11話
4人でアイス用冷蔵庫の前に並ぶ。
アイス用冷蔵庫の中には色んなアイスが入っていた、どれも美味しそうだ。
僕たちは1人ずつ買うアイスを選んで行った。
「じゃあ私はイチゴアイス〜」
「僕はじゃあ…スイカアイスかな」
「ワタシはコレね!ちんちんアイス!シーラカンス味!!」
「オイラはメロンソーダアイス!!」
今なんか変なアイス選んだ奴居なかったか?
3人を見てみるとみんな目をキラキラさせていたのでわざわざ確認する気にもならず僕はレジへ向かった。
レジへ向かうとタケオが会計をしてくれた。
「タケオお会計もできるの?凄いね」
「オイラもう小5だぜ?それくらいできるって!!」
「すごいなぁタケオは」
そして僕は妙に膨らみの無いポケットに手を入れ財布を探った。
会計を済ませると店前に備えおきのベンチに4人並んで座ってアイスを食べた。
「シャク…シャク…」
「恥ずかしいなぁ…私のパシリ君…シャク」
「いや〜…ごめん」
僕は財布を持ってくるのを忘れていた。
結局百花さんがたまたまポケットに入れていた小銭入れから支払った。
まぁどれもこれも1個60円という市内ではありえない田舎特有の破格値段だったので全員分払えた訳だが。
「自分のペットが人様に粗相しちゃった時、飼い主はこういう気持ちになるんだなぁ…シャクシャク」
「もうやめて…メンタルボロボロになっちゃうから…シャク」
「兄ちゃん恥ずかしいなぁ…シャクシャク」
「ニイサンハズカシイネ、コレじゃあチンチンも元気無くなっちゃうヨ…ムシャムシャ」
うーん。恥ずかしい。
「ん〜…やっぱアイスはイチゴ味が1番だよね〜♡」
「え??、いやいや……アイスと言えばスイカアイスですよ。異論は認めん」
「は?じゃあ食べてみなよこれ…美味しいから」
「ん……シャク…あ、おいし」
「でしょ?ほら、イチゴアイスにちゃんと謝って」
「すみませんでした。」
「オイラはあのアイスボックスの中ならこれが1番量があるから好きだぜ!!」
「オニーサン、そのスイカアイスって美味しいノ?」
「あ、これ?うん美味しいよ」
「オイラもスイカアイス好き!」
「すごいネ…ウォーターメロンみたいなアイスネ!」
「食べてみる?チンチンさん」
「イイアルカ!?さすがナイスなチンチンを持ってる男ネ!」
「うんうん、ナイスチンチン」
「ジャあ代わりにチンチンさんのアイス食べてイイヨ!」
「あーはいはい、交換ね」
「男同士で交換とかキモイよ〜、今日はもうパシリ君とはキスしてあげない」
「あーはいはい、分かりましたよ〜」
「兄ちゃん達チューしたの?」
「ウーン!オイシイネ!ウォーターメロンアイス!!
オニーサンもチンチンさんのアイス食ベテ食ベテ!」
「あーはいはーい……って…ん?…え何このアイス…変な形してるし…あと変な色してるし…」
「ウーン…ジャパニーズウォーターメロンアイス!ベリーベリーヤミーネ!」
「………まぁいっか。シャク…………………。」
「お姉ちゃん、キスってどんな味なんだ?」
「ん?……ん〜…イチゴぉ…味…?シャク」
「チンチンさんはキスの味知ってるネ!」
「へー、意外…チンチンさんもやる事やってるんだ」
「チンチンさん、ケイケン豊富ネ!」
「へ〜今度色々聞かせてよ。私興味ある」
「ん?兄ちゃんどしたんだ?」
「…………。、、、、、、」
「な、なぁ姉ちゃん……兄ちゃんがチンチンさんのアイス1口食べてから一言も喋んなくなった」
「……ぱ、パシリ君?……なんか…顔色悪いけど大丈夫?」
「………………だ、大丈夫アルヨ」
なんだろう…この味…形容し難い、なんというか度し難い味だ。
強いて表現するなら…深海魚の内臓味…みたいな。
というかよく見ると形も真ん中に棒、両サイドに玉のようなフォルム。
うん…。
そのアイスはすぐにチンチンさんに返却した。
チンチンさんは不思議そうな顔をしながらその度し難いアイスを美味しそうに食べていた。
うん、触らぬ神に祟りなし。
そんなこんなでアイスを食べながらの会話は、変な組み合わせのメンバーではあったもののそれなりに盛り上がって楽しかった。
というか一体どういう組み合わせなんだ、このメンバー。
チンチンさんが「記念に撮りたいネ!思い出チンチン!」と言い出すのでタイマーをセットしたカメラに向かって4人で視線を送った。
まあ確かに天文学的確率で揃ったメンバーなのは間違い無いので記念には良いかもしれない。
「兄ちゃんまたな!!」
「またね!タケオ!」
「サイサイチンチン〜」
「さいちぇ〜ん」
「ノーノー、サイチン!」
「さ、さいちん〜」
やっぱあの人チンチンって言いたいだけなのでは?
「さーて…では僕も帰りますかね」
小島商店をバックに優雅に歩き出す。
トロフィー〘これは偉大な第1歩だ!〙を獲得しました。
トロフィー獲得に歓喜していたのも束の間。
後ろから何者かが突進してきて思いっきり抱きついてきた。
いや、抱きついてきたなんて可愛い表現ではだめだ、飛びかかってきたの方が正しいかもしれない。
がっしりと両腕で僕の首をホールドし逃げられないようにしている。
耳元に唇を近づけてきて耳たぶを咥えるように囁いてくる。
「こーんな所に私を一人置いて行ったりしたらすーんごい仕返ししちゃうぞ♡」
「はは…ま、まさかぁ…そんな酷いことする訳ないじゃないデスカ〜、ワタシイイ人ネ…イイチンチンネ……。」
逃げられなかった。
結局百花さんをまたおんぶして牧場まで帰った。
ちなみに帰りの坂道は割としんどかった。
お胸に立派なモノを携えた人はそれなりに体重も重くなるのだろうか。
「ふー…疲れた」
事務所に戻ってきた僕は縁側前で靴を脱いで畳の上に座り込んだ。
「私そんなに重くないって」
「百花さん体重何kgなの?」
座り込んでいる僕に「えい♡」とキックをカマしてくる。
可愛い発音とは裏腹に割と威力があった。
きっと一軍陽キャの村田くんはこのキックに成敗されたのだろう。
村田くんが10:0で悪いのだが何故かすこし同情してしまっている自分がいた。
「思ったんですけど……百花さんってイチゴ好きなんですか?」
「なんで?」
「いや、今日イチゴアイス選んでたし、イチゴ味の飴も舐めてたし、昨日食べてたのもイチゴバニラアイスだったし。
あと…なんか髪の色のイメージかもしれないけど…イチゴ好きそうだなって」
「まぁそうだね…イチゴ好きだよ」
「へ〜」
「クレープ頼む時も絶対イチゴ入ってるやつだし、冷蔵庫にはいつもいちご牛乳入ってるし、ケーキも絶対ショートケーキかな」
「わー、結構好きですね…イチゴ」
「まぁ、それなりに好きかも」
「じゃああれだ、誕生日ケーキとかもイチゴがいっぱい乗ってるやつお母さんにオネダリしたタイプでしょ」
「あ、よく分かったね。正解」
「まあそりゃあ」
「じゃあ今年の誕生日はパシリ君のバイト代でイチゴが沢山乗った大っきいホールケーキをご馳走してくれるって期待してて良さそうだね♡」
「さぁ〜てぇ寝るかぁ〜⤴︎」
「えい♡」
「……イタイ」
この人にたかられていたらこの夏のバイト代が無に帰す。
「………」
というか。
あれ、百花さん全然帰んないな。
そそくさと自分の牛舎の私室に戻ってしまうと思っていたが。
と、思っていると百花さんは縁側の襖をゆっくり閉め僕の前まで来てストンと座り込んだ。
「え…ナンデスカ」
「……」
すっ……のしのし……ぎゅっ。
「えっ…えっえっ」
かと思ったら膝立ちしてそのまま僕の太ももの上に跨ってきた。
下半身に百花さんの体重を感じる。
手を僕の肩に回しホールドし軽くハグして来る。
私服から漏れ出る甘い柔軟剤の香りで頭が少しボーッとする。
対面座位のような姿勢で、顔と顔が至近距離になり百花さんは無言で僕の顔を見つめてきた。
「…」
「……。」
「あ、あの…、百花さ」
「じゃあ…ぼちぼち始める?」
「……え?」
「え?って…何とぼけたフリしちゃってんの」
「うっ……」
「帰り道も本当はその事で頭いっぱいだった癖にさ」
忘れていた訳では無い。
百花さんがおんぶして欲しいとか言い出した時、手コキしてあげるからおんぶして〜という会話が確かにあった。
半分以上に冗談だと思っていた。
でも少し期待していたのも事実。
特に百花さんをおんぶしながら坂道を登っていた時なんてぶっちゃけそれの事ばかり考えていた。
「そ、その…ほんとにするんですか?」
「ご褒美…要らないの?」
「えっ…いや…」
「要らないなら私…自分の部屋に帰っちゃうけど…?」
「うっ……」
「ちゃんとご褒美欲しいって言える子にしかご褒美は上げないよ?パシリ君」
「…」
「…。」
「欲しい…です」
「ふーん…そうなんだ」
「ぅぅ…。」
「ちゃんと言えたじゃん」
「…。」
「…うん、いいよ…しよっか。」
唐突に始まったご褒美タイム。
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