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第17話 正妻戦争

こうしてお嬢様女子高生・富士宮はあっさりと実菜の手で撃退された。

「嘘ですわあっ!」

なんて捨て台詞とともに、富士宮は泣きながら走り去っていった。
ちなみにこれも配信中の出来事だ。ちょっと可哀想なことをしたかもしれない。

<ざまぁみろってやつだな>

<いい薬じゃないか>

<お金持ちの高飛車なお嬢様は嫌いです>

……コメントはそう言っているので、まあ、いいか。

実菜も満足そうだった。

「富士宮を倒せて、すかっとしちゃった。あの子、ランクだけじゃなくて、自分の家がお金持ちなのをいつも自慢していたし」

「この学校に通っているのは、それなりにお嬢様ばかりなんじゃないか?」

この女子校は市内の少女の憧れる名門進学校で、おしゃれな雰囲気で有名だ。中等部もある中高一貫の私立だし、昔から公立校優勢の名古屋では、お嬢様学校なのではないだろうか?

けれど、実菜は首を横に振った。

「ダンジョン配信をするなら、返還不要の奨学金も出るし。そうとも限らないと思う」

そういえば、実菜たちが無理な下層でのダンジョン配信を行おうとしていたのは、お金が理由だと言っていた気がする。
それに、実菜は親を失ったと言っていた。
無神経なことを聞いてしまったかもしれない。

俺の表情を見て、実菜はふふっと笑う。

「気にしないで。両親がいないのは……モンスターに襲われて死んじゃったからなの」

「……そうか」

「だからね、橋川さんのこと、他人とは思えない」

実菜は静かに言う。

俺は婚約者を、実菜は両親を、それぞれ大事な人をダンジョンとモンスターのせいで失った。
俺たちは同じ痛みを抱えているのかもしれない。

もちろん、実菜の苦しみは実菜だけのもので、俺のつらさは俺だけのものだ。それでも、「他人とは思えない」という実菜の言葉はわかる気がした。

実菜は俺を見上げる。

「だから、あたしは家族がほしい。ね、橋川さんは家族をほしくない?」

「か、家族? 家族なら妹が一人いるが……」

「そうじゃなくて、えっと、その奥さんというか……」

実菜が顔を赤くして、しどろもどろになる。
何を言い出す気なんだろう……?

<まさかのプロポーズ!?>

<実菜ちゃん大胆!>

<橋川さんのお嫁さんは美少女JKのわたしがやります!>

ところが実菜が続きを言う前に、玲奈、舞依、アリサの三人の女子高生が急に現れた。

びっくりした様子で、実菜が三人をきょろきょろと見る。舞依がジト目で実菜を睨む。

「そろそろ授業、始まっちゃうよ。また抜け駆けしようとしていたでしょう~?」

「ぬ、抜け駆け? 何のこと?」

「とぼけても無駄なんだからね?」

「と、ともかく、橋川さんは今日からあたしたちの師匠だから!」

実菜が話をごまかそうとする。舞依は「ふーん」とつぶやくと、「ま、いっか」と急に機嫌を直したように微笑む。

「あたしのことも、ちゃんと教えて下さいね、お兄さん♪」

「もちろん」

「実菜よりあたしの方が才能あると思いますから、あたしを優先的に教えてほしいです」

甘えるように舞依が言う。実菜はむっとした表情で「喧嘩売ってんの?」と舞依に言う。
一方、舞依も「そうだといったら~? まあ、進一お兄さんはあたしものだけどね」なんて返す。

二人がバチバチと視線で火花を散らす。たしかに、これでは実菜はリーダーをできていない……。

しかも、そこにさらに玲奈が爆弾を投げ込む。

「あの……橋川さんがわたしたちの師匠、つまり『先導者』になるって、いつ決まったんですか?」

「え?」

実菜がキョトンとした顔をする。玲奈は黒髪ロングの清楚で、真面目で優しそうな子だ。実菜や舞依とはタイプが違う。

その子が怒った様子で実菜を見つめている。

「わたしや舞依、アリサに何の相談もなく、実菜が勝手に決めたことですよね? しかも、黎明新社や学校にまで話を通してしまって……!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 玲奈は橋川さんのすごさを知ってるでしょ? こんな強い人があたしたちの師匠になってくれたら、文句ないに決まってるじゃない」

「橋川さんがすごいのは知っています。でも、だからといって、わたしたちに何も相談なく決めるのがリーダーの正しいやり方ですか?」

玲奈に強く言われ、実菜は「それは……」と黙ってしまう。実菜は泣きそうな表情で俺を見る。
なんとかしてほしい、ということだろう。
しかし、困った。玲奈が怒るのももっともだ。一度ダンジョンで助けただけの、見ず知らずのアラサー男性が師匠なんて嫌に違いない。
実菜や舞依が例外なのだ。

ところが、玲奈は顔を赤くして頬を膨らませる。

「橋川さんを……いえ、橋川先生を師匠としてお誘いするのは、わたしがやりたかったのに! 実菜ばかりずるいです!」

玲奈が怒っていた理由に、俺も実菜も舞依もポカンとした。

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