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ギャルとの出会い

華の大学生活。

おそらく入学する前までは、みんながそんなことを想像しているに違いない。

友達と夜遅くまで飲みに行ったり、ゲームやカラオケをしてみたり。
はたまた、異性とのドキドキの出会いが、講義内のある教室やサークル活動の中で―。

「って、そんな都合のいいことは何も無いと……」

講義室の中で、一人ぽつんと席に着く成宮樹はため息交じりにぼそっと独り言を呟いた。

冷静考えてみれば、高校生時代からド陰キャでそこから変わった点が無いので、そんな劇的変化が起こるわけもない。

高校生活同様に、入学時に周りの学生たちに声をかけることを躊躇っていたら、周りはどんどんと仲良しグループを形成。
サークルも、大体勧誘活動している人がめちゃくちゃチャラいか押しの強い陽キャ過ぎて、逃げ出してしまった。

気がつけば単独ソロという、今までの陰キャ人生と何ら変わりない生活が続いている。

「可愛らしい女の子の方から声をかけてくれるなんて、所詮はマンガやドラマだけの世界……と」

そんなことをぶつくさ言っていると、講義室の中にはどんどんと学生が入ってくる。

「あー、うん。え、講義? ちゃんと来てるってぇ。流石にみんなの単位がかかってるし、月一当番位はちゃんとこなすから信用してよー!」
「!?」

そんな緩い会話を電話でしている金髪ギャルが、樹の隣に座ってきた。
思わぬ状況に樹はびっくりしたが、ギャルの方は特に樹に目もくれることもない。

取り敢えず、目の前の席が空いていたから適当に座ったという感じだ。

綺麗な金髪に、思わず釘付けになってしまうほどよ大きな胸。
シュッと締まったお腹が、臍だしファッションによってより強調されている。

如何にも遊んでいるイケイケのギャル、といったところだ。

(本物のギャルって感じだ……)

少し前まで校則がそれなりにある高校生だった樹にとって、非常に新鮮な光景である。

あまりにも過激な見た目でありながらも、思わず見惚れてしまう美しさもある。

そしてそんな魅力的なところに加え、完全に陰キャである自分とは対極側の世界にいる人だとも実感させられる。

おそらく彼氏がいて、場合によっては色んな人とそういう事をしている可能性も……。
童貞から進歩のない樹からすれば、それだけ魅力的でありながらも、接することなど間違いなく今後もない存在だと思わざるを得ない。

(まぁ話すこととかはないだろうけど、隣に美人がいるだけラッキーだと思っておくとするか……!)

特に大きな変化もなく、冴えない大学生活。
その中では、なかなかに良いイベントになっていることは間違いない。

ずっと見ていたいが、見ていることがバレて怖い絡み方をされても困る。
チラチラと気づかれない程度にしておくのが賢明か。

「あ、やっば。久々に講義に来たから、筆記用具とか諸々忘れたんですけど……」

持ってきた鞄の中を物色しながら、彼女はそんな事を言っていた。
「あの、良かったら自分のやつ使います?」
「えっ、いいの!? 助かる〜!」

こういう時、基本的に相手から何か申し出が無い限りは不干渉を貫くのが普通なのかもしれない。

ただ、こんな自分と真逆のような雰囲気の人が近くにいることも珍しいし、少なくとも目の保養になっているわけで。

(それに、意地悪とか迷惑をかけてくるような相手でもないし、困ってるなら助けても罰は当たらないだろうし)

そんな軽い気持ちからの一言だったが、そのギャルは嬉しそうに声を上げると、樹の筆箱から一本のシャープペンシルを取り出した。

「君、優しいねぇ。今年入った一年生かな?」
「はい、そうですが……」

「一年生かな?」って、この講義自体は一年生が受けるものなので当たり前だと思うのだが……。

「そっかそっか! 私は二年生なんだけど、単位稼ぎで出席してるんだ〜!」
「な、なるほど!そういうことだったのですね!」
「なるほど、後輩君かぁ……」
「あ、あの……!」

彼女はそう言うと、グッと樹の方に体を寄せてきた。
いい匂いと、右腕に柔らかい感触が伝わってきて、まるで感電したかのような衝撃が走った。

そして同時に、下半身が大きく反応してしまっている。

「顔赤くして、可愛いねぇ」
「うう…」

明らかに子供扱いされている。
悪いように見られていないのは分かるが、ここまで緊張してしまう自分の耐性の無さにもがっくりしてしまう。

「ん、これって今からやる講義の資料?」
「はい。とはいっても、今までのやつで今日のはまだ配られてませんが」
「すっご、こんなにちゃんとまとめてるの!?」
「い、一応……」

彼女は、樹が持ってきていた講義資料を入れたファイルを手に取ると、驚いていた。

「これまでみんなが持って帰ってきたのとはベツモノなんですけど……」
「?」

イマイチ何を言っているのか意味が分からないが、ちゃんと出来ていることを評価されているようで悪い気はしない。

「ねぇ、この資料スマホとかで撮らせてもらっても良い? タダとは言わないからさー!」
「え、ええ。もちろん構いませんよ。それに、タダで大丈夫ですよ? 減るものでも無いですし」

すごい勢いでお願いされ、やや押され気味に頷いた。

「ほ、本当に? こんなに頑張ってるもの、そんな気軽にオッケーしちゃって大丈夫?」
「はい! お役に立つのであればどうぞー」

これが、自分の事をおちょくりそうなクソチャラい男とかなら見せる気にもならないが、別にそうでもないなら断る理由もない。

それに、これがまた美人な先輩と来たものだから尚のこと。

「ありがとっ! ではでは、遠慮なく! これで私達の単位も救われそうだー」
「それは何よりです」
「君、名前はなんて言うの?」
「成宮樹です」
「なら、ツッキーって呼ぼうかな! 私は三嶋瑠奈! よろしくね?」
「瑠奈先輩……ですね? よろしくです!」

始めて女の人からあだ名で呼ばれた。
そのことだけでも、嬉しさのあまり舞い上がってしまいそうだ。

「可愛い反応するなぁ。あんまり女の子と話したりしないのかぁ〜?」
「えっ!? えっとその……。はい」

言うまでもなく図星だが、この数分間のやり取りだけで簡単に見抜かれるほど単純過ぎるという事実。

「そっかぁ。ってことは、今も結構ドキドキしてる感じ?」
「……はい」
「可愛いねぇ。童貞君ってことだ」

ドキドキしているだけでなく、下半身もすごく反応してしまっている。

最悪ここまではバレてもまだマシだが、下半身の反応までバレてしまうと、流石にまずい――。

そう思ったときだった。

「じゃあ、ここもそういうことかなっ!?」

横から手が伸びてきたと思うと、ガシッと股間の部分を軽く鷲掴みにされた。

「うあっ!?」

かなりの衝撃に思わず飛び上がってしまった。

「えっ……?」

瑠奈は樹の股間部分をつかんだ瞬間、何やら驚きを表情を浮かべた。

「ねぇ、ツッキー」
「は、はい。何でしょうか……?」
「この講義の後、時間もらえない?」
「な、何でですか? というか、それよりもこの手を離してもらっていいですか……?」
「ダメ。離してほしかったらはいと言いなさい?」
「は、はい分かりましたから!」
「よーし!」

ようやく解放された樹は、講義を受ける前から荒い息を立ててしまうことなった。

しかし、これは今後の樹の生活を変える前フリにしか過ぎなかった。

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