Side 御城実菜:【実菜たちの初めての下層へのチャレンジ配信!】
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【実菜たちの初めての下層へのチャレンジ配信!】
――どうして、こんなことに……。
エンシャント・ドラゴンを前にして、あたしは、震える身体を抑えられなかった。
話は少しさかのぼる。
あたし――御城実菜とクラスメイトの3人は、冒険者パーティを組んで、ダンジョン配信をしていた。
10年前、あたしは、ダンジョンのせいで両親を失った。それ以来、叔父夫婦の家に住んでいるけれど、居心地が悪くて……。特に年上の従兄は、あたしのことをじろじろといやらしい目で見てくる。
下着が盗まれていたこともあったし、風呂場で裸を覗かれたこともあった。
いつか寝ているところを襲われたとしてもおかしくない。
男――特に、年上の男なんて大嫌いだ。
だから、あたしはお金を稼いで自立したかった。そこで、ダンジョンでの冒険と配信を始めたのだけれど、全然人気にならない。せいぜい同接の視聴者数は1,000人程度。
あたしたちはそれなりに可愛い見た目をしていると思うけれど、それだけで人気になれるほど甘くはない。
実力が伴わないと……。
<所詮、可愛いだけが取り柄の女子高生だろ?>
チャンネルでそんなことをコメントされて、あたしはカッとなった。
そして、焦ったあたしたちは、危険だと知っていても、下層に挑戦した。
でも、あっさりゴブリンなんかにあたしたちは負けちゃって……。
あたしは絶望しかけた。ゴブリンに捕まれば、凌辱されて子供を産まされる。そうやって悲惨な境遇に陥った女性冒険者はたくさんいる。
知り合いの13歳の少女冒険者が半年間ゴブリンの慰み者とされ、救出された時にはお腹が大きくなっていて、心が壊れていたなんてこともあった。
酷い話だと思う。
なのに、今、あたしが犯されそうになっているとき、動画の視聴者たちの一部は、
<いいぞ、もっとやれ!>
なんてゲスいコメントを送っていた。
女性配信者がダンジョンでひどい目にあうのを、楽しみにしている男の視聴者も多いらしい。配信の撮影はドローンが行っているから、戦闘中の冒険者は切ることができない。
以前、「女神の恩寵」っていう有名なSランク冒険者パーティがあった。そのパーティは全員美人や美少女の天才エリート冒険者ばかりだったけど、壊滅したときに漏れなくモンスターに凌辱されて、みんな妊娠したという。
強くて美しい彼女たちが「やだっ助けてっ!」「もうダメっ、許してええええっ」「モンスターの赤ちゃんなんて産みたくないっ! あっ、中はダメっ!」と泣き叫ぶ姿を多くの男は喜んでいて、女神の恩寵のチャンネルは最大の同接数を達成したとか……。
やっぱり、男なんて最低……! あたしの人生も、ゴブリンに犯されて、男たちの見世物になって終わるんだ……。
「あっ、いやああああああ」
押し倒され、服をぼろぼろに引き裂かれる。仲間の玲奈はほとんど裸で、ゴブリンたちに弄ばれていた。
このまま……あたしたちはゴブリンに犯されて処女を失って、子供を産まされて、破滅するんだ。
「あっ、ひゃうっ」
胸をゴブリンに揉まれ、あたしは悲鳴を上げる。恐怖のあまり、下腹部が熱くなる。お漏らししちゃったけど、それどころじゃない。
ゴブリンの子袋にされる……!
やだっ、こんなの絶対に嫌っ!
もうダメだと思ったその時、あたしを助けてくれたのは、20代後半ぐらいの男……お兄さんだった。
プテラゴブリンは瞬殺されていた。
「立てるか……?」
優しく手を差し伸べられて、あたしは思わず、ひどい姿なのを忘れて彼に抱きついてしまった。
中層で最初に会ったとき、あたしは焦りで苛立って、彼を罵ってしまった。なのに、彼はあたしを助けてくれた。
<誰だ? この男は? ……邪魔するなよ>
<いや、でも……プテラゴブリン五体を瞬殺って、すごくないか?>
<階級はDランクなんだよな……いや、でもAランクでもこんなに速くは倒せないぞ……>
この人はすごく強い……。しかも……なんか、抱きしめられるとすごく安心感がある。
助けてくれてありがとう。あたしはそう言おうとした……。
けど――。
<あれはエンシャント・ドラゴン!?>
<深層でSランク冒険者でも倒せていない奴だぞ!>
<あーあ、死んだな。こいつら>
<見てくれは良いのに、もったいない>
<誰か助けてやれよ!>
<いや、無理だろ……>
あたしはエンシャント・ドラゴンが現れたのを見て、ここで死ぬんだと思った。
あたしたちじゃ、絶対に勝てる相手じゃない。
きっと、この男の人だって……。
でも、彼は「やってみないとわからない」と言って、にやりと笑った。
そして、舞依――あたしの仲間で、ドラゴンに一番近い位置にいる子に駆け寄った。
エンシャント・ドラゴンが、嵐のような激しさで火を吹く。
「ひっ……」
あの人も舞依も、ひとたまりもなく消し炭になってしまう。
でも、結果は違った。
彼は右手を上げると、透明な壁のようなものを作った。
それで、ドラゴンの炎は止められる。
「えっ……?」
彼は微動もせず、ドラゴンの攻撃を防いでいた。
す、すごい……! どうなってるんだろう?
<ただのDランク冒険者が攻撃を防いだ……だと!?>
<まぐれだろ?>
<偶然でそんなことができるかよ>
あの人は、そのまま魔法剣をつかみ……そして、上方に放り投げた。
剣は勢いよく、ドラゴンの方へと向かい、そして、その翼を裂いた。
「ギャアアアアアアア」
ドラゴンは悲鳴を上げながら、床へと落ちる。
<どうなってるんだ!?>
<なんだあれ……。魔法剣を投げて使う!? すごすぎだろ>
<でも、次はどうするつもりなんだ……?>
彼はそのまま、ゆっくりと床に落ちたドラゴンへと歩み寄った。
そして、思い切り、ドラゴンを殴りつけた。
凄まじい衝撃波が起きる。
そして、次の瞬間には、ドラゴンは消滅していた。
あたしは呆然とする。あ、あの人は……ただのDランク冒険者じゃない。
いったい、何者なの……?
そういえば!
あたしは慌てて、動画を見た。玲奈がスイッチを切り忘れたようで、空中に浮かぶドローンは、撮影を続けている。
「ど、同接が……10,000人……20,000人!?」
急激に視聴者数が増えていく。
みんな、エンシャント・ドラゴンを倒せる、「謎のDランク冒険者」の登場に熱狂していた。
<す、すげええ>
<あのエンシャント・ドラゴンをソロで倒すなんて……>
<しかも、殴って消滅させるなんて……>
あたしは、あの人を見た。
彼はゆっくりこちらにやってきて、微笑んだ。
「な? やってみないとわからないだろ?」
その姿があまりにもかっこよくて、あたしはドクンと心臓が跳ねるのを感じた。
今日。あたしたちのチャンネルがバズり……。
そして、あたしは初めて、男の人に恋をした。