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第1話 社畜なダンジョン冒険者、JK配信者たちを助ける

「ああ、仕事が嫌だ……。ダンジョンになんて潜りたくない……」

ダンジョン探索。それは命を賭けて、金を手に入れる仕事だ。
いくら大金が手に入ると言っても、誰だって命を賭けたくはない。

でも、橋川進一(27歳)――俺は、ダンジョン冒険者として、今日も地下の迷宮に潜っている。

それもこれも、大学を卒業しても、まともな就職先が見つからなかったからだ。
俺一人なら、バイト生活でも良かったのかもしれないが、中学生の義妹の学費を考えると、金払いの良い仕事をしないといけない。

だから、俺は今日も命を賭けて、きついが儲かるダンジョン冒険者稼業をやっていた。

ダンジョンが地球に現れて10年。出現当初は世界は大混乱になった。日本でも首都東京がダンジョンからあふれるモンスターで壊滅。数千万人単位の死者を出した。

だが、人はどんなものにでも慣れてしまう。ダンジョンはいまや日常の一部だ。

ダンジョン冒険者も、一つの職業となった。

ダンジョンを探索し、モンスターを倒し、貴重なアイテムを手に入れる。やることは明確だ。
危険なモンスターを地上に出さないため、そして、資源と食料、人類の生存圏を確保するため、冒険者たちが必要とされるのだ……けれど。

「『第20階層で、スターゴーレムを30体倒して、レアアイテムの星晶石を回収してこい』と……人使いが荒いな、うちの会社も」

俺はぼやいて、周りを見回した。
ダンジョン、という名前ではあるけれど、地下の薄暗い迷宮とは限らない。

実際、この笹島ダンジョン第20層は、どこかの異国の宮殿を思わせるような、大理石の美しい空間だ。

「まずは一体……と」

星型の巨大な人形・スターゴーレムを、俺は魔法剣を一閃させて倒した。

早く仕事を終えて帰ろう……。

ところが……。

「ねえ、そこのおっさん、邪魔だからどいてよ!」

突然、甲高い声がする。若い女性……というには幼すぎる声だ。
振り向くと、そこには……セーラー服姿の少女たちがいた。

同じ学校に通う女子高生なんだろう。青いスカーフと青のスカートが印象的。このあたりでは有名な、お嬢様学校の制服だ。

4人いるのは、冒険者パーティなのだろう。そのなかの気の強そうな、茶髪の小柄な少女が俺を「おっさん」と呼んだらしい。後衛の賢者のようだ。

しかし、俺はまだ27歳なんだが……。まあ、こいつらみたいな高校生ぐらいの年齢からすれば、アラサーはおっさんなのか。

「邪魔とはなんだ、邪魔とは。俺は君たちの活動を何も邪魔していないぜ」

「あたしたち、配信してるの。ダンジョン配信。そこにあんたみたいなのが映り込んだら台無しじゃない」

「ああ……なるほど」

ダンジョン配信、ね。ダンジョンが日常の一部となってから、ダンジョンでの冒険を動画サイトで配信するのも流行るようになった。

ダンジョンでの冒険はたしかに見ている分には面白いかもしれない。人気配信者ともなれば、数百万人ものチャンネル登録者数がいる。収益も莫大だと聞く。

アイドル的な人気のある美人女性の配信者もいるし、この少女たちも、有名配信者に憧れたのかもしれない。
よく見ると、全員、かなりの美少女揃いだ。

あるいは生活に困っているのか。ダンジョン出現以降、この国は滅茶苦茶になってしまって、貧富の格差が拡大する一方。法律もまともに守られていない。

中学生や高校生でダンジョン冒険者をしているのは、そうしないと生活できないからということもある。

少女のうち、もう一人の真面目そうな黒髪の子が、慌てた様子でもう一人の子を止める。

「ちょ、ちょっと実菜! 失礼でしょう! す、すみません……」

そう言って、彼女は頭を下げる。
礼儀知らずばかりではないらしい。

茶髪の少女――実菜と呼ばれた子は憤慨した表情を浮かべる。

「なに謝ってんのよ、玲奈」

茶髪の子が実菜、黒髪の子が玲奈、か。
名前を覚えたところで、今後会うこともないが。

しかし、一応警告はしておく。

「べつにどくのはいいが、ここから先は<下層>だぞ」

「知ってるっての! 下層に行くつもりだったんだから」
実菜は吐き捨てる。
ダンジョンは1~10層が上層、11~20層が中層、21~30層が下層、それより下が深層と呼ばれる。下層・深層は並大抵の実力で入れるわけじゃない。

「Cランク冒険者の君たちには荷が重いんじゃないか?」

「そういうあんたはDランクでしょう?」

冒険者は国に登録する必要があり、与えられた階級章を胸元につける義務がある。
少女たちは全員Cランク、俺はDランクだ。

「まあ、たしかに俺はDランクだが、このへんは慣れたものでね。ソロでも俺は平気なんだ。だが、このダンジョンで下層に行くのは絶対にやめたほうがいい」

「大丈夫よ。十分に準備をしてきたもの。チャンネルを見ている人たちに、下層に行くって宣言したし。それに……」

実菜という少女が少し小声で言う。本当は不安なのか……?
俺はどう対応したものか、迷った。

下層も一番上の階なら、Cランクの冒険者4人でもなんとかなる可能性は高いかもしれない。だが、なんとかならず、全滅の恐れもある。

まあ、だが俺には関係ないといえば、関係ない。

「やめとけ、と言っても、聞かないんだろうな」

「ええ。あたしたちは……絶対に下層に行かないといけない理由があるの」

実菜はこくりとうなずいた。他、三人の少女も覚悟を決めているらしい。
「下層に一瞬行って、モンスターを一体倒す様子を配信するだけですから。ご心配はありがたいのですが……」

玲奈という子が、申し訳無さそうに言う。玲奈という子によると、彼女たちのダンジョン配信チャンネルは伸び悩んでいて、かつ実力もなく見た目しかないと揶揄されているとか。
それで下層に行って、強さをアピールし、登録者数を増やそうと思ったらしい。

まあ、いくら女子高生でも、自分で望んでダンジョンに入ったのだから、「大人」として責任を取ることになる。
覚悟を決めた冒険者たちを、俺は止める義務も権利もない。

俺は黙って、彼女たちが下層へと降りていくのを見送った。
さて、俺はこのまま仕事を続けてもいいのだが――。

「あー、下層にちょっと、野暮用があったのを思い出した」

俺は一人、つぶやいてみる。
野暮用なんてない。
こんなところで、ずっと年下の少女たちが死ぬのは忍びない。ストーカー扱いされそうで嫌だが、少し様子を見守るぐらいは許されるだろう。

まあ、いざとなったら、俺が彼女たちを守ることができる。
そう。俺はソロのDランク冒険者だが、下層、いや深層でも生還することができる。その自信があった。

俺が下層へと降りた瞬間、

「いやあああああああっ。誰か助けてえええええっ!」「やだっ……わたし、まだ死にたくないですっ! あああああああっ」

少女たちの甲高い悲鳴が聞こえてきた。
下層入り口で、実菜と玲奈たちは、醜い化け物たちに押し倒され、組み敷かれたり背後から襲われかけていた。

衣服を脱がされて、半裸になっていた。抵抗するたびに胸が揺れる。

人間の女性をさらうタイプのいわゆるゴブリンだ。ただ、普通のゴブリンは大して強くないし、こいつらも負けてはいなかっただろう。

プテラゴブリン。背中に翼がついた、下層でよく見るタイプのゴブリンだ。いきなり強敵に当たってしまい、完敗したらしい。

実菜の方は恐怖のあまり失禁すらしているようだった。スカートにじんわりと染みが広がっている。その実菜が、涙目で俺の方を見た。

「た、助けて……! お願いっ……! ああっ……」

ゴブリンに胸を揉みしだかれ、実菜が悲鳴を上げる。

一方、玲奈は衣服を引き裂かれ、ブラウスもスカートもボロボロになっているし、腕に怪我もしているようだ。ブラをも脱がされ、玲奈はひっと息を飲む。桜色の突起が露わになり、玲奈はそれを腕で隠そうとするが、ゴブリンがそれを許さない。

それでも、そんな彼女は俺の方を見ると、「あなただけでも逃げてください!」と叫んだ。
俺はため息をついた。

「まったく……言わんこっちゃない」

俺は魔法剣を一閃させる。それだけで、プテラゴブリンの群れは全滅した。

「え……?」

実菜たちはあまりのあっけなさに目を見開いて驚愕していた。

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