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第7話 視聴者たちは実菜のスリーサイズが気になる

「は、配信中!?」

「そうそう。気づいていなかった? ほら」

実菜が宙に浮いているドローンを指差す。たしかに、防犯カメラ代わりの撮影ドローンがこのオフィスにはいくつか浮かんでいる。

そのなかに実菜の配信用のが紛れ込んでいたとは……。

さらに透明な画面がいくつか浮かび上がる。
動画投稿サイトのコメントが映し出される機能だ。

<自分を慕ってくれる美少女で可愛い後輩と、性格キツそうだがめちゃ美人な女上司……!>

<くそっ橋川。羨ましい>

<しかも後輩は押し倒してセックスしようとしてたんだろ?>

<代われよ!>

<私は進一さんのファンなのでむしろおそばにいたいです!>

勝手なコメントが次々と流れてくる。
俺は引きつった表情で、実菜を見つめた。

「なんでこんなことを……」

「だって、橋川さん。あたしたちの師匠をやらないって言うんだもん」

おいおい……。

実菜が頬を膨らませる。

「ガキじゃなくて、あたしは立派な大人の女性なんだけど」

「まだ高校生のくせに」

「高校生はもう大人だから。……そうでしょ?」

実菜が媚びるように俺を上目遣いに見て、それからスタイルの良さを強調するように前かがみになった。
制服のブラウスから胸の白い谷間がちらりと見える。

<実菜ちゃんおっぱいでけえええ>

<女子高生離れしているよな>

<わたしも女子高生だから羨ましい!>

<でも舞依の方がでかいだろ>

<舞依ちゃんは反則級だから>

<玲奈ちゃんは貧乳だよな>

<実菜のスリーサイズは?>

コメントを見て、実菜は顔を赤くした。

「そんなハレンチな質問に答えるわけないでしょ!」

<そのわりには橋川を誘惑するようなことをしているくせに。抱かれたいんだろ?>

「誘惑なんてしてない!」

実菜が必死になって反論している。
こいつ、ネットに向いてないのでは?

話が進まないので、俺は実菜を相手にするのをやめた。上戸の方を見て「どういうことですか?」と尋ねる。
実菜が「あっ、無視した!」と俺の胸板を手でぽかぽかと叩くが、いったん放置。

上戸は肩をすくめる。そして、急に俺の耳に唇を近づける
配信に声が拾われないための方策だとは思うが、距離が近いな。華やかな香水の匂いがする。

「この子が会社の前をうろうろしてたから、事情を聞いたの。そしたら、すごく儲かりそうな話だったから」

「儲かる……?」

「実はうちの会社もダンジョン配信事業に乗り出そうと思っていたところだったの。単独の儲けはそこそこでも、会社のイメージアップにもつながるし、今後の人材採用にも有利だからね。といっても、うちはスーパースターがいるわけでもなければアイドルもいない」

「まあ、単に強いやつがダンジョンを探索するだけの配信は飽和していますから」

「そのとおり。よくわかったじゃない。ところが、ここに、渡りの船の人材がいるわけ」

「まあ、いまやこの子たちはダンジョン配信でバズっていますけどね」

「それは君もでしょう? 元Sランク冒険者の君が、将来有望な可愛い女子高生たちを育てる。名付けてダンジョン育成配信」

そこまで言うと、上戸は俺から離れた。
いまの会話を聞かれていなかったか、俺は念のためコメントを確認する。
<くそっ羨ましい……女上司に耳打ち、だと?>

<なんか怪しい会話でもしていたのか?>

<ハーレムを見せつけやがって>

<わたしだったら、あのまま進一さんにキスしちゃうのに>

コメントの内容に、珍しく上戸が頬を赤らめ、「別にそんなつもりじゃなかったのに……」と言う。

「ともかく、これは仕事なんだから。役立たずのあなたが珍しく会社に貢献できるわけ」

「しかし俺はダンジョン配信なんてまっぴらごめんですよ」

「サラリーマンは上の言うことに従うのが仕事でしょう? 給料も高いんだし、妹さんのために我慢しなさい」

上戸は横暴なことを言う。
「通常業務はどうすれば……?」

「それはもちろん、これまでどおりやってもらうわ。両立できるでしょ?」

つまり、ただでさえ忙しい通常のダンジョン探索に加えて、「ダンジョン育成配信」までやれということか……。

<ほのかにブラックな予感……>

<というかこいつ妹もいるのか?>

<うらやま>

<いや別に妹なんて全然羨ましい存在じゃないけどな>

<それは実際に妹がいる奴だけの感想だ>

実菜も気になったのか、俺の目を覗き込む。

「橋川さんって妹がいるの?」

「ああ。といっても、血は繋がっていないんだけどな」

「へえ、いくつ?」

「今年で15歳。おまえらより年下の中学生だな」

俺が言うと、実菜が「ふうん」と考え込むようにつぶやいた。

<義妹だと!?>

<エロゲーみたいな設定やめろ>

<しかもJCかあ>

<わたしも進一さんの妹になりたい!>

エロゲーとか言うな。あと、ちょいちょい女性の視聴者も混じっている……のか? 妹になりたいって……なんだそれ。

「このプロジェクトの責任者は、私。実際に進めるのはもちろん橋川。アシスタントは……」

上戸が続きを言う前に、夏菜子が手を挙げた。

「はいっ、はいっ! あたしがやります!」

「積極的でよろしい」

上戸がにやりと笑う。
夏菜子にとっても、アドオンの業務だと思うし、大変じゃないのだろうか?

「だって、先輩がJKを襲わないように監視しないと……」

「襲わねえよ!」

「襲うならあたしにしてくださいね? さっきみたいに」

「えっ」

「冗談ですっ!」

夏菜子はくすくすと笑って、頬を赤く染める。

<ああああああああ>

<こんな後輩がほしかった人生でした……>

<わたしも後輩にして襲ってください!>
視聴者の不安定な言動が少し心配になる……。
こうして俺はダンジョン冒険者に加えて、配信者、そして育成者となった。

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