリの言葉を受けて、使役霊たちは恭しく頭を下げると、その体を徐々に消していく。

数秒の後、金属版の表面が小石の落ちた湖面の様に波打ち、それが落ち着くと丸メガネにオカッパ頭の女――ルリの長年の部下である丸井の姿が表れた。

「お待たせしました。では毎度のことで申し訳ありませんが」

丸井は、そう言って複雑で難解な『魔導制御式』が書かれた一枚の紙を取り出し、金属板越しのルリに見えるように掲げた。

ルリは、<変化の魔術>などを使った間諜
かんちょう
の存在を警戒していた。

「自分の姿に化けたスパイが部下から情報を抜き出すかもしれない」そう思った彼女は、組織内の信用のおける一部の部下に対して特別な人物認証の手段を与えていた。

それは、常人では扱えないような複雑な魔導計算式を出題させる、というものだった。

「2分のπね。でもこのくらいの計算なら私じゃなくても魔導解析学の論文を読んでいる人間なら一瞬で解けないかしら?今度はもう少し複雑な展開を用いる物にした方が良いわよ」

「いえ、紙もペンもなくこんな一瞬で計算が出来るのは、世界広しと言えど貴女か『人民連邦』の『ノイマーニコフ博士』くらいなものですよ、大佐……じゃなかった。鷲峰副長官」

事前に決めた合言葉であれば漏れれば終わりだが、計算式ならその場での演算能力が問われるのでより堅固な人物認証になる、というのがルリの言い分だった。

実際、こんなやり方を採れるのは『帝国』では彼女くらいのものだったので、今の所、有効に機能していた。

「まぁ、良いわ。それじゃあ、例の『連合王国』の連中の件だけど、もう映像の解析の方は終わってるのかしら?」

「えぇ、既に鑑識
かんしき
より上がっています。ただ、相変わらず例のダークスーツの女
・・・・・・・・
の正体はまだ……」

丸井の言葉に続いて、青銅の鏡面の映像が切り替わっていく。

(砲兵科の岡部教官に、水路科の河辺教官、竜騎兵科の櫻井少佐もか、錚々
そうそう
たるメンツね、これは。)

青銅の鏡面に映るのは、軍学校の教官や軍の高級幹部達が酒池肉林のパーティーにうつつを抜かす様。

宴の中心にいるのは三人の女。

どんちゃん騒ぎをする周りを尻目に、落ち着いた様子で酒を飲み交わしている三人。

(『連合王国』のファイラス一等外務書記官に、軍学生の花谷、それに……例のスーツの女)

ファイラスも花谷も<変化
へんげ
の魔術>を使っているようだが、高位の使役霊の目を通して見ればその正体は一瞬で見破ることが出来た。

だが、黒いスーツに身を包んだ女はいくら目を凝らしてもその正体を表すことはない。

顔の周りにモヤの様な物がかかっている。

どうやら使役霊の目に特化した認識阻害を引き起こす魔道具を使っているようだ。

「丸井、これを記録撮影した使役霊のレベルは?」
「レベル7。最上位クラスの霊で、召喚した術者もかなりのベテランですよ」

(上位使役霊の目すら誤魔化すなんて魔導技術、『連合王国』はおろか『帝国』にもないわ。どうやら相当厄介な連中が敵にはいるようね)

この女の裏に相当な魔術師集団や組織が関わっているのは、まず間違いないだろう。

映像を眺めるルリが、空気を手繰り寄せるように握りしめると、鏡面の映像がズームアップされ、三人の会話がはっきりと聞き取れるようになる。

「それで、エックス殿。例の手筈はどうでしょうか?貴族連中は出るでしょうが、軍学生の方となると私ではコンタクトが取りづらいので」

ファイラスがでっぷりと太った腹を撫でながら不安げに花谷に話しかける。

どうやら花谷は本名ではなくエックスと周りから呼ばれているらしい。

「問題ない、軍学校の中でも特に魔導抵抗力の高い連中には、既に招待状を送ってあるし、ほとんどの連中から出席で返事が来てるよ」

一方のエックスこと花谷はそれに対して横柄に応えた。

「カーテン
・・・・
の準備の方も……」

「あぁ、そちらも着々と進んでいる。魔術師が1個師団分集まっても半日は持つさ。そう、イチイチ心配するな、ファイラス」

エックス(花谷)が無遠慮にファイラスの本名を口にすると、ファイラスはブルブルと震えて辺りを見渡し、花谷はそれを見てケタケタと意地悪く笑った。

「それよりも例の約束の方は?彼の、東堂の件は、そっちで十分に話が通ってるんだろうな?手違いで殺してしまうなんてことがあったらタダじゃおかねぇからな」

今度は花谷がファイラスに詰問するように話を投げかけると、代わりにソファに座るダークスーツの女がそっけなく答えた。

「問題ない」
「『問題ない』、そんな投げやりな答えでこっちが納得すると思ってるのか?」

ダークスーツの女が馬鹿にするように肩をすくめるのに、花谷は段々と声を荒らげ始める

「何だその態度は……それにしても相変わらずお前は吐き気の出そうな顔をしているな。その顔を見ているとあの女のことを思い出してムカムカするんだよ!コッチは!
せめてワタシの前では別の相手に化けるなり……」

ヒートアップする花谷
エックス
を、ファイラスが宥めにかかった。

「まぁまぁ、エックス殿。例の件が成功した暁にはキッチリとそちらの二条件は守らせていただきますよ。政府内のしかるべきポスト。それに、例の殿方の身柄確保……」

「無傷での
・・・・
確保な?」

「えぇ、えぇ。よく承知しております。しかし、政府首班の席の話よりそちらが先に話題に出るとは驚きですな。その例の男性というのは、余程の美丈夫と見ましたが」

「あぁ、奴は最高だよ。どこぞの馬鹿が邪魔しなければワタシが借金の形に身請け可愛がってやったって言うのに。あぁ、それで思い出した、おい、ファイラス。
作戦日なんだけどよぉ、例の別働隊にワタシも混ぜてくれよ。それでさぁ……」

突如として青銅板の鏡面に、白黒のノイズが走り始め、次いでプツンと映像が途切れてしまった。

「映像はここまでです。例の軍学生……エックスと名乗る花谷の方はいつも通り昨日の木曜日、夕方6時に軍学校を抜け出してこの会合に参加し、明け方ごろに帰宅しています」

丸井の補足にルリは「ふむ」と言ったきり、しばらく黙りこくった。

花谷の口から「彼
カイ
を手篭めにする」云々という発言が飛び出たことに、ルリは火砕流の様なドロドロとした怒りを覚えていた。

だが、それでも彼女の頭の中は氷河の中のように静かでクールなままだった。

(例の手筈と招待状、カーテン、それにあのダークスーツの女……)

ナゾばかりが積み重なっていく。

だが、何かしらの人が多く集まるような、それも軍学生を含めた高位の魔術師が集まるようなイベントに関連して、連中が事件を起こそうとしているというのは間違いなさそうだ。

ルリは丸井に命じて、直近の帝都で行われる目ぼしいイベントを洗い出させ、イベント当日のその会場に幾人か信用の置ける古参の部下を着けるように命じた。

「了解しました。では、こちらの方で人員のアサインは済ませておきますので。本日はこれで終わりにしますかね?鷲峰副長官」

通信を切ろうと思ったルリだったが、執務机の底に魔導隠蔽してあった資料をパラパラと見ている内に気が変わった。

「そうね……あ、いや。別件だけど。例の嬢ヶ崎さんの件」
「あぁ、例の新人がやり過ぎた件ですか」

ルリは調査資料内にある写真――荒らされた嬢ヶ崎 英里香の部屋の様子が映っている――を見て改めてため息をつく。

「嬢ヶ崎の動向を探れ」とルリが命じたのを、新人の調査員が忖度をしたのか勘違いをしたのか……通常であれば、過激な無政府主義者相手にするような嫌がらせを仕掛けてしまったようなのだ。

しかしいくら新人がやり過ぎた事だと言っても、責任は上司であるルリにある。

「そう。あれね、とりあえず調査を一旦ストップで保留にしてもらってたけど。完全に取りやめで良いわ。監視リストからも除外でこれまでの資料も全て破棄でお願い」

「承知しました」

(カイ君を彼女が無理矢理脅して婿入りさせてるのでは、と思って調査を命じた訳だけど、とんだ思い違いだったみたいね……。)

通信を切ったルリは一人真っ暗な夜空に浮かぶ月を物憂げに眺める。

(彼は心の底から嬢ヶ崎さんの事を愛しているし大事に思っている。おそらくは私の事よりも。)

ルリのルビーのような瞳にジワッと涙が溢れ始めた。

だが、彼女はすぐにそれを袖で拭うと「新しい作戦計画」を建て始めた。

(既に嬢ヶ崎さんの私に対する好感度はゼロ、ううんマイナスでしょうけど……今からでも挽回するわ!せっかく専任指導の立場に就いたわけだし!彼女と仲良くなって、カイ君の奥さん仲間に入れてもらう!)

カイはルリの人生そのものだった。それを簡単に諦めるわけにはいかない。

(負けるな鷲峰 瑠璃!!絶対に嬢ヶ崎さんにも気に入ってもらって、カイ君と結婚するんだ!!)

ルリはそう心の中で自分を奮い立たせると、月に向かって拳を突き上げた。

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